コメディ・ライト小説(新)

Re: ☆星の子☆  祝! 100話突破記念〜短編3本立て〜 ( No.525 )
日時: 2012/10/28 15:52
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: Uc2gDK.7)
参照: http://ameblo.jp/suzaku-runa/

16章     101話「思わぬ敵」


東軍 密林 光聖――

 空は僕の手も届かない別次元に居ると、ユキが言った。
 そしてこうも言った、空は無事に帰ってこれると。
 それならば。僕はここで右往左往している場合じゃない。
 前に進む。そして誰よりも早くアステリアの巨大都市『シャイニア』に着いて、敵と決着をつけるまでだ。
 ユキは無言で僕に着いてくる。しかしその冷静ながらも穏やかな雰囲気から――紫のベールで顔を覆っているので全て直感だが――僕の決断に満足しているように見えた。
 僕は他の東軍のことを案じ、不安になる。
 空に続き、行方不明者が続出していたら――――?
 ここからそう遠くないところで僕と同じように政府塔を目指し進んでいるであろう東軍のことを考えて、僕は遠い目で木々の奥を見た。
 するとユキが消え入りそうな声で囁いた。

「大丈夫……まだ皆さんは敵と出くわしていません。――そう、今までは。」

 ユキの声と、悲鳴とも雄叫びとも言えない奇声が近くから聞こえたのはほぼ同時だった。そして声が聞こえた辺りから銃声が鳴り響き、赤い煙幕が立ち込める。
 僕達は足を止め、煙幕の色を確認し表情を固くした。
 赤い煙幕は――敵軍襲来の合図。そして援軍要請のメッセージだ。
 顔を蒼白にした僕は咄嗟に足を踏み込んだ。
 助けに行かなきゃ――!
 しかし突如、体が動かなくなる。透明のクモの糸にでも絡まってしまったかのように、身動きが取れない。
 犯人はなんとなく分かった。
 僕はユキの方を振り返る。

「援護は、私一人で行きます。貴方は真っ直ぐ前だけを向き、進んで下さい……。
 運命には誰しも逆らえない――――」
「ユキ!?」

 彼女はそう言って儚く笑った(ように見えた)。
 そしてすぐさま地を蹴り高く跳躍すると、目にも留まらぬ早さで闇夜に溶け込む。
 体の束縛はユキの姿が見えなくなった後すぐに元に戻ったのだが、それでも僕は暗い森の中で一人、思案にふけっていた。先程のユキの言葉に、矛盾を覚えてしまったのである。
 『未来は幾つもに分岐している』――そうユキは言った。
 でも今の口調はまるでこれから起こる事を見通し、それには決して逆らってはならない、そう強く主張しているように聞こえた。
 そして最後に垣間見た儚げな笑み。
 きっと、僕はこれからつらい道を歩むのだろう。
 でも、それでも、僕は前に進むことしか許されないのだ。

「未来って、何なんだろう……?」

 耳を澄ませばあちこちから爆音や叫び声、しまいには笑い声や狼の遠吠えのようなものも聞こえる。煌々しい月明かりが照らす寂寞とした闇の世界には、どれも不釣合いだった。
 静まらない夜に、僕は一歩ずつ歩を歩めた。のんびりとした歩調は次第に速くなる。最後には風を切って木々を駆け抜けた。

 急に視界が開ける。
 どうやら夢中になって走っている内に、森を抜けたようだった。抜けた先に辿り着いた丘の上から、眼下に広がる景色を見る。
 僕は感嘆のため息を漏らした。

「綺麗だ……」

 アステリア一の巨大都市『シャイニア』。
 闇に染まった世界の中で、この街だけは眠っていなかった。建物の窓から漏れる色とりどりの鮮やかな光は、まるでイルミネーションのようである。
 そしてこの美しい夜景に囲まれ、悠々とそびえ立つ塔があった。周りは塀で覆われ、とても大きな白い門が構えている。その門には華やかな装飾と共に見覚えのある模様が彫られていた。
 金色の鳥が大きく両羽を広げている。
 『銀河の警官(ギャラクシー・ポリス)』の紋章だ。
 僕は表情を固くした。ナツとヒナ、そして元は敵だったリン達3人に追われていた日々が鮮明に浮かぶ。

(でも、今の僕はあの頃と違う――!)
 短期間だったが特訓をし、力をつけた。戦法も学び、武器もある。
 そして何よりも、守るべき存在が居る。
 空や反乱軍の仲間達、そして『故郷(アステリア)』。
 全部、無くてはならない大切なものだ。その為にも負けられない。
 僕は政府塔を睨みつけ、力強く足を踏み出す。
 と、頭上で聞きなれた声がした。

「ここから先には、行かせない。」

 はっとして、僕は上を見上げる。
 明るい青の警官服を着こなし、僕をまるで汚らわしい物でも見るかのように顔を顰める女。少し髪が伸びただろうか、首元にかかる髪を払い除け、鼻を鳴らして彼女は名乗った。

「『銀河の警官』最高執行部隊、ヒナ。
 悪いけどあなたにはここで死んでもらうわ。」

 心臓が止まる思いがした。唐突に、脳内で早鐘が鳴り出す。
 ヒナは右手を持ち上げた。
 その手に握られた物騒な金属製の銃口から、今にも光が溢れ出しそうである。
 ヒナは冷たい瞳で笑った。そして何の躊躇いも無く、引き金を引く。

「さよなら」

Re: ☆星の子☆  祝! 100話突破記念〜短編3本立て〜 ( No.526 )
日時: 2013/01/10 11:49
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: jhXfiZTU)
参照: http://ameblo.jp/suzaku-runa/

東軍 空VSムマ――

 目映い光が私の体を包み込む。そしてその光が一つに凝縮されはじけた頃には、すっかり冷たくなった私の手をしっかり握る温かい人物が傍に寄り添っていた。
 私はそっと双眸を開く。

「あっ……!」

 まず驚いたのは、目の前で箒を持った魔女――いや、ムマが悔しげに顔を歪ませ立っていた事だ。歯を食いしばり、私を指差してわなわなと震える。
 
「ありえない……私の魔力配下の中で、一体何をしたの!?」
「それはこっちの台詞だ。」

 横で懐かしい声がした。私は咄嗟にその方を顧みる。
 美しい金髪に隙の無い瞳。ムマに負けない程の圧倒されるオーラを身に纏い、月光に反射して輝く剣先をムマの眼前に突き立てる男。

「リンさん!」
「空をこんな異次元に連れ込んで、一体何のつもりだ。こんな作り物で脅すとは、随分と卑怯な真似をするんだな?」
「っ……!」

 リンさんは毛先がぼさぼさになった箒を一瞥し、嘲笑した。
 ムマは耳元まで顔を紅潮させ、怒鳴る。

「っ、黙りなさい! その女は私達の大切な資料なの! あんた達には渡さない!!」

 リンさんはその言葉を聞いて少し吟味し、思い立ったように顔を上げる。
 冷徹な瞳はそのままで、口角だけを上げ薄笑いを浮かべた。
 「あの変態科学者からの入れ知恵だな?」と聞くと、ムマは頬を火照らせながら黙って頷く。
 ――何だか素直ね。
 先程の傲慢な態度は一体何処へ行ったのやら、リンさんの前では顔を赤らめ恥じているムマの姿を見ると、無性に腹が立つ。そして何故そんな気分になるのか分からない自分自身にも嫌悪感を持ち、私はリンさんに目で訴えた。
 ――早く帰ろう?

「あぁ、そうだな。女、ここから出してもらおう。」
「……ムマよ。」

 ゴスロリの少女はそう言って、ちらりと目の前の剣先を一瞥した。
 それに気付いたリンさんは、もうムマに危険性は無いと感じたのか刃を下ろす。
 その瞬間だった。
 ムマのつり目気味な二重が、カッと見開かれる。目が不気味な赤い瞳へと変色したのを見て、私は小さく悲鳴をあげた。
 ムマは大声で叫んだ。

「燃やせ!!」

 不吉な予感がして、私は後ろを振り返る。
 何の変哲も無い、暗い森。しかしじっと目を凝らすと、奥の方がぱちぱちと音を立て燃えているのが目に映った。

「火が……!」

 そんな私の悲鳴と共鳴するように火の気はどんどん高まり、森を覆い尽くす。
 このままじゃ私達も巻き込まれる……!
 私は助けを請うように横の人物を見る。
 ――いない?
 驚いて敵の方を見ると、リンさんがムマの後ろに回り白い首筋に短刀を添えているのが目に映った。ムマも驚愕に瞳を大きく見開く。

「い、いつの間に……!?」
「悪いが心のうちが丸見えだ。さぁ、早く帰らせてもらおうか。このままでは俺達まで燃やされてしまうぞ?」

 ムマは頬を紅潮させ悔しげに唇を噛み締めた。
 しかしそれも束の間、急に妖しげな笑みを浮かべ言い放つ。

「――ふんっ、良いわ。新しい指令が今届いたから。
 ≪天野空を抹殺せよ≫……私は死んでもここを動かない。三人で仲良く、燃え死にましょう?」