コメディ・ライト小説(新)
- 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.0 )
- 日時: 2020/09/24 17:41
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)
全部>>0-
- Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.1 )
- 日時: 2020/03/29 15:10
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
≪舞台・用語≫
メゾン・ド・セグレート
本作の舞台であり、主要人物たちの住むマンション。通称「秘密館(ひみつかん)」。最強のセキュリティーを誇る最高級マンション。
その実態は特別な能力を持つ人間が組織・セグレートに能力を持っていることを一般市民にバレない為。自分の身を守る訓練もできる。
後に大人になると組織・セグレートに就職することになる。
表向きは、高額の家賃を払い、能力・家柄・経歴を認められた人間だけが住める場所とされている。
得体や素性の知れない人物が多いことから、近隣では「変人揃い」「お化け屋敷」と気味悪く思っている人間も多いが、
実際に能力持ちの関係者が多いので、あながち間違いでもない。
能力持ち
藤花の父がの封印を解いたことから始まった。能力の化身達は宿主を選び、選ばれた家系は繫栄すると言われている。
宿主にしゃべりかけたり乗り移ったりもするためそのまま取り込められてしまう恐れもある。
組織・セグレート
国家を狙う諸外国など、全ての災厄から国家を守るために立ち上がったのが「組織・セグレート」
と呼ばれる不思議な力を持つ組織である。
組織に入るにはセグレート能力の化身との契約が必要。
なお、市街の巡回は日替わり交代で行っている。
≪秘密館住人≫
日高 藤花
本作の主人公。セグレートの能力 普通の人が聞こえない音を聞く、あらゆることを聞き分ける。その代償に記憶を失ってしまう。
7号室の入居人。組織・セグレートの設立者でもありトップの地位にも君臨するボスの一人娘。
一部の人からはお嬢と呼ばれている。
紫水晶色の瞳をし長い黒髪をリボンで二つに高く結った美少女だが子供のころの記憶は能力を幼い頃使い失くしてしまったがため
親にも人見知りをし心を閉ざしてしまう。
旧家の令嬢だが有力な家柄ゆえの不遇や下心の透けた庇護を受け続け、個人としての価値の薄さに嫌気が差し、
人見知りを重ね、捻くれてしまい口を開けば傷つけてしまうので無口になった。
無意識にやってしまうもので本人にも制御できず、根は律儀かつ真面目な性格であるため、
悪態をついた後は性分から自己嫌悪で落ち込む。
高校入学を期に環境を変えて悪癖を矯正するため、家を出て館で一人暮らしを始めた。
九条 総司
7号室・藤花の従兄でもあり元婚約者。セグレートの能力 相手を眠らす能力を持つ。
6号室の入居人。青っぽい黒髪で瞳は青緑色。
読書好きで知的でクール。ときには厳しい理論派。藤花の記憶がない事を自分のせいだと思っており、
などと自分と藤花の関係については何も言わない。
穂高とは仲が悪く『おこちゃま』や『チビ』と言われたことを気にしている。
立ち振る舞いはスマートだが、本当はピュアで女の子や恋には鈍い。
実家は京都にあり、医療機器の研究などを行っている。
藤花の母・菖蒲を敬愛している。
藤谷 政宗
5号室の入居人。こげ茶色の髪を無造作におろした少し小麦色肌の青年。瞳の色は赤紫。
セグレートの能力 動きを止めることが出来る。
実家が家と近く、子供の頃から周囲との衝突が絶えなかった藤花と相手の仲裁をしばしば行っており、
自称「藤花の兄貴」。
おおらかで面倒見がよく、お兄ちゃん的立場になりやすい。
性格や嗜好は至ってノーマルであり、正反対の穂高からは若干引かれている。
普段は適当でだらしが無く脱力系全開だが、
周りのことをきちんと見ることのできる人柄。
見た目は大人びており、当初は高校生であることも忘れ去られていた。
異性からは割とモテるが、必ず相手から振られるとのこと。
北小路 紫
4号室の入居人。濃い茶髪色の髪は前分けに下ろしている、瞳の色は深みのある深海色。
セグレートの能力 ほかのセグレート能力を中和できる。
平常時はストイックかつクールな人物だが、男がジャガイモに見えるとのこと。
成清曰く「美人なのに惜しい」。
端麗な容姿を持つが、自身を着飾ることには興味がなく、
また自分が見られているという意識もない。
大抵のことは何でもできるが食事に喜びを見出すタイプではなく、
味に頓着しないため料理だけは壊滅的。
男性への扱いは適当かつドライ。特に穂高との仲は(一方的に)険悪。
日野西 穂高
3号室の入居人。黒髪を持ち、瞳の色は綺麗な金。
セグレートの能力 言ったことを実現できる。
総司のライバルで、藤花の今の婚約者。 藤花から手紙を受けるが、
汚い字なのでなかなか返事が送ることができず、
その間に藤花と徐々に仲良くなっていく彼に劣等感を抱いていた。
筆跡は後に通信講座で練習して多少まともな字になった。寝起きからテンションが高い。
観察眼が鋭く、時折他人の内心や性格に対して非常に核心的な発言をする。
誰の前でも尊大に振る舞うが、ちょっとした優しさも見せる。
特に瑠璃に対しては、他とは違い家族愛に近いようなかわいがり方をしている。
小倉 瑠璃
2号室の入居人。
ふわふわした金髪の髪を三つ編みにした女の子。瞳の色は瑠璃色。
セグレートの能力 重いものを持ち上げる力。
名前の由来はルリを瑠璃とも書くことから。
人間時の可憐な外見とはうって変わり、変化姿はである。
授業中に早弁するなど、食べることが大好きでいつも何かしら食している。
食べ物をおいしく作る・楽しく食べることにも深いこだわりがあり、
親しいものにはよくお裾分けしている。
盛と幼馴染で仲が良く、恋人未満ではあるが特別な感情を抱いている。
学校では藤花・盛と同じクラスで、彼女を中心として3人で行動を供にしている。
水無瀬 盛
1号室の入居人。より深みを持った茶色の髪色で瞳は抹茶色。
セグレートの能力 何にでも姿を変えることができる。
現時点では小さいものにしか変化できず迫力がなく可愛い。
自身はこの姿を嫌っており、藤花に撫でられそうになったときには怒りを露わにしていた。
何事にも本気で、少々的外れだが他人を思いやれる優しい人柄。
自称「ヒーロー」と言うが、その意味は瑠璃のヒーロー、瑠璃はお姫様だと思っている。
幼馴染である瑠璃に想いを寄せており、彼女のことになると熱くなりすぎて、他人とよく衝突する。
瑠璃が力を使わなくてもいいよう強くなろうとしている。
その様子を見たから、前世でも他人のために行動していたことが窺える。
幼少期には穂高・成清の幼馴染ツインズにいじられ弄ばれていた。
猫月成清
組織ナンバー2、8号室の入居人。
赤茶色の髪で瞳の色は銀、謎めいた男性。
いつも猫耳付きのパーカーを着ている。政治家の家系で外務大臣を祖父に持つ。
明るく掴みどころのない性格で飄々としているが、セグレートの能力上勘が鋭く、一個人としての洞察力も高い。
そのため、初対面から藤花の内面を言い当てており、
館の住人達に対しておどけた調子ながら何かと世話を焼いている。
周囲の人物の過去や未来などに思いのままにどこへでも行ける能力、「とぶ」力を持つ。
それ故に子供の頃は他人の醜い部分ばかりを見て他人を評価していたが、
穂高に「物事は多面的だ。お前は視野が狭い上に底意しか見てないからよく見ろ。」言われて考えを改める。
右目を閉じるとより強力に「とぶ」ようになるが、その分強い負担がかかる。
どこでも自由自在にとべるわけではなく、とべやすさには様々な要素が絡み合っている。
翔平に懐いているが軽くあしらわれている。穂高と仲が良く、共謀して騒ぐことも多い。
菖蒲
長い黒髪をハーフアップにしておろしている。瞳の色は髪の色と同じで漆黒。
姐さんと呼ばれている。
セグレートの能力 世界のすべてを見通すことができる能力、人々の未来を予知する。
藤花の母親、占い師をしている。総司、藤花の良き理解者。
総司と藤花の婚約を破棄した張本人。その理由は――?
貴和
繊細な色素の薄い髪をオールバックにしている。瞳は紫水晶色。
セグレートの能力 悪い記憶や消したい記憶、その人物に対する害のあるものを消す。
藤花の父親、組織・セグレートの設立者でもありトップの地位にも君臨している。
娘に対しては厳しく一人の部下として接している。本当は甘く可愛がりたい気持ちはあるが……。
- Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.2 )
- 日時: 2020/01/08 16:27
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
第1章第1話;「メゾン・ド・セグレート」 【君と私。】
『秘密館って知ってるか?あそこに新しい入居者だってさ。』
『どこぞの旧家のお嬢様らしいよ。』
『あぁ、あの大財閥日高家だろ?そーとー性格がきついんだって。』
――無駄に虚勢を張って悪態をつく、これが私の欠点。
「あそこにいる子だろ?ルックスはいいのにな。」
――また噂話をしている、私の事何も知らない癖に。
「おー、藤花。着いてたのか、言えっての。」
聞き覚えのある声に私は、ハッとして急いで顔を上げる。
「なんだ、藤谷か。久しぶりと言っておいたほうがいいかな、まぁこれから嫌でも顔を合わせるけど。」
また自分の世界にトリップしてたなと藤谷が言う。なんでわかるんだろう、藤谷は。
藤谷政宗。実家が近いだけの間柄の奴でやけに世話好き、見かけによらず。
「今、俺の事言ってただろ?」
「……知ったような口を聞かないで。」
――ここは通称『秘密館』
正式名はメゾン・ド・セグレート。
最強のセキュリティーを誇る最高級マンションで
高額の家賃を払い、能力・家柄・経歴を認められた人間だけが住める場所。
というのが表向き。
別に私自身はこのマンションに特別にこだわってはいないし入りたくて入った訳じゃない。
何であれ、私は一人でいると決めた。
そのために家を出た。
チン。
「俺、5号室だから。手伝ってほしい時は声かけろよ?」
「わざわざご足労どうもありがとうございます。」
7号室……ここだよね。
ガチャ。
隣?誰だろう…?
「「!」」
桜が舞った、とても綺麗で――。
――見覚えがある顔で思い出そうとすると頭に激痛が走る。
男の子…隣の部屋の入居人?
「こ、こんにちは。隣に越してきた日高 藤花です。」
男の子はびっくりしたように、目を見開くと目線をそらして言う。
「……知っている、僕は九条 総司。隣に住んでいる。以上。」
そういうと私の傍を通り過ぎていく。
何なの?あの人……??
バサッ。
うん?誰かの本が――。
この本の持ち主?女の人、スタイルいい…。
「これを落としましたか?」
固まった表情で私を見る。
「…かっ」
か?何だろう…。
「可愛~~いっ!貴方が日高ちゃんね?あたしは北小路 紫よろしくねっ!」
な、何なんだこの人……!?
引っ越し初日、近所の人の噂話はかなり本当に近いことが分かった。
「ここの入居人はずいぶんと過激なんだね、藤谷。」
―—ラウンジ。
「藤花ちゃん、ポタージュいる?」
「……逃げたんじゃないか?」
私は逃げて無視したのに…ついてくるから…。
しかも。
こんなしつこくて、邪見扱いがしにくい人にあったから―。
私は、ぎりぎりっと歯を食いしばる。
でも、それじゃここに来た意味がないじゃないか。
「頼むから…自分の部屋に戻って。」
「そんな寂しいこと言わないでよ。」
「いいじゃないか、友達第一号ができて。お兄ちゃんうれしいよ。」
…こいつら。
でも温かく私を迎えてくれる藤谷達に感謝している、
だなんて口が裂けても言わないと私は心に決めた――。
- Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.3 )
- 日時: 2019/12/15 12:14
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
第1章第2話;「メゾン・ド・セグレート」 【昔から歩き出した今日。】
アハハ、キャハハ。
『—ありがとうございます!』
はっ!
夢…?
時計を見ると朝の9時を過ぎていた—。
春休みだから油断した…。食材の買い出しもしていないしスーパーの場所も調べなきゃ…。
食事はラウンジでとりあえず摂ろうかな。
昨日は本当にいろんなことがあったな…。変人に絡まれ、隣の人とは気まずい感じだし—。
はぁ…。
ラウンジ――。
私は、じぃ……とメニュー表を見つめる。
「フルーツサンド、サラダ、ヨーグルト。飲み物はコーヒーにしようか、スムージーにしようか。」
うーん…。決まらない。
パタン…。
ラウンジのドアが開き、閉まる音が響く。
『フルーツサンドは甘いからコーヒーにしたら?』
フルーツサンド、サラダ、ヨーグルトとコーヒー…。お膳に載せられた朝食を順に見てから
隣に立ってむしゃむしゃとスナック菓子を食べている女の子に目を向けると
ボーっとこちらを見ていたが気が付いたようで閉じていた口を開く。
「…おはようございます。誰?」
「?おはようございます、そしてさっきはありがとうございます…。君が誰だ。」
ふわふわした金髪の髪を緩く三つ編みにした女の子は困ったように首を傾げこちらを見て言う。
「私…小倉 瑠璃。2号室に住んでいます。」
「先日、7号室に入居した日高 藤花です。」
小倉さんは上を見上げ、少し考えてから言う。
「…よろしく?うかちゃん。」
う、うかちゃんっ!!?なん、何その呼び名!?
「よ、よろしくとでも言っておこう、長い付き合いにもなりそうだし…。よろしくお願いします。」
私は、平常心を装い彼女に言う。
平常心を装っている私が挨拶をし終えると、彼女はニコッと笑い同じテーブルに座る。
なんかくすぐたったい…。うかちゃんか――。
「おー、藤花。ここにいたか、ラウンジの場所分からないかと思ってお前の部屋に行ったんだぞ。」
こいつと一緒に。と言い後ろを指さす。
ゲッ!
「あー、男たちがジャガイモに見える…気持ちわる。あ!!藤花ちゃ~ん。」
北小路さんはそして、瑠璃ちゃんもいるの?!運がいいわぁ~と叫ぶ。
「おっ小倉じゃん。何?友達第二号?やだぁ~お兄ちゃん嬉し~。」
あぁ、最悪だ…。
藤谷に誰が、お兄ちゃんだ。そう言ってやりたい。
そう思って唇を噛み締める。
パタン。
「……フルーツサンド、サラダ、ヨーグルトとコーヒー。砂糖多めで。」
あ、隣の…。
相手も気づいたようで会釈する。
「あ、おはよ~。総司。」
「いたのね、チビじゃが。」
“チビじゃが”?
「何回も言っているが、ぼ、僕をチビと呼ぶな!!大体、僕は毎日牛乳を飲んでいるし、せ、先月なんか1.5センチも伸びんだっ!!」
そうなんだ…。意外と身長の事気にしているんだ――。
「ぷっ」
「ぎゃあはは!!ひぃひぃひぃ!!はははははっ!!!」
笑?
北小路さんと藤谷に笑われている本人は、真っ赤になって膨れている。
「すんごい、総司って素直だよね~クククっ。」
「ちょっと、藤谷あんたまだ笑ってんの?失礼よ~フフフっ。」
素直か――。
私には、無縁の言葉だなぁ…。
アハハ、キャハハ。
『—ありがとうございます!』
っ…ううん。苦しい、痛い。
パチっ!
はぁ――。今、何時だろう?
時計を見るとまだ、夜の3時だった。
不安定な時、決まって同じ夢を見る。
いつまでも昔の事を……。
いや、これほど私自身に根を張っているという事になる。
これは、根本から解決していかなきゃ…。
パタン。
思わずラウンジに来てしまったけども、まぁ誰もいないよね。
飲み物でも飲もう――。
パタン。
誰かラウンジに来た?
―!隣の人。
「君も寝付けなかったのか?僕もだ。」
「ハーブティーでもいい?」
用意してくれるの?
「ありがとうございます。いただきます。」
美味しい……。
「落ち着いたか?ハーブティーの一種・ラベンダーは鎮静効果がある。」
確かに落ち着いた……。
この人は、自分が寝付けなかったのに人の事を気にする素直で優しい人なんだな……。
「……君は私を知っていると言っていたけど嫌にならないの?」
きょとんとした顔でこちらを見る。
勿論、最初はこんな喋り方もしていないし性格だったわけでもない。
でも。
「私自身は何でもない、私についている家柄の方が価値があって本体のようなものだから。」
日高家――。古くから栄え続けている名家。お手伝いさんがいっぱいいて、世話係もいる。
それが私の家で、学校では家柄などのせいで散々いじめられた。
『金持ちだけじゃんっ!!』
『調子乗んなよっ!!』
そんな私の事を大人たちは必ず熱心に護ってくれた。
『大丈夫か、かわいそうに。』
「大丈夫です…。」
『心配するな、先生がついているよ。』
『すみません、わざわざ…。』
『いえいえ、いいんです。それが担任の務めですから…。』
『藤花ちゃんにこんな熱心な先生がいるなんて…!先生のお名前、覚えておきますね。』
『ありがとうございますっ!』
私は、ただ寂しかった。
日高という名前だけでいじめられることも、大人に守られることも。
その大人さえ私を見ているんじゃなくて、家柄を見ていることも。
私自身は、誰の中でも家柄だけだった。
「僕は、」
ハッ!私は何を…!
「僕は、日高さんの家柄ではなく君自身を昔から見ている。」
昔から――?会ったことあるっけ?
「あ、ちがっ!君の事は母親から聞いていたんだ。」
—そう狭くもないだろう、僕たちのコミュニティーはと言い残しラウンジを出ていく。
彼は良い人なんだろう。
ありがたかった、こんな温かい気持ちにしてくれた。
でも、浮かれすぎては駄目だから。
何のためにここに来たのかを忘れちゃ駄目だから。
彼にとっては隣の入居人が寂しそうにしていたから慰めただけであって、
その相手が偶然に私で。
そしてそれは私がこういう家柄でなければ成り得なかったこと。
勝手に浮かれて、勝手に傷ついて、同じことの繰り返しだから――。
パッ。
暗い――。停電?
ザァーッゴロゴロッ!
窓を見ると激しく雨が降っていた。
雷雨か、急だな――。
さてと、いつまでもここに居るわけでもないし部屋に戻ってまた寝よう。
ガチャ、ガチャ。
?鍵なんてないのに開かない…。
ん?待って、私の中で状況が把握が出来ていない……。
……まず、整理しよう。
●雷雨。
●自動ドア。
――まさか、閉じ込められた……!!?
そんな、ど、どうしよう――。
夜中=誰も起きていないしかも誰の部屋もない1階奥のラウンジ。
終わった—。
助けなんて来ない、雷雨が止んで停電が直って灯りがつくか、
朝まで待ってみんなが気付いて助けてくれるかのどっちかだな……。
……でもこの雨と雷だ、止む可能性は低い――。
……何時間ここに居るんだろう。
4月上旬だというのに寒い……。
雷雨は止まないし太陽ものぼってない。
「……。」
誰か来てくれないかな?
――コホ、コホッ。
寒い、暗い。冷たい。
「だ、誰か、お母さ、ま。」
手を伸ばすと誰かが握ってくれる。
温かい……。誰だろう?
「藤花様、大丈夫ですか?」
――違う、貴方じゃない。
「――お母さんは?」
そう、聞くと困ったように眉を曲げて言う。
「そ、組織の方に――。」
…寂しい。どうして?
――どうして?涙が溢れてくるんだろう。
「……っ!!」
ガチャ、ガタン!!バンッ!!!
誰かがこっちに来る。誰――?
「――日高、さん。無事で良かった。いくら呼んでも部屋から声が聞こえなかったから。……って!?」
息を切らして助けに来てくれた九条君は泣いている私が視界に入ってびっくりする。
「本当に日高さん、ごめん。もっと早くにここにいるって気づけば、あの時一人で帰らなければっ!ごめん、ごめん」
九条君は申し訳なさそうに何回もごめんと繰り返す。
「もう、こんなことにならないようにする。日高さんの事護るから。」
――護る?
「……そんなのいらない。」
ここには、一人でいるために来た。
なのに、そんなの受け入れたら駄目になる。
「僕が何の為に今の言葉を言ったと思う?」
何の為?
「ただ日高さんを護りたいと思ったからだ。そしてそれは――。」
九条君は、続けて言う。
「日高さんが名家の令嬢であろうとなかろうと、どこの誰であろうと関係ないという事だ。」
――ずっと聞きたかった言葉を言ってくれる人がこんなにも近くにいる。
「僕に君を守らせてくれないか?」
こんな、こんな事を言われたら――。
「……知らない。好きにして、どうせいくら言ったって君は聞いてくれないだから。」
「こんな僕でも、本当に傍で日高さんの事守ってもいいのか?」
信じられないように目を見開いて言う。
「私が決めることじゃないでしょ。」
彼は微かに涙を流してじっとこちらを見る。
「どんな君でも好きなところで好きなように自由に生きればいいでしょ。」
そう言うと彼は嬉しそうに微笑む。
「ありがとう、日高さん。不束者だがよろしくお願いする。」
朝――。
朝起きると、九条君がいた。
「おは、おはようございます……。」
私は緊張のあまり、噛んでしまうとそれを見て、聞いた九条君はクスッと微笑み言う。
「今日は野菜ときのこのコンソメのリゾット。」
……リゾット。
「良かったな、リゾット好きなんだろう?」
恥ずかしくなり、下を向く。そして、私は横目で九条君を見ながら思う。
九条君と出会って1週間しか経っていないのによく人の事を見ている……。
パタン。
ラウンジに入ると藤谷たちが朝ごはんを食べていた。
ここで昨日……。
「おっ、藤花おはよう。って総司も?」
意外な組み合わせと呟いた。すると隣に居た小倉さんも頷く。
「しっかしー昨日はビビったなー。」
「……雷雨。」
小倉さんと藤谷はブルっと思い出すかのように震える。
「僕にとっては認められて記念の日になったが。」
「――意外と君は仰々しいな。」
「?簡単に前言撤回なんてしないはずだ。だって日高さんは律儀で正義感が強いから。」
と満面の笑顔で私を見る。……まさか。
「九条君、君……。言質をとった……!?」
「何の事?」
彼はとぼけて、朝食を取りに行く。
この先、何度も思い出すことになる今日は、
長い長い時間の始まりの時でした―。
- Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.4 )
- 日時: 2019/12/15 12:15
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
第1章第3話;「メゾン・ド・セグレート」 【携帯。】
「「「……。」」」
どうしてこうなった?
およそ2時間前――。
今日は、携帯を買いに行って、食器と家具を選びに行こう。
「よぉ~藤花。どこ行くの?」
「……買い物だけど。」
「俺たちもついてっていい?」
こいつもと後ろにいる九条君を指す。九条君は気まずそうに頭を下げる。
なんで僕もついていっていいのか?とブツブツ言っているが藤谷に頭を撫でられ真っ赤になって子供扱いしたな!!と言っている。
九条君って意外とあざとい部分の方が多いと思ってたけど、身長が絡むと単純になるよね。
なんかおかしいなぁ、これが世にも言うギャップ萌え……?
携帯、種類多い……。
「機種はこの機種がおすすめだ。」
と九条君が持ってきた機種は使いやすそうだった。
「……選んでくれてありがとう。」
「あぁ。」
家具も食器も買えたし帰ろうかな。
「あ~藤花もう帰るの?ちょっと待って、聞くから。」
何を?誰に?
「――うーん、うい。もういいって帰ろう。」
「だな。」
帰るのに何があるのかな、なんてずっと考えてた。
そうしてたら、あっという間に秘密館に着いていた。中に入ろうとしたら…。
「あー、待って。総司、藤花。ケータイ買ったんだろ?交換しようぜ。」
交換?みんなと?えっと、どうやってやるんだっけ。
「こうするとできるんだ。」
素早い手つきで私の携帯を操作する。え?教えてくれた…?
「僕と同じ。」
そう言って、自分の携帯を見せてくる。
ピロンっ!!
「これで、完了だ。」
▶登録された人のお名前を教えて下さい。
「総司。俺の事、お兄ちゃんって登録して?」
「え、嫌だ。」
→九条君。
→藤谷。
▶これでいいですか。
「なんて登録した?お兄ちゃん、妹って登録したけど?」
だから誰がお兄ちゃんだって?
と思いイラっときたから教えてやらなかった。
パタン。
「藤花ちゃん!」
パン!!
何かが弾ける音がした。頭に…。
触ってみたらビニールを細く切った色のついたものが頭に乗っかっていた。
クラッカー?
周りを見渡してみると――。
『藤花ちゃん、総司。歓迎会!!』
と書いてあった。
歓迎会――。
「ありがとう。」
その言葉を言った瞬間、ジーンと目頭が熱くなって思わず顔を手で隠してしまう。
藤谷がポカ—ンしていたが嬉しそうに赤くなって喋り始めた。
「…っ。藤花が素直になった!!」
藤谷がきゃー!と叫ぶと北小路さんがうるさい!と叱る。
しかも、うるさいと叱っている北小路さんも赤くなって私に微笑みかける。
なんか、恥ずかしい……。
そう思って後ろを向いてもう一回みんなを見ると、心が温かくなった。
暖かいな――ここは。
- Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.5 )
- 日時: 2019/12/15 12:15
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
第1章第4話;「メゾン・ド・セグレート」 【初めて。】
このマンションに入居してから約2週間がたった、今――。
「学校に行くのか?」
「……あぁ、うん。」
クラスの前で私たちは話している。
通りかかった人たちは迷惑そうに何をしているのだろうと見てくる。
あぁ、視線がイタイ。
「あの、袖を掴んでいるその手を離してくれないかな……!?」
私がそういうと九条君ははっとした顔になって――。
「!―ごめん。離す、じゃあ自己紹介頑張って。」
なんかものすごく罪悪感がある。
後ろを見ると寂しそうに、自分のクラスに行く九条君が見える。
そんなこと気にしてやれない、今日のためにたくさん練習をしたんだ。
「日高さん、入って――。」
クラスのみんなが私が入るのと同時にみんな見てくる――。
緊張する、手汗が……!
「苗字は日に高いと書いて日高。名前は藤に花と書いて藤花。よろしくお願いします。」
……初めて練習通りに言えたっ!どうかな、みんなは……!?
シーン。
えっ!……もしかして失敗した?
「み、みんな、緊張しているのよ。さっ小倉さんの席の隣に座って?」
先生は焦ったように私に呼び掛ける。
はぁ…。また、失敗かどうしてなんだろう?
「小倉さん、日高さんの事よろしくね。」
“小倉さん”。
知っている人が隣だと、なんか安心する……。
「よろしく。」
私がそういうと先生の話を聞いていなかったらしく、
驚いた顔をしてから、状況を理解したようでにこっと私に笑いかけて言う。
「……うかちゃん、よろしくね。」
小倉さん、また食べ物を食べてる……。いいのか?
先生に目で訴えかけても気づかない。
注意だって、できるのにしていないんだからまぁいいか。
――下校。
慣れない空間の中に居るとやっぱり疲れるな。
早く帰ろう……。
ふと気が付くと人だかりが見えた。何に集まっているんだろう?
「!」
そこにいたのは、校門によりかかっている誰かを待っている風に見える九条君だった。
自分の周りに人が集まっているのに気にしておらず、読書をしていた。
九条君は私に気づいたようでこっちに来る。
――まさか待っていたのは私……!?
九条君ちょっと待って、ここで私に近づくのは目立つから。
と目で訴えかけているのにこちらに来る。
あーあ……。
「日高さん、一緒に帰ろう?」
「う、うん。」
すごく、気まずい……。というか視線がイタイ。
周りの人たちの話し声が聞こえる。
「日高ってもしかしてあの大財閥の一人娘?」
「ってか特待生と学年首席が一緒に下校ってどういう関係?」
「あの子って今日、転校してきたんでしょ?怪しくない?」
とヒソヒソと話しているのが聞こえてくる。
あぁ、初日から失敗した――。
「どうしたんだ?浮かない顔して、悩み事か?」
九条君が一つは失敗した理由なんだけど、と睨み付けても気づかないんだからなこの人は。
そのことは抜かして他の事を九条君に話したら――。
「そんな反応されたのか…。でも大丈夫だよ、僕とか小倉さん、色んな人がちゃんと日高さんのことを分かってるから。」
焦らなくてもちゃんと分かる人はいるよと優しく微笑んでくれる。
九条君はなぜこんなに優しいんだろう?その発する言葉が不安を打ち消してくれる。
また君に救われた。
――ありがとう。
そういうのはなんか照れくさいから心の中で九条君を見ていった。
- Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.6 )
- 日時: 2020/01/20 16:01
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
第1章第5話;「メゾン・ド・セグレート」 【初恋と猫耳。】
ちゃぷん……。
とお風呂場に響く。
辺りは湯気が立っていて暖かい、後ろを向けば夜空が鏡越しから見える。
温かいな――。
私は、湯の中で背筋を伸ばす。
今日は、慣れないクラスメイト達に九条君と帰ったことで、不信にらしく突き刺さるような視線が痛くて気まずかったのに……。
そのことも知らないで今日も帰ろうと言ってくるし、小倉さんはお菓子を食べる方に集中していたし……。
なんか、疲れたな……。はぁ…。
約2週間前では全然、違う日常で憂鬱だった、今は――。
それとは違う日常で明日に対する気持ちも違う。
憂鬱なんて思ったこともないむしろこの大変さが心地よくなっている気がする。
変わったな――私。
ガラっ!!
…ちょっとまってもしかして大変さが心地良いとか私、かなりやばいんじゃないか!?
なんか心配になってきた、心地よいとか思っていい事なのかな!?
服を着終わり、私はしゃがみ込む。
「……い、おいっ!?」
?誰かに呼ばれている気がする……というか、後ろに気配が―――。
「お前、誰だっ!!俺は水無瀬 盛!!このマンションの号室の入居人!そして……ヒーローだっ!!」
ヒーロー?はぁ?何この人……というか中学生?
より深みを持った茶色の髪色で瞳は抹茶色の子供っぽい男の子は怒ったようにプルプル震えて言う。
「……そうか、俺が弱いと思っているのか?見ててみろよ!!」
そう言いかけた瞬間、誰かが口を塞ぐ。
「八ッロ~~☆僕はキューティクルキャット!猫月君だよ~☆」
赤茶色の髪で瞳の色は銀色のいつも猫耳付きのパーカーを着ている人がニコッと笑いかけてくる。
そして、よろしく~と私の手を掴んでブンブン振り回す。
何なんだ、この人たち――……というか手、腕イタイ。
「こっちは、ペットのジョー。じゃね~日高 藤花ちゃん☆」
なんで、名乗ってもないのに私の名前を……。
「ジョーは中学生じゃないよ、君と同い年さ。そして、君はもっと他人と関わった方がいいよ☆」
彼はそっと私に近づき、小さな声で言ってくる。
私が思ったことを――。どうして?
「そんな深く考えないで☆猫さんは何でもお見通しなのさ!」
と言い残し、出で行ってしまう。
「………?」
本当に何なんだ……!!
次の日――。
「今日はレーズンブレッドとコーンポタージュだ。」
九条君が笑顔で話す。
パタン。
中に居たのは、昨日の人たち、藤谷と北小路さんだった。
「藤花ちゃん、おはよ~」
「お、藤花。はよー。」
「昨日の奴じゃねえか!昨日よくも……!!」
「グッモーニング☆うかたんとそーたん!」
うかたん!?どうしてその呼び名を……!?
お、おいっ聞けー!!と抗議しているが猫月さんは聞かない。
というか、わざとさえぎってる……?
「そーたんだなんて呼ぶな……!――というか知り合いだったんだ、猫月さんと。」
九条君は、知らなかったという目で見てくる。
……私と猫月さんが知り合っていて何がいけないんだろう?
私はじっと九条君のことを見る。
その時――。
バンっ!!
とラウンジのドアの方から大きくドアの開く音が聞こえる。
な、なんだ!?
「久しぶり!!みんなっ。」
スラリと高い身長。艶やかな黒髪、瞳は綺麗な金色。まさか……!!
「る、瑠璃ー!!」
「ちょっと!あんた何よ!?瑠璃ちゃんを離しなさいよ!?」
水無瀬君が突然現れた、男の隣に居る小倉さんの名前を呼ぶと、同時に北小路さんも離すように抗議する。
「……チーズタッカルビ!!」
チーズタッカルビ!?謎の韓国感……!!
なぜ、今それを!!
「俺は3号室の入居人で日野西 穂高!」
そして、と言い私の手を掴み上げる。
「日高 藤花の婚約者だ!!」
みんなが動揺の顔を見せる。
「そういえば、そういうの居たな藤花。」
と藤谷が呟く。
九条君と目が合うと目線を逸らして何かを私に呟く。
何を言ったんだろう……?
九条君の事を気にしていると穂高は私の手を取り元気に笑いかけて言う。
「早速、行くか!藤花!!」
えっ?ど、どこにっ!!
凛とした低い声が響いた。
「……待て、日高さんは朝食を食べていない。」
九条君は私たちを呼び止めると穂高をまっすぐに見つめて睨み付ける。
「誰だ、お前?」
穂高は九条君を下から頭の上まで見てってかと言い鼻で笑う。
ん?待ってなんか嫌な予感がするのは私だけかな?
「サイズ、おかしくね?」
サイズ=身長……。
あ……!!不味い、九条君がっ……!
当の本人は、前のように怒りを露にしていなく、プルプル震えキレたように穂高を睨み付けて言う。
あーあ……、やっちゃった――。
「おい、この脳無しバカ野郎。」
穂高は何?と目を光らせて九条君を睨み付ける。
「単刀直入に言うが突然現れといて婚約者だとか言い、どこに行くという事も言わないで旧家の嫁入り前の令嬢を連れて行くのは不謹慎だと思うが。」
私にだけ見えるのかな、二人の間に火花が散っている気がするのは……。
「やだ~、藤花ちゃんの事を奪い合ってるの?」
「なんかすごいことになってきたな。ハハハ。」
「…お腹すいた。お菓子、なくなちゃった。」
小倉さんは、スカスカとお菓子の袋を振る。
「る、瑠璃。こ、これ、お前の為に買ってきたんだ。ん、お土産。」
「!……ありがとう、水無瀬。」
「お、おう。」
小倉さんたちは知らん顔で話し始める。
なんでこんな状況なのにみんな、助けないんだ……!!
二人が争っているところに猫月さんが割って入る。
「おひさ~☆ほっちゃん!」
「「!」」
一番止めてくれなそうな猫月さんが止めてくれた!!←(失礼)
「おっ、成清!!久しぶりだな~。」
よ、よかったぁ。
そう、ほっとしていると九条君が近くに来る。
「僕達が争って嫌だったか?」
……?どうしたんだろう。
九条君は、背を向けて続ける。
「ただの独り言に過ぎない。返事はなくていい、聞き流してくれ。」
私は頷いて聞く。
「僕は、君が嫌だったと思う。大事な婚約者が守ると約束した奴と争っているから。」
そんなこと――。
「僕が嫌だったら、もしも君の事を不愉快にさせてしまったら君に言われれば、僕は身を引く。」
と言い残し、ラウンジを静かに出ていく。
私の心はポッカリ穴が開いたように寂しく冷たかった――。
- Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.7 )
- 日時: 2019/12/15 12:17
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
第一章第6話;「メゾン・ド・セグレート」【考えるよりも。】
心配していた学校生活も約3週間が経とうとしていた。
「先生!小倉さんがいません!!」
「先生っ!!小倉さんが教室に犬をつれてきています!!」
『ワンっ!』
「先生ー!小倉さんがアルコールランプでのりをあぶっています!」
私の事よりも彼女の事の方が心配です……。
「おい今度は早弁だよ。」
「すげえ。」
周りの人が小倉さんがの事をヒソヒソと話している。
「……。」
大丈夫なのか?早弁なんかして――。
キーンコーンカーコン……。
「お昼……。」
きゅるるるる……。
小倉さんがお腹を鳴らしながらお財布を振る。
「お金がないのか?早弁なんかして後の事を考えていないからだよ。」
小倉さんは、絶望した顔をして私を見る。
「これでも食べるか?私は少し胃の調子が悪いから。」
「くれるの…?」
「なんなら、豆乳もつけるけど。」
ぱぁあぁぁぁあっと一気に小倉さんの表情は輝いて私に近づいて抱きしめる。
「好き…!!」
「えっ」
す、好き?!!好きって言われた…!!
「うかちゃん、初めて会った時から優しい子だと思ってた…。」
「う、うそつけ!!大好きな食べ物をもらったからだろう…!」
そういうと小倉さんは、少し悩んでから言う。
「ううん、第六感で判るよ?」
「判るか!?」
「じゃあ…。」
「思いついた事言ってるな?」
そういうと小倉さんは、ぎゅ――っと抱きしめてくる。
温かい…。
『君はもっと他人とかかわった方がいいよ☆』
でも、私はどうやって関わったらいいか解らない……。
アハハ!
女の子が笑う声が聞こえる。
何だろう?
「ねぇ、なんで猫耳なの~?」
「人生の遊び人だからさ~☆」
この声――まさか…!!
「意味わかんない~。」
「ミステリアスな猫さんだからね~♪」
「あっ!!うかたんっ。朝ぶり~!!」
やっぱり、猫月さんか……。
「え~どういう関係?」
「秘・密な関係❤」
恥ずかしそうに体をクネクネさせて言う。
まったく、この人はいつもふざけている。
「誤解を呼ぶようなことを言うな。」
「も~誤解じゃなくない?」
本当にこの人と付き合っていても時間の無駄だな。
もう無視しよう…。
「待ってよ!いつもそーたんにメールを送っていいかクッションを抱きながら迷っているシャイなうかたーん。」
なんでそれをっ!!
「視たなっ…!?」
「ツンデレ?というか乙女っていいよね~。」
私はデリカシーのない猫月さんにイライラしながら言う。
「そ、それで、何の用かな?なければ警察に通報するが??」
「ジョーが喧嘩して保健室に居るんだけどさー案内してくれない?」
は、早く言え!!!
本当にまったく、この人はいつもふざけている。(大事なことだから2回言った。)
保健室――。
水無瀬君はボロボロになって座っている。
「あらら、ボロボロじゃないの。」
そういうと水無瀬君はスイッチが入ったようで目をキラキラさせて言う。
「この傷もヒーローの証だっ!!」
……全く、何が原因でこんな傷になるまで喧嘩してたんだ。呆れる。
「先生が聞いても言わないらしいよ。」
ふーん。
水無瀬君を見たら背を向けて何も言わない素振りを見せる。
それを見た猫月さんはニヤニヤして私に囁く。(本人は囁いているつもりのようだがとても声が大きい。)
「あのね、ジョーがいくつまでおむつを着けていたかというと~~~。」
おむつ……?何を言っているんだ、この人は――。
それを聞いた水無瀬君は真っ赤になって叫ぶ。
そういうことか、なるほど――。
「わ――っ!!言う言う言う!!」
この人は………本当にずる賢いな。
と私は、猫月さんに気づかれないように横目で見て思う。
「瑠璃の事、頭おかしいって言ったんだ。」
確かに小倉さんは、いつもボーっとしていて危なっかしい。
「でもいいんだ。あいつは何にも考えてなくても解ってるんだ。」
へー、そうなんだ。
「考えることよりも深いトコ…。きっと本能とかで理解してんだ。」
本能――?
「だから…。あいつの事を何にも知らないで言う奴を俺が倒すんだ。」
小倉さんの事をそんなに…。
「俺はあいつのヒーローであいつは俺のお姫様だから。」
お姫様…?ヒーロー?
その時――。大きな笑い声が隣から聞こえた。
気になって、隣を見ると猫月さんを見ると赤くなって大笑いしていた。
「ぎゃはははひひひひははははは!!」
ひぃひぃひぃと足をジタバタさせて震えている。
あーあ。本人が居るのに……。
猫月さんが大笑いするのを目の前で見た水無瀬君は、私の思った通りに赤くなって叫ぶ。
……ガララ。
「水無瀬……。」
おっとりとした小さな声は保健室の中を響いた。
この声――。小倉さん――?
「あ、ジョーのお姫様。」
「る、瑠璃…。」
すると、ニヤニヤしながら言う。
「それじゃあ、ボク達はお暇しよーかね~。」
パタン。
ドアを締める直前――。
見えた小倉さんが、水無瀬君を心配するように背中をさすって何かを喋っていた。
「……仲がいいんだな。」
私が猫月さんに問いかけるように言うと楽しそうに笑って言う。
「二人は幼馴染さ~。友達以上恋人未満の二人の世にも美しい恋物語~♪」
他人のプライデートを……と思い無視する。
「あるところに能力の化身達の封印を解いた一人の男がおりました。化身達は自分にふさわしい人間を選び契約したその人間の家系は不思議と繁栄していきました。」
私は猫月さんの事を見つめる。
「その家でも化身達と契約し特別な能力を持った――。それがボク達です。」
猫月さんの事を私が睨み付けていることも気にもせず話を続ける。
「ボク達は契約を受け継ぐだけでなく同じ日、時間。同じ容姿性質を持って生まれ化身達のおかげで稀に記憶まで受け継いで不思議と同じような運命を歩むのです。」
契約を受け継ぐ……。
「家々はそんな貴重な存在を一族全体で大切に育てることにしました。」
つまり……と言う。
「家族という存在はボク達にとっては希薄な存在です。いつもボク達は孤独、えーん寂しいよぅ。」
猫月さんが楽しそうにケラケラ笑いながら嘘泣きをしているのを横目に私は一人で呟く。
今更だ……。家でも、学校でもいつも私は一人だった、孤独、絶望。
「だからこそ~求め合い身を寄せ合う二人のお話~❤人は良くも悪くも他人と関わらずに生きるのは難しいよ?」
でも、私は一人になる為に――。
「さぁ、うかたんもレッツコミュニケーション♪ジョーも瑠璃りんも面白い子だよ~☆お友達になってみたら?」
……やけにおせっかいだな、猫月さんは。
「『おせっかいだ、どうやって関わればいいか解らない?』なんて難しく考えちゃ駄目だよ。そんなのいつの間にかだよ~☆」
こいつ……。
「また視たな!?」
私は、猫月さんに震えながら怒鳴った。
「お昼食べよー。」
「あー、腹減った。」
騒々しくなり始めたお昼。
今日もお昼は一人か……。
そう思い食べようとした時――。
ぎゅう~~。
「!!」
誰かに抱きしめられた――。
私を抱きしめていたのは小倉さんだった。
「なっ……。なんだ、君か。」
私は平然を装う。
すごい、まだドキドキしてる。顔、焦りで赤くなってないかな?
そんなことを考えていると小倉さんは私に問いかける。
「うかちゃん、お昼。私と水無瀬と食べよう?」
一緒に…?
「……ど、どうしても一緒に食べたいというのだったら仕方がない、食べよう。」
そういうと小倉さんは、嬉しそうに笑って購買の方に走っていくときに思い出したかのように言う。
「じゃあ、お昼買ってくるから屋上で待っててくれる?水無瀬は居るから。」
屋上……。みんな一緒、ご飯――。
初めてかもしれない、クラスメイトと食べるのは――。
屋上に向かって私は喜びを隠せずに廊下をスキップで行っていると声が聞こえた。
……誰か居るのかな?
私は声が聞こえる方に向かってそっと忍び足で歩く。
「……きです。九条君が他の女の子を好きなのは分かっています。」
この声――。聞き覚えがある、聞いていると鼓動が速くなる。
「すまない、僕には――。」
九条君の声、名前……?ここに居るのかな、じゃあお昼誘ってもいいよね……。
そっと近寄って苗字を呼ぶ。
「九条君――。」
そこにいたのは、一人の女子生徒と九条君。
姿をみた瞬間、目を見開いた。
――二人はキスをしていた。
ズキン、ズキン。
あぁ、胸が痛い。苦しい、痛みから逃げたい――。
「あ――。」
驚いて声を漏らしてしまい、九条君は私に気が付いて女子生徒と払い抜ける。
私が立ち去ろうとすると、腕を掴まれる。
「待って、日高さ……ん。!!」
私の瞳に涙が溢れ出してきているのに気づき、焦る彼が視界の端に見えた。
「……してよ。離してよっ!!触らないで、汚い。」
今後私に近づかないで!!と私は言い残し立ち去る。
その後は無我夢中で走り続けた。
なぜか今まで溢れなかった涙が急に流れ出して涙を止めるのに大変だった。
どんなに酷いことをされても、裏切られても動じず涙なんて慣れてしまい流すことなんてなかったのに――。
どれだけの時間がたっても彼の事でいっぱいだった。
思い出すたびに胸が締め付けられて涙が溢れてきて部屋に帰っても自然と彼のいる隣の部屋ばかり気になってしまって。
自分から言ったのにそんな彼を気にする自分が嫌になった。
後の事は覚えていない。ただ、眠りについてしまい記憶がない。
- Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.8 )
- 日時: 2020/01/08 16:30
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
第2章 第1話;「自分の運命を決める闘い。」 【お父様。】
「藤~花ちゃんっ!あたしが準備していい?」
部屋を訪ねられて追い返すのも性に合わないので北小路さんを部屋に入れた。
準備というのは私の家――つまり、マンションを造った管理者。
お父様の誕生日パーティが行われるからそのドレスなどの準備という事だ。
「藤花ちゃん、元気ないわね。」
……!!私は北小路さんのことを見ようとしたら、
「動かないで、今髪を結ってるからね。……図星かしら?チビ……じゃなくて九条の事?」
私は昨日、九条君に酷いことを言った。
やっぱり、人と一緒には生きていけないと考えたのに今、こうして人と話している。
私は、矛盾している。
「どんなことが原因なの?」
――私は心のモヤモヤを取る為に素直に話した。
「誰かに裏切られても気にしなかったのに、九条が誰かにキスされているところを見て動揺し酷いことを言った……。」
それは――と言い私の髪を丁寧に結う。
「嫉妬ね。」
嫉妬……?
「藤花ちゃんが九条の事を簡単に言えば大切に思っているてこと、難しく言えば説明出来ない感情を九条に抱いてるという事よ。」
大切?説明出来ない感情?
「出来た!説明出来ない感情の答えを自分で見つけるしかその感情の事は解らないわ。」
次、ドレスいくわねと言い部屋に有るドレスを持って来る。
「これは悩むことじゃないわ、悪い事でもない。良い事よ。」
良い事……。
「はい、出来た!!」
鏡に映し出された私は私じゃないみたいだった。
髪は綺麗に梳かされていてトップの髪は上げられていて可愛い髪飾りで結わかれていた。
ドレスは淡いピンク色でビーズや小さなお花がちりばめられていて、
腕の方には薄い半透明のきめの細かい布があって純清楚なドレスなっていた。
私じゃないみたい……。
「そんなに九条の事気にしてるんだったら、さっさと仲直りしなさいな。」
仲直り……。
「――アドバイス、ありがとう。北小路さん。」
えぇ、と北小路さんと私は微笑み合う。
会場に行くと多くの関係者が居た。
「おっ、藤花。すげえ似合ってるな。」
と藤谷が笑う。
「流石に藤谷もジャージじゃないな。」
「あぁ、今朝さー。ヒノのさ。お付きの人たちが部屋に来て、なんかやってくれたんだよねー。」
「ハッロ~ン☆猫さんの登場だよ~。あ、うかたんはそういうドレスなんだね~。」
「君はパーティ会場でもそんな感じなんだね。」
というと、猫月さんはこちらに近づいてきて言う。
「君が探しているのはどちらかな?冷静で君の事を大切に思っている月?それともいつでも明るく照らしてづける太陽かな?」
どちら?と楽しそうに笑いかける。
月?太陽、探す?
疑問が頭にでき始める中、私は頭をフル回転させて考える。
――!!
……多分、猫月さんの言う月と太陽はあの二人のたとえだ。
私は――。
「いっぱい食べる……!!」
「る、瑠璃一緒に食べよ。」
「うん、水無瀬頑張ろう……!!」
「本当に初々しいわね~。」
真っ赤に染まっている水無瀬君、料理を次々と食べている小倉さん、ニマニマして二人を見つめている北小路さん……。
「……。」
辺りを見回しても九条君はいない。
――パーティに来ていないの?でも、マンションに住むものは全員参加だ。
来てる、来てるはず――。じゃあ、なんで彼はいないんだ。
私が探そうと走り出したその時――。
グイっ!!
「――!!」
誰かに腕を掴まれた。
「――やっぱり藤花か。普段と違うから呼び止めようか迷っちゃったよ。」
太陽――穂高……!!
戸惑って穂高を見てから周りを見渡すと、九条君が見えた。
九条君――!!
行こうとしても、腕を掴まれているから行けない。
いつもは手の届くところに居るのに――今は届かない。
あれ、痛い。胸が締め付けられるように――。
悲しい、君の声が聞きたい。君の様々な顔が見たい、君の事をもっと知りたい。
「ごめん、穂高。用事があるの!!」
「お、おいっ!藤花!!」
伝えなきゃいけない、君にこの言葉を届けなきゃいけない――。
『そんなに九条の事気にしてるんだったら、さっさと仲直りしなさいな。』
『気持ちを込めてごめんって言うだけよ。』
「九条君っ!!」
九条君は止まってびっくりした顔で私を見る。
「九条君、私――。君に酷いこと言った。」
そういうと九条君は泣きそうな顔になってだけれど私の話を黙って聞いていた。
「ごめん――。私には、君が必要なんだ。」
九条君は涙を流して言う。
「――僕は、日高さんを不快にさせた。それでも、いいのか?また同じことになるぞ。」
「いいよ。言ったでしょう、私は律儀で正義感が強いんだ。そんなことぐらいで君との契約は一生取り消さない。」
思い出したかのようにクスッと笑って言う。
「そうだったな、忘れてた。」
小指を出し私は言う。
「こんな私でもいいですか?」
「勿論、むしろ君に何と言われようがこれからは一生離れない。」
私達は契約を結びなおした――。
二人で微笑み合っていたその時、歓声が沸いた――。
「ボスっ!!お誕生日おめでとうございます!!!」
「長生きを願います!!」
――ボス?
繊細な色素の薄い髪をオールバックにして紫水晶色の瞳――。
あれは!!お、お父様とお母様――。
お父様はパーティ会場のセンターに着くと笑顔で言う。
「今日は俺の為に来てくれてありがとう!!俺の誕生日を祝う場でもあるが俺の娘・藤花が組織に入ったこと、今年で16だという事を機に!!」
……私?え、どうして?
みんな、私を見る。は、恥ずかしい……。
そう思い、思わず顔を隠す。
「セグレートデュエロを行うことにした!!」
セグレートデュエロ……?何、それ?
「娘の婚約者がいるが本当にふさわしいか調べる為。尚、デュエロに勝った者は娘と婚約をし願いを叶えたあげよう。」
それって、私には参加権がないってこと?
私は商品の一部でただ誰かの婚約者にまたなってじっと見ているだけって……!あんまりよ!!
気づいたら、私は、お父様の前に立っていた。
「あんまりよ!商品の一部にされて私の望みは叶える可能性もないなんて!!取り消してよっ!」
そういうとお父様は何ともないような顔をする。
「藤花、拳で戦うか?俺に勝ったら受け入れてもいいぞ。」
私が負けるって思ってるからこんなこと言うんだ。
私の何かがキレる音がした――。
周りの人はどうしたらいいか集まって戸惑っている。
「はあっ!!」
私、渾身の蹴りを入れてもお父様はビクともしない。
それよりかはまだまだだなと言わんばかりにニヤッと笑う。
「あ、甘く見ないでよ……!」
何度も蹴りを入れたり拳で殴り掛かったりしてもお父様は笑う。
まるで娘の練習を見ているかのようにアドバイスを入れてくる。
「突き出すようにやるんだ、目的のところを見て!!」
「くっ……。」
ためらうとお父様は言う。
「どうしたんだ。もう終わりか、藤花。」
お父様は強い。だから組織のトップに君臨している。
みんなはざわざわする。
「藤花(ちゃん)……。」
「日高さん――。」
負けたくない、ここで負けたら意見を通してくれない――。
なのに、どうして?
足が動かないんだろう、私はこんなに弱いんだろう。
私がお父様をキッとにらみつけた。
その時――。
「貴方、もうやめたあげて……。」
凛としたそれでも控えめな声が響いた。
お母様……。
「藤花ちゃん、貴方への参加を私は認めます。不公平すぎるわ、でも。」
扱い方は女、ボスの大事な一人娘だとしてもみんなと同じ分かったわね?と言いお父様の方を優しく見つめる。
「いいでしょう?ねぇ、今回は見逃してやってくださいな。」
そういうと、渋々目を閉じて言う――。
「日高 藤花の参加を認める!尚、扱いは同じ。」
認められた……?
良かった……。これで、未来が自分で開ける可能性が広がった――。
「藤花ちゃん、お疲れ様、怪我してない?やったわね!これで意見、通ったわね。」
「まさか、ボスに闘いを挑むなんてビックリしたよな。」
「このデュエロ、負けられねぇな。」
「……勿論。5年分のズワイガニ、お肉勝って食べる!!」
みんなが笑いあって、でも真剣な表情で言う。
私も、絶対に負けられない――!!
勝って、自分で未来を切り開くんだ――。
……そういえば、九条君はどうしたんだろう。
さっきまでは居たのにトイレかな?
この時――。
私は知らなかった――。
九条君が今、何をしているかを――。
- Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.9 )
- 日時: 2020/01/31 16:44
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
第2章 第2話;「自分の運命を決める闘い。」 【九条 総司。】
薄暗い、小さなパーティ会場の一室――。
僕――九条 総司は黙って跪く。
「――総司、大きくなったわね。何年振りかしら?」
凛とした、それでも控えめな声が響いた。
僕の恩人――日高 藤花の母親。
日高 菖蒲だ――。
「12年振りですね。」
「12年かぁ……。あの出来事から12年も経ったなんて、まさか貴方がうちの娘に自ら近づくなんてびっくりしたわ。」
――あの時から会おうともしなかったからと呟く。
彼女に近づいたのは自分からじゃない、初めて会ったあの日――いや、再会の日。
僕は彼女がこんなにも大きくなって可愛くなったことにもびっくりしていた。
どこかに彼女と一緒にまた、居たい。今度こそ護り切る。
その気持ちがあったのだろう。
だから、あんなの事言えた、そう思う。だってあの12年前のあの日は僕は彼女の事を護れなかった、逆に護られた。
――能力を使ったあの時、彼女の大切な両親との思い出も何もかも代償としてすべて失った。
僕は両親との絆を壊し距離を取るようになったのも人見知りを重ね、捻くれてしまい無口になったのも
全て僕のせいだ。
こんな僕が彼女の傍に居られるはずないのに居ることがおかしい、分不相応だ。
彼女が知ってたら、騙してたの?嘘つき!そんなことを言われるに違いない。
なのに、傍に居たいと思ってしまう、新しい婚約者とも上手くいってほしくないと思った。現に日野西との事を邪魔した。
僕は矛盾している、こんな自分は嫌なはずなのに彼女の傍を離れられない。
唇を噛み締めて下を見て考えていると、
温かい腕が僕を包んだ――その時___。
「!」
柔らかい匂いが香ってきた。
___この匂い、この花の匂い。___
「……こんな風に総司や藤花ちゃんの事を抱きしめていたわね。」
みんなで一緒にお茶を飲んだり遊んだりとしたわねと優しく目を伏せて僕の頭を撫でる。
「総司……。もう悩まなくていいの、今度こそあの娘の事護ってあげて。」
いいのか?僕なんかが傍に居ても……。
僕の気持ちを察したようにフッと微笑む。
「いいのよ。今回の機会で貴方があの娘の事を護れるって貴和に証明しなさい。」
この機会は貴方の為でもあるのよ?と優しく微笑む。
ボスに……?
「応援してるわ。貴方が他の誰よりも藤花ちゃんの事を思ってるって知ってるから。」
とウィンクして部屋を出ていく。
また、彼女は僕の婚約者になってくれるときは来るのか。護らせてくれるようになるのか。
そんなことを考えながら部屋を出た。
- Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.10 )
- 日時: 2020/01/11 20:25
- 名前: ミコト (ID: D.48ZWS.)
こんにちは雪林檎さん!
雪林檎さんの小説3つ、読ませていただきました。
どれも力作で続きが気になっちゃいますね!特にお気に入りは『花と太陽』ですね(実際全部好きです!)
まだ始まったばかりですが、期待してます!
それではまたの機会に〜。
- Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.11 )
- 日時: 2020/01/14 17:23
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
ミコトさん、読んで頂きありがとうございます!!
今は『花と太陽。』を中心に書いていて投稿が不定期になってしまいますが、これからも飽きずに読んで頂けると嬉しいでーす!!(^^)/
それでは、またよろしくお願いします!!
- Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.12 )
- 日時: 2020/01/21 16:26
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
第2章 第3話;「自分の運命を決める闘い。」 【白い子猫。】
「藤花、居るか?」
朝早くから元気な声がドアの外から聞こえた。
――穂高?
「居るけど何か用?」
「ちょっといいか。」
うんと返事をして穂高を部屋に入れる。
そのまま、部屋に入ると穂高は恥ずかしそうに目線を逸らしている。
―――――――何を緊張しているんだろう?
「あの…さ…えっとこれ渡すな。」
右手を差し出して言う。
これは――花のペンダント?
「何これ。」
そう質問しても答えてはくれない。
――もしかして。
「私の事、心配してくれているの、昨日の事。」
「え、な。……そうだけど。」
そういうと恥ずかしそうに首の後ろを触る。
「貴方はいつも心配していると首の後ろを触るから、解ったの。心配してくれてありがとう。」
「あぁ……。」
何だか、久しぶりだなぁ。ゆっくりこうやって穂高と話すの。
「ダリア、あの時と同じね。」
図星をつかれたようにビクッと肩を揺らす。
私は幼かった自分達を思い出して笑う。
――9年前。
私がお母様とお父様や同年代の人に上手く接する事が出来なくて寂しくて泣いていた時に出会ったあの日。
「――お嬢。お嬢の婚約者様が来られましたよ。」
「行かないわ、今は居ないと日野西様に言って下さい。」
誰とも会いたくなくてけど隣に受け止めてくれる人が欲しかったあまのじゃくな私に貴方は会ってくれた。
「藤花ちゃん!いるんでしょう?」
包み込むように明るく、元気な声。
「いませんよ、すみませんが……。あっ!!駄目です、日野西様!!?お戻りくださいませ!!」
騒がしい、一人にさせてよ。
「――藤花ちゃん見っけ。はい、これあげる。」
スッと小麦色に焼けた手が伸びてきてニコッと笑ってくれた穂高。
「なんで、日野西様が……。」
手渡されたものを見て思わず声を上げる。
――ダリアだった。
綺麗で明るくてまるで穂高みたいな、太陽みたいな花。
「綺麗……。」
良かったと笑い私を寂しさから挽き出してくれた。
思い出の日――。
「懐かしいな、覚えててくれたんだ。」
「勿論。」
2人で笑い合っていると忙しそうな足音が聞こえた。
タッタッタタタ……。
ドアを開けるとサラサラの青っぽい黒髪が目の前を通った。
「あれって……。」
「おこちゃまだよな?」
2人で確認しあって九条君の後を追いかける。
九条君はしゃがみ込んで何かを探している様子だった。
「九条君。」
私が九条君を呼ぶとビクッと肩を揺らして振り向く。
「日高さん!なんで、まだ起きる時間じゃ……。」
そう言うと九条君は焦ったように腕時計を見る。
「どうしたの。何かを探しているようだけど?」
「――関係ない。」
冷たく距離を取られた、突き放す言い方に私はズキズキと痛む胸を抑える。
「関係ないってなんだよ!!おこちゃまっ!」
穂高が怒りを露わにして声を荒げる。
「関係がないから関係ないと言っただけだ。……おこちゃまと呼ぶな。」
「こんな奴はほっとこうぜっ!!」
結構だと言い残し静かに立ち去ろうとする九条君に私は慌てて呼び止める。
「――待って九条君!力になりたいの、何を探しているの?」
「それは、“お願い”か“命令”か?お願いだったら拒否権があるから断るけど。」
命令だなんてしたこともない――でもしなかったら断られて教えてもらえない。
ごくっ……。
私は冷や汗を流しながら、九条君の様子をうかがう。
「……め、命令よ。」
そう答えると九条君はため息をついてから言う。
「……本当に君には敵わないな。仕方がないから、教える。」
九条君は話し始める。
「3日前に屋上庭園に住み着いた白猫が居るんだ。その猫は親が居なくていつの間にか僕に自然と懐くようになった。」
へぇ、白猫。そんな猫、見たことがないなぁ。
「今日も一緒にご飯と食べようと部屋に招いていたところをどこかに行ってしまって……。」
気難しそうに鼻を触りながら言う。
「手伝うよ。」
「じゃあ、俺はこっち捜すから。」
「私はあっちを捜すね。」
私が捜そうとすると、九条君は呼び止める。
「――その、、、日高さん。ありがとう。」
お礼を言われたらふわっと心が温かくなって表情が自然に緩んだ。
「こちらこそ、九条君に無理言ってごめんね。」
ニコッと微笑むと「あぁ……。」と短く返事して行ってしまう。
――――しかし猫かぁ。どこにいるかな。
声を出してみたら飛び出してくるかなぁ。
「お~いっ!!出てこいよ、猫や~い!!」
居ねぇなぁ、、、、白猫。
『ミャア。ミー!』
「……あ!!!居たっ。」
『ニャッ?!』
白猫が驚いて走り出す。
クソ速い……!!
「待てよっ!!」
追いかけると真っ直ぐ走り出す。
『にゃあ。』
猫は一度、止まり俺の方に向く。
イライラ。
バカにしているような顔をしやがって……。
俺が走ると壺が落ちそうになる。
「よ……っ。――――――危ねぇ!!」
ふうっと息をつくと白い物体が視界に入る。
『ミャア!!』
俺はバランスを崩して直後、割れる音が響く。
バリンッ!!
「あぁ、、、、ヤバい!!!」
そう叫んだ瞬間――――――寒気が立つ。
「ほ~だ~かぁあああ!!!!」
鬼のような顔のメイド達が俺の事を囲んで俺の事を睨み付けていた。
「ゲッ!!」
***
白猫―――――……居た。
しかもあんな高いところ、、届かないだろう。
もっと、、、、背が高ければ。
『チービ。』
「僕はチビじゃないっ!!!」
本棚に思い切って拳を当ててみたところ、本が直後、落ちてきた。
ドンっ!!!
『ミャアァアア?!!』
猫の悲鳴が聞こえ、僕は振り向くと本と一緒にバランスを崩し倒れてしまっていた。
「あれ―――――猫。」
助けたはずの白猫が居なくなっていた。
どこに行ったんだ、、、潰れてしまっているとか??
しかし、探してみても呻き声も何も聞こえなく居なくなっていた。
『ミャ!!』
得意げそうに喉を鳴らしフッと僕の方を見てから外の方に逃げだしていくのが判った。
僕の事を馬鹿にしているのか??いつも一緒に居たこの僕を……?
イラッ。
あの、、、猫。
***
「猫―――――……猫ちゃ~ん?」
『ミャアァアアア!!!』
突如、猫の可愛らしい泣き声が響いた。
振り向くと白猫で瞳が青緑色の子猫……に物凄い形相の穂高に、、何故か九条君。
「「逃がすかぁあああ!!!」」
「二人とも、、どうしたの?」
小さく言った声は怒り狂った二人には届かなかった。
薔薇の庭園の小さな休憩所に逃げ込んだ子猫をみて穂高と九条君は悪い笑みを浮かべ言う。
「そこに逃げ込んだならこっちに行く!!」
「僕は回り込んであっちに行く!!」
囲まれて怯えた子猫はキョロキョロしている。
可哀想、逃げてっ!!
二人が飛び込んで捕まえようとしたその時―――――……猫の小さな悲鳴と共に低い低温の呻き声が聞こえた。
ゴチンッ!
何かがぶつかったような音がした。
「「痛っ!!!」」
二人は休憩所の枠に額を抑えながら子猫を探す。
『ミャア♪』
機嫌の良い声が近くで聞こえ、やけに温もりを感じた。
ま・さ・か……子猫が??
「―――猫ちゃん。大丈夫だった?」
『ミャア♪』
嬉しそうに喉を鳴らしながら鳴く子猫はとても可愛かった。
二人は恨めしそうに子猫を見つめる。
「―――……くそ、猫って女の方が好きだって言うよな。」
「あぁ、露骨な猫だ。」
二人が珍しく意見が合ってる。
面白い―――クス。
「何を笑っているんだ。」
「藤花、答えろ!!」
いや、別に。と返すと心底不思議そうな顔でお互いを見つめあう。
あらら、気づいていないんだ。
「……というか藤花の胸から離れろよっ!!」
「しがみつくな。このマセ猫が!!」
ちょっと、、酷い。子猫に向かって―――さっきの追い詰めることも可哀想だった。
イライラ。
一発、やってもいいよね。
「はぁ!!!」
生々しい音が聞こえ、続いて低音の悲鳴が響き渡った。
バシンっドス!!!
「……なんで?」
「顔、体中が痛い……。」
青白くなってゲッソリとした顔が二つ。
「あのねぇ!!まだ、解らないの?!」
拳を構えるとビクッと肩を揺らす。
「「十分、理解しています!!」」
こういう時は揃いも揃って同じこと言うんだから、案外仲良しなのかもね。
まぁ、これくらいにしとこう。
可哀想だしね。
「ご飯、食べよっか。」
私が微笑むと二人はドキマギする。
「―――……用意は僕がする、僕の業務だぞ。」
そういうとフッと笑って穂高が宣言する。
「俺、藤花の隣で食べる!!」
「おいっ!隣は僕だっ。」
「速いもん勝ちだぜ!!」
「くそっ。どいつもこいつも僕の事を馬鹿にしやがって……!!」
二人が無我夢中でラウンジに向かって走り出す。
「あ、待ってよ!!」
―――……小さな子猫を通して、二人の素顔と案外仲が良いって言う事が判った一日だった。
- Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.13 )
- 日時: 2020/03/04 16:16
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
第2章 第4話;「自分の運命を決める闘い。」 【大切な思い出。】
「う~ん、いい匂いだ。」
「この匂いの誘惑には勝てないな。」
「えぇ……。瑠璃ちゃんのスフォリアテッレはスイーツの名店も泣くほど美味しいわ。」
テーブルに座った僕らは香って来たパイの匂いにうっとりする。
「出来た……!!」
小倉さんの声が響き、皆身を乗り出す。
「今日は、うかちゃんも手伝ってくれた。」
そう聞くと僕は自然とそわそわして恥ずかしそうに目線を逸らしている彼女を見た。
「う、美味くできたと思うから、食べて。」
「味わってしっかりと。数、少ないから。」
という言葉を聞き、僕らは一斉にスフォリアテッレを口に入れる。
モグモグ。
口に入れた瞬間、チーズの香りとバターの甘みが伝わり思わず声を零す。
「「「「ほぅ―――……。」」」」
なんて美味しいんだろう。
「もっと!!食べたいよぅうう!!」
「足りない、足りないわ!!」
「瑠璃ちゃん、カモ―ヌッ。」
「瑠璃、美味しい!!美味しいよ!」
皆、欲しいと騒ぎだす。
「味わって、って言ったのに……。」
困ったように眉を下げる小倉さんは急かされ、キッチンへと走り出す。
***
「よっと……。」
私は、スフォリアテッレと包んだ箱を積んで歩いていると後ろから声をかけられる。
「――日高さん、何をしているんだ?」
振り向かなくても判る、この声の主は勿論―――九条君だ。
「あの、お母様とか色んな人が食べたいって言ってたから今から届けるんだ。」
「ふぅん。……で、小倉さんは?」
「えっと、多分。今頃―――……。」
『小倉、もっと!!もっと!!』
藤谷がフォークを持ちながらテーブルを叩く。
ドンドンッ。
『カモーヌ!カモーヌ!!僕のスフォリアテッレッ。』
獲物を捕らえるように目を光らせながら、猫月はフッと笑う。
『はい、はい、はい……!!』
忙しそうにキッチンに立つ小倉さん。
「ってなってた。」
「そうか。」
しばらく黙り込むと九条君は、ひゅうっと背伸びをし、包んだ箱を多く持っていく。
そして振り返る。
「………日高さんが転んだら、せっかく作ったスフォリアテッレが勿体ないだろう。行こう。」
緊張で強張ったような声が聞こえ、ほんのりと耳が赤くなっているのが私は見えてクスッと笑ってしまう。
素直じゃないなぁ――――でも優しいな。
「うんっ!!」
***
「まぁ、美味しそうなスフォリアテッレ。食べましょうか。」
お母様は嬉しそうに頬を染めながら、フォークを持つ。
綺麗に切って、お母様の紅色の唇に掠りながら口の中に入る。
「……美味しいわね。」
うっとりと微笑みながらお皿を持ち、スフォリアテッレを見つめる。
「このパイを食べると昔の事を思い出すわ。―――……藤花ちゃんと総司が合ったあの日を。」
私の名前までは聞こえたが後の方は聞こえなかった。
しかし、九条君は過剰に反応して言う。
「あまり、昔の事をッ!言うのは……!!」
お母様は目を見開く。
思い出したかのようにごめんなさい、と言いながら九条君の頭を撫でる。
「そうね――――藤花ちゃん、気にしないでね。」
昔の事をって何?私の名前をどうして??
状況が理解できないなぁ。何のことだろうか。
首を傾げていると、
「本当に何でもないんだ。」
なだめるように言われ、私は植木鉢を抱えながら黙り込む。
あまり、詮索すると嫌だよね。
やめよう、本人に気にしないでって言われたんだから。
さり気なく話題を変えてみると、
「―――……このお花はお母様から、貰うの?」
「え?――――あぁ、用事があった時には分けてもらっている。」
あ、嬉しそうな顔になった。
九条君の頬がほんのりと薄紅色に染まる。
「この花はアイビーと言って、花言葉は公正と信頼。」
へぇ、可愛らしい花だなぁ。
うっとりと花に微笑みかける九条君は眩しかった。
「えっと、九条君って花言葉とか種類とか詳しいけど、お花が好きなの?」
思い切って聞いてみるとビクッと顔を強張らせ、ふいっとそっぽを向く。
「……すッ、好きで悪いか?」
なんか、、可愛い。
拗ねたような声を出し、真っ赤に耳を染めて私の反応を気にしている素振りを見せた。
「ううん、むしろ良いと思うよ。」
私の言葉を聞くと九条君はホッとしたように声を漏らし、そうか、と笑みを見せた。
微笑んでいた彼は――――直後、黙り込み私をジッと見つめてくる。
どうしたんだろう。
「?」
私が首を傾げていると、迷ったように顎に手を当てようやく口を開く。
「あの日高さん、花の肥料を持っているか?」
持っていないけど……、と思い首を振ると九条君は優しく微笑む。
「じゃあ、明日。ラウンジで朝食を食べた後、市場へ行こうか。」
「えっ!?」
「――……あ、嫌か?」
私を見つめる瞳には不安が渦巻いていた。
そんなわけない、誘ってくれたことにただ、ビックリしただけだから。
って思い、口を開いた。
「違う、誘ってくれたことが嬉しいくてつい声を上げてしまっただけ。」
ありのままの気持ちを伝えると不安が渦巻いていた瞳をフッと甘やかにし笑みを浮かべた。
「そうか、、、、、じゃあまた明日。」
手を振り、私も手を振り返す。
「うん。」
風のように走り去っていく彼を見ながら、私は鼓動が早くなる胸を抑えた。
***
彼女は覚えているはずもない、僕と君が初めて出会った日の事を。そこから、絶望に陥った事も。
彼女が作ってくれたスフォリアテッレを僕は丁寧に切り分け、口の中に運ぶ。
このチーズの香りとバターの甘み、微かにあるレモン味―――隠し味。
「……懐かしいな。」
頬を伝って零れた涙とコーヒーの苦みが昔の事を、鮮明に思い出させた。
『――――総司、そんなにかしこまらなくていいのよ。――だって、私達は家族になるんだから、ね。』
綺麗な黒髪の女性が淑やかに微笑みながら、僕の頭を大切に撫でる。
『家族……?』
僕が呟くと、
『あぁ。おいで、総司。』
たくましく、勇ましくも優しい雰囲気がある男性に僕を強く抱きしめる。
『お待たせ致しました、お嬢様が作ったスフォリアテッレです。』
彼女の従者である青年が微笑みながら言った。
『総司の為に初めて、藤花ちゃんが作ったんでしょう?』
『うんっ!』
彼女は可愛らしく愛らしい笑みを僕に向ける。
『なっ!!?藤花の手料理を俺のよりも先にっ!!!』
男性がガクッと肩を落とし、悔しそうに僕を見つめる。
『仕方ないでしょう、総司は藤花ちゃんの未来のお婿さんなんだから。』
“お婿さん”という言葉を聞いて僕と彼女はお互いに見つめ微笑み合う。
あの頃の僕は日高さんの事を、僕の未来のお嫁さん、そう思っていた。
『さぁ、いただきましょう。』
おっとりとした声が響き、僕らは席に着き綺麗に切り分け口に入れる。
パク。
初めて食べたスフォリアテッレ。
チーズの香りとバターの甘み、微かにあるレモン味が口いっぱいに広がった。
『美味しい?』
そう聞かれ、僕は。
『うんっ!!』
そう答えた。
二人で微笑み合っていると女性が口元を拭いてくれた。
『二人とも付いているわよ。』
拭かれた彼女は、ありがとうっと言った。
初めて感じた、家族という温かみ。
誰かを“好き”だって感じた気持ち。
でも、楽しく嬉しいことだけじゃなかった。
『―――……総司、お嬢さんとの挨拶。上手くやれよ。』
父が言う。
『大丈夫よ、賢い貴方なら出来るわ。総司。』
母が言う。
『お前は貴和の弟の息子でお嬢さんの婚約者だ。大丈夫だよ。』
『その権利を持っているのよ、総司。』
両親は、「成功しろ、気に入られろよ。」そんな事しか言わなかった。
『後々、貴和には“ボス”の座から降りてもらって俺たち一族が組織を貰うからな。』
親友とか言って、父と母には私欲を満たす事しか頭になかった。
そんな両親が嫌だった。
ある時、両親達が彼女の両親の暗殺を企てている事を知った僕はその時、絶望に陥る事もまだ、知らなかった。
***
「僕は、あんな事をして彼女を壊してしまったんです。家族という温かさを知ってしまったから―――……。」
「総司。」
「ただ、怖いんです。知られたらって、こんなの――。」
彼女の母親の所に来ては、このように弱音ばかり言ってしまう。
「違うわ、貴方が悪いんじゃない。」
こうやって慰めて肯定してくれる。
「―――……ねぇ、総司。貴方があの子と婚約を破棄したとき、私と貴和に預けた物――――覚えているかしら。」
輝くように周りには宝石が散りばめている綺麗な指輪。
渡そうと思っていた指輪―――渡せなかった僕の想いが詰まった指輪。
「いつでも、取りに来て頂戴。」
真剣に僕を見つめながら続けて言う。
「……藤花は――――あの子は貴方の力になると思うから。」
僕は即座に首を振って否定する。
「日高さんは僕の事が理解できないし、僕だって理解してくれなくて良い、と思っています―――……。」
「総司……。」
気の毒そうに見つめる彼女の眼差しが妙に痛かった。
***
「――――おはよう、日高さん。」
ドアを開けると、私服姿の九条君が立っていた。
いつもスーツだったから、私は新鮮すぎて目を丸くしてしまった。
「では行くか。」
スタスタと歩き出す九条君の背中を見上げながら私も後をついていった。
***
「やったねん、また勝っちゃった!!」
にこっと満面の笑みで金を抱える成清に皆、頭を抱える。
「お前、こんなに賭け事、強いのかよ。」
俺は唸った。
「これで、お前の馬鹿付きのせいでこっちの商売は上がったりだよ……!!」
男が言う。
「ってかよ、その俺達から巻き上げた金で何、買うんだよ!!」
盛が怒鳴る。
すると成清はうーんと顎を触ってそれからニッと笑う。
「これで、ラザニアにスフォリアテッレでしょ~、マカロンに!!いっぱい食べられるよ!!」
猫耳のフードを揺らしながら答える。
俺達は一斉に溜め息を吐いた。
「はい、はい……お前はそういうやつだもんな。」
と呆れて男は言っていると、女性の怒号が響いた。
「だから……さっきまでバッグがあったのになくなっているんですッ!!!」
綺麗なドレスを着た若い女性は怒鳴る。
俺達は顔を見合わせ組織のネクタイをキチンとし、その女性に声をかけた。
***
街の花屋を回って、約二時間が経った。
「これで、買い物はひと段落したな。」
ぎこちなく私は九条君を見た。
真っ直ぐと前を向いて未来を見据えているかのように歩いている九条君はいつもよりずっと大人に、凛々しく見えた。
私がまじまじと見ていると、
「何だ?」
と聞かれ、ビクッと身体が強張る。
「えっと……九条君ってすごいなと思って。」
「は?」
口をぽかんと開き、首を傾げる。
「だって、自分にも私達にも厳しいし、冷静でいつもその先を見ている感じが凄いなって。」
そういうと戸惑ったように目線を逸らして言う。
「と、当然だ。任された以上、日高さんの事もちゃんと護るし、サポートもする。人に厳しければまずは自分に厳しく出しな。」
目を伏せて言う彼はなんだか違う人と喋っている気持ちになった。
そんな雰囲気に私は心のざわめきを感じた。
「私ももっと頑張らなくちゃ……デュエロだって勝ち進まなければいけないし。そんな中で自分の能力が何かも知らないから。」
素直に言うと。
「日高さん、能力は何の為にあると思っているんだ、僕は時々、解らなくなる。今までは誰かを護る為だって思ってけれど…………。」
九条君は微かに震えていた。
「僕は……ッ。いや、何でもない。」
どうしたの、と訊ねようとしたその時―――……男性とぶつかってしまった。
ドンっ!!
「す、すみません!」
と急いで謝ると、男性はビクッと顔を揺らし立ち去ろうとする。
何か、反応が怪しかった。
謝れられた事だけであんなに恐がるのかな?
黙って男性の後姿を見ていると、
「なあ、今の男。怪しかったよな?」
と問いかけられて私は急いで首を縦に振った。
「あの人、変だった。」
「早く、追いかけるぞ!」
顔を見合わせて、私達は走る。
***
「はぁ……ここまで来れば安心だな。今日は運がいいな。」
と言いながら男は、綺麗な宝石が散りばめられたバッグを取り出す。
路地裏で嬉しそうにバッグを開き、財布をもち、札束を数える。
「あれ、明らかにあの男の奴じゃないよな……?」
耳元で囁かれ、私は頷いた。
「行くぞ。」
と言われ、男に声をかける。
「おい。」
男は振り向き、私達を睨み付ける。
「なんだよ、坊やとお嬢ちゃん。」
手元にあるバッグを確認し、私は男に向かって歩き出す。
「―――……そのバッグは貴方のものじゃない。」
とキッパリと言って私はバッグを取る。
男は見破られたように顔をしかめる。
「――――……人のものを取って自分のものにしようとするやつは野放しにはできないな。」
九条君は身構える。
すると、男はニッと不敵に笑い。
「やってみな、お前みたいなチビがどうやって俺を捕まえるんだ?」
というと、九条君がその言葉にキレて睨み付けたその時――――足音が多くなる。
「「!!」」
振り向くと男達が私達の事を囲むようにいた。
中には大きな棒を持っている人までいた。
「お前ら、噂の組織・セグレードだろ?知ってるぜ、女にぎゅうじられるようじゃお前たち組織も終わりだなぁ!!」
男達はクスクスと笑い始めた。
私はもう我慢できなくなり、蹴りを入れようとしたその時、九条君が首にナイフを当てた。
「―――……僕達、組織の事を知っている人間はどうなったかじゃあ、知っているよな?」
フッと笑う九条君はとても恐ろしかった。
「お、お前!断罪の総司!?」
と男は焦って言う。
「死ぬ前に言いたいことはそれだけか?―――……彼女とボスを貶す奴らは容赦しない!!」
私は息を呑んで言う。
「私も―――母様と父様を侮辱する人は許さない!!」
そう言って、護身のために習ったナイフを手に持つ。
「大丈夫か?」
そんな心配する声を無視して私は男にナイフを突きつける。
「ほら、大丈夫でしょ?」
というと、
「習いたてなんだよな………?」
疑問の声がかかり、私は頷く。
そんな彼はナイフを握りしめて、華麗に男達の動きを止める。
私は、棒を持った男の首に足蹴りして男を気絶させる。
「お嬢ちゃん、背後ががらすきだよ。」
と言われて振り向くと拳が顔に向かってくる。
「……危なッ!!」
首を慌ててかわして、よろめいた男を回し蹴りをする。
「うぐッ!!!」
男達の低い呻き声が次々と響く。
「ちくしょうッ!!!」
男が叫んだのを私が睨むとビクッと後ずさりをする。
逃げようとする男の目の前にナイフを思い切り、投げる。
ザクッ。
ナイフが壁に突き刺す音が響き、男は目を丸くする。
私は続けざまにナイフを投げて男をしゃがみ込むようにする。
男は恐怖で気を失う。
二人で顔を見合わせてニコッと笑い合う。
***
「はい、貴方のお財布です。」
と綺麗なバッグも返すと若い女性はニコッと微笑む。
「ありがとう。もう助かりました、このバッグお気に入りなんですよ~!」
女性と話して合っている藤花を見つめて俺は話す。
「藤花が異常に気付いたんだってな。」
というと、
「あぁ、ナイフも習いたてだって言うのにこんな風にナイフを刺して捕まえたんだ。」
九条は呆れたようにナイフの差し跡を見る。
「一つ、かりが出来ちゃったねー♪」
口元のソースをペロッと舐めて頷きながら成清は言う。
すると、九条は目を伏せて言う。
「出すぎた真似、本当にすまない。」
その言葉に成清は真っ直ぐ見つめて頭を撫でる。
「いや、むしろ助かったよ~!!そうたんのお・か・げ!!」
抱きついた成清を、ふざけるな、と肘で押す。
「……ッ。」
諦めた九条は顔を伏せる。
「まあ、そうたんのそういう義理堅いところ、ボクは好きだよ~❤」
「……どうも。」
恥ずかしそうにそっぽと向いた九条の頬を成清は摘み言う。
「それよりも、うかたんの事たっぷりと褒めてあげてよ?」
と成清が言うと、九条は目を丸くする。
「そうだよ、藤花の勘の良さが今回の犯人を捕まえられたんだしな。」
俺が九条の頭に手を置くと、べしッと跳ね返されて藤花の事をまじまじと見つめた。
「女の子は褒めてくれて成長するんだからね~。」
九条はその言葉に
「それもそうかもな。」
と素直に言った。
- Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.14 )
- 日時: 2020/03/28 15:21
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
第2章 第5話;「自分の運命を決める闘い。」 【二人の時間。】
真っ赤に染まった道を私達は歩く。
九条君は私の事をチラチラと見てきた。
やがて、マンションの目の前になって入ろうとすると、
「ひ、日高さん。」
声を掛けられた。
驚いて振り向くと、手を掴まれて手の上に可愛い包箱を渡された。
「えっと…………これは?」
訪いかけると、恥ずかしそうに目線を逸らしながら
「今日、日高さんは街でずっと髪飾り屋に迷ったように商品を見つめていて……だから。」
口を噤んだ九条君はバッと思い切り顔を上げる。
「た、たまたまその店員に声を掛けられたから買っただけのものだ。それが、偶然にも女子用だったから…………。」
必死に言い訳をする子供みたいに見えて、私は笑ってしまいそうになった。
「…………つまり、私の為に買ってくれたんだ。ありがとう。」
と微笑んで言うと、九条君は口をゆっくりと開く。
「今日、君に助けられた。日高さんの勘の良さがあの女性を助けられた、感謝している。」
はっきり感謝していると言われて私の心は、ボールみたいに弾んだ。
カッと顔に血が上ったような気がした。
私は焦って口を開く。
「ね、ねぇッ、あのさ、さっきの泥棒を気絶させた技って何?」
訊ねると、首を傾げてから穏やかに微笑んで言う。
「あぁ、みねうちの事か。姐様に伝授された。これなら地に血が流れず、汚すこともない。」
そういう九条君は自分の手を握りしめてフッと笑う。
私はその姿を見つめて、口から声がこぼれる。
「すごいね。」
その言葉を聞いた九条君は驚いて、振り向き私の事をまじまじと見る。
九条君は息を呑んで、恥ずかしそうに俯く。
そして、
「当然だ。」
返事をする。
「…………九条君ってお母様と仲が良いよね。」
「は?」
凝視する彼を見て、お母様の事を私は思い出す。
「お母様は組織のみんなに優しい、でも、特に九条君の事は期待しているんだと思う。」
「ふざけるな…………っ!!」
そういうと、九条君は怒ったように眉を寄せて怒鳴り、溜め息を吐く。
「お前は本当に何もわかっていない。一番、周りから期待されているのは君だ、ボスがデュエロを開くと言ったのも跡継ぎである日高さんを育てるためだと僕は思っている。」
言い残し、スタスタと歩き出す。
「一度褒められたからって調子に乗られては困る。―――勝ち進むんだろう?デュエロ。」
ビシッと怒られ、私は包箱を見つめた。
***
「そうたん、君さぁ。うかたんに厳しすぎない?」
猫月さんに指摘され、僕は顔を手で覆う。
「昨日もうかたんの事を突き放すようなこと言ったんだって?女の子を悲しませるなんていくらそうたんでも許せないなぁ。」
ケラケラ笑ってふざけていた猫月さんは、急に僕の事をキッと睨む。
「確かにあの時、いっぱい褒めてあげてってボク、言ったよね。」
と言われ、僕は口を開く。
「…………何か言っていたのか、日高さんは。」
訊ねると、頬を膨らませて言う。
「言わなくても判るに決まってるよ、超判りやすいんだから。あの子。」
聞いてみると、朝から肩を落としていたそうだ。
「いつまでさ、隠しておくつもり?初めて出会った人として、うかたんを騙して、せめてでも従兄だってことぐらいは伝えたら、どう?」
「このままじゃ、僕は彼女に―――ッ。」
自然に指を握りしめる。
「君は我慢しすぎだ。もちろん、その理由は解ってる、苦しいかもしれない。でも、藤花ちゃんに向き合ったあげるべきだと思うよ。」
そんなすべてを見切ったような猫月さんの言葉に僕は唇を噛み締める。
「君のやっていることはただの“逃げ”でしかないよ。本当は解っているんだろう、何をすべきか。」
図星を当てられて、僕は息を呑む。
「…………いい加減、大人になれ。総司。」
その言葉が僕の心に深く突き刺さった。
何も言い返せなくて、ただ、ただ悔しくて。
考えていることを言葉に出されて恥ずかしくて。
彼女に会わせるのが怖かった。
知られたくなかった。
彼女はいつか、猫月さんたちを通して全てを知ってしまうと思った。
- Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.15 )
- 日時: 2020/03/31 16:03
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
第2章 第6話;「自分の運命を決める闘い。」 【コーヒーの約束と心の距離。】
『一度褒められたからって調子に乗られては困る。』
怒ってた…………あんなこと言ったら怒らせるに決まってる。
調子に乗ってた私。九条君に褒められたからって発言する言葉は一度考えて言わなくちゃ。
もう私の中で悪態は出なくなったって思ってた。
でも全然だったな……なくなったわけじゃなかった。
こうやって人の気持ちを考えないで嫌な気持ちにさせて私って凄く最低だ。
「やっと仲良くなれたのに………怒らせちゃったら終わりだよね。」
そう思い視界に入った可愛い包箱を見つめる。
何かを大切な仲間という存在から貰うのは初めてだった。
大事でまだ開けられていない。
「…………。」
静かに立ち上がり包箱を手に取ってリボンを丁寧に外していく。
「!」
入っていたのは欲しかったゴムだった。
綺麗な月のゴム――――急いで着けていた真っ黒なリボンのゴムを外して月のゴムを使って結ってみる。
いつもの私とは違って見えた。
似合わないと思いあの日諦めて店を出たのに…………気が付いていたんだ。
よく見てるなあ……。
「っ……!」
ほわっと心が温かくなった。
すぐさまお礼を言いたくなった。
貰うだけじゃ悪いと思って部屋のドアを開けた。
いつもいたこのドアの目の前にも九条君はいなかった。
「……それもそうだよね………怒らせちゃったんだもん……。」
一人で呟いた私の心は何故か冷たく冷え切っていた。
頬に少量の涙が伝っていた――――。
***
「…………っ!」
一人、僕は布団の中で悶えていた。
こんなにも遅くまで寝ている日はなかった。
昨日までは5時には起きていたのに今は9時だ。
「あんなこと言わなければよかった………本当に馬鹿だな、僕は。」
と呟いて、布団から起き上がる。
カーテンを開け、朝のすがすがしい日差しを浴びる。
ふわぁっとあくびをした後、洗面台に行こうとすると
『~♪♪』
スマホの着信音が鳴り響いた。
朝に誰から?と思い僕は手に取る。
声を聴いた瞬間、僕は泣きそうになる。
『………あ、の九条君。昨日はごめんなさい、私何にも考えてなかった。』
心配そうな声。
そっか、彼女は僕以上に不安を抱えているんだな。
「僕こそ………強く言ってしまってすまなかった。」
すると日高さんは、
『………ちゃんと、謝りたいしありがとうも伝えたいから明日の午後4時、一緒にコーヒーを飲みませんか?』
と焦ったように言う。
僕は聴きながらスケジュールを確認する。
「その日は僕は生徒会があるから日高さんとは帰りの時間が違うし、どこで待ち合わせをするんだ?」
『あのね……!カフェで飲むんじゃなくてね、わ、私が淹れたいの!!だから、、、部屋に来てくださ、、い。』
日高さんが…………?
『いいかな?』
僕の心は勿論のことながら、弾んだ。
「良いに決まってるが――――日高さんは大丈夫なんだな?」
『明日、じゃあまたあとでね。』
ブツ――――ッ。
明日がとても楽しみになった。
***
今日は九条君とのコーヒーの約束の日だ。
急いで帰って部屋を綺麗にして九条君をもてなしたい。
「「「「それではさようなら。」」」
帰りの挨拶をした後、私は急いで家へと向かう………はずだった。
「藤花!」
名前を呼ばれ、振り向くと黒いリムジンに乗った穂高と何故か乗っていた小倉さんが居た。
「今から帰りか?」
と言われ、私は言う。
「ああ、今から家へと帰りコーヒーの準備をするんだ。」
すると、
「コーヒーって?」
訊ねられて「九条君に淹れてあげるんだ。」と答えると穂高はムッとしたように顔をしかめる。
「?」
「おい、俺の婚約者だ。車に乗せろ。」
黒のスーツを着た男達に穂高はそう言い、私の腕を掴み取り車に乗せようとする。
「穂高、これはどういうことだ!?九条君との約束が私にはあるんだが!?」
と乗せられるのを拒むと、穂高はチッと舌打ちをして私に怒鳴りつける。
「婚約者の方がその約束よりも大切だろ!!…………構わず乗せてくれ。」
グイっと男たちの力は強くなる。
「る、瑠璃!!」
小倉さんは、走ってきた水無瀬君に言う。
「水無瀬…………来て。」
穂高はその言葉に反応し、「奴も乗せろ。」と男達に言う。
水無瀬君は軽々、乗せられてしまった。
***
「こッ、ここは?!!」
―――……ここは中華料理店だな。
「さあ、お前たち。食べるがいい!!」
穂高は上機嫌で料理を頼む。
「北京ダック、食べたい!!」
小倉さんは次々と料理を平らげる。
「帰りたいんだが………どうして、無理やり私を乗せたんだ!!?」
と叫ぶと、穂高は真剣な顔つきになって言う。
「藤花に話すべきことがあるんだ………。」
私はその真剣な眼差しに何も言えなかった。
***
中華料理店に高級ショッピングモール、遊園地…………あっという間に日は暮れて月が光り輝く時間になった。
九条君との約束の時間はもう、過ぎていた。
きっと、また怒っている。
もしくは心配で探していたら…………と考えると途端に会いたくて仕方がなくなった。
「帰りたい。…………帰りたいッ!!」
と叫ぶと穂高は私の頭を優しく撫でた。
「そろそろ種明かしするか。」
その声が掛かり、私は穂高の顔を見つめる。
「――――……九条はお前の従兄で元婚約者だ。」
え?
私は目を見開いた。
「そッ、、そんなわけがない!!嘘を吐いているんでしょッ!?だって九条君が私の元婚約者だとすれば記憶があるはずよ、なのに記憶はない!?どうしてなの?!」
と声を荒げて言うと、穂高は悲しそうに眉を下げてギュッと私の事を抱きしめる。
「こんな事、俺だって言いたくない。だけど………お前は12年前、セグレード能力を使って記憶を失った。両親の記憶から九条に関する記憶、そしてこの事に危機を感じた親父さんが能力を封印して消したんだ。」
穂高の話は全て筋が通っていた。
母様に父様の言う遊んだ記憶もなかったし、能力の事を言うと悲しい顔をして私の事をただ、抱きしめていた。
だから、九条君も―――……?
『知っている。』
『昔から見ている。』
『あまり、昔の事を言うのは……!』
あんなにも初めて出会った時、黙っていたの?
と、なると皆で私の事を騙して演技をしていたって事…………?
嘘、嘘だ……あんなにも信じていたのにも言ってくれなかった??
涙が溢れ出してきた。
もう、信じられない……。
母様も父様も九条君も――――皆、嘘吐き。
「今までごめん。藤花、許してくれ―――……!!」
穂高は私の事をずっと抱きしめてくれていた。
- Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.16 )
- 日時: 2020/03/30 16:21
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
第2章 第7話;「自分の運命を決める闘い。」 【反逆の僕。】
確かめなきゃ、確かめたい…………こんなの嘘だって言ってほしい。
九条君は違うって嘘は吐いてないってお願いだから言って?
ピンポーン。
震える手でインターホンを押す。
「はい。」
九条君の声だ。
私はホッと安心する。
「――――……日高さん。」
気が付くと目の前には九条君が居た。
髪は少し濡れていて眼鏡を掛けていた。
「その様子だと無事だったんですね。」
怪訝そうな顔で私のことを見てくる。
「あ、ごめんなさい。約束が守れなくて…………急に穂高が来てやむを得なかったの!」
と理由を説明して今までどこに居たかを言うと、ますます、九条君の顔は険しくなった。
「日野西との事を僕に謝罪する必要はないと思う、そもそも婚約者同士だしな。それとも、、謝罪するほど満更ではないのか?」
「な、なんで、そんなわけッ!」
私が反応して睨むとクスッと鼻で笑う。
「では日高さんは無意識に、男に気を持たせるのがとても上手なんだな。」
気を持たせる?私がいつ?
約束を破ったのは私、悪いのは解っているでも――――私を侮辱するにも程がありすぎる
「…喧嘩を売っているの?」
と訊ねると
「まさか。僕は日高さんの味方だ。護っている日高さんの手を咬むことなど、あり得るか?」
これは明らかに私の事を咬んでる。
お互いを睨みあっていると九条君は私の手を掬い取って言う。
「覚えておく事だ、日高さん。この指を契約を交わしたことを。」
指を絡めてにこっと怪しく笑った。
「例え何があったとしても。日高さん自身が僕を、拒んだとしても、だ。」
君が―――私と一緒に今までいたのはこの為なの?
聞けない、聞きたくない。
どうして隠して、私の事を脅すのかと。
ずっと約束を気にしていたのに、帰りたかったのに。
こんなにも想っていたのに。
無遠慮な言葉が悔しくて、哀しくて。
「ふざけるのも大概にしろ!!」
私は手を振り払って踵を返した。
口ではこんなことを言っているけどそれでも、どうしようもなくそんな気持ちになってしまう、そんな自分の心の根底にあるものに気がついて。
私は、九条君の事が―――……好きなの………?
目から涙が溢れ出した。
「―――……っ!」
騙されているって解ってても君の事を想っている、という事か。
我ながら馬鹿すぎる。
****
「話さないで頂くことは出来るか?僕に出来る事ならば何でもするから―――……。」
僕は躊躇なく日野西 穂高に向かって跪く。
その僕を見た日野西はフッと声を漏らして手を突き出す。
「だが断る!!!」
断る―――……?
「何故だ。君にとって不都合だからか?」
「それはお前の方だろうが。」
図星をつかれ、僕は黙り込む。
「―――……生憎のところ、もう藤花には種明かしをしてしまった。」
「お前!!」
僕は剣をに抜き、日野西もケラケラ笑いながら剣を振る。
剣を何度も交えていると、
ピンポーン!
エレベーターの音が鳴り響く。
「おっと、ようやく来たな。」
まるで待ちわびていたように言うと僕に目をやり不自然に笑う。
…………ようやく来た―――?まさか!?
「やめてッ!!」
長い二つに結った黒髪、焦った声―――……日高 藤花が居た。
「おはよう、我が婚約者。」
と、日野西が挨拶を言う。
僕も続いて
「おはよう、日高さん。」
挨拶を言うと
「いらない、挨拶なんか―――……その手を離して。」
と苦い顔をしてそっぽを向く。
僕達は交わしていた剣をしまい日高さんに歩み寄る。
「マンションの中、自分達を傷つける行為は止せ!」
心配そうな顔で救急箱の中から絆創膏を丁寧に貼ってくれた。
****
「日高さん、僕は―――……!」
打ち明けようとすると、日高さんは目をギュッと伏せて耳を塞ぐ。
「聞きたくない!―――……心の準備ができたらちゃんと、聞くから。今は、やめて……。それと、私も話したいことがあるの。」
と手を掴まれ、日高さんは小さく「ごめんなさい。」と呟く。
「―――さてと、明日、デュエロ開幕日だ。お互い最善を尽くそうぜ。」
日野西は強引に話をすり替えて日高さんの頭を
「元気出せよ、藤花。」
と言って撫でると日高さんは泣きそうになって小さく頷いた。
僕の奥底に眠っている猛獣。
嫉妬という獣―――……昨日は嫉妬に乗っ取られて理性というものがなくなっていた。
遅くまで日野西といた、他の人もいたのに。
それだけで嫉妬し、日高さんの事を傷つけた。
脅して騙して、侮辱して―――……僕は最低だな。
僕は右手を握り締めた。
- Re: 君を想い出すその時には君の事を――。 ( No.17 )
- 日時: 2020/03/31 16:13
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
第2章 第8話;「自分の運命を決める闘い。」 【セグレードデュエロ、開幕。不安と欲望。】
「遂にセグレードデュエロ開幕で~す!!」
アナウンスが入り、声が上がる。
やっとだ、今日で私の運命が決まる。
「勝利したものは組織のボスの座、願い事が叶えられお嬢と結婚が出来ます!!」
勝つ、絶対に勝たなきゃダメなんだ―――……!
「司会はこの川崎 千乃と三ケ谷 美湖です。よろしくお願いします~!」
私は逸る心臓を抑えながら、戦闘図を見る。
「おっ、気合入ってんじゃん。早いね~!」
「毛ガニ…………。」
「ちょっと、どきなさいよッ。ジャガイモ!」
「ふむ。」
藤谷に北小路さん、小倉さんや水無瀬君、九条君や穂高も私の周りに集まる。
「第一回戦目は―――……あっ、ひのと小倉だ。」
穂高と小倉さんは向き直る。
小倉さんはメロンパンを口いっぱいに頬張りながら不安そうに言う。
「……穂高様と勝負………?」
すると、穂高は小倉さんに対して言う。
「――……らしいな。瑠璃、お互い頑張ろう。」
コクっと頷くと準備室に行ってしまった。
「勝ち抜きか、勝ち進む程相手は強くなるって事。成清は組織のナンバー2だし最後の方か……。」
そう呟くと「元気出せ。」と私の頭を撫でた。
皆と闘いあわなきゃいけない、でも、私は勝ちたいから。
***
「あ、そうたん!やっほ~、瑠璃ちゃんとほっちゃん。殺り合ってるね♪」
会場では小倉さんと日野西が凄まじい闘いをしていた。
「どっちが勝つのか分かってるんだろう?」
僕がそう訊くとニヤッと猫月さんは笑う。
「さぁね~、視ちゃったらつまんないでしょ?」
遊びだと思っているのか―――……この人は。
***
「勝者は大剣を手にする男、穂高~!!!」
と判定されて次の勝負が始まる。
藤谷はニコッと笑って余裕そうにしていて、北小路さんは冷や汗を流していた。
始まる前に会場で会話しているようだった。
***
「紫、勝負が終わったらさ話したいことがあるんだけど。」
ジャガイモは真剣な表情でそう言う。
私は睨み付けて、
「話なんか聞かないわよ、残念でしたね。」
と言ってみると困ったように笑って言う。
「…………じゃあさ、紫に勝ったら俺の事聞いて?」
私に勝てる自信があるって事??
上等じゃあないの―――……ふつふつと湧き上がる怒りを開始とともにジャガイモに当てに行く。
***
「なーんか、北小路。怒ってんな、超コエ―。」
穂高がそう呟く。
私は北小路さんに押されっぱなしの負けちゃいそうな藤谷を見る。
『もう疲れちゃったのか、紫。』
息切れた北小路さんに藤谷は何か言っている。
それに反発してしゃがみ込んでしまっていた北小路さんは立とうとする。
藤谷はゆっくりと歩み寄って行って
『バーン、負けだよ。紫。』
人差し指を向ける。
その時、北小路さんは負けを認めたように苦笑した。
「勝者は―――……獲物を待ちわびる獣、政宗!!!」
***
「俺は、お前に勝つッ!!」
そう水無瀬君に告げられ、私は頷く。
「見てろよ、俺の能力ッ。この身をドラゴンに変えよ!!」
と呪文を叫ぶ水無瀬君は光り輝いて―――……恐ろしいドラゴンに…?
「わああああぁ!!?また失敗した、くそ~!」
と可愛らしいミニドラゴン姿に私は笑いそうになりながらもトドメを刺す。
「勝者は―――……勇敢な黒き少女、藤花!!」
***
「俺な、カッコいいトコ見せたいんだわ。頑張ろうな。」
と藤谷に言われ、私は頷く。
「動きを止めよ―――。」
美しい光に私は戸惑いながらも動きを止められる前に、足蹴りをする。
「勝者は―――……勇敢な黒き少女、藤花!!連続です!!」
***
「何で、俺達負けたんだ…………?」
藤花に負けた俺達は呆然とする。
「その理由は何だと思う~?」
甲高い声が聞こえ、俺達は振り返る。
「成清ッ!」、「猫月ッ!」
名前を呼ぶと手を振る。
「お前は、解ってるって事かよ?」
と訊いてみたら大きく成清は頷いた。
「うかたん自身が、成長して気持ちを固めて……能力と向き合ってるからだよ。」
え?と俺達は顔を見合わせる。
「んじゃ、」
***
穂高と九条君はそれぞれの相手と闘っていた。
穂高の相手は猫月 成清。
九条君の相手はお母様。
「成清を越えてみせる!」
「貴女に僕の成長を見て貰いたいんだ。」
やはり勝ち進んでいる穂高と九条君達。
そんな二人の試合を見ている私にどこからか、不思議な声が掛かってきた。
『―――……聞こえるか、我が主よ。』
これは、私の化身の声…………?
『そうだ、我が主。封印されていたが主が記憶を大体取り戻したおかげでこうやって主と話せるのだ。』
黙っていると言ってくる。
『能力の真実を知りたければ、全てを知りたければ選べ。九条 総司か日野西 穂高か。恋する者をはっきり選べ。』
知りたい―――……でも、『選ぶ。』という事は天秤にかけるって事?
そんなの嫌だ、かけがえのない私の仲間なのに―――。
『また訊ねるぞ。』
声が聞こえなくなり、私は不安が胸に渦巻いていた。
***
「くそッ!」
俺は叫ぶ。
やはり一筋縄ではいかない成清は。ナンバー2の実力はとても強い。
俺はその時、初めて実感する。いつもふざけている成清も本当は強いのだと。
しかし、闘いながら成清との出来事を思い出した俺は、あの時、胸の内を泣きながら話してくれて闘ってくれた成清と本気を出して闘ったことで自分が能力を使えるようになったと心で俺は礼を言った。
交えていた剣を成清に吹っ飛ばされてしまった。
「どうするの、ほっちゃん。」
成清の問いかけに、俺は成清の遥か後ろに居る藤花の姿を見つけた。
「セグレード能力は大切な誰かを守る力。俺の大切な………それは――……!」
セグレード能力で剣を手元に戻し、刃を成清の喉元に突き付けた。
「見事だよ、ほっちゃん。」
誰よりも俺の成長を喜んでくれるふざけた猫の微笑み。
***
一方、菖蒲と戦っている総司の刀には迷いがあった。
姐様に刀を向けている事への迷いだった。
「それで私に勝てると思っているの!?どれだけ、甘く見ているの、総司ッ!?」
姐様に言葉と剣に追い詰められていく。
そんな姐様に心の中で、僕は自分を対等の相手として扱ってくれる事に感謝の気持ちでいっぱいだった。
それでけでなく、家族として迎え入れてくれたあの日から日高さんの家族を大切にしたいという気持ちで、両親を力で眠らせてしまった事への罪から目を反らし日高さんまで避け続けてきた。
しかし、今は違うんだ。いつか目覚める両親と共に歩いていくと決めたんだ………。
ちゃんと、自分のしたことを打ち明けて日高さんに想いを伝えたいんだ。
「覚悟!」
自分に向かってくる姐様の後ろに自分の闘いを見ている日高さんの姿を見つけた。
両親と自分がそう思えるようになれたきっかけは、
「君だ!」
鞘で姐様の攻撃を受け止め、隙をついて刀を拾う。
そしてセグレード能力を使う。
「御免!」
姐様がくらっと眠くなったのを横目に僕は、首に刀を突きつけた。
「見事な峰打ちだったわね。見せて貰ったわ、貴方の成長を―――……。」
勝負がつくと姐様は心から喜ぶ微笑みを浮かべていた。
***
「貴方の手元に戻ってくる運命だとしたら?」
受け取っていた婚約指輪を僕に手渡すと姐様はニコッと優しく微笑む。
もし、藤花が帰ってきてくれる運命なら―――……。
心に何回も刻んだ言葉を僕は言う。
「これを日高さんに渡す為、僕は必ず優勝します。」
僕は彼女に命に誓う。
僕の背後に居た穂高を見て姐様は姐様は口を開く。
「貴方達二人が刃を交えるのもきっと運命が導いた事―――……頑張ってね、二人共。」
そして、いよいよ日野西と僕の試合が始まろうとしている。
勝ったどちらかが、ボスとの挑戦権を賭けて日高さんと闘えるんだ。
「この勝負に全てが、かかっているんだ。僕は負けられないんだ。」
「それは俺もそうだ。」
お互いを睨み合うと握手する。
「僕とも約束しろ!おまえの全てを僕にぶつけると。」
「約束する!俺の全てをかけておまえを倒す!」
総司も同様に誓う。
そして一切手加減なしの二人の闘いが始まった―――……。