コメディ・ライト小説(新)

Re: ☆星の子☆  祝! 100話突破記念〜短編3本立て〜 ( No.537 )
日時: 2012/12/13 19:00
名前: (朱雀*@).゚. ◆Z7bFAH4/cw (ID: Uc2gDK.7)

16章      103話「継承」


東軍 シャイニア 光聖VSヒナ――

「さよなら」

 そう言ってヒナは引き金を引いた。
 パァン――――
 銃声音と共に眩い閃光が辺りを照らす。その銃弾が僕に届く僅かな間、僕はあまりの急な攻撃にそれを躱すことはおろか、身を守ることすら出来なかった。
 やばい――!
 その時、目の端にちらりと大きな手が見えた。光で形作られた僕の2倍程の大きさを持つ手が、僕を突き飛ばす。

「うわっ!」

 その衝撃に僕は数十センチ宙へ浮き、勢いよく尻から落ちた。
 と同時に、僕のすぐ目の前を弾丸がかすめた。そのスピードは落ちず、むしろ加速して先程僕が立っていた真後ろの木を貫通する。するとその木は幹がとても太かったにも関わらず、ミシミシと音を立て横に倒れた。
 あれが自分に当たっていれば……そう考えると身の毛がよだつ。僕の頬を一筋の冷や汗が伝った。
 ヒナは舌打ちをして苦々しげに毒づく。

「ちっ、一発目で確実に仕留められると思ったんだけど……ふん、腕を上げたようね。あれを回避するなんて、なかなかやるじゃない。」

 心の底から残念そうに話すヒナの顔には、挑戦的な笑みが貼り付いていた。
 次こそは。
 ヒナの瞳で燃え滾る赤い炎は、そう僕に言い放っているようであった。
 しかし今のあれは僕の力じゃない。強大な力を持つ何らかの者――僕にはそれが何なのか、既に察しがついていた――が干渉してきたに違いなかった。先ほどの巨大な手が僕を突き飛ばしていなかったら、きっと今頃死んでいただろう。
 ヒナが弾丸を入れ替える。一度に何発か撃って僕に傷を負わせようという考えだ。
 先ほどの威力を持つ銃弾が何発も……。
 ヒナが再びトリガーに手をかけた。僕は盾を強く持つ。そして大気の流れを感じ取りながら力を込め、盾をもっと鋼鉄なものとした。

「くらえっ!」

 ヒナがトリガーを引いた。その銃口から放った数弾が、凄まじい速度で僕に襲いかかる。
 一発目は間一髪で避けた。
 二発目からは盾で防ぐ。
 しかしそこで、僕は信じられない光景を目にした。

「嘘だろ……!?」

 盾で防いだ弾丸は全部で四つ。
 そのどれもが、頑丈な盾に激突した後も地に落ちず、そのままの威力と速度でいる。つまりその圧倒的な弾圧と破壊力で、銃弾が盾に食い込んでいるのだ。
 その驚異的な威力に、僕は盾から手を離しそうになる。ビリビリと大気が震えている。“戦争”という空気に、完全に飲みこまれそうだ……。
 その時。
 先程感じたあの温もりが、再び僕をそっと包み込んだ。その雰囲気はどことなく輝さんに似ている。
 僕は確信した。
 この感覚は、一度ナツ達に捕まった時不思議な声と共に体に宿ったあの力――しかしその時よりも、少し力は弱々しい気がする――だった。
 何者かからの加護を受けた僕は、盾に再び力を込める。次はもっと強く、弾丸を撥ね飛ばすように。
 すると僕の念が伝わったのか、盾が形を変えた。

「えっ?」

 それはどちらの声だったろうか。もしかしたら、両者かもしれない。
 何の変哲もなかった平凡な盾が、ほんの一瞬で見違える程立派になった。面積はさっきの三倍くらいになり、煌々とした聖なる光を放っている。
 僕はそれを持つ手に手応えを感じて、満面の笑みを浮かべた。
 そして銃弾を押しのけるように、腕をぐっと前へ突き出した。
 弾丸は最後の抵抗とでも言いたげに、小規模な爆発を起こす。しかしその爆風も、この盾の前では無力同然であった。

「ぐっ!」

 代わりにその風が跳ね返り、ヒナは全身で強風を受ける。

『――アステルよ……』

 とその時、重くて厳かな声がした。
 脳内から、というよりも心の奥から響くような感じ。激しい既視感が僕を襲う。同時に、ヨーロッパの街並みと教会が鮮明に浮かんだ。

『我の力も残り少ない……これを主にしばしの間授けよう――。』

 勿論ヒナの声ではない。また、味方から送られてきた“思念”でもない。
 教会から脱出するとき力を貸してくれた、何者かの声だった。
 僕は体の奥底から不思議な力が沸き起こってくるのを感じる。圧倒的な力が漲り、心臓は高揚する。

『我が国を……我が民を助けてくれ。政府等の最上階で待っている――――』

 『幸運を』。最後にそう呟いて、声はぱたりと聞こえなくなった。
 きっと先程の大きな手も、盾が変形したのも、不思議な声の主の力だ。
 ありがとう。僕は心の中で言う。絶対に貴方の国を守ります――。
 ヒナは僕の身体から迸る力の片鱗を感じ取り、不敵な笑みを浮かべた。

「ふん、やっと本調子ってとこかしら? それに、そうじゃないと楽しくないわ。どうやら“あの力”も手に入れたようだし……こちらもやっと本気を出せるってところね!」

 ヒナは楽しげに口で弧を描き、勢いよく地を蹴った。いつの間にか手に短剣を握り、僕に向かってくる。

「望むところだ!!」

 僕も体内から滲み出る絶対的な力を、盾――今はもう縮小してしまったが、この力があれば変幻自在だろう――と太刀に注ぎ込んだ。
 ヒナには絶対に負けてはならない。
 僕にはまだ使命がある。こんな所でくたばってたまるか。
 僕も地を蹴った。
 武器をしっかりと握りしめ、敵を見据えて。

 次の瞬間、『アステリア』に住む人々は皆、『シャイニア』近辺の小さな丘を顧みたと言う。
 そしてそこには竜巻のような爆風と、その中でそれぞれの想いを乗せ刃を交わせる二つの影が――。