コメディ・ライト小説(新)
- Re: ☆星の子☆ 118話「白濁と」(1) ( No.832 )
- 日時: 2020/04/01 10:36
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: 3t44M6Cd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
18章 118話「白濁と」
シャイニア 空中 レオ――
『東の方角に光聖と空ちゃん発見! 塔までもう少しだ。陽動作戦は大成功だぜ、相棒!』
(よかった。ウルは腹の怪我どーなんだよ? 戦えるのか?)
『救護班に真っ先に診てもらったからな。まだ動ける。国の一大事に寝込んでいるような俺らじゃねぇだろ?』
(ははっ。じゃあそっちは任せたな)
警官との応戦の片手間でウルと“思念”を送り合ったのは数刻前。元気そうな相棒の声を聞いて内心ほっとした。
全軍への号令を聞いたウルはすぐさま陽動作戦であることを汲み取り、敢えて政府塔へ向かわせた光聖と空ちゃんの後を追っていた。『しっかし光聖早いなー全然追いつけねー』とぼやいて“思念”は途絶えた。鍛錬したとはいえ、光聖と空ちゃんはまだ戦闘に不慣れだ。グロさんに加え、ウルもサポートしてくれると知り当面は安心できる。
陽動作戦と言えど、こちらも警官の防御網を突破して塔へ突撃すれば反乱軍が勝利の狼煙を上げるまでそう時間はかからないだろう。
しかし、だ。こちら戦闘司令官、双子の片割れレオ。先までは相棒と会話する程度に余裕があり、『銀河の警官』もたいしたことねぇなと胸の内で小馬鹿にしていたのだが。
「……さて、と。これをどう倒すかな」
そんな俺の呟きは、反乱軍の前に立ちふさがった女の高々とした咆吼で掻き消された。
先まで蹴散らしてきた敵と何ら変わらない、青い警官服を纏った女。しかし彼女の衣服は出会った時にはもうズタボロで、袖が千切れた右の肩口からは異色な腕が生えていた。異色な、というのはその腕が黒い毛並みに覆われており、短い指から金色に光る爪が伸びていたからだ。さらには茶色の短髪が静電気を浴びたように逆立ち夜風に靡いている。少しつり上がった瞳に感情は見えず、瞳孔が大きく開いたままかっと見開かれていた。赤い妖艶な唇から不自然に鋭い犬歯が覗く。彼女の全身から沸き上がる殺気に兵士達は気圧される。
まるで獣化したキラのようだ、と思う。これと交戦して分かったことは、僅かばかりに理性が残っていて咄嗟の機転が利くということ。動きは軽く素早いうえに拳銃や鋭い爪で攻撃してくるので非常に厄介である。
反乱軍は続く戦闘で疲弊している。目の前の半獣を倒して塔へ突撃することがかなり難しくなってきた。
正直不気味だが……素材はいいよなぁ。吊り目が可愛いし鼻も高くて顔は小さくて。こんな状況じゃなきゃナンパしてんのになぁー。
と、俺の煩悩を見破ったかのように女は再び絶叫した。両手で顔と喉を掻き毟る。
「 う、ぎ、ギャアァァああアアアアァァァッ―― 」
「あーあ。折角の可愛い顔が台無しだぜ? ちょっと黙ってくんねぇか、なっ!」
右手を標的へ突きだしそこから火炎を放つ。女はまるで猫のようなしなやかさでそれを避け、左手の拳銃に手をかけた。バビュン! と凄まじい速度で、俺の脇腹をめがけて銃口から青白い光線が放たれる。咄嗟に身を捩って躱したが、反応が遅れた左腕に攻撃が掠る。夜空に尾を引いた光の残像が視界に映った。
歯を食いしばって痛覚に耐え、疾走する。瞬時に敵と距離を詰め、右脚に力を込める。爪先から脛にかけて火を噴かし、赤く燃え上がった脚を折り曲げて女の胴体へと振り回した。僅かに柔らかい肉の弾力に手応えを感じる。
「 ガッ、 」
蹴り飛ばされた女は数メートル後方へ投げ飛ばされた。鮮やかな青が自慢の警官服はぼろぼろに焼け焦げ燻っている。
訪れた好機。「ピア!」と叫ぶと後方からか細い返事と共に金色に煌めく弓矢が弧を描いて飛んできた。暗殺部隊 風狼軍の長メトロをも貫いたそれは、目にも止まらぬ速さで標的へ向かう。女は放たれた光の矢を起伏の小さな瞳で一瞥し
ぐしゃり、と。
あろうことか黒く不気味な片腕でそれを握り潰した。
「…………………………はぁ?」
「ひぃっ」
そして腕を振りかぶり、小さな手の内で粉々に砕けた破片を反乱軍に向かって我武者羅に投げつける。もう無茶苦茶だ。
ばらばらと上から降ってくる破片は空中で不規則に小爆発を起こす。
「うわぁぁんごめんなさいごめんなさい! とっておきの弓矢だったんですぅ!」
ピアが目に涙を浮かべながら逃げ惑う反乱軍に平謝りしている。
爆発性の弓矢か……策は良いが相手が悪い。片腕で粉砕した際にも爆発が起こった筈だが、自分の負傷はお構いなしってか。ジオのようにみるみる傷が癒える様子はないけど……こりゃとんだ怪物だぜ。
「ピア、お前は悪くないから落ち着けって。攻撃は良かったから――っと、次が来るぞ!」
混乱を招いた元凶は眼前の爆発をものともせず、低い姿勢で飛びかかってきた。猫のように縦長の瞳孔が瞬時に俺を見つけ、慣れた手つきで拳銃を構える。
やはり先程から真っ先に俺を狙ってくる。兵士達の相手は片手間でどうにかなると踏んでいるのかもしれない。上等だぜ、と口の端を吊り上げた。高く跳躍し、突き出した掌から下方の敵へ炎の弾雨を浴びせる。
拳銃から放たれた光線と炎の散弾がぶつかり合い、夜空で派手に爆ぜる。熱風が吹き荒れる中、女は流れ弾を避ける素振りも見せずにひたすら引き金を引き続けた。放たれるレーザー光は恐ろしい威力だ。この散弾の中を突き破ってきたらひとたまりもないだろう。後ろに控える反乱軍も俺が守らなければ。
女が退かないのなら俺も引き下がるわけにいかない。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」
「 あ゛、あ゛ああアアアああアアアァぁぁァァッ――! 」
敵がくたばるのが先か俺の体力が尽きるのが先か。
下肢を踏ん張って耐える。轟、と燃え上がる火炎を放出し続ける。
広範囲に及ぶ爆発と吹き荒れる熱風。誰も二人に近づけない。意地がぶつかり合う。
激しい鬩ぎ合いはより苛烈を極めるように思えた、その時。
ズン、と空気が変化した。重力が何倍にも重くのしかかる。攻撃を続けることが適わず、それどころか宙に足場を形成して立っていることすらままならない。それは敵も同じだった。呻き声を上げた女の手から、図らずも拳銃が離れる。
今だ。今、倒さねぇと――――!
しかし身体は言うことをきかない。全身の平衡感覚が崩れ遂に地上へと落下する。その途中で急激に背を這う悪寒と恐怖に支配された。
『我が名は《ホロウ・フェザー (Hollow Feather)》――』
『新たな神としてこの国を統べるもの』
『これよりアステリアを再建する』
嗄れた老人のような、おぞましい声だった。不気味な抑揚がこの世在らざる怪奇を連想させた。
ホロウ・フェザーってなんだ、誰だ。政府軍の頭領は、反乱軍の敵は……、『アステリア』をおかしくしたのは、ホーリー・フェザーじゃねぇのかよ!?
あぁ身体が重い。気持ちわりぃ。こんな感覚初めてだ。何が起こっているんだ――――
ぐるぐると沸いて出る疑問を考えている余裕はない。
俺の意識が薄れるより前に、白濁と化した世界は唐突に“終わり”を告げた。
- Re: ☆星の子☆ 118話「白濁と」(2) ( No.833 )
- 日時: 2020/04/01 10:42
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: 3t44M6Cd)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
南軍 空中 ガル、セルVSジオ――
あぁ楽しい楽しい楽しい! やっと生きている実感がする。
そう、戦闘とはこういうものだった。強敵と交えたときの高揚感。細胞が活性化して血が巡って全身熱く燃えたぎって――そして気付くのだ。自分は神に愛された特別な子なのだと。
ぎりぎりの命を賭した戦い。最後に生き残るのは自分だ。最高に気分が良かった。
それは命が有限だからこそ感じられた興奮だった。
「くっ、くくっ、くはははっ」
笑っていた。久しぶりだった、戦うことにこんなに楽しみを覚えたのが。
やっと、やっとだ。不老不死の呪いから解放されるのかもしれない。
曇天を轟かせる。全力全霊で雷を叩き落とす。総司令官の正体不明な能力で跳ね返されるが関係ない。自分を中心に数百という数の雷撃の槍を空から放つ。
そんな中、感電などお構いなしに、無謀にも緑髪の男は急接近してきた。でかい図体の割に動きが早い。こちらの懐に潜り込み雄叫びと共に斧を振り回す。
俺に防御は不要だった。緩慢な動作で後ろへ飛び退いた。浅く腹を横一文字に切り裂かれ、飛び出た鮮血は瞬時に群青の火の粉へと変わる。それと同時に俺の傷も修復され、一瞬感じた痛みもすっとどこかへ消えていく。
「こいつまだ笑ってやがる。気色わりぃな、おい」
H・F様は俺の実力を見込んで素晴らしい力を与えてくださった。
“不老不死”。
誰もが羨む能力だ。人類が叡智を掻き集めても辿り着けなかった領域に俺は到達した。誰よりも強い。それは紛れもなく愉悦であり幸福だった。
…………だがその喜びは一時のものだった。
詰まらなかった。
端から勝敗の決まった戦闘に意味など見出せなかった。敵は俺の不死身を知ると恐れをなして逃げ惑う。本気の戦いなど無意味だから。俺は最大の愉しみを己の手で奪ってしまったのだ。
――しかし目の前の男は違う。
俺は出鱈目に雷撃を放ちながら笑う。
「くははっ! お前、俺と同種か!」
「ああ゛っ!?」
唐突で何の脈絡もない言葉に気が立ったのか、男はこめかみに血管を浮かせる。俺の攻撃など気にも留めず、体を捻って大きく斧を振り回した。一定の距離を保ったまま戦況を見守っていた総司令官が「セル!」と吠えた。途端、セルと呼ばれた男の斧が凄まじい迫力で俺の顔面に迫り来る。
「うらぁっ!!」
気付くと俺は数十メートル後方へ吹っ飛ばされていた。
ほんの僅かだが記憶がない。宙を飛んでいる間に回復したのか身体には掠り傷すらも残っていなかった。
首を切られた……いや胴体を真っ二つにされたか……?
ふむ、と適当に考えているとセルが弾丸のような勢いでこちらへ駆けてきた。不老不死の敵を貪婪な瞳が捉える。顔面に貼り付けた残忍な笑み。
「はっ。お前本当に死ねねェんだな!? 今のは即死だったろうがよぉ。もっと粉々に砕けばどぉなるんだ? 俺様に試させろッ」
「くくくっ。こいつ……警官よりよっぽど獰猛じゃないか」
適当に言葉を交わしながら紫電を巧みに操って迎撃する。乱暴に振り回される斧に気を配りつつ、セルの後方へ目をやった。
先程からじいさんは離れもしないが近づいてもこない。不自然すぎる……となるとやはり――っ
瞬時に身を屈めた。ブン、と頭上で勢いよく斧が振られる。大きい動作によりがら空きになったセルの懐へ入り込み、鳩尾へ肘打ちを食らわせる。荒い息を溢したその身体へ、俺は容赦なく頭上の暗雲から稲妻を落とす。
完璧な攻撃。勝ちを確信した、が。
「させんわい」
セルに直撃する寸前、またもや雷撃は弾かれた。
幾度となくこの繰り返しである。なかなか俺の電撃を浴びてくれない。
「まったく、総司令官さまは意地が悪いな」
だがそれでいい。すぐに死んでは詰まらない。
体勢を立て直したセルの攻撃を華麗に躱しながら俺は跳躍した。後ろから迫り来るデカブツに見向きもせず総司令官へ近づく。
まだだ。まだ楽しませてほしい。
「見事な攻防だよ。じいさんの能力は分からないことだらけだが……今度こそ電撃の餌食だ」
雷鳴が頭上で轟く。降り注ぐ無数の槍。
額に汗を滲ませた総司令官は、一気に距離を詰めた俺に苦笑を向けた。
攻撃の手は緩めない。ぐっと掌を握って開くとバチバチと放電する弾が発生する。不自然にねじ曲がる雷を器用に避けて総司令官の間合いに入り込み、雷光弾をありったけ投げつけた。やはり近距離で放たれた攻撃はこちらへ跳ね返る。
雷撃が止んだ一瞬の隙をくぐって、総司令官が動いた。鍛え抜かれた筋肉隆々の腕を俺の顔面へめり込む。鼻の骨が嫌な音を立てた。さらに反対側から拳が飛んでくるのが視界に入る。硬く握られた拳は大気をも味方して凄まじい勢いで迫り来る。
その間わずか数マイクロ秒。じいさんの意識が“防御”から“攻撃”へ振り切れる時。
今だ。
夜空がカッと眩しく光る。大地が割れるような音がした。
総司令官の拳に吹っ飛ばされ、さらにその先で待ち構えていたセルの斧でずたずたにされたらしい俺はやはり一瞬意識がなかった。
小綺麗に修復されるスーツをぱんぱんと意味も無く払いながら、負傷した総司令官へ目を向ける。縦に伸びる傷が特徴的なその男は背を丸めて荒い呼吸を繰り返していた。焼け焦げた軍服と爛れた皮膚が損傷の大きさを物語っている。攻撃の余波を受けたのかセルも思いの外負傷が目立った。緑髪がぼさぼさ乱れている。流石に疲弊したのかすぐさまこちらに飛びかかってはこない。
「あれだけの電流を浴びてまだ生きているのか」
「……そりゃこっちの台詞、じゃな」
「くっくっ……悪いな。誤解しないでほしいが、俺も好きで不死身の力を振りかざしているわけじゃない」
「はーーおっまえいい加減にしろよ! ぜってぇ手加減しただろうが。じゃなきゃあんなんくらってジジイが生きているはずがねェ」
「儂生きてちゃ駄目だった……?」
「くくくっ、俺を買い被りすぎだぞ。そこのじいさんは途中で弾いたのさ」
最初は重力操作系の能力者……と踏んだがそれで雷撃が弾かれるのか疑問が残る。未だに総司令官の力の正体が謎だが、分かったことは自身や味方を強化する“攻撃型”と外敵の攻撃を跳ね返す“防御型”の能力が混在していることだ。ただし効果範囲内でしか作動しないこと、この二つは同時に行えないこと――これが弱点だと思う。武器を持たずに素手で殴り合うのも効果範囲の側面を考慮しているのかも知れない。
「流石に見抜かれたかの」
総司令官は苦笑する。
「自身の強化と雷から身を守ること、同時には行えないようだな。無論、敵が強力であるほど攻撃が跳ね返った時のダメージもでかい。今までは防御に徹していれば勝手に自滅したろうが……不死身の俺と戦ってもじいさんが死ぬだけだ。大人しく負けを認めてくれないかな」
「その割に残念そうじゃな?」
「そう見えるか?」
すると比較的大人しくしていたセルがふーっと荒い息を吐いた。舌舐めずりして斧を振りあげる。
「早く続きを始めようぜ」
「お前、俺の話を聞いていたか? もう無駄だって言っているんだよ」
「ごちゃごちゃうるせェんだよ。ジジイはそこで立ってろ。能力は俺の強化に全振りだ」
「セル!?」
総司令官の言葉など届いてやしない。戦闘に異様な執着を見せる男は勢い良く宙を蹴った。血走った目は爛々と危ない光を放っている。
「くくくっ、くはははっ! 良いなぁお前。最高だよ!」
俺が不死身と知ると腰抜けどもはまるでやる気がなくなる。
心躍る熱い戦いがしたい、強者と戦い続けたい。そんな稚拙な願いを俺はこの手で粉々に砕いてしまった。
というのにこの男は……!
俺の満面の笑みをどう受け取ったのか、セルはふんと鼻を鳴らして不敵に笑った。
「同種といったなぁ。いいぜ、戦闘狂同士死ぬまで殺り続けようじゃねェか!!」
全身の血が騒ぐ。胸が躍る。
「手を抜いてくれるなよ? 全力で俺をぶっ殺しにこい――っ!」
稲光が夜空に裂ける。衝撃波が吹き荒れる。
血と悦楽を求めて狂った怪物は刃を交える。高らかな笑声が白濁と塗り潰されるその時まで。