コメディ・ライト小説(新)

Re: ☆星の子☆  祝! 100話突破記念〜短編3本立て〜 ( No.518 )
日時: 2012/09/29 21:56
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: gK3tU2qa)
参照: http://ameblo.jp/suzaku-runa/

     〜100話突破記念 短編3本立て〜

2「科学者Xの休日」


 薄暗い部屋に、カタカタと一心不乱にキーボードを叩く男の姿がある。元は書斎なのだろう、本棚に囲まれたその部屋で、彼はなにやら調べ者をしているようだった。しかしその部屋は書斎というには余りにかけ離れていた。本棚の半分はフラスコや試験管などの実験器具で埋め尽くされ、数少ない本の題名は全て奇妙な記号で記されていたからである。
 ふいに彼は手を止め、息を吐いた。
 仕事が一段落したのだろう、すっかり冷めてしまったコーヒーを乾いた喉に流しいれた彼の表情が少し緩む。
 すると、机の上で無造作に積み上げられた資料の、そのまた上に載せられていた小さなスピーカーから声が聞こえた。
 声の主が『教授』と彼を呼ぶところを見ると、どうやら彼の部下なのだろう。穏やかに彼が返答をすると、部下はきびきびと話しだす。

『銀河の警官研究舞台秘密調査チームA、無事任務遂行しました!』
「そうか……例の部品は?」
『はっ。それ等も全て揃いました。後は情報処理だけです。』
「ふむ、もうそろそろだな……」

 白衣を羽織った彼は誰に言うことなく呟き、満足げに微笑んだ。そして部下に「ご苦労だった」と労いの言葉をかけ、スピーカーを切る。
 するとそんな書斎の扉を叩く音が。

「あなた、入りますね?」

 部屋に入ってきたのは、長身の美しい女性だった。栗色の長い髪を低い位置で一つに束ね、長い丈のワンピースで身を包む彼女は、男性ならば振り向かずにはいられない程の美貌を持っていた。
 そんな彼女がそっとマグカップに入った温かいコーヒーを差し出す。男は軽く礼を言いそれを啜った。書斎にほろ苦い香りが漂う。
 そんな優雅にお茶の時間を楽しむ彼も、並外れた美貌を兼ね揃えていた。切れ長な瞳に高い鼻、しゅっと尖った顎を持つ彼が着る白衣と黒縁眼鏡が、これまた似合っている。
 と、彼の鋭い視線が女の服に止まった。

「キミ……街中でもそんな格好で出歩いているのか?」
「あら。」

 女は小さく笑って、人差し指を唇に添えた。

「二人の約束でしょう? 本当の姿をして良いのはお互いの前だけ――そもそも、私は外に出ませんわ。」
「っふ、それもそうだな。」

 男の口角を上げクスリと笑う。その光景はまるでおとぎの国から飛び出してきた王子と王女のようだった。
 その時。
 ピンポーン、と二人の世界から彼らを切り離すようにその場に似使わぬインターホンの音がした。
 男は玄関に向かおうとした女を引きとめ、言う。

「良い、私が行こう。客人の予想はついている。」

 そう言って書斎の扉まで近づいた彼は、ふいに足を止めた。咳払いをして、少し照れくさそうに彼女に向き直る。

「……?」
「最近品種改良に成功してな。髪飾りにでもするといい。」

 男は白衣のポケットに手をいれ、女の掌にそれをそっと置いた。
 そして頬を赤らめ、そそくさと部屋を出て行く。
 女はゆっくり手を開いた。
 男からのプレゼント、それは赤青黄緑で彩られた四葉のクローバーだった。
 女は感嘆の声を漏らし、優しく微笑む。

「幸運の四葉……花言葉は“True Love―真実の愛―”。
ふふ、私もよ……ずっと愛しているわ――――」

 耳を済ませば、微かに聞こえる彼の声。それは他人に見せる、もう一つの顔。

「やぁ、トル。久しぶりだな。」
「遊びに来るなら一言言ってくださいよぉ〜! そしたら、すんばらしい実験をご用意出来ましたのにっ!!」
「そんなの要らないから。そもそも私達、遊びに来たわけじゃないわ。」
「つかさぁ、トル出るの遅い! 何度インターホン押したと思っているの!? 今まで何やっていたのよ?」
「んふふ、ヒキガエルの体液とイモリのしっぽ、そこに何の生物の生き血を混ぜれば美味しくなるかを試していたのですよぉ。」
「「きもっ」」