コメディ・ライト小説(新)

あやかし町 第一期 #7 ( No.12 )
日時: 2020/05/30 12:23
名前: 鳴海埜 (ID: VHEhwa99)

第一期 #7[鬼神きじん

……彼は今なんと言った…?

「ここ…和国わこくの存在を信じてもらう為。そして…この世界の支配者…鬼神きじん様に会って貰う為だよ。」

そう彼は言ったのだ。だが私は、大変困惑していた。そして何より、不安を抱いた。私が困惑しているのは、和国の存在についてではない。彼が言った鬼神……つまりは『鬼』について、戸惑い、不安になっているのだ。

『鬼』とは、数百年…数千年…いや、それ以上古くからかもしれない、旧い『あやかし』。角が生えており、紅い瞳に、長い爪。冷徹れいてつ残虐ざんぎゃくであり、慈愛じあいに満ちている。鬼は人間を好む(おいしい)。矛盾している様に思えるが、実際は矛盾していない。鬼からすれば、人間は実に美味びみであり、最高の興味の対象でもある。愛しいが故に喰えず、だがやはり、喰ってしまいたい。葛藤かっとうの様な感情を抱く。飽き性のあやかしにとって、人間は_特に、あやかしが見えるたぐいの人間は最高なのだ。鬼は、今も尚その容姿や性格から恐れられ、子供を仕付ける際にも、たとえとして、用いられる。

昔…お爺様じいさまに『鬼には気を付けろ。鬼にだけは絶対に気を許してはならない。』と言われたのを思い出したのだ。その『鬼』に会って欲しいと言われても…。私は、戸惑とまどいを隠しきれない表情で彼を見詰めた。すると彼は、私の視線に気付き、
「大丈夫ですよ。鬼神様はとても良い方です。」
と、安心させるかの様な笑顔を向けてきた。だが、残念ながら、私は安心出来なかった。ふと、彼は思い付いた様に立ち上がり、此方を向いて手を差し出してきた。きょとんと見上げると、
「鬼神様に会いに行く前に、今日はとりあえず、腹拵はらごしらえを済ませて休みましょう。」
そう言われ、私は彼の手を取り立ち上がり、不安を抱きながらも
「え、えぇ…。そうね…御月みつきさんがそう言うのなら…。」
と、渋々と言った様に同意した。

彼は、少し安心した様な表情をした。

「行こうか、咲奈_。」

彼はにっこりと、私に笑い掛けた_。



第一期 第7話 終
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※2月中は更新ペース遅めです。
 予めご了承下さい。