コメディ・ライト小説(新)
- Re: ☆星の子☆ バレンタイン企画! 本編&番外編同時更新!! ( No.566 )
- 日時: 2013/05/05 11:44
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: iXLvOGMO)
17章 108話「夢魔」
東軍 夢の中 リン――
「だから、反乱軍の黒駒は――ハクよ。」
空気が凍りついた。
俺は何も言えず、その言葉だけが延々と俺の脳内で駆け巡る。
まさか……奴が?
ハクは自分が反乱軍は入る前からいて、反乱軍の面々とも非常に仲がよかった。それに自分も『銀河の警官』に所属していた身だが、見かけたことなど一度も無い。
――最高執行部隊だったからか……?
目の前で菓子に手を伸ばすムマという女も、話は聞いたことがあったがそれはあくまでも噂で、実際に見たのは今日が初めてだ。トルは……何度か研究室に用があって訪ねた事があるので面識はあった。が、勿論研究室以外の場所で会ったのは先程の洞窟が初めてである。つまり最高執行部隊専用の、アジトのような所があるのだろう。
――しかし、ハクは俺よりもずっと幼い。すると、物心つく前からそこに所属していたという可能性も……。
悪寒が背筋を這う。嫌な汗が吹き出た。
――ハクは……確か北軍だったな。というとキラやピア達と一緒か。
(キラや他の人達は大丈夫なの……!?)
俺の思考に呼応するかのように、不意に脳髄から声がした。空の心の叫びだ。生まれながらの“サイコメトラー”という特性が、無意識の内に周囲の声をキャッチしてしまったようである。
キラ、か……。
俺は妙な不安を覚える。彼女は空と同じくらいに素直で純粋だ。それ故心に、言わば『鍵』が掛かっていないので、よく心の声を耳にしやすい。無意識の内に赤裸々な内容を聞かされる俺の気持ちにもなってほしいものだ。
キラが奴に抱く恋慕の感情は、少し前から気付いていた。言動を見ても充分分かったが――やはり決定打はキラの心の言葉を聞いてからだろう。口を開けばハクの話ばかり(と言っても心の奥で、だが)……その位彼女は純真無垢なのだ。
そんなキラが、果たして敵となったハクとまともに戦えるであろうか?
結果は見えている。
レオやウルなど数々の戦闘の場数を経た奴等ならまだしも、彼女はまだ十七の少女なのだ。情に流されるな、と言うなんてどうかしている。
一刻も早くそちらへ向かわなければ……!
俺が口を開いたのと、空が立ち上がったのはほぼ同時だった。
「行こう。」
「行かなきゃ……!」
顔を見合わせると、空の真剣な表情が窺えた。知らぬ間に随分と成長したようだ。その瞳には一抹の不安の色も無く、ただ純粋に仲間を助けたいと言う熱意が宿っている。
「ムマ。」
俺は菓子を頬張る女に向き直り、名を呼ぶ。それだけなのに何故だかムマは過剰に反応し、体を硬直させ少し上ずった声で「な、何かしら?」と答えた。
俺は簡潔に、しかし力強く言う。
「ここから出してくれないか。」
「……駄目よ。」
ムマは不服そうな顔をして、冷たく言い放った。
「私はこの戦争のことなんてどうでも良いけど、あんた達が無事だと痛い目見るの。分かるでしょう? 上は甘くないの。」
「でもっ、私達の仲間が今大変なの……!」
「……この世界は私の支配化よ。いくらあんたが出たいと願っても、私がそうはさせないわ。
――ねぇ分かってる? 私達、敵同士なのよっ!」
先程まで一緒にお茶をしていた奴の言葉か?
俺はそう突っ込もうとしたが、それは遮られた。刹那、ムマの瞳が妖しげに赤く輝いたかと思うと、白く光る鋭い槍が突如現れ空を目掛け飛んできたのだ。
咄嗟に地を蹴って距離を縮める。
左手でしっかり空を抱き寄せこしに下げた鞘から太刀を引き抜いた俺は、それを薙ぎ払った。
間一髪、鈍い金属音が鳴り響き巨大な槍は両断される。
俺は空を庇う形で地面へ背を強く打ちつけたが、空が無傷だという事が想像以上の安堵を俺にもたらし、不思議と痛みは感じなかった。ただ――怒りが沸々と静かに湧き起こり、俺の胸奥で青い炎が燃え上がる。
俺はムマを睨みつけた。
「お前……何故こんな真似を?」
「何でって――……っ。」
俺の気迫に圧倒されたのか、ムマは言葉を紡ぐことが出来ず俯いた。隣で空が「私は大丈夫だから、ほら、怪我とかしていないし……」と必死に俺を落ち着かせようとするのだが、俺の怒りは静まるどころか、寧ろ何も言わずに黙り込んでいるムマに再び矛先を向ける。
「黙っていないで何か言ったらどうなんだ?」
思った以上に冷ややかな声が響いた。
ムマが肩を震わす。
そして次の瞬間、彼女は勢いよく顔を上げると声を大にして叫んだ。
- Re: ☆星の子☆ バレンタイン企画! 本編&番外編同時更新!! ( No.567 )
- 日時: 2013/05/05 11:45
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: iXLvOGMO)
「私だって、私だって一人は寂しいのよっ!!」
沈黙が流れる。
俺も空も掛ける言葉が見つからず、呆然とその場に立ち尽くした。
ムマは耳まで顔を火照らせ大きな瞳に涙を溜める。そして小さく嗚咽を漏らすと、しゃくりあげながら語り始めた。
「……っ、私は、こんな変な能力のせいでっ、ずっと友達が出来なかった……がっ、学生の頃はずっと一人で、孤独で……だけど、そんな時、私の力を見込んで政府の上の奴等が、『銀河の警官』に勧誘してきた……そこでならっ、友達も沢山出来ると思って、入ったのに……とっ、特別だからって最高執行部隊に入れられてっ、決まった部屋しか出歩く事は許されなかった……。だからっ、こっこんな風に普通の子達とお茶して喋ったのが嬉しくてっ……ただそれだけなの! 私は何も悪くなんか、ないのぉ……。」
ムマは両手で顔を覆うと、その場に座りこんで泣き始める。
まるで赤子のように声を上げなくムマの背を、空が優しくさすった。俺もムマの叫びを聞いて、胸が締め付けられた。……少しキツく糾弾しすぎただろうか。
つまり、ムマは友達を作りたかっただけなのかもしれない。だから俺たちの足止めをしたのだ。
本当の仲間が欲しい。普通の友達と平凡な日常を送りたい。
それは以前の俺も感じていた事だった。ナツやヒナとチームを組んで動くようになってからは渇望しなくなったが、俺もサイコメトラーという人の心を読む能力を持つので、周囲の人間は警戒からか気味の悪さからか近づこうとしなかった。
――でも今は。
すぐ隣に信頼出来る友がいる。彼等もまた、俺を必要としてくれる。理解してくれる心優しい奴だって沢山いるんだ……!
「ムマ、さっきは悪かった。」
俺の唇が自然と動く。
「…………?」
「俺も俗に言うサイコメトラー的な能力を持っているからな……友達は中々出来なかった。他人の心を読めたって良いことは何も無かったし、俺は人間不信になりかけていた。
――だがお前も、もう既にいるんだろう? 仲間が。」
「え。」
ムマが泣きはらした瞳を見開き、俺を不思議そうに眺めた。
――どうやら分かっていないらしい。
俺は再び言葉を紡ぐ。
「俺は『銀河の警官』に入って、ナツやヒナと出会った。同じ志を持ち同じ目標を持つ者――それは“仲間”なんじゃないのか?」
「で、でも私は、何か理由があって入った訳じゃ……」
「今の俺には空や他の反乱軍もいる。勿論それぞれ反乱軍に入った理由は異なるが、自分が今出来る事を精一杯やっている。それに助けられる奴も沢山いるんだ。」7
「なっ、何が言いたいのよ……!」
「お前の行動も、誰かの為にやっているんだろう? それはお前達の黒幕だったり、他の最高執行部隊の奴等だったり……お前の行動は決して良い事とは言えないが、それがその誰かの力になっているんだ。お前は力を貸す、借りた奴はお前の居場所を作る。そしてそこには同じような境遇の奴等もいる……。お前には充分仲間がいると、俺は思うが。」
不安そうに事の成り行きを見守っていた空が愁眉を開いた。唇で弧を描き、ムマを後押しするように必死に会釈する。
その時、俺たちを囲んでいた氷のドームがす、と霧散するように消えた。次々に周りの焼け焦げた木の幹も消え、代わりに青々と生い茂った大木が現れ始める。
「ここは……?」
「光聖君とはぐれた場所だ!!」
俺の問いに空が嬉しそうに答えた。
「良かった、戻ってこれたみたい!」
俺は大きく息を吐き出した。張り詰めていた緊張が解け、体の力が抜ける。空の温かい微笑に安堵していると、先程から決して顔を上げることの無いムマが目に映った。
彼女はフリルのついたスカートをぎゅっと握り締め、声を絞り上げる。
「っか、感謝しなさいよね……! 無事に、出してあげたんだからっ。」
「うん、ありがとうムマ!」
破顔した空に背を向けて、腕にうさぎのぬいぐるみを大切に抱え込んだムマは続ける。
「私は政府塔へ帰るわ。あのバカ――ヒナの顔も、ちょっと見たくなったし。言っとくけどね、あなた達は命拾いしたのよ? 今度会った時は、滅多打ちにしてあげるわっ!」
「あぁ、また今度な。」
俺が薄い微笑を浮かべ答えると、ムマは生い茂った木々へと進む足を速め俺達の視界から消えようとする。
そんな彼女の背を追うように、空が「私はっ」と声を上げた。
「私はっ、敵じゃなくて友達として、また会いたいな……!」
返事は無かった。
しかし満足げに鼻を鳴らすムマの気配が、森の涼しげな香りと風に乗ってやってきた。
俺と空はしばらく、ムマが消えた木々の隙間をじっと見つめていた。