コメディ・ライト小説(新)

Re: あやかし町【 第一期 第弍章 開幕!! 】 ( No.26 )
日時: 2021/03/30 22:39
名前: 鳴海埜 (ID: gF4d7gY7)

第弍章 #16[夢造むぞう


__なぜ…鬼神様が…ここに…?__

果たして本当に、あそこに立っているあやかしは鬼神様なのだろうか。もし本人だとしたら、私が知っている鬼神様よりも、声がやや若いような気がするのは気のせいなのだろうか。そもそも、鬼神様にそっくりな彼の隣に居る男性は一体何者なんだろう。知らないはずなのに、何故か見覚えがあるような気もする。私は、若い男性が一体誰なのか、何故見覚えがあるのか分からず頭を悩ませていた。するとその時、よく知る名前が聞こえてきた。

「ところで、嶋哉とうや。先程『和国を観光していた』と言ったのは、私の聞き間違いか?」

『…と……うや…?…今…嶋哉…って…聞こえたような……』"九十九つくも嶋哉とうや"は、私のお爺様であり、親代わり"だった"人。気が付いた時には父も母も居なくなっており、独りぼっちになってしまった私を快く家に迎え入れ育ててくれた、私に残った唯一の大切な家族の名前だ。それを何故、このあやかしは知っているのだろう。私が悶々と思考している間にも二人は仲良さそうに話をしていた。すると突然、耳元で見知らぬ声がした。

「此処は数年前の和国だよ。所謂いわゆる過去の世界ってヤツさ。」

私はその声に恐怖を感じ、勢いよく振り返り後退った。そこには、不気味な微笑を浮かべる人の姿があった。いや、人の姿こそしているけれど、気配はあやかしのような、しかし、先程黒霧と呼ばれていたもの達と少し似ている気がした。

「僕が誰だか分からないって顔だねェ。会ったことないし当然の反応さ。僕の名前は夢造むぞう。君のお爺様、えェーと、嶋哉だっけェ?アイツの知り合いって感じダヨ~仲良くしようねェ、孫娘チャン♡」

そう言って、私の額に口付けをしてきた。私はそれに鳥肌が立ち『ひぃっ…』と小さく悲鳴をあげた。気持ち悪かったというのもあるが、それとは別に、"謎の恐怖"を感じたからだ。態度はヘラヘラしていて何を考えているのか分からない。表情は不気味な微笑を浮かべているだけだった。

「そんなに恐がらないでよォ~大丈夫大丈夫ゥ~取って食ったりはしないよォ。………今は…ネ♡」

口ではそう言っているが、表情が、不気味な微笑を浮かべているのは変わらないのが余計に、恐怖心を増幅させていた。そもそも、何故私が過去の世界に居るのか、それも現実世界の過去ではなく"和国の過去"な理由ワケも分からず困惑していた。私は和国の過去とは一切関係ないはず…。関係があるとすればお爺様しかいない、しかし、お爺様はもう亡くなってしまった。では、他にどんな関係が…。そう思っていた時、今までのヘラヘラとした態度から一変し真剣な態度になり、表情は無くなりより一層恐怖を感じた。

「何故君がここに居るのかって思ってるでしょ。理由は簡単。君が鬼神と出会ったから。君のじいさんは鬼神と関係性が深い。そしてアイツは鬼神と何か契約を交わしている。そして、その契約は君に関係がある、しかし君はそれを忘れているんだ。」

『鬼神様とお爺様が…契約……契約に私が…私は一体何を忘れている…?』
鬼神様とお爺様が契約を交わしていたなんて知らなかった。…いや、本当に知らなかっただろうか。本当に私は、何かを忘れているのではないか。それもとても大切な何かを…私は…何を忘れているのだろう。

「僕が君をこの世界に呼んだのは、その契約の内容を思い出してもらう為さ。君がそれを思い出さない限り、君はこの世界からは出られないよ。」

そう言うと、『逃がさない』とでも言うように私の腕を掴み、ぐいっと引っ張ると再び不気味な笑みを浮かべた。

「この世界から出たいならァ~頑張って思い出してねェ。……まァ…出られる保証はしないけどね…♡」

第弍章 第16話 終