コメディ・ライト小説(新)

Re: 恋敵になりまして。 ( No.12 )
日時: 2020/09/21 14:06
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

☆ 第四話 ☆

 ――――――「じゃあ、行ってきます」
玄関を出て、門扉を開ける。
 すると、門扉の前に誰かが立っているのが解った。

表情の筋肉が強張るのを感じる。

 スラっとした体形で骨が浮き出た無駄の肉のない身体はまるで白いカラーの花のようで目を奪う。
着けているマスクから見える綺麗なアーモンド形の瞳が瞬いた。 
 「おはよう、月奈ちゃん」
 嬉野翔――――――私と彼は一応、昨日正式な婚約を交わした。

でも。

お互いが笑顔で同意したわけじゃない。強制的だ。

 「………ニュース観た?おれと君の事、大事に取り上げられてる」
君の想い人も知ってると言わんばかりの顔でスマホを見せてくる。
翔のスマホをパシッと手で軽く叩き自分の顔から遠ざける。

 「……知ってる。父様が沢山の記者の前で言ったこと、母様に聞いたから」
通り過ぎようとした時、また腕を掴まれ引き留められる。

 「国会議員の御令嬢が一人で通学何て危ないよ、送ってあげる」
婚約者からの言葉を断れなくて、私は渋面で頷いた。




 「今度の土曜日、何処どこか二人で行かない?」
話を唐突に振られて私は「は?」と声を漏らし、目を丸くして不細工な顔をしてしまう。

 何であんたなんか、と呟くと翔はふっと息を漏らして微笑む。

 「良いじゃん、別に……ていうか良いの?おれに従ってくれないとバラしちゃうかもよ?」

その言葉に私は更に目を見開き、丸くしてしまう。

「話が違うじゃないッ、貴方は私と婚約したら……ッ」
「だからだよ、おれと休日を一日も過ごさなかったら怪しまれちゃうよ?」

 ………それもそうかもしれない。翔の言い分には一理ある。
一日くらい、良いかもしれない。
断る理由も見つからない、なら仕方のないことではないか。

 「……解った」
ギュッと鞄を持つ手に力が入る。
 あーあ、ムカつく。
主導権が握られて、対等な婚約関係じゃなくて、まるで主従関係じゃない。
私は従者でもないのに……。

 「本当に良いの?……やった」

よしっとガッツポーズをとる翔に魅入ってしまう。
出会ったのは昨日。
だけど、彼らしくない子供のような無邪気な笑み。

 とくんっと胸が脈打つ。
「……馬鹿みたい、男子って」
と強がりに呟いてみると翔は横目で微笑を浮かべる。
 「だって、嬉しいんだもん。月奈ちゃんと出掛けられるの」
鼻歌交じりに言う翔を見つめ、私は顔を背ける。
何故か、頬が熱い。

 ――――――「じゃあ、俺、こっちだから。午後も迎えに来るね、学校頑張れ」
とセットしたばかりの髪を撫でると颯爽と踵を返す翔の後ろ姿をわざわざ振り返ってまで見てしまった自分を心の中で殴る。

 ってか、アイツ……遠回りしてまで送ったの……?
変なおせっかい止めてよね、と後で言おうと思う。

 何か、私のせいで学校を遅刻されても困るし……って馬鹿みたい、何で変に心配してんだし。

 私が好きなのは会長でしょーが。

ふんっと声を漏らし、学校に入っていく。


 


 教室を入ると騒めいていた皆が静まる。
 ……何、コレ。
一言も喋らず皆は私を凝視する。

 「……お、おはよう。皆さんっ」
いつもの副会長として微笑みを浮かべ、挨拶する。

 すると、ほっと安心したのか一人の女子生徒が近づいてくる。
 「月奈ちゃん、えっと、婚約したんだって?」
「え?……ええ」
目線を逸らしながら曖昧に頷く。

笑顔で同意したのではなくて強制だし、対等な関係でもない。否定したい気持ちもあるが家の為、と何とか拳を握り締め、我慢する。

 「……相手の人は、どうなの?見た感じ、良さそうだけど」
探るような言葉。

 「副会長は鳴海会長の事が好きだと思ってたのに。憧れのカップルじゃなかったの?」と言われているようで居たたまれなくなる。

……ったく、あの男のせいで何で私が罪悪感を抱かなくちゃいけないのよ。

 相手はどうなの、だって?
 父の顧問弁護士の子供なんだから容姿も知能も運動神経も良いに決まってるでしょ。
それに、今日も送ってくれた人だよ。
 何を言えばいいの、自分の婚約者の。


 言葉に行き詰っていると、大好きな人の声が聞こえた。
 
 ――――「それ以上、聞くのはさ、止めた方が良いと思う。雪科副会長が困っているじゃないか」

目の前に居たのは鳴海君だ。
 私の、会長。
会長が助けに来てくれる。やっぱり、貴方は私の王子様なんだ。

 「か、いちょう……」
 「大丈夫?雪科副会長、顔色が悪いよ」
そう言われてみれば少し、少しだけ足元がふらついて見える。
頭痛もする。

 「保健室に送るよ」
そう言って皆の眼から私を遮るよう、隠しながら教室を二人で出る。

 また、言われるかもしれない。
婚約者がいるのに、二股をかけているとか。
園崎さんに告げ口をされてしまうかもしれない。
 
 今まで感じたことのない不安が襲ってきた。
だけど、もう少し、もうちょっとだけ。
 会長に甘えてもいいだろうか。
会長の肩に身を委ねてみる。
 
 温かくて、優しい体温が私を覆ってくれていた。
たとえ、離れることになっても、会長は________最後は私のことを選んでくれるに違いないから。
 心配を煽ろうとわざと、具合の悪そうに目を伏せてみた。