コメディ・ライト小説(新)

Re: ☆星の子☆  114話「紆曲する雷火」 ( No.822 )
日時: 2019/12/13 23:01
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: /FmWkVBR)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

18章     114話「紆曲する雷火」


南軍 空中  レオ、ガルVSジオ――

 雷を自由自在に操る特別執行部隊とやらの隊長に、俺は苦戦を虐げられていた。ただでさえ四方八方から落雷するってんのに、敵は不死身ときた! 正直どうすれば勝てるのかさっぱりわかんねぇ。
 さらに、政府側のスパイだったハクの手により、俺の相棒――ウルは戦闘不能。ハクを追って助太刀に来たキラは怒りで獣化し、二人で地上へ落下した。
 俺はとりあえず眼前の敵をぶん殴ろうと、再びジオと拳を交わすところだった。しかしその寸前――敵は見えない力で遠くへ吹っ飛ばされる。
 突如現れた救世主。人懐っこい笑みを浮かべる男の姿を見て俺の頬は思わずほころんだ。

「ジジイ! 来てくれたのか!」

 開口一番、歓喜の声を上げるとガル――反乱軍の総司令官は細かい皺が刻まれたその顔に苦笑を浮かべた。

「待たせたの。南軍が何やら大変そうだったのでな、儂自ら足を運ぶこととした。直に援軍も到着する頃だろう。……ハクの件は儂が見誤っとった。すまない」
「謝らないでくれよ、俺たちにも責任がある。それよりキラが心配だ。そっちに行ってくれないか」
「いや、二人は心配なかろう」
「え?」

 ガルがにかっと歯を見せて破顔した。つられて彼らが落下した先を俯瞰すると、二人が折り重なって倒れている。死んだ……わけではなさそうだ。キラの獣化は無事解けたようで、ほっと胸をなで下ろす。
 刹那、バチッ――と空から爆ぜる音がする。雷鳴がとどろき、紫電が空を切り裂いた。俺とガルは間髪後ろへ飛び退く。

「うぉっと!?」
「おいおい、無視は酷いなぁ」

 黒いスーツを格好良く着こなした男が不気味に笑いながら、暗黒の空に稲光を走らせていた。その双眸が値踏みするようにガルを捉える。ガルは一転、表情を引き締めて口を開く。

「お初にお目にかかる。儂は反乱軍の総司令官――」
「ガルディメット・ジャッカル、だろ? くっくっ、まさか大将自ら俺の相手をしてくれるなんてなぁ、光栄だよ。早速、お手合わせと願おうか」
「ふうむ……政府軍も血の気の多い者が多いのぉ」

 ガルがどこか楽しげにそう告げる。
 ゴロゴロゴロゴロ……
 空に立ちこめた暗雲から、腹の底に響く不穏な音がする。刹那、大地を引き裂かんばかりの霹靂へきれきとともに、総毛立つような稲妻がガルめがけてはしった。「ジジイ!」と俺が叫び、落雷が突如軌道を変えて遠くの森林へ吸い込まれたのは同時だった。ガルは何食わぬ顔でにこにことジオの言動を観察している。

「……ほぉ」

 ジオが端正な顔を引きつらせる。男はさらに雷をガルに向かって落とすが、そのどれもがすんでの所で弾かれ、あらぬ方向へ向きを変えた。正直ジジイの能力を知っていても、見ているこっちはひやひやして心臓に悪い。
 ジオは長細い指で顎をさすりながら目の前の状況を推察している。

「なるほどなるほど……」
「なにかわかったかの?」

 にこやかにガルが答えを促すと、

「つまり、俺と同じくらいお前はチート能力ってことだな!」
「ぶっ」

ジオは自信たっぷりにガルを指差して答えた。
 思わず笑ってしまったのを、口を覆って必死に隠す。散々考えて納得している風だったのに……こいつ、阿呆なんだろうか。
 ガルは豪快に笑い飛ばす。

「そうじゃなぁ、確かに反則級かもしれんが、お主の不死身ほどじゃないわい」

 そしてこちらを顧みて「レオ」と力強い声で俺の名を呼んだ。俺も気を引き締めて頷いた。
 右の掌に全神経を集中させ力を込める。そこから小さな炎が渦を巻いて出現し、それは徐々に赤い火の玉となる。ガルが俺の傍へ数歩近づいた。十分な熱量を溜め込んだところで振りかぶり、

「ふっ――!」

勢いよくジオに放り投げる。炎の塊は俺の手を離れた瞬間、凄まじい速度でジオに向かっていき――爆ぜた。夜空に軌跡を残した火の粉が、恐るべき速さで玉が投げつけられことを物語っていた。煙の中から敵が身を屈め咳き込む姿が薄ら見えた。

「げほっ、ごほっごほっ……なんだ? 威力がさっきとはえらい違いじゃないか。これもじいさんの能力か?」
「儂の見た目、そんなに老いて見える……?」

 ガルはその呼称に多少のショックを受けたようだった。俺は笑いを堪えながら項垂うなだれた彼の背をぽんぽんと叩く。その実、ガルは精悍な容姿と溢れる活気から全く年老いて見えないのだが――見た目年齢は40代後半だろう――、俺とウルがからかってジジイと呼ぶのを聞いて、ジオもそう呼んだのだろう。少し申し訳ない。
 ジオはそんなガルの傷心に気付く素振りもなく、先の攻撃を真っ向から受けても尚、涼しげに立っている。深い群青の瞳が輝いた。

「くっくっ、じいさんの能力は面白いんだな。もっと見せてくれよ」

 言って、俺たちを覆う曇天から紫電を落とす。しかしそれは悉く軌道を変えて――無理矢理捻じ曲がったように、不自然な弧を描きながら次は男の方へ向かう。
 一瞬目を丸くしたジオは、不気味にほくそ笑んで電撃をその身体に受けた。バリバリッと凄まじい音がする。男の黒髪が逆立つ。
 うげっ……あいつ、本当に痛くないのか?
 そんな心配も一瞬だった。もうもうと煙がたなびく中、全身に電流を這わせたジオが勢いよくこちらへ飛んでくる。一瞬にして間合いを詰め、右脚を高く持ち上げた。華麗に体を捻って半回転し、その勢いでガルの胴へ向かって長い足を斜に振り下ろす。
 ガルはその見事な回し蹴りをくらった、筈であった。

「な、に――っ」

 ガルは咄嗟に、打ち込まれた蹴りから片腕で身を守った。そう、傍目ではそうとしか見えない。
 しかし不思議なことに、ジオの体はガルに触れた瞬間、弾かれたように後方へ跳ね返された。そのまま近傍の大木へ長躯を打ち付ける。
 
 衝撃音。ジオがすぐに動く気配はない。追い打ちをかけるように、俺はありったけの力を込めて、両手を標的へ突きだした。そこから火炎が放射される。
ゴウッと音を立てて一帯の木々が燃え盛る中、ゆらりと黒い影が動くのが見えた。
 ――やっぱそう簡単にはくたばらない、か。
 すすが舞う中、執事風の身なりでさえ汚れ一つ残さず、綺麗なまま修復されてゆくのは、何度見ても酷く不気味だった。

「いやぁ、たまげたよ。これじゃ総司令官様には迂闊に近寄れないじゃないか」

 くつくつと笑って何てことないように言う。

「っ、ジジイ、どうする? これ以上ここで道草を食うわけには――」
「そうじゃなぁ。……レオ。戦闘司令官のお主にこの先を託してもよいかの」
「え?」

 思わず呆けた声が漏れる。ガルは敵に聞こえないよう一段と声を落として俺に耳打ちした。

「直に援軍が来るじゃろうから、それらを纏めて政府塔へ突撃するのじゃ。良からぬ気配がする。こやつは儂が食い止めよう」
「それならジジイが行った方が……っ、総司令官がここにとどまるわけにはいかねーだろ」
「儂が離れれば、それこそ反乱軍は雷の格好の餌食じゃ。レオ」

 力強い瞳で見つめられ、俺は喉元まででかかった言葉をぐっと呑み込んだ。そうせざるを得なかった。

「……わかった。でも本当にジジイ一人で平気か?」
「なぁに、久々の良い運動じゃよ。それに、」

 ガルが目配せをしてちらっと下方へ視線を移した。俺もそれにならう。
 ……ん? あれは、数々の宝石が秘されたこの国の宝庫――

「『ケイヴァニア』……?」

 いつの間に西の方へ移動してしまったのか、と考えた時だった。何やら遠く――そう、洞穴から、男の雄叫びのような音が聞こえてくる。その咆吼は次第に近づく。

「あー……」

 そういえばいたな、俺ら双子よりも血の気の多い奴が。
 思わず苦笑が漏れた。「そんじゃ、行ってくる」と軽い調子で言い残し、頼もしく頷いたガルから離れて巨大都市『シャイニア』の中央にそびえ立つ政府塔へ足を踏み出すと、十分に回復したジオがさっと目の前に立ちはだかった。

「塔へは行かせない」

 一閃、眩い光に視界を奪われる。が敵の攻撃もガルの能力の効果範囲内では無力に等しい。俺は振り返らず、塔へ駆け出す。ジオの舌打ちは、洞穴から出てきた嵐のような男の叫声に掻き消される。
 
「ひゃっはぁ――――っ! 楽しそうじゃねぇか俺様も混ぜろぉ!!」

 反乱軍随一の戦闘狂。
 セルが『ケイヴァニア』から飛び出て、そのままの勢いでジオに向かって斧を振りかぶるのが視界の端に映った。
 執事野郎は二人に任せるとするか。
 速度を上げてその場を離れる。俺は戦闘司令官としての責務を全うするため、通信機を介して――全軍に手っ取り早く伝えるには“思念”よりもこちらがよい――東西南北の反乱軍に指令を出す。

「全軍、聞こえるか! 本拠地からB軍の応援が来る。負傷者は首都に入る前に手当てを、可能ならば後方支援を頼む! 戦える奴は俺に続け! ジジイが敵軍隊長の足止めをしている間に、西から一気に攻めるぞ!」

 返答があったのを確認し、俺はここから真逆の東にいる光聖に、個別に“思念”を繋ぐ。

(――光聖、無事か?)
『レオ。……うん、なんとか』

 返ってきた言葉に覇気はない。しかしそれを気遣ってやれるほど、今の反乱軍に余裕などなかった。俺は夜空を軽々翔かけつつ、矢継ぎ早に今後の策を伝える。

(奇襲作戦だ、わかるな? 俺が残りの軍を率いて西から派手に攻撃を仕掛けるから、お前にその隙をついてほしい。ところで空ちゃんは無事か?)
『大丈夫だよ、今は僕と一緒にいる』
(そうか……。政府塔へ迂闊に近づくのは危ない。出来れば空ちゃんには、安全な場所で待機するか、救護班と一緒に後援に回ってほしいんだが)
『それが……』
(どうした?)

 光聖はもどかしげに言葉を切る。

『……空が、政府塔に自分も行くって聞かないんだ。僕もB軍と合流して後方に居るよう説得したんだけど』
(そりゃまたどうして)
『塔に、黒いオーラが集まっているって。そこから……リンの、気配がするらしいんだ』
(はぁ? リンは西にいるだろ――)

 言って、はたと思い出す。そういえば『ケイヴァニア』からは、セルと、その後を追うように西のA軍が数十名出てきたきりだ。俺はリンが洞窟の後方にいて、まだ出口に辿り着いていないと推測していたが……さっきの俺の指示にもリンからは返事がなかった。
 いや、まさかな。
 浮かんだ憶測を振り払う。脇目も振らず政府塔へ向かう俺の進行を阻むように、青い警官服を身に纏った政府の犬どもが拳銃を手に立っているのが遠く見えた。悠長に会話している場合でないようだ。

(ふむ、よくわからんが、そっちは任せていいか。俺が軍を率いて西で陽動するから、なるべく見つからないように塔へ潜入しろ)
『わかった』
(助っ人を送るから安心しろ。二人とも、大怪我すんじゃねーぞ)

 それを最後に、“思念”を断ち切る。少女の言動が気がかりだが……こちらが敵を引きつけて二人の道を切り開くしかない。振り向くと真っ先に追いついた西と北の兵士達が俺の後ろを飛んでいた。にやりと、悪戯を仕掛ける子供さながらの笑みを浮かべ、彼らを激励する。

「もう一踏ん張りだ! この腐れ切った政府から、自由を取り戻すぞ!」

 空を貫くように高々と佇む瀟洒しょうしゃな要塞へ、迷いなく進む。その周囲を、両翼を張ったように堅固な壁が覆っている。正面の巨大な純白の門には、『銀河の警官』の紋章――羽を大きく広げた金色の鳥が特徴だ――が豪華絢爛に装飾されている。
 数十の警官が宙に足場を形成して立っていた。黒光りする拳銃が反乱軍に向く。

 戦闘時、いつも傍にいたウルはいない。二人で戦えば百人力だった。心淋しいのも無理はない。
 それでも。俺は反乱軍の戦闘指揮官だから。
 片割れがいなくても、前に進むしかないよな。
 
 全身に力を込め、血の巡りを早める。敵の銃口から弾が飛び出すよりも速く、掌から火炎を噴き出した。
 ――さぁ、最終決戦だ!