コメディ・ライト小説(新)
- Re: ☆星の子☆ 最新話うp! ( No.555 )
- 日時: 2013/02/14 20:15
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: jhXfiZTU)
- 参照: 番外編を読み終わった後にお読み下さい。
17章 107話「笑みの裏」
南軍 空中 レオ――
双子の顔が悔しげに歪む。それが落下していくのをしばらく呆然と眺める俺の中で、激しい憎悪の感情が沸き起こってくるのを感じた。
振り返る。
目に映るのは、変わらない笑みで俺を見つめる幼い少年だけ。
拳を振り上げる。
今の俺には敵か味方かなんて関係なかった。ウルを刺した。戦う理由はこれだけで充分だ。
地を蹴る。加速する。
そして俺の拳が仮面のような作った笑みに届く、その寸前。
まるで無機質のように感情が読み取れない彼の瞳が形を変えた。ただ微笑んでいる奴の目ではない、笑みの中に今まで潜んでいた悪魔が、姿を現した瞬間だった。
「シャドー。」
何の起伏も感じられない、冷たい声が異様に響く。
そして唐突に黒い影が俺の前を掠めたかと思うと、何処までも真っ黒な獣が大きく口を開け俺に牙を剥いた。
咄嗟に体を退け反らし、その一瞬出来た隙に俺は間を取る。
遅れて心臓が思い出したように早鐘を打ち鳴らし始めた。嫌な汗が額を伝う。
――長年の勘で何とか回避したが……今のはヤバかったな。少し遅れていたら、拳ごともげ食われていたところだった。ちょっと冷静さに欠けたか?
そんな心情を悟られないよう、俺は不敵に笑い歯を見せた。
「はっ、お前の犬だったのか。随分イカした真似してくれるんだな?」
「えぇ、僕の力を具現化して作った、言わば使い魔です。よく出来ているでしょう?」
ハクは意図の取れない微笑を顔に貼り付けたまま、答える。横で大人しく控えている“シャドー”と呼ばれた漆黒の獣の喉元を優しく撫でるその姿からは、有り余るような余裕を感じ取れた。
俺は声を低くして問う。
「……何かの悪い冗談とかじゃ、無いんだな?」
「全て真実ですよ。」
「……何故寝返った?」
「寝返り? 嫌だなぁ。」
乾いた笑い声が響いた。少し前まではとても親しみを覚えたその声が、今では聞くだけで不快感を持たずにはいられなかった。
「寝返りなんて一度もしていませんよ。僕は最初から、君達の敵だったんです。いつばれるかヒヤヒヤしましたが、反乱軍の皆さんが鈍いので助かりました。」
「ね?」と小首を傾げ、俺を嘲笑うかのように笑みを浮かべる。
その瞳は何処までも深く、暗くて――あぁ、本当にこいつは俺達の仲間じゃないんだな。その真実を痛感させるには充分だった。
――じゃあ殴られても文句は言えねえよなぁ?
沸々と俺の中で燃え上がる怒りを押し込めるように、きつく拳を握り締める。感情に身を任せてはならない。周りを見失ってはならない。
それでいて、ハクをぶっ飛ばす!!
「おいハク。そいつはもうお前と戦う準備が出来たようだが、俺はどうすれば良い?」
執事服に身を纏ったジオが少し声を荒げ問う。敵をハクに取られた事が気に食わないのだろうか。
ハクは「では他の南軍の相手を――」と周りを見回すと、困ったように眉間に皺を寄せた。
「おやおや……貴方以外の戦員は全て、もう戦えないようですよ?」
言いながら下を見る。つられて俺も視線を落とす。
そこで数十人の戦員と、少し離れたところで横たわるウルを見つけた。皆が皆重傷を負っていて、他の助けを待っている。しかしそこにいる戦員は、最初の数の半分も満たしていなかった。
絶えず火の粉が舞い散る夜空を見つめる。心臓が鷲掴みにされたような錯覚を覚えるが、いい加減この感情にも慣れてしまった。
「シャドーには今朝、餌を多めにあげたというのに……使い魔は力の制御が出来ないのが難点ですね。」
大袈裟に溜息をついては、妙に哀愁を帯びた声色でハクは語る。
「しかし……一匹しか残らなかったのは残念です。烏合の衆も侮ってはいけないようだ。」
そう言うとハクは、右手を“シャドー”と呼ばれた黒い犬の頭に乗せた。すると漆黒の犬は『影』となり、ハクの右手から彼へと吸い込まれていく。
刹那、圧倒的な力の奔流が俺を襲った。
台風かと見間違うほどの、強風。それに紛れ流れ込む、絶対的な力。
異様な光景だった。
年端も行かない少年が柔らかい笑みを浮かべ、誰をも畏怖させる異常な威圧感を放っている。俺は一瞬自分の目を疑った。
俺は推測する。きっとハクは反乱軍に乗り込むにあたって、この異様な力を隠すため三匹の使い魔に自分の力を授けた。その内二匹は南軍の激闘により討伐したので、残った一匹に授けた自分の元の力を、今再び併合したのだろう。
――一匹でこの変わり様だ。三匹とも融合していたら……末恐ろしい奴だな。
- Re: ☆星の子☆ 最新話うp! ( No.556 )
- 日時: 2019/10/17 08:31
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: 3t44M6Cd)
- 参照: 番外編を読み終わった後にお読み下さい。
そんな彼が、不意に目を止めた。俺を通り過ぎ、遠く後ろを見ているようだ。
――何だ?
後ろを振り向きたい衝動に駆られるが、敵に背を見せてはならない。
何となく嫌な予感がする俺は、逸る焦燥を抑え言う。
「早く始めようぜ? 俺は今、お前ら二人をぶん殴りたくてうずうずしてんだ!」
「――ジオ、彼は任せます。」
「……あ゛?」
「どうやら僕にお客様のようだ。」
ハクは笑いかける。
俺にではない、俺を通り過ぎた、もっと後ろに――――
まさか――!?
耐え切れず、振り返る。目に映ったのは、今にも泣き出しそうな表情で俺らを見つめる。か細い女。赤髪が風になびき、時折彼女の顔に影を作った。
「…………ハク? 本当に、ハクなの……?」
ほとんど放心状態のようなキラの呟きが、胸に刺さる。
よりによって、何でキラがここに……!?
俺自身も動揺していたのかもしれない。掛ける言葉も見つからず、指一本も動かせず、ただその映像を客観的に見ていることしか出来なかった。
するとハクは、その隙にキラのすぐ目の前に降り立つ。そして彼女の耳に唇を近づかせると、そっと囁いた。
「だから、北軍を離れないでと言ったでしょう……?」
「――――っ!」
少し遅れて、キラは飛び退く。怒りと、悲しみと、けれどどうしようもない愛しさを映す彼女の瞳が歪んだ。
「本当にハクが、ウルを刺したの……?」
「そうです。」
何の揺るぎも無く、ハクはそう言い放つ。
それを聞いたキラの瞳が潤んだ。同時に手に持った大鎌を、覚悟を決めたようにしっかりと握り直すのが見える。
次には金色の瞳に女戦士としての決意を燃やし、残忍な笑みを浮かべる幼い少年を強く見据えた。
「面白そうだしちょっと観戦するか」とジオが後ろでぼやくのが聞こえる。
「私達は、もう味方じゃない……! 手加減はしないわよ。」
「手加減?」
ハクが首を傾げ可笑しげに笑う。
「駄目ですよ、キラ。そんな生ぬるい事言っちゃ。」
そう言うと地を蹴って、一瞬の間にハクはキラとの距離を縮めた。キラが息を呑んだ。
そんな彼女の、丁度心臓の部分に人差し指を置いて、ハクはどこか冷たさのある声色で言う。
「どうせ二人きりになったら、わざと負けて僕を逃がすのでしょう?
僕には聞こえますよ、貴方の声が。だって一番長い時間、共に居た仲ですからね――」
我に返ったキラが、乱暴に大鎌を振った。しかし動きが遅すぎるし、動作にムラがある。大きな黒い鎌は、虚しく空(くう)を切るだけだった。
「おっと、危ない。でもそれじゃあまだ足りません。」
酷く動揺し荒い息を吐くキラと再び間を置いた少年が、妖しげに微笑んだ。
体中に悪寒が走る。
やめろ、それ以上何も言うな! 何か、何かが壊れる……!
そんな俺の願いも虚しく、ハクは口を開く。
そして次の瞬間、俺は聞いた。
彼女の何かが、決定的に崩壊する音を――――。
「教えましょう。貴方の妹は、僕がこの手で殺しました。
キラ……貴方の本当の仇は、この僕です。」