コメディ・ライト小説(新)

Re: ☆星の子☆   ( No.479 )
日時: 2012/01/29 20:54
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: uJGVqhgC)
参照: http://ameblo.jp/suzaku-runa/

14章     94話「ゴスロリツインの女の子」


東軍 空――

 頭上から落ちてきたのは、白いうさぎのぬいぐるみ。
 その人形は可愛らしい黒を基調としたゴスロリの服を身に纏い、汚れひとつないような純白のうさぎであった。
 光すら差さない木ばかりの森で唯一落ちてきた人形。私にはこれがたった一つの希望のように思えた。
 好奇心が勝ったのか私はゆっくりと腕を伸ばす。
すっかり血の気が失せてしまった白い指がうさぎに触れた、その時。

「ちょっとぉ! うさちゃんに触らないで!!」
「うわっ!」

 甲高い声が、うさぎが落ちてきたと思われる木の上から聞こえた。
 私は驚いて手を引っ込める。そして足の古江を押さえながらゆっくりと立ち上がった。
 と同時に草に何者かが着地する軽い音がする。
 赤紫のような長髪をツインテールにし――ここの住民の髪色は皆奇抜だ――うさぎ同様ゴスロリと呼ばれる服を着ている。彼女は厚底のブーツで地をとんとんと軽く蹴り、不満げにうさぎを拾って土を丁寧に払った。そしてそれを大切に腕の中へ包み込む。
 するとようやくというところか、やっと彼女の視界に私が入った。見下したような赤紫の瞳が私を貫く。
 そして私を品定めするように見下ろす彼女の不満げな唇が動いた。
 
「あんたが天野空? ふん、迷い星の子って騒がれるほどじゃないわね。この位で怖気づいちゃうなんてさ。孤独が怖いとか、あんたジオに怒られるわよ?」
「えっ……?」

 ジオ……?
 私は首を傾げた。聞いたことのない名前だ。と同時に悪い予感が体を走り抜ける。
 私は高鳴る胸を押さえながら、おもむろに聞いた。

「あなた……誰?」

 ゴスロリの女の子は鼻を鳴らしてギロッと睨む。
 整った顔を不満げに歪めた彼女は――見た目年齢は18……つまり高校生くらいだろう――さも嫌そうに私の質問に答えた。
 
「『銀河の警官(ギャラクシー・ポリス)』最高執行部隊ムマ。」
「じゃあやっぱり……敵、なんだ……」
「何よ? 敵じゃ悪いっての!?」

 これ以上私が話すと機嫌を損ねてしまいそうだったので私は口をつぐむ。
 と、唐突に目の前の美少女ムマが清清しい笑みになった。表情の移り変わりが激しいのだろうか、ムマはニコニコしながら言う。

「まぁ良いわ。私の役目はもう終わったし、早いとこ帰って紅茶でも飲もーっと。」
「……役目?」

 ムマの上機嫌な口調から聞き捨てならぬ台詞を捕らえ、私は嫌な予感がしながらも聞く。
 ムマは私を見ながら破顔一笑して言った。

「そう、役目。今日の指令は≪迷い星の子を捕らえ塔に帰還せよ≫だから。
 ま、正直こんなに早く帰れるとは思わなかったけど。か弱い少女の一人や二人、捕まえるなんてお安い御用だわ。」

 ……迷い星の子?
 やっと正常に動き出した私の脳がフル回転する。
 まさか敵は、私が未だに“迷い星の子”だと思っている――!?
 これは緊急事態かもしれない。敵がそう思ってるのは『捕獲』という指令でほぼ証明済みだ。私を捕らえて一体何をしようと言うのだろう。
 この状況から脱出しろ。
 そう私の本能が話しかける。
 真実を言うんだ。
 そう私の心が訴えている。

「――っ」

 しかし、言葉が上手く出てこない。
 その原因は、目の前の彼女、ムマによるものなのだろう。
 彼女の醸し出す圧倒的な雰囲気――オーラのようなものが私を束縛しているようだった。
 黒いレース服にうさぎの人形、そしてツインテール。その容姿とは裏腹に別格の威圧感を併せ持つ女の子。
 そのムマの雰囲気に、私は押しつぶされそうなのだ。
 しかし、言わねばならない。自分は“迷い星の子”じゃないと。
 そして証明せねばならない。自分は何の力も持たない凡人だと。
 それを言った上で、私は言うのだ。

それでも私はあなたの敵だ、と――――

 そう、その事実に変わりはない。
 私自身、ろくな戦力にならないことを承知で、ここまで来たのだから。

Re: ☆星の子☆   ( No.480 )
日時: 2012/01/29 20:54
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: uJGVqhgC)
参照: http://ameblo.jp/suzaku-runa/

 と、私が何か言いたげな目でムマを見つめていたのか、ムマは妖しげな光を紫の瞳に宿しながら私を見下ろしこう言った。

「何か言いたげね? どうせ政府塔に行ったら誰もあんたの話なんて聞く耳持たないだろうし……ふん、良いわ。聞いたげる。」

 そう言ってムマは偉そうに腕を組み、後ろにふんぞり返る。
 私はほっと胸を撫で下ろした。と同時に心拍数が限度を越えるくらいに緊張し、冷や汗が垂れ始める。
 しかしこの時ばかりは彼女の傲慢さに救われた。

「何よ、言うことないの?」
「あ――」

 彼女に少し怒り気味な声で急かされて、私は急に背中を押されやっと水中に飛び込めた人のような気分になる。
 今言わなきゃチャンスは無い――!
 私はごくりと唾を飲み、口を開いた。

「あ、あの、私――迷い星の子じゃないんです!」
「……は?」
「だ、だからっその……本当の父と母は私が生まれるちょっと前に離婚して、その後輝さんが私を育ててくれて……私もちょっと前までは知らなかったんですけど――」

 私は自分の首筋から滝のように汗が吹き出るのを感じた。そして、さっきとはまるで桁違いの恐怖の戦慄も。
 私の脳が必死に赤い警報ブザーを鳴らしている。
 その原因は、紛れも無い、ムマであった。
 しかし、先程の彼女とはとても思えないくらいの気迫、圧倒的な威圧感。そして何よりも、体から燃え滾る炎のような怒りのオーラが私を包み、動けなくしていた。

「今、なんて言った?」

 地を見つめながらうさぎの人形を握り締め、ムマは極めて冷静に問う。

「あんたは、私がここに来た意味が無いって、そう告げたわけね?」
 
 カールがかった綺麗な髪が、心無しかみるみる逆立っていくように見える。
 それと同時に、ムマの細い体が上へ浮いていく。

「許さない……」

 いつの間にか雲から顔を覗かせた月が、私を嘲笑う様に光った。
 そしてムマの整った顔も月光が反射し、私の目に映る。
 その表情は――

「赦さない!」

 怒りに満ちていた。
 ムマはゆっくりと、右手を上に上げる。
 そして、告げた。

「永遠のつきの下で朽ち果てなさい。
 エンドレス・ザムーン」

 ムマが手を鳴らしパチンという軽快な音が聞こえると共に、
 世界が反転した。