コメディ・ライト小説(新)
- Re: ☆星の子☆ 祝! 100話突破!!〜更新2周年〜 ( No.516 )
- 日時: 2012/09/30 10:30
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: gK3tU2qa)
- 参照: http://ameblo.jp/suzaku-runa/
〜100話突破記念 短編3本立て〜
1「冥界」 一人称:ナツ
私は今、二つ目の人生を歩んでいる。
いや……これは最早人生と言わないかも知れない。時間の流れがまるで存在せず、一度瞬きすれば地上では何時間もたっていた、という事すらある。ここではあらゆる生物と出会え、そして誰も消える事は無い。住民だけが増えてゆく一方だ。
しかし、ここほど住みやすいところは他にない。それこそ望めば何でも出てくるし、他界した人となら、会いたいと願えばいつでも会える。
そう……ここは地上で言うところの『天国』。
この世に命を持って生まれてきた者の、真の故郷だ。
「何故難しい顔をしているんだい?」
横で腰を掛けていた男が言った。
彼の名は、ラム。皆さんもご存知だろう、ガル先輩とグロ先輩のチームメイトである。
夜空を連想させる紺色の髪を長く伸ばし、大きい藍色の帽子を深く被っている。帽子のつばで顔を半分以上隠しているので、真正面から顔を見た事は未だ無い。妙齢のラム先輩は片手にワインを持ちながら、小首を傾げ聞いてきた。
「いえ……ヒナやリンの事が気になって。」
「あぁ、そうか。下界は今大変だからね……」
ラム先輩は顎に手を添え、下に視線をやる。私も同じように下を覗き、地上の様子を見た。
政府軍と反乱軍――その二つが対立し、今『アステリア』では戦争が起きていた。
私は激しい攻防戦を眺めながら、目を細める。
戦争、か……そんな風に力で押さえつけて、本当にアステリアは平和になるのか――?
私は再び口を開いた。
「私は……アステリアの政治を狂わせたのは、ホーリー・フェザー様じゃないと、思います。
H・Fとホーリー・フェザー様は、同一人物じゃない……」
(――――「私の嫌いなものの三つ目、それは……
私を忌々しいホーリー・フェザーという名で呼ぶ者だ!」――――)
薄暗い部屋に響く厳かな声。同時に私を包み込む鮮やかな光。
今でも思い出すと、その恐怖に身の毛がよだつ。
一瞬だった。痛い、厚い、その感情のどれもが体を駆け巡る前に、私は消えここに来た。
ラム先輩は帽子のつばを弄り、溜息をつく。
「気味は僕と同じ道を歩んだ、哀れな男だ……下界の様子をここから見守る事しか出来ない。伸ばした手も、生と死の超えられない壁によって掻き消されてしまう。」
そう言って彼は枯れた声で力なく笑った。
「会いたいなぁ……ガルやグロに。もう何十年も話していない。だけど、彼らがここへ来るのは、もう少し先だろうね。」
その気持ちが痛い程よく分かる私は、同じように遠い目をする。
ここの住民は幸せだ。しかし皆、言いようの無い寂しさといつも戦っている。
私がこの『待合室』を出られるのは、一体いつだろう。父さんや母さん……リンとヒナ……皆が揃ったら、前のように幸せに暮らせるだろうか。
私は椅子に腰掛け深い眠りに落ちている人々を見た。
皆がここに来るまで眠って待つのが、一番良いかもしれないな……。
そう考えていた時だった。
ふと横に懐かしい気配を感じる。同時にラム先輩が珍しく帽子のつばを上げ、「おや、久しぶり」と親しげに声を掛けた。
「……ナツ。」
その人物はそっと私の名を呼ぶ。
私は高鳴る鼓動を抑え、ゆっくり、ゆっくりと首を回した。
しかし私はその姿を見た途端、懐かしさに涙が溢れるのを止める事が出来なかった。
ここで会った時には、たっぷり皮肉を浴びさせてやろう。そう言葉を用意していた筈なのに。
自然と口から零れ出た言葉は、それらとは全く正反対のものだった。
「――おかえり!」
そして私達は互いに、しっかりと抱きしめ合った。