コメディ・ライト小説(新)
- Re: ☆星の子☆ ( No.486 )
- 日時: 2012/02/28 22:12
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: okMbZHAS)
- 参照: http://ameblo.jp/suzaku-runa/
14章 95話「鍾乳洞での戦い」
西軍 洞窟 リンVSトル――
俺の挑発を前に、トルは右の眉を上に上げた。必死に怒りを隠そうとしている事まで丸見えだ。一応聞いておくが、お前の耳は赤リンゴだったのか?
そんなトルは唇を引きつらせながらも笑みを作り、話しかける。
「大口叩けるのも今の内ですよぉ? 私の脳内には様々なデータベースが詰め込まれ、勿論その中にはお前の行動ルールも――」
俺はメガネに白衣の変人科学者から視線を外した。その話は何百回も聞かされた。もううんざりだ。
トルの熱演をよそに俺は辺りを見回す。
広大な山々に囲まれた中、唯一人々のために自然が作った洞窟『ケイヴァニア』。それがここだ。普通は山道なので巨大都市『シャイニア』――その中心に政府塔がある――までは丸い一日かかってしまうが、この自然洞窟が一番の近道となり、それを半日に軽減する事が出来た。
今やこの洞窟は国の宝のように重宝されている。そしてその理由は前者だけではない。
俺はごつごつした壁を見た。紫の結晶が数え切れぬほど埋め込まれ、それらはそれぞれと反射し、煌きあっている。そしてところどころ岩から顔を出した桃色の宝石が一際輝いていた。これらは全てここでしか採集できない。希少価値が高いし、研げば研ぐほど鋭くなるので刀の一部に使われることも多い。
そんな所で戦わねばならんとは……心が痛むな。
「コラァ! 私の話をよく聞きなさぁい!!」
ようやく俺の神経が自分に向いていないという事を悟ったようだ。トルが甲高い声で叱咤する。いつ見ても気色の悪い奴だ。
俺は無言で腰に下げていた刀を抜いた。早めに事を片付けて損する事はあるまい。
「フフン、いつにもましてやる気ですねぇ?」
トルも白衣の中からいびつな青い銃(ガン)を取り出し――どこにそれをしまう場所があるのか不思議だ――ガリガリの手で握り、構えた。
俺はフンと鼻で笑う。
「そんな銃で俺に勝てると思っているのか?」
「なっ……! あなたはまず、その減らず口を直したほうが良いですねぇ?」
「それはこっちの台詞、だっ!」
トルの皮肉めいた言葉に俺は毒づき、地を蹴った。
刀を縦に持ち、トルの頭上で下へと振り下ろす。
そんな俺の斬撃にトルは左の腕で対応する。
「!?」
キィンと刃物が擦れ合う音がした。見ると、俺の振り下ろした刀をトルは見事に左腕で止めている。そう、まるで左腕を刀のように使って。
俺は驚愕を隠せないまま後ろへ跳躍し、トルと少し距離を置いて着地した。
その時、気味の悪い笑い声が聞こえた。見るとトルが今にも腰の骨が折れてしまうくらいに後ろにふんぞり返り、メガネをキラリと光らせ笑っている。
俺は少々イラつくと同時に、悪い予感が脳裏を過ぎった。
まさか――――、
「そうっ、そのまさかなのです! この世界ではパラドーックスな事ほど起こりえる、そうじゃないとっ楽しくなぁーいのです!!」
前置きは良いから早く結論を言え。
「つまり今! この体は私であって私ではない――それは、この体が、
人体サイボーグ化第一弾 ア・メイチエクスプロージョンX! だからでぇーす!!
ヌアーッハッハッハ……」
洞窟の中、トルの自慢気な笑い声だけが響く。
それにしても、ネーミンングセンスの無さは変わってないな。大体、何故第一弾なのにXなんだ?
しかし、今はこんなことを言っている場合じゃないようだ。
- Re: ☆星の子☆ ( No.487 )
- 日時: 2012/02/28 22:13
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: okMbZHAS)
- 参照: http://ameblo.jp/suzaku-runa/
トルは白衣の左袖を捲くり、これ見よがしに見せ付ける。その腕は最早、我等が持つべきものでは無かった。
紫や桃の無数の結晶が反射し幻想的に輝くその腕は、古ぼけた屋敷に並んであるような銀の鎧を着た古代ローマ人を連想させた。確かに見た目だけは何でも弾きそうな鋼鉄に見えるがこの惚けた科学者の事だ、期待は薄いな。
俺の呆れ顔をどう捉えたのか、トルは更に自慢げに鼻の穴を膨らませる。
「凄いのはこれからですよぉ? アッと驚く大変化、あなたも見てみたいでしょう?」
見たくも何とも無いな。もともと、お前に興味は無いのだ。俺の願いはただ一つ、
早く俺の前から消えろ。
「おやおや、何と酷い言葉を! 元同士とは思えませんねぇ?」
「お前と同士になった覚えは無い。」
「そぉーんな悲しい事は言わず! 楽しく一戦交えようじゃありませんか! そう、楽しーくねぇ?」
トルはメガネを光らせ、変色した黄色い歯を見せる。にんまりした笑みからは時折鳩のようなくっくっくという笑い声まで聞こえた。
――こいつとは一生仲良くなれそうに無い。
俺はもう話は終わりだと、刀を左に倒し地面と平行に構えた。
その相手は未だ危機感を感じ取っていないかのように棒立ちのまま立ち尽くし、俺の繰り出す一手を待っていた。
トルを過大評価するつもりは無いが、何しろ『銀河の警官(ギャラクシー・ポリス)』一の変人科学者だ。決して甘く見てはいけない。
俺はぐっと気を引き締め、柄を強く握る。
そして足の底に力を込め、地を蹴った。加速させながら、水平にあった刀を斜め上に押し上げる。
シュッと軽快な音がした。
俺はそんなほんの一瞬で音を聞き分け、敵を討ったと判断する。
――しかし、それがいけなかった。
気がつけばトルは銃を持たない左手、そう素手で、俺の一撃を防いでいた。
まるで俺がいつ、どの方向にどんな攻撃を仕掛けてくるかを全て把握したように。
俺は目の前の状況が理解できず、思わず驚愕の色を顔に表した。
まさか、これほどとは――――!
トルはにんまりと笑い、青いガンの銃口をこちらへ向ける。
「ちっ!」
俺はすんでのところでそれをかわした。正に間一髪、飛び出した銃弾は俺の頬数ミリ横を駆け抜け、大自然が創った美しい洞窟の壁に激突する。
おいおい、自然を汚すとは感心しないな。しかし、俺の眼力も優れたものだ。長年警官をやってきただけある。
と、心の奥で自画自賛する俺に、トルが声を荒げた。
「避けては駄目ですよぉ!? せっかくの大切な私産がお前のせいで台無しです!」
「はっ、私産? 資産の間違いだろう? それに誰のせいでこうなったと思ってるんだ。」
「お前がかわさなければ、壁に穴は開きませーんでしたぁ!」
言い争っていては埒が明かないな。
そう俺は結論付け話題を変える。
「しかし、流石だな。まさかこんな正確に行動ルールとやらを覚えているとは……お前も捨てたもんじゃない。」
心にも無いことを言ってみる。褒めまくれば軽い奴だ、思わず口を滑らすだろう。
そして思ったとおり、トルはすぐ有頂天になり話し始める。
「ヌアーッハッハ!! もっと私を褒め称えなさぁい!」
「あぁ、すごいすごい。何故幾千とある記憶を全て整理できるのか、俺には考えられない!」
正直何故こんなに演技が出来るのか、それが一番考えられないのだが。
そんな俺の棒読みにも気づかず、親切にもトルは極秘情報をベラベラと口にする。
本当に期待を裏切らない奴だ。
「ンフフ、それはですねぇ、自分の脳も大・改・造! したのでぇす! 信じられないとでも言うような顔をしてますねぇ? 勿論只の人間なら出来ないでしょうが、しかーっし!! 私はなんと言っても最高執行部隊の一員っ! そぉーの実力を誰もが認める私が、自分の脳を超ハイスペックに仕上げ、個々のデータを完全収納したファイルを押し込んだのです! そして今までは何十本もの糸が絡まった状態だったのを、目で人を認識することにより一本の糸に整理する事に成功したのです!!」
またもやトルが奇妙な笑い声をあげた。
しかし自分の脳まで大改造するとは……本当に恐ろしい奴だ。
そう考える反面、俺は口角を上げ相手がトルで良かったと再び思う。
単純な奴ほど良い鴨になる。すると何故だかトルが本当に間抜け面をした鴨に見えてきて、俺は軽く笑った。
さぁ変態科学者、楽しませてくれよ?