コメディ・ライト小説(新)
- Re: 恋敵になりまして。 ( No.14 )
- 日時: 2020/09/24 09:32
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)
☆ 第五話 ☆
「でも君が、体調を崩すなんて驚いたよ」
隣に歩く会長が苦笑交じりに話す。
会長の肩に触れた顔の片頬と会長の左手と向かい合っている右手だけが、何故か、熱い。
ひゃあ……っ会長が、こ、こんなにも近い!!!!!
今日が命日じゃないのか、と私は一人で舞い上がってしまう。
今まで自分の世界に入り込んで、会長の事をほったらかしにしていたことに気が付いた私は、取りあえず礼を言う。
「えと、……あの、ありがとうございます……あの時、助けてくれて」
髪の毛を耳に掛ける。
その言葉に会長はかぶりを優しくゆっくりと振る。
「ううん。僕だって訊かれたら嫌だと思ったから、つい、割り込んじゃったんだ」
逆に迷惑だったでしょ、と俯いている私の顔を覗き込んでくる。
いや、違うよ。
貴方の事がもっと好きになった。
なぁんて、面と向かって言う事も出来ず、恥ずかしさとトキメキを噛み締めるよう下唇を噛む。
――――――――――「……か、会長は、しゅ、す……すッ好きな人が、いるんです、か……?」
あぁあああああああぁあッッしッ、しまったッッ!!!!!!
心の中で思っていたことが口に出ちゃったよぉぉお。
失敗したと赤面した顔を両手で覆う。
「……えと、……ぅ……あの、誰にも、言わない……で、ね……」
躊躇いがちにそっぽを向く。
何だか女の子の会話みたいだな。
“月奈ちゃんだから教えるんだよ?”って言われているみたいで我知らずにやけてしまう。口角が不自然に上がる。
会長に物凄く信頼されているってことじゃん……っ嬉しい……!
そして、会長は怯みながらも耳に、囁いてくる。
耳が擽ったい。微かに唇が当たる。
ヒィイイイイ………ッ!!
――――――――「……………ぃ、る……よ」
小さくか細い声。
え―――?
両手を耳に当てて、後退りをしてしまう。
自分で聞いたはずなのに、ショックが大きくて。
だってさ、私に言ったってことは私じゃないから、言えたんじゃないって思っちゃって。
少女漫画でもこういう場面あるけど大体は好きな子じゃないから言えるんでしょ?
その仮定が正しかったら会長と親しくしてる女子って園崎さんくらいしかいないし……。
会長の顔を凝視してしまう。
さらさらの黒髪が彼の手でくしゃと歪められていて、眼鏡の奥の瞳は、恥ずかしそうに左右に何度も揺れている。
鼻先から耳まで真っ赤に染まっている。
「………え、と………だ、誰を、ですか……?」
まさか、本当に、園崎さんを好きなの?
会長の目が更に見開く。
身体がよろけてしりもちをつきそうになった。
慌てて駆け寄ってくれた会長に支えられ、私は涙を流してしまう。
「え。えっと、何で泣いて……ッ!!」
「眼にゴミが入ったんです。授業も始まりますから、戻って下さい」
返事を聞かずに、私は保健室へ走っていく。
何が何だか分からなくなってしまった。
どうして、どうして……園崎さんなんですか。
何が良いんですか。
会長への気持ちが流れ込んで来る。
くそぉ………出会った時からずっと好きなのは、私なのに――――――――
☆
「何々、失恋?雪科ちゃんが泣いて保健室へ来るなんて初めてじゃないか」
興味津々の顔で私に近づいてくる保健教諭を睨み付ける。
わざとらしい白衣に口に入れた苺味の飴の匂い。
まともにセットもされていない髪に、机には煙草を吸った形跡。
「煙草臭いから近づかないで下さい」
涙をすべて拭いきったはずなのに、どうして判るのか疑問だったが私は鏡を見て目を丸くしてしまう。
目頭が赤く腫れていた。
馬鹿みたい、これで会長にゴミが入っただけという言い訳が通じるわけがない。
「相変わらず雪科はキツいなぁ」
「話しかけないで、今は一人になりたいんです。ベッド借ります」
これまた返事を聞かず、私はカーテンを広げてふかふかのベッドに横たわる。
硬いけど柔らかいビーズの枕が顔にフィットして気持ちが良い。
ゆっくりと瞼を伏せていく。
今は本当に、一人になりたい。
――――――そんな時、ポケットにしまってあるスマホの着信音が鳴る。
こんな時間に誰だと思えば最悪を引き起こすことになる元凶からだった。
瞼を上げ、ぼんやりとしていた視界がやがてくっきりとした輪郭を取り戻していく。
「……何……ほんと」
スマホの電源を付けてメッセージの内容を見てみれば、清々しい程の青空とにこにこと笑ってパンを食べる翔が映っていた。
面白くもないのに、私は微笑を浮かべていた。
自撮りとかするんだ………意外だし、なんか変な感じ。
そういえば、騒がしくなり始めたかと思ったらもう、昼食か。
皆、購買に行ったりご飯食べるところに移動したりしてるからか……。
直後、お腹の虫が鳴る。
「お腹空いた………午後の授業もやる気でないけど……やるしかないよね……」
寝癖のついた髪の毛を手櫛である程度、梳かしたら私はベッドから立ち上がって背伸びをする。
ボキボキボキと凄まじい音がして目を丸くしてしまう。一度、ベッドに座り、背中を摩ってみる。
______『大丈夫?』
『朔良クンはあーしといること望んでんだし』______
不意に、会長と園崎さんの顔が脳裏に過ぎる。
園崎さんが高笑いして私を馬鹿にする図も自然と想像してしまう。
あーあ、私、馬鹿みたい。
起こってもないことを想像して会長の好きな人は園崎さんだってまだ、決まった訳じゃないのに。
好きな相手が出来ても、その二人が結婚する訳じゃないし……付き合ったって言われたってさ、だって、高校生活もあと一年あるじゃん??
人の気持ちは簡単に変わるって言うくらいだし。
何とかなるでしょ、奪うことはいくらだって出来る。
ふぅっと深呼吸をし、頬を叩く。
ポジティブな思考に、一度、切り替えよう。
――――――――『……午後も迎えに来るね、学校頑張れ』
………別に、期待してるわけじゃないし!!
何だか変な気持ちになって自分自身で頭を撫でてしまっていた自分を心の中で殴り倒す。
今決めたばっかじゃん、ていうか私が嫌な気持ちになったのもアイツのせいだし。
午後、迎えに来たら愚痴って怒鳴ってやる。
ふんッと声を漏らした私は異様に話し掛けてくる保健教諭を無視してお昼を食べる為に、午後の授業を受けるために出ていった。