コメディ・ライト小説(新)

Re: 恋敵になりまして。 ( No.16 )
日時: 2020/09/24 09:35
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

☆ 第六話 ☆

 廊下をゆっくり、歩いていると足音が前方から聞こえてくる。パッと俯いていた顔を上げればそこには、ツインテールを揺らした少女が居た。

 「……頭痛は大丈夫ですか、お嬢様」

校則違反にならないぐらいに丁度良く着崩した制服に、染めてるって思われがちな彼女の地毛である桃色っぽい茶髪。
スラリと高い背はまるでモデルのようだ。

 「別に。もうおさまったから」

 そうですか、と安堵した顔になる彼女は花依はなよりみお。住む世界が違うように思われるが一応、一緒に育った信頼できる従者だ。
 
 …………嗚呼、そうだ。会長はどうしたのだろうか。
あの時、傷付けてしまった、その事が気に掛かる。

 「鳴海、会長は……?」

すると、澪は訝し気な顔になり、声を潜める。

「彼が午前から落ち込んでいるのはお嬢様が原因ですか?帰って来た時は酷く思い詰めたような苦しんでいる顔でした」

 本当は人前に立つのがあまり得意じゃない私だけが知っているあの顔が思い出される。
あんな、顔をさせてしまっているのか。
 
 きゅぅうっと縄で縛られるような痛みが胸に走って、胸ぐらを掴む。

「そ、そう……」
何だかバツが悪くなって、顔を背けてしまう。すると、澪は息を呑んでから、肩に手を乗せて摩ってきた。

 「彼に、会ってきた方が良いと思います。余程のことがあってずっと、落ち込んでいるみたいですから」

優しく微笑んで、私の顔を見つめてくる澪の肩に乗せられた手を握る。澪も握り返してくる。


 ―――――「私、行ってくる……っ」


そう言って、澪は頷いてからてのひらを私に突き出してくる。
 

 ぱちんっ!


澪とハイタッチを交わした私は廊下を走ってはいけないと知っていても走っていた。



 _________いつもの、中庭。花壇横ベンチ。
チューリップの赤、ピンク、黄色、オレンジ、白、紫、色とりどりの色があって目を奪われるが、かぶりを振って意識を取り直す。

 あはは、と笑い声が聞こえてきて、息を呑む。この小煩こうるさく私の神経を逆なでするこの、声は______


 「朔良クンってば、笑ってひどぉいッ!!」

 また、園崎さん、だ。
ギュッと、ギュッと、ただ黙って声を押し殺して木陰から見つめる。
 

 ――――――――『……………ぃ、る……よ』

痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……!!!
 手も、足も、心も、何もかもが針に刺されてるようで痛くて堪らない。

 「………、……ぁ」

下睫毛したまつげからこぼれた涙が一筋、一筋だけ私の頬を伝う。

 止めよう、止めよう?
こんな、こんなに苦しんで泣くのは……強きに行こう。
真っ向勝負だ、正々堂々と奪いに行こう。

 涙を拳で荒々しく拭って、はあっ、と深呼吸をする。強く強く瞑った眼をカッと開く。

 _________こつ、こつ____________

 
 「あの……鳴海、会長……お話が、あるんです……っ!」

邪魔するなって言う二人の世界を私の一言でぶち壊してやった。

 会長はポカンとした顔をし、園崎さんは私だけを見つめて、睨み付けてくる。

 でも、そんなの構わない。
私の瞳に見えているのは会長だけだから。
 貴方だけなんだ、園崎さんだけじゃない、私はもっと前から貴方だけを見ていた。
 
 「てめぇ……っ」
怒りの呻きが聞こえる。
 だけど、知らない、見えない、聞こえない振りをし、無視する。

 「………、解った。話を聞くから、園崎さん、ごめんね?」

席を外してくれるかな、と優しく訊く会長に、流石の園崎さんも彼の前では恋する乙女なようで渋々、受け入れ、頷く。

 すれ違いに園崎さんは立ち止まって、耳に囁いてくる。


 ―――――「ホント、雪科ってあーし達のお邪魔虫だね」


そう言われ、左耳を思わず、塞いだ。ふんっと通り去っていく園崎さんの後ろ姿を横目で見た。

 お、じゃま、むし……か。
そうか、そうかもしれないね。
両想いの園崎さんや会長から見たら“お邪魔虫”だろう。だからあんな顔をしたんだ、園崎さんだけじゃなくて会長も。
 
 耳に、いくら経っても残る。

気持ち悪い。
恐い。
苦しい。
もう、嫌だ。

パニックになる自分の心を、深呼吸をして、落ち着かせた。