コメディ・ライト小説(新)
- Re: ☆星の子☆ 祝! 100話突破記念〜短編3本立て〜 ( No.539 )
- 日時: 2013/01/10 11:58
- 名前: (朱雀*@).゚. ◆Z7bFAH4/cw (ID: jhXfiZTU)
- 参照: ウルがカッコよすぎる件。
16章 104話「甘えと決別」
南軍 空中 ウル――
遠くなっていく意識の狭間、落下する俺の背を誰かが優しく抱きかかえた。その細い腕と俺の顔に覆いかぶさるくらいに長い髪から、女性だと分かった。
へへっ、死に際をレディーに助けられるなんてな。かっこわりーぜ。
俺は傷口を広げないように慎重に腕を動かした。横で女が何か言ったが、なにせ頭の中でけたたましく鐘が鳴り響いているもんだからよく聴こえない。
まるで得体の知れない生物の赤ん坊に触れるように、俺は横っ腹を探った。不思議と痛みはあまり感じない。人間はナイフで肉体を刺されたらおびただしい量の血を流すらしいが、ここの住民は元々光のような存在なので火の粉を散らすだけだ。
あったかい。
傷口を触って、俺は一番にそう思った。そしてまだ突き刺さっていた短剣を引っこ抜こうとする。
すると女が慌てて俺の手を払い除けた。
「駄目よ、下手にしたら傷が開いちゃう。私がやるから。」
「おう……ってぐえっ!?」
「ごっ、ごめん! 痛かった?」
痛いも何も……雑すぎるだろ。俺がやった方がよっぽどマシだったかな。
女が躊躇なしに刀を抜いたので、その激痛に再び疼く腹をさすって俺は苦笑した。と言っても苦笑いの顔になっているか非常に疑問である。表情筋までもが正常に作動していない気がする。
すると今度は、今ので少し目が覚めた俺の頬に、突然大粒の雫が降ってきた。
――雨か?
そう思って空を仰いだが、そうでは無かった。
女が肩を震わし、泣いている。ナイフをじっと見つめ、その形が見覚えのある物だという事を受け入れられずに、唯々泣いている。そんな彼女は、俺のよく見知った相手だった。
「嘘、だよね……?」
女がポツリと呟いた。まるで俺に語りかけるというよりも、自分に言い聞かせる様に。
「だって、こんなの、ただの悪い夢よ……あの子が絶対、こんな事するはず、無いもの……! 私は、いつだって、ずっと信じて――――」
「キラ。」
俺は、思考の歯止めが効かなくなって濁流のように言葉が溢れ出すキラを制した。息絶え絶えながらも意外と声が出たので、少し安心する。
腕を精一杯伸ばしてキラの肩を掴むと、彼女は何に怯えたのか体を固くした。
そしてまだとめどなく溢れる涙をもう片方の手で拭ってやり、微笑む。
「俺のことは良いから……行ってこい。あいつなりの考えがあるかもしれねぇし、もしかしたらお互い勘違いしているのかもしれねぇ。」
「でも傷が――」
「こんなんで俺様が死ぬと思うか? へっ、自力で治すよ。……だから泣くな。」
「ウルぅ……」
「ちょっ、おい、何でまた泣く――――ゲホッ、ゴホッ。」
突然息が苦しくなって俺は身をよじり大きく咳込んだ。キラは慌てて応急処置をするが、腹の痛みはむしろ先ほどよりも酷くなる一方だ。しかし俺はぶり返してきた腹痛を隠し、無理に微笑んで言った。
「……早く行けって。レオが一人で可哀相だろうが。」
「うん……。」
それでもまだ決心がつかないようだ。
俺はそんな彼女を鼓舞するため、今度は声を張り上げた。
「お前が戦場に出ることで助かる命がいっぱいあんだ!! 俺一人の命なんて安いもんだろ?
……全て終わったら、思い切り俺の腕の中で泣けって。」
「…………バカ。」
キラは複雑な笑みを浮かべた。
すると今度は俺の傷口を手当することもなく、すっくと立って俺に背を向ける。そして地を勢いよく蹴り、高く跳躍した。
吸い込まれそうな深い闇に、キラの真紅の髪が月光と共に鮮やかに目に映る。
また気が遠くなってきたので、俺は静かに目を瞑った。
最後にキラが呟いた言葉が、頭の中で反響する。
(――――「ありがとう」――――)
「ふっ……」
相棒、悪いが少しだけ寝させてくれ。代わりに頼もしい奴送っといたからよ。
あとキラ、やっぱ前言撤回。
どうやら傷がまた開いちまった。さっきは自力で治すとか言ったけど、無理だわ。
あぁ……誰か、
もっとましな応急処置をしてくれ。