コメディ・ライト小説(新)
- あやかし町 第弍章 #11 ( No.21 )
- 日時: 2020/12/13 23:54
- 名前: 鳴海埜 (ID: 0rBrxZqP)
[読者の皆様へ]お久しぶりです。あやかし町の作者、鳴海埜です。読者の皆様、大変お待たせしました。あやかし町【第弍章】の開幕です。
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第弍章 #11[陰陽]
「咲奈…。…目を覚ましてくれ…。」
咲奈が眠りについてから、今日で3日が経った。僕は、布団で静かに眠る咲奈の頭を優しくゆっくりと撫でた。咲奈は未だに、目を覚ます気配は一切無い。倒れた咲奈は、鬼神様の付き人達によって、鬼神様の屋敷に運ばれた。そして僕は今、鬼神様の屋敷内であり咲奈が眠る部屋に居る。表情の変化もなく、ただただ深く静かに眠る咲奈の姿は、傍目から見れば、まるで亡くなっている様に見える。
「御月よ。居るか…?」
目覚めない咲奈の様子を眺めていると部屋の外から声を掛けられた。きっと鬼神様だろう。
「はい、居ます。…何でしょうか。」
案の定、襖を開ければそこには、この屋敷の主であり、和国内有数の権力者、鬼神様が居た。
「咲奈の様子を見に来たんだよ。…どうだ?なにか…変わったこと等はあったかい…?」
鬼神様はそう問い掛けながら、部屋へと入り、咲奈が眠る布団の横へと腰を下ろした。普段、表情を崩す事がない事で有名な鬼神様の顔には、不安とほんの少しだが、恐怖が滲み出ていた。
「……いいえ…。特に…変わったことは何も…。」
僕がそう答えると、鬼神様は静かに、目を伏せ、小さく頷いただけだった。
きっと、鬼神様自身も答えは分かっていたのだろう。お互い静かになり、ただただ静寂の時間が流れていく。
「ここに…奴が居てくれたら…な…」
そうぼそりと言うと、鬼神様はまた黙ってしまった。鬼神様が言う『奴』とは、一体誰のことなのか。僕には分からなかった。鬼神様が、居てくれたら、と願う程の人物…一体誰だろう。
「あの、鬼神様。付かぬことをお伺いしますが…。鬼神様が先程仰った『奴』とは、一体誰の事なのでしょうか…?」
そう問い掛けると、鬼神様は一度目を伏せ小さく息を吐くと、ぽつりぽつりと言葉を溢して言った。
「…『奴』は…陰陽の血筋の人間だよ。そして、今眠ってしまっている咲奈の祖父、と言ったら良いのかな…。」
陰陽の血筋、人間、咲奈の祖父…。まさか…まさかあの人が、鬼神様と面識があったなんて知らなかった。僕も咲奈のお爺さんとは昔面識がある。とても良くしてもらっていた記憶がある。
「奴の、人間としての名前は知っているだろう。だが、奴にはもう一つの名がある。ここ、和国でも極一部の者しか知らない名だ…。…奴の名は……」
「 _ 陰陽神と言う _ 」
第弍章 第11話 終
- Re: あやかし町【第一期 第弍章 開幕!! 】 ( No.22 )
- 日時: 2020/12/13 00:42
- 名前: 鳴海埜 (ID: 0rBrxZqP)
第弐章 #12[厄月]
「…奴の名は………陰陽神と言う。」
陰陽神とは、あやかしと対話できるだけでなく、あやかしと同等、又はそれ以上に強大な力を持った者の事だ。
まさか、彼がそんなに凄い者だったなんて、知らなかった。むしろ、知るわけがない。何故なら、陰陽神はあやかしの敵でも味方でもない存在。それ故に、敵にまわせば敵う訳がない。そんな恐ろしい事を公言する訳がない。
「ははっ。恐ろしい、と思ったか?他のあやかし達よりも、最も奴の近くに居たのは、御月。お前だろう。」
そうだ。僕が最も彼の近くに居た。"居た筈"なんだ。でも彼は、そんな事を一言も口にせず、そんな素振りもなかった。
「お前は奴の何を見てきた?奴があやかしを殺める様な者だと思うのか?
むしろ、奴は救ってくれたよ。私達を…この和国をな。」
鬼神様はそう言って、ほんの一瞬、寂しそうな少し悲しそうな微笑を浮かべた、様な気がした。
「先程"救ってくれた"と仰いましたが和国に何かあったのですか?」
僕がそう聞いた瞬間、冷酷で淡々とした、普段の鬼神様の表情に戻ってしまった。和国に危険が及ぶだなんて、普通ならば考えられない。和国には、鬼神様を含む、5人の強力なあやかし『五光』が居るのだから。
「あれは…厄月と呼ばれる、あやかしにとって、最も厄介な月の事だ。その年の厄月は、今までの厄月の中で、最も最悪な月だった。」
_そうぽつりぽつりと話し始めた_。
第弐章 第12話 終
- Re: あやかし町【第一期 第弍章 開幕!! 】 ( No.23 )
- 日時: 2020/12/13 00:40
- 名前: 鳴海埜 (ID: 0rBrxZqP)
この度は、報告もなしに1ヶ月もの間執筆を放棄しまい申し訳ありませんでした。諸事情により、ここ1ヶ月間とても忙しく、執筆する時間もありませんでした。
続きを楽しみにしてくれていた方々には大変申し訳なく思っております。
それでも、この作品を完結させるまでは、必ず執筆は続けていくつもりですので、どうか暖かい目で見守って頂けると幸いです。<(_ _)>
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第弐章 #13[異形]
「あれは…厄月と呼ばれる、あやかしにとって、最も厄介な年の事だ。その年は、今までの厄月の中でも、最も最悪な月だった。」
厄月…人間界に存在する厄年と似ており、あやかしの国"和国"でいう厄月とは『多くの怨念や惡霊などの異形達が集い群れとなり、その大群が和国中を徘徊し暴れまわる月』を指す。
「鬼神様ほどのお強い方でも、厄介と思われるほどのものだったということですか…恐ろしいですね…。」
鬼神様は五光の一人であり、その中でも一位二位を競うほどの強さだ。そんな鬼神様でも厄介だなんて…どれほどの災害だったのだろう。
「あぁ。実に恐ろしいな。だが私は、
奴(嶋哉)がたった一人で大群全てを処理してしまったことに対しても恐ろしいと思うよ。」
"たった一人"。いくら陰陽の者と言えども、人間なことに変わりはない。不死身ではないし、傷の治りも勿論遅い。それなのに、たった一人で、異形の大群を相手にし、全て処理した…。
「奴は、陰陽の者達の中でも、桁外れに強かったと言っても過言ではないだろうな。」
鬼神様はそう言うと、今も尚眠ったままの咲奈を見つめながらこう呟いた。
「"嶋哉"には本当に感謝してるよ。今も生きていたのなら…酒を交わし昔の話でもしたかったもんだ。あの時の礼も言えてないままだしな…。」
まただ。またさっきの顔だ。寂しそうな、悲しそうな顔。端から見ると普段となんら変わらないだろうけれど、何故か僕にはそう見えたんだ。
しばらくの間、お互い無言の時間が続いていたが、仕事があるから、と鬼神様は部屋を出ていった。部屋を出ていく際に、何やら咲奈に触れていた様に見えたが、あれは気のせいだったのだろうか…。
__その眠ったままの咲奈の手元には、小さめの鈴が2つ付いた紅白の腕紐が握らされていたのだった__。
第弐章 第13話 終
- Re: あやかし町【 第一期 第弍章 開幕!! 】 ( No.24 )
- 日時: 2021/01/02 14:04
- 名前: 鳴海埜 (ID: s/G6V5Ad)
第弐章 #14[襲撃]
__冷たい暗闇の中を落ちていく感覚がしばらく続いていた__。
「…んん………ッ…ここ……は…?」
目が覚めると、そこは知らない場所だった。いや、正確に言うと"見覚えのない"場所だろう。目の前に広がる世界は、あやかしの住む国である和国の中央町の町並みに似ていた。しかし、私が知っている中央町とは雰囲気が全く違った。
建物は瓦が剥がれ瓦礫が散らばっており、中には半壊しているもの、傾いているものもいくつか見える。そして、最も私が知っている中央町と違う点は、黒い霧のような、人や動物の姿にも見える"なにか"が大量に宙を舞っている事だ。暗い空に溶け混んでいる様で姿が見えずらい。その"なにか"は、到底聞き取れない様な叫び声を上げて、町中を飛び回り建物を破壊し、逃げ遅れたあやかし達に襲い掛かっている。
襲われたあやかし達は、次々とその場で気を失い倒れていく。
私は、その様子をただ呆然と眺めている事しか出来なかった。今私が見ているこの状況は本当にあった事なのか、それともただの夢なのか。これがただの夢だとしても、何故私がこの様な夢を見ているのかと思っていたその時、周囲に異変が起きた。
あやかし達の悲鳴や叫び声で騒がしかったはずの町中は、唐突に雷鳴の様な大きな音が響き渡ったと同時に、喧騒はピタリと止み、辺りは静まり返った。
そっと顔を上げ視線を道の中心へ動かす。
すると、視線の先には土煙が立ち上がる道に1つの人影が見えた。
『あーあ。楽しく和国を観光してる最中だったのによぉ…たかが異形の分際で…よくも俺の邪魔してくれたなぁ?あ"ぁ"?』
__静まり返った辺りには、怒りに満ちた声がよく響き渡った__。
第弐章 第14話 終
- Re: あやかし町【 第一期 第弍章 開幕!! 】 ( No.25 )
- 日時: 2021/01/06 00:24
- 名前: 鳴海埜 (ID: PNMWYXxS)
第弍章 #15[黒霧]
『__あーあ。楽しく和国を観光してる最中だったのによぉ…たかが異形の分際で…よくも俺の邪魔してくれたなぁ?あ"ぁ"?__』
怒りに満ちた若い男の声が響き渡る。
「おいおい、黒霧。お前ら一体何様のつもりだ?この俺が!和国を!楽しく!観光してたんだぞ?!邪魔したからには…覚悟は出来てるよなぁ?」
雷鳴のような大きな音と共に現れた男が黒い何かに対して怒りの言葉を投げ掛けていた。ふと、何かの気配を感じ周りを見渡すと、逃げ遅れていたあやかし達はいつの間にか消えており、代わりに1つの人影が見えた。
『…人…影....?いや...でも…気配はあやかし…それに…知っている様な気がする…あの人影は…一体……?』
私がそんなことを考えていると、また雷鳴が落ちたような大きな音がした。
私は、その音にハッとし、男が先程まで居た方向を見ると、そこに姿はなく土煙が立ち昇っているだけだった。周囲を見渡すと、男の姿を見つけた。男は屋根へ屋根へ飛び移りながら、黒霧と呼んでいた黒い何かを、華麗に次々と斬り裂き浄化していたのだった。
その様子を眺めていた時、私のすぐ側で、着地する様な足音と男の声が聞こえた。
「…よっと……。さぁて、お前で最後だ。そうだ、俺は優しいから一つ忠告してやるよ。……お前らがここにいる資格はねぇよ…。じゃあな。」
男が地を這うような声で言った後、ザンッと斬り裂く様な音がした。
「すまん、鬼神。俺が来るのが遅れたせいで被害がデカくなった。すまん。」
男がそう言うと、少し離れた所に居た人影が、こちらへ歩み寄りながら苦笑混じりにこう言った。
「いやいや、これで充分さ。それ以上謝らないでくれ。」
青年のような声だが、あまり感情の読み取れないような声にも感じた。それに"鬼神"という名前が聞こえたが、まさか…と考えていたその時、丁度顔が露になった。そして私は目を丸くした。
__その顔は…私の知っているあの鬼神様にそっくりだったのだ__。
第弍章 第15話 終
- Re: あやかし町【 第一期 第弍章 開幕!! 】 ( No.26 )
- 日時: 2021/03/30 22:39
- 名前: 鳴海埜 (ID: gF4d7gY7)
第弍章 #16[夢造]
__なぜ…鬼神様が…ここに…?__
果たして本当に、あそこに立っているあやかしは鬼神様なのだろうか。もし本人だとしたら、私が知っている鬼神様よりも、声がやや若いような気がするのは気のせいなのだろうか。そもそも、鬼神様にそっくりな彼の隣に居る男性は一体何者なんだろう。知らないはずなのに、何故か見覚えがあるような気もする。私は、若い男性が一体誰なのか、何故見覚えがあるのか分からず頭を悩ませていた。するとその時、よく知る名前が聞こえてきた。
「ところで、嶋哉。先程『和国を観光していた』と言ったのは、私の聞き間違いか?」
『…と……うや…?…今…嶋哉…って…聞こえたような……』"九十九嶋哉"は、私のお爺様であり、親代わり"だった"人。気が付いた時には父も母も居なくなっており、独りぼっちになってしまった私を快く家に迎え入れ育ててくれた、私に残った唯一の大切な家族の名前だ。それを何故、このあやかしは知っているのだろう。私が悶々と思考している間にも二人は仲良さそうに話をしていた。すると突然、耳元で見知らぬ声がした。
「此処は数年前の和国だよ。所謂過去の世界ってヤツさ。」
私はその声に恐怖を感じ、勢いよく振り返り後退った。そこには、不気味な微笑を浮かべる人の姿があった。いや、人の姿こそしているけれど、気配はあやかしのような、しかし、先程黒霧と呼ばれていたもの達と少し似ている気がした。
「僕が誰だか分からないって顔だねェ。会ったことないし当然の反応さ。僕の名前は夢造。君のお爺様、えェーと、嶋哉だっけェ?アイツの知り合いって感じダヨ~仲良くしようねェ、孫娘チャン♡」
そう言って、私の額に口付けをしてきた。私はそれに鳥肌が立ち『ひぃっ…』と小さく悲鳴をあげた。気持ち悪かったというのもあるが、それとは別に、"謎の恐怖"を感じたからだ。態度はヘラヘラしていて何を考えているのか分からない。表情は不気味な微笑を浮かべているだけだった。
「そんなに恐がらないでよォ~大丈夫大丈夫ゥ~取って食ったりはしないよォ。………今は…ネ♡」
口ではそう言っているが、表情が、不気味な微笑を浮かべているのは変わらないのが余計に、恐怖心を増幅させていた。そもそも、何故私が過去の世界に居るのか、それも現実世界の過去ではなく"和国の過去"な理由も分からず困惑していた。私は和国の過去とは一切関係ないはず…。関係があるとすればお爺様しかいない、しかし、お爺様はもう亡くなってしまった。では、他にどんな関係が…。そう思っていた時、今までのヘラヘラとした態度から一変し真剣な態度になり、表情は無くなりより一層恐怖を感じた。
「何故君がここに居るのかって思ってるでしょ。理由は簡単。君が鬼神と出会ったから。君のじいさんは鬼神と関係性が深い。そしてアイツは鬼神と何か契約を交わしている。そして、その契約は君に関係がある、しかし君はそれを忘れているんだ。」
『鬼神様とお爺様が…契約……契約に私が…私は一体何を忘れている…?』
鬼神様とお爺様が契約を交わしていたなんて知らなかった。…いや、本当に知らなかっただろうか。本当に私は、何かを忘れているのではないか。それもとても大切な何かを…私は…何を忘れているのだろう。
「僕が君をこの世界に呼んだのは、その契約の内容を思い出してもらう為さ。君がそれを思い出さない限り、君はこの世界からは出られないよ。」
そう言うと、『逃がさない』とでも言うように私の腕を掴み、ぐいっと引っ張ると再び不気味な笑みを浮かべた。
「この世界から出たいならァ~頑張って思い出してねェ。……まァ…出られる保証はしないけどね…♡」
第弍章 第16話 終
- Re: あやかし町【 第一期 第弍章 開幕!! 】 ( No.27 )
- 日時: 2021/02/24 08:43
- 名前: 鳴海埜 (ID: V7PQ7NeQ)
第弍章 #17[契約]
__私は"何か"を忘れている…?__
夢造は怪しげに笑い小さく呟くと、景色に溶け混む様にスッと姿を消した。そして、その場にはもうお爺様と鬼神様の姿はなく、私だけが取り残されていた。
「一体2人はどこに行ったのかしら…あの怪しい夢造とかいう者も…」
ゆっくりと立ち上がり軽く辺りを見渡したが、やはり2人の姿は見えない。
いつの間にか辺りはすっかり暗くなっていたようで、遠くで和太鼓の音が鳴っているのが聴こえてきた。私がいる近辺は黒霧達によって崩れ落ちた瓦礫がいくつも落ちているだけだった。
「と、とりあえず音が鳴る方に行くしかないわね…。それにしても、契約って一体なんなのかしら…。それに…私が何かを忘れているって言っていたけど…」
ぶつぶつと独り言を呟きながらも、和太鼓の鳴る方へ、灯りの方へ歩みを進める。歩き続けている内に、目的の場所に着いていたようだ。気が付けば私は、紅い灯りの提灯が付いた店がいくつも並んだ商店街らしき場所に居た。
私はその場所に見覚えがあった。和国に来てから、御月と行った、そして鬼神様と出会った食堂があった景色と少し似ている気がした。
「でもやっぱり建物が全て古い気がする…過去に来ているのだから当然と言えば当然の事…って、あ…。」
街並みを眺めながら歩いていた時、人混みの先にお爺様と鬼神様の姿を見付けた。しかし、夜祭り中のせいかあやかしの往来が激しく、数も多い為2人の姿を見失いそうになってしまう。
「私の姿は見えていない様だし…このままついていっても大丈夫…よね。」
私は2人の事を走って追った。2人は何やら話しているようで、時折お爺様が笑う様子が見えた。ようやく2人に追い付た私は、会話の内容が聞こえてきた。
「ところで鬼神。お前婚約相手は見つけたのか?もしまだ決めてないなら…俺の孫娘をやろうか?」
___えっ…?今…孫娘…って…__
「嶋哉。知っていると思うが、私は人間ではない、鬼だ。鬼の私に人間の女を嫁に貰えと言っている危険性を分かっているのか?貴様は孫娘が大事ではないと言うのか?」
一体何故…お爺様が私を鬼神様に…?
第弍章 第17話 終
- Re: あやかし町【 第一期 第弍章 開幕!! 】 ( No.28 )
- 日時: 2021/03/20 22:27
- 名前: 鳴海埜 (ID: gF4d7gY7)
第弍章 #18[代償]
「いいや、大事に決まってるさ。そんな気軽に"はい、どうぞ"なんて、危険なあやかしに渡すわけがないだろ?」
__お爺様が鬼神様と契約した内容って…絶対私の事、よね…。でも…どうしてお爺様が…こんなこと…__
もしも、本当に契約の内容が"私を鬼神様の許嫁として渡す事"だったとしたら…御月の件は"嘘"になる。嘘の可能性は充分あるはずなのに、なぜか私は御月は嘘はついていないと思った。
「ならなぜそんな提案をする。まさか、この私と"契約しよう"などと言わないだろうな。…私と契約をする場合、代償はかなり大きくなるぞ。」
代償…また新しい単語が出てきた。会話の内容から、契約するには代償が必要ということは理解できた。がしかし、その"代償"が一体どんなものなのか分からず、もし生命に関わる重いものだったらどうしよう、という不安に私は押し潰されそうだった。
「…代償か。なるほどなぁ。なぁ、鬼神よ。もし、俺がお前と契約をする、と言った場合俺はなにを代償に払えばいいか、教えてくれないか。」
___私の声は二人には聞こえないと分かっているのに、一言一句聞き逃さぬように息を殺して耳を傾けている。
「契約の内容によって代償は変わるものだ。契約の内容に命が関わるようなものであれば、それ相応の代償が伴う。例えば…記憶あるいは寿命等。」
「なるほど。じゃあ、もし俺が"お前の全てを賭けて咲奈を守れ"と言ったら代償はどうなる?」
"全てを賭けて…鬼神様が私を守る"?
「私の全てを賭けるとなると…貴様の記憶または寿命が代償だな。ただ、私のせいで貴様が早死にするのは御免だ。そうだな…貴様が"和国に出入りしていた時の記憶"はどうだろう。」
出入りしていた時の記憶…今ここに存在し、鬼神様と契約の話をしている記憶が消えるということだろう。お爺様が和国の事を、契約の事を話さなかったのは"忘れていた"のではなく"記憶が消されていた"からだとしたら…。
「あー…てことは、今お前と話してる事もお前の存在自体も忘れるってこと…だよな。それは…寂しいな…。」
寂しいと呟いた後乾いた笑いを溢しただけで、それ以外何も言わなかった。
ただひたすらに静かで少し気まずい雰囲気のまま時間が経っていくのを眺めているしかない私は、見えるわけがない二人の間に無理矢理割って入った。
第弍章 第18話 終