コメディ・ライト小説(新)

Re: 星の詩 ( No.2 )
日時: 2019/12/31 21:09
名前: 雪 (ID: D.48ZWS.)


 1話  不穏の面影


 ー楠木くすのき高等学校…。

 日本で有数の実力と財力を掲げる校。
偏差値は68。常人では進学出来ないほどの難関校だと言う。比較的大人しめの生徒も居れば、高校デビュー早々ハイカラな生徒もちらついている。
都会に位置するマイナーな地域、楠木区だが、この高校の見栄のせいか今では活気溢れる学生の聖地として人気を集めている様だ。

創立50周年の今日こんにちまで、多くの偉業を成し遂げて来たらしい。
ほら、よくそこらで見かけるような芸能人達や権力を誇るトップ官僚達。
はたまた今ブーム回旋が舞っているスポーツ選手達、ノーベル賞を獲得したお偉いさんの科学者達も、毎年この学校で育成されそしてそして毎年ここから巣立って来ているのである。才能を持って輝く人間もいれば、御令嬢御子息などなど、親の財力と権力と…(言うならば“コネ”。)で入って来た生徒もいる。
…まぁ、私がほざくようなことでは無いが…。

さらには中心にそびえ立つ校舎のお飾りとして、明るみを帯びた学園都市が踊っている。
厳重な警備で外に出ることは禁じられ、いつかホームシックになりそうな寮に強制移住させられるからか、学生達の憩いの場でもあり一種のデートスポットとしてアリのように生徒達が集っている外見だ。

「…ここから新生活が始まるのかぁ…。」

 雰囲気に負かされて、辺りを360度凝視しきる。 

広がった雄大な敷地…。
ショートケーキ色の校舎がそびえ立つ横。
学生達の息吹きを掴みながら、“新しい”で埋め尽くす時。 
さらに奏でてくる、精一杯楽しんだ学生の程良い笑い声。
さらに待ち受ける祝福の絶頂に向かって、私は地面を強く踏みしめた。







…とか言っても、何が祝福の絶頂だよ…。

厳かな『楠木高校入学式』。…いや、もはや厳かでは無い気がする。
開会の言葉、校長の話、教頭の話、教務主任の話、PTA会長の話、3年生主任の話、2年生主任の話、1年生主任の話、楠木区区長の話、楠木区出身のどっかの政治家の話、そして児童代表の言葉…。話多すぎないっ!?ここで取り乱したくなるが、いつの間にか生み出された張り詰める空気を目の前にして自然と引き戻されて行く。
周りには上の空の生徒達。
もはや“面倒臭い”と言う感情が素晴らしいほど表現されている。
そして目の前には…胡散臭い校長。感情が抜けた大衆達をかき集めた校長は、優雅に弁舌を開いている。校長は、虚しく戯れている郡魚を率いれる揺るぎない先頭魚のように、悠然と肝が座っているようだ。
口調と言い、格好と言い…そして何より物足りない頭。
その場にいた全員が、めんどくさいリーダーだと悟ったのは無理もない。


    ーー終わった…。

やる気無しの目蓋をひとつ擦るとそのまま1年のオープンルームへ向かう…。

「リン〜。ちょっとちょっと!こっちー。」

人だかりの中から突き抜かれたひとつの手。

「綾瀬…!」

まさに迷宮だ。
湧き出る人混みは、蠢く様に移動する。
光色に輝くクラス発表の板に向かって一直線。そこには沢山の氏名が書いてあった。

『1年B組 片倉 リン』

「ほぉー、リンはB組か。」

アホらしい姿でパーカーを羽織っている綾瀬。
まだ目を離せないほどの笑い方は、呆れさせているのか、和ませているのか…。

『1年F組 桐ヶ谷 綾瀬』


「うっわあっ〜。離れちゃったかあ。」

“離れた”。
…え。まさかの…ぼっち?

呆然と立ち尽くす私。
いったい高校デビューはどうなってしまっているのだろうか…!