コメディ・ライト小説(新)
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.2 )
- 日時: 2020/01/25 10:04
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
一章1 戦
――――ある夢を見ているのか。もしくはここは天国か。
俺は森林を貫いている小道に寝転んでいた。
「‥‥ここは、死後の世界か何かか?俺はもう成仏したのか。」
俺の家系は仏教の浄土真宗で、死んだらすぐ仏さんって事だった。49日を待たない。
死んだら魂だけになるって思い、女湯や女子更衣室を覗くのが楽しみだったが‥‥
「はぁ、何だか残念だ。どうせ死ぬんだったらあんな事や‥‥」
「そんな事悔やんでも仕方ねぇな。‥死後の世界を探索するか。」
俺はこの小道を太陽の方向に向かって歩き始めた。
時は正午。死後を満喫しようじゃないか。
―――しばらく歩き10分くらい経ったか。
俺の視線には休憩している御者がいた。近くには馬車が止まっている。
「馬車、車は欧州の物か。」
小走りで御者に近づき色々と聞こうと思った。
何を聞こうか‥‥。
知りたい事と言えば、
・ここは何処か。
・死後の世界なのか。
と言う事か。
「(まずは挨拶だな)やぁ。」
御者の若い男はこちらを向き、少し驚いたように挨拶を返してきた。
よし、愛想は良いようだ。
「こんにちは!旅のお方ですか?」
「は、はぁそんな者に当たらずも遠からず…。実は色々と聞きたい事があって…」
「良いですよ。」
俺は少し笑いながら、ここは日本の何処なのかを聞いた。
だが、彼は何か不思議そうな顔をして答えた。
「ここは‥‥<二ホン>なる所じゃないのですが…」
「なッ?!‥‥日本じゃない?でも、日本語が通じる‥‥」
「旅人の方ですのに知らないとは不思議な人ですね。ここは<スタインフォッド森林>ですよ。」
「すたいんふぉっど?じ、じゃあここは何と言う国で?…」
「ほんっと変な旅人さんですね。ここは<ロズポンド王国>ですよ。」
ロズポンド‥‥そんな国存在しないが。
俺の謎は深まるばかりだ。ヨーロッパ諸国なのか?
「ろずぽんど、王国?‥‥」
「ええ。この馬車で王都まで送りましょうか。」
「(馬車か…運賃請求されても金がねぇな。通貨が違うかもしれん)…結構。お金もないんで。」
「いえ、お金はいりませんよ、ここに来る亡命者を救済するため、陛下が実施なされた制度ですから」
ならば、言葉に甘えようか。
俺はそれを聞いて馬と車を眺めた。王様がするように命令したのか。
それだけあって、やたら綺麗な馬車だ。
「亡命者?向こうは何なんだ?」
「<ソビエティア共産主義連合>です。沢山の人が向こうで殺されたりしてるんです。ですから隣国である我が国に亡命する人も少なくないんですよ。」
「ソビエティア‥‥。ソ連みたいだな‥‥」
この会話からどうやら死後の世界ではなく、恐らく何かの夢だろうか。
これが明晰夢って奴か。ゆっくり休んでいこうか。
‥‥ってか俺、変な夢見るんだなぁ。<ソビエティア共産主義連合>って‥‥ソ連かよ。
俺、そこまで世界史に詳しくねぇのになぁ。
「―――――乗らないんですか?」
「‥‥!?あ、ああ。乗るよ。」
突然の声掛けにビクッとし、俺は馬車に乗り込んだ。
内装は近代的だ。無線機のような物が置いてある。
「ハイヤッ!」
御者が馬に鞭を打ち、馬が走り出した。
ガタン、音を立て動き始める。
「これは、揺れるなぁ‥‥。馬車なんて初めてだ。」
「‥‥どうですか、乗り心地は!速いでしょう?!」
外の景色を見てみる。目の前で過ぎていく。
なるほど、これは速い。
「やけに速いようですが、これは軍馬か何かか?」
「はい!王立近衛師団の騎兵の馬です!そんじょそこらの馬とは書くが違いますよ!」
そのまま小道を走り抜けて行くと、森林の景色から草原の景色に変わった。
とても広い草原だ。大陸国家か。
「少し急ぎますよ!ソビエティアの軍が威力偵察してくるかも知れません!」
「…えっ?軍が来るのか!?」
「ええ!下手したら撃ち殺されます!‥‥ハイヤッ!!!」
御者は馬に鞭を打ち、馬をせかした。
馬はいななきながら、足を速めた。俺は車輪が外れてこけるんじゃないかと心配していた。
小石に馬車が跳ねながら疾走を続けた。景色が一瞬で流れていく。
「旅人さん!そういや名前を聞いてませんでしたッ!僕は<マルーン・ハンス>です!」
「ああ、名前か!俺は<津々良 啓二>だ!東京警視庁の刑事だよ!」
「‥‥!?<トウキョウ>って何処ですか!」
「ああ!俺の祖国の首都だよ!(やはり、ここは俺の知ってる世界じゃないのか‥‥)」
「そうですか!いつか行ってみたいものです!‥‥もうすぐ着きますよ!」
その言葉を聞き、俺は馬車の前方を見てみた。
目の前に非常に巨大な城壁に囲まれた都市があった。
――――城塞都市か。
赤レンガで出来ているようで、城壁は赤かった。
‥‥そうこうしてると御者が少し焦った様子で話しかけてきた。
「‥‥‥ツツラさんッ、聞こえますか!?」
俺は何の事だか分からなかった。
「何がだァ!?」
「サイレンの音です!鳴っているでしょう!」
耳を澄ませてみると遠くから空襲警報のような音が聞こえる。
まさか戦争状態なのだろうか。
俺は周囲を見渡し、馬車の後ろに目をやった。
そこには大きな飛行物があった。
「ハンス!あ、ありゃなんだ!飛行船か?!デケェな!!!」
「そ、そうですよ!ソビエティア軍のものですよ!さっき言った威力偵察かも知れません!」
そういってハンスは再度鞭を打ち、馬をせかした。
バチンッ!と大きな音が鳴る。
ハンスはとても焦っているようだ。もしかしたらとても悪いことの起きる予兆かも知れない。
「城門の前に着きました!城塞内に入れば安心ですよ!」
「‥お、おいそんな事言ったら大抵良くない事が…」
そんな矢先に、ソビエティア軍の攻撃機が後方から飛んできた。
見た目はレシプロ機。時代は二次大戦と似ている。
その攻撃機が城門に向かって飛んでいる。
「あれはダメだ!引き返せ!」
「ッ!?何を言って――――――
その時、攻撃機から爆弾が落とされ、城門の命中し、強力な爆風が巻き起こり、砂塵と黒煙が吹き上がった。
同時に発した巨大な爆音にハンスの声は掻き消された。
―――全速力で疾走していた馬車は倒れ、俺は上下左右が転換した。
‥‥なんかデジャブだ。
「‥‥!ハンスッ!ハンス大丈夫か!」
俺は馬車の外に投げ出されたらしく、目を覚ますと地面に倒れていた。
起き上がると体の節々が痛む。どうやら夢じゃねぇみたいだ。
そんな痛みの他所にハンスを探した。
「ツツラ‥さん!僕は‥‥ここです!」
ハンスは馬の体の下敷きになっていた。
その馬は血だらけで、ハンスもその血を被っていた。
顔から体にかけて赤くなっており、赤鬼のような何かか。
「ハンス!今、助けんぞ!」
「あ、ありがとうございます…!」
幸い、俺はケガをせずに済んだようだ。
その代わり馬は体のあちこちが傷だらけの状態で死んでいた。
可哀想に‥‥。そう思いながら必死にハンスを引き出した。
「大丈夫か!」
「ええ、かすり傷程度ですよ。ど、どうやらソビエティア軍の攻撃が来たようですね‥‥」
「も、もしや戦争か!?‥‥いや、とりあえず逃げよう!何処に!?」
「城門は爆撃でボロボロのようです。恐らくこちら東門ですから、右に迂回して北門に向かいましょう!そこならまだ開くはずです!」
「よし行こう!」
城壁に沿いながら北門へ走った。
大きなサイレンが響く中、沢山の戦闘機が空に舞っていた。
どっちがどっちの軍かはサッパリわからないが空戦が繰り広げられていた。
草原の至る所には空戦で撃墜されたであろう戦闘機の残骸や、爆弾の爆発した跡が残っていた。
その中を走るトラックが目に入った。こちらに近づいてくる。
「あのトラックは何だ!」
「あれは王立陸軍のトラックです!拾ってもらいましょう!」
そのトラックはこちらに近づき、やがて停止した。
その車内からは白人の兵士が出て来た。
「何してるんだ!今は戒厳令が敷かれている!今すぐ乗れ!」
「分かりました!乗ってくださいツツラさん!」
「おう分かった!」
迷彩柄の輸送トラックの後部座席に乗り込み、城門に走らせた。
車内には数人の兵士がおり、険しい顔でこちらを見てくる。
その中の一人が口を開いた。
「お前、スーツ姿だがソビエティアからの亡命者か?」
「お、俺の事か。亡命者のような者と思ってくれ。」
全速力で走っていたのか、すぐに北門に到着した。
門は少しだけ開かれ、俺達を通した。
「城壁の外に出るなよ!すぐに防空壕の中に入れ!この先の広場にある!」
そう言って兵士はトラックに乗り込み去って行った。
ハンスと俺は広場に向かって走った。
街の風景はヨーロッパの建築と大差ない街並みだ。
戒厳令が敷かれているからか人がいない。
そして広場へ駈け込んだ。
――――平和ボケしてたな、俺。
そしてこんな刺激は初めてだ‥‥
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.3 )
- 日時: 2020/01/19 20:50
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
一章 2 能力
―――――あれからどれくらい経っただろうか。
空襲を知らせるサイレンは止み、俺とハンス、その他の避難民は恐る恐る防空壕の外を伺う。
俺は腰のホルスターから<ベレッタM92>を構え、防空壕から出た。
その景色は信じ難いものだった。欧州のような街並みは瓦礫の山。
まさに空爆を受けた街、と言う感じだった。。日本では決して遭遇しない事態だ。
「ウソ‥‥だろ‥」
俺はハンスと共に広場周辺を歩き回った。
何処を見ても瓦礫、瓦礫。中には血の流れている箇所もあり、兵士が数人死んでいる光景もある。
恐らく戦時の日本もこんなだろう。
「なあハンス。今までもこんな空襲はあったのか?」
「前々から小規模な攻撃はあったそうですが、この規模の攻撃はありませんでした。」
まだ見てもいない街。どんな姿なのか想像もつかない。
少し考えこんでいた時、通りの奥から大勢の軍用車両が来た。
その中心には数台の車両が走っていた。
「お、何か来たぞ。ハンス、あれは何だ。」
「あれは王室の方々ですね。この街に訪れたのでしょう。」
「日本で言う天皇陛下による御幸と一緒か‥‥」
その集団は広場前で停止し、大勢の近衛兵が車両から降りて来た。
広場は騒然とし、多くの市民が集まった。
俺は最前列に居た。
「只今から、ミナリア殿下が戦災を被ったあなた達へ、励ましのお言葉を述べられる!心して聞くように!」
前衛の近衛兵が言い放った。
「では殿下。こちらへ。」
そして一人の女性が近衛兵によって連れられた。
その姿はとても美しく、まさに「女神」と言うべきか。
透き通るような銀髪、綺麗だけでは言い表せない素肌。凛々しくも美しい顔。
――――――どんな女性よりも美しい。
「総員、敬礼ッ!!」
その掛け声で周辺に整列している兵士は彼女へ敬礼した。
敬礼の後、殿下は前に進み出した。
弱弱しく声を発した。
「あ、あぁ‥。市民の皆さん、こんにちは‥‥。お怪我等ありませんか?あっ、えぇーと…現在、我が国は‥‥隣国<ソビエティア共産主義連合>と戦争状態です‥‥ですが安心してください。皆さんは神の御加護を授かっています。何も心配はありません…。きっとこれからも怖くなったり‥辛い気持ちになるかも知れません。でも強く生きてください。」
そして殿下は少し後ろに下がり、お辞儀をした。
お言葉の後、周囲からは「万歳」という歓声が沸き上がった。
「やっぱ、戦争状態なのか。」
「ツツラさんの国は戦争しないんですか?」
「しないんじゃなくて出来ないんだよ。俺んとこは。」
万歳の歓声が止んだ後、殿下はゆっくり車に戻ろうとした。
すると、俺の横の男が刃物を取り出し、突如走りだした。
数人の近衛兵が男を捕まえる為に突進する。だが余りに突然の事だ、間に合わない。
「おい!そこの男止まれ!止まらんと発砲する!」
――――行って!君が止めるの!
どこからともなく女の声が聞こえる。
「え!?誰!?」
俺は一体、何のことか分からなかった。
ハンスはこちらを見ている。だが口は動いていない。
じゃあ何処からだ。そして何故俺が?
――――撃って!バカ!
そうモタモタしていると、ミナリア殿下が刺されてしまった
周囲は悪い意味でざわつき、殿下の負傷を目の当たりにした。
「キャッ!‥‥」
その刃物は腹を数か所貫き、殿下を殺めた。
殿下は膝から倒れこんだ。体からは血が溢れ出る。
そして男は近衛兵に撃ち殺され、広場前は悲劇の舞台となった。
――――あーあ。遅かった。何してんのもう!
まただ。誰なんだ。直接脳内に響く声。
何処かで知ってる声だが、思い出せない。
――――しょうがない!やり直し!
「え?なんだって!?」
視界は硬直し、声も出ない。意識が‥‥眠るように―――――
そして視界が安定すると、殿下がスピーチを終え、俺がハンスと話している時に戻った。
「‥‥ラさんの国は戦争しないんですか?」
「‥‥!?」
「ツツラさん?」
ああそうか。この感覚は覚えている、既視感って奴か。
俺も腹をズタズタに割かれて、眠るように‥‥
段々と万歳の歓声が止む。
ハッとした。次だ次の瞬間に!
――――次は頼むよぉ?
分かったよ、分かった。殺るよ。
俺は腰のホルスターに手を掛けた。
――――待って、まだよ、まだ!
「チッ‥‥」
隣の男が走り出す、刃物を取りだし殿下めがけて走り出す。
数人の近衛兵が走り出し、彼を止めようとするだろう。
だが無理だ。この俺が――――
――――いいよ!今ッ!
瞬時にホルスターからベレッタを取り出し構える。
外さない。男の頭部に狙いを定める。
―――――行ける。
引き金を引く。
一瞬の事だが、俺にはスローモーションのように感じた。
男の頭部を撃ち抜き、後頭部からは血が噴射する。
その反動で頭から倒れこむ。
「‥‥や、やっちまった。」
周囲は騒然とし、俺に視線をやった。
ハンスは目を点にし、俺の銃を見つめる。
「‥‥お前!何を持っている!」
一人の近衛兵が俺に言う。
「け、拳銃だ!俺は今、目の前にいた犯罪者を始末したまでだ!‥‥」
――――もう少し待っててねぇ
バカ。これはどうしようもないぞ。四面楚歌だ!
「‥‥だからどうした!お前は今、持ってはいけない物を持っている。そのうえ、もし殿下のお体に弾が当たったらどうするんだ!即刻処刑だぞ!」
――――大丈夫。君は助かるよ。
「‥‥待ってください!その男の人は咄嗟の判断で私を守ってくれました‥‥だから‥‥殺しちゃいけません!」
ミナリア殿下が声を上げた。
俺を捕らえんとする近衛兵は、その歩みを停止し殿下の方に向いた。
「し、承知致しました。殿下の仰せのままに。」
そして近衛兵は振り返ると俺を睨みながら言った。
「命拾いしたな」
「ああ、そのようだ。」
俺も嫌味を込めて応えた。
そして、近衛兵は射殺された男を回収し何処かへ行った。
――――ね?大丈夫だったでしょ?
いやいやクッソ危なかったよ!ホント死ぬ数秒前だ。
――――まぁまぁそう怒らずに‥‥ね?
するとミナリア殿下はこちらに近づいてくる。
俺の心臓は大きく鼓動し、外にまで聞こえる程に唸ってきた。
呼吸が早くなる、これ、死ぬんじゃねえか?
殿下は優しい笑顔で言った。
「お車へ来てくれませんか?お友達も一緒に。」
ハンスは「え?僕も!?」と言わんばかりの顔をした。
そりゃ無理もない。自分の国の最高権力者候補に誘われたのだ。
「じ、じゃあ僕も行きます‥‥?」
「ああ、ハンスも来てくれ。」
ミナリア殿下は俺の手を引き、俺とハンスを黒塗りの高級車に乗せた。
リムジンって奴だ。初めて乗るなぁ。
車内には補佐役である侍従長をその部下。政府高官であろう男と三人の近衛兵が乗車している。
「どうぞ‥‥」
ミナリア殿下が俺たちの横に座った。
車はゆっくりと走りだす。
「あ、えっとなぁ、何故俺達を車に?」
「‥‥命を救ってくれた恩人をその恩人様のご友人ですから‥‥」
政府高官の一人が激怒した。
「君!殿下であるミナリア様に何たる口調!」
俺のタメ口が気に入らないらしい。
まぁそうか。日本でも最上敬語を使うしな。
――――無視して良いよ、そいつ阿保だから。
ホント誰だよ、お前。
ミナリア殿下はゆっくり口を開いた。
「実は、現在、王に即位している父上は、私の事を守ってくれる人を執事にしろと言っているのです。」
「は、はぁ」
「で、ですから私の宮殿で働いてくれませんか??」
まさかの専属執事か‥‥
特にやる事もないし、この国に通じる通貨もない。
ならば殿下の言う通りに執事になるとするか?
「ならば条件がある。1つ、俺の生活の保障してくれ。実は一文無しで頼りもないんだ。2つ、ハンスの馬車を修理してやってくれ。それだけだ。」
ミナリア殿下はこれを快諾した。
満面の笑みだ。
「これからよろしくお願いします!」
――――ふぅーん、よかったじゃん。
ああ、生活の安定は確立した。
――――ちなみに私の正体知りたい?
勿論だ。聞かせてくれ。
――――じゃあいいよ?私の名前は‥‥‥‥
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.4 )
- 日時: 2023/01/06 00:11
- 名前: 赤坂 (ID: dYnSNeny)
一章3 国
――――「皆 芳香」
え?ミナ ヨシカ‥‥
まさかお前、日本人!?
――――いやもっと他にあるでしょ!
「ミナ ヨシカ」‥‥ああ。そうか
お前か、俺を刺殺した捜索対象者は‥‥
――――ええ、そうね。私よ貴方を殺したのは。
そうか‥‥
「‥‥ツラさん!ねぇ‥‥!」
「!?‥‥ああ、すまん、どうした。」
俺の前にはハンスとミナリア殿下が立っていた。
どうやら宮殿に着いたようで、俺はリムジンの前に立っていたと言う。
ッて、さっきから中々の変人だな俺!
「これが私の宮殿です。さ、入りましょう。」
「はぁ~あぁ‥‥、こりゃまたデッカイなァ‥‥」
巨大で美しいその宮殿に思わず溜め息が出る。
イギリスのバッキンガム宮殿やルーマニアの国民の館にも迫る大きさ、美しさだ。
俺とハンスはミナリア殿下に連れられ、玄関口に入った。
玄関で迎えたのは4人のメイドだった。
「おい、ここは4人しか召使いはいないのか?」
「?ええ、そうですよ。これが全員です。」
「こんなデカい宮殿に4人のメイドだけって、一人に掛かる労力エグイな‥‥」
そしてそのメイドは一人一人、俺とハンスに自己紹介してきた。
最初はショートカットの小柄な少女だった。
「セナ・アンジェリカです。殿下やお客様、セントルファー国王陛下の周辺の世話をしております。以後、お見知りおきを。お客様。」
次は紫の髪色でロングヘアーの女性だ。少し目つきの悪い。
「私はグロリア・ルントー、主に宮殿の掃除、殿下やセントルファー国王陛下の料理を作っているわ。」
「せんとるふぁー?この国の王か。てかむっちゃタメ口‥‥」
「ええ。何か悪いかしら?」
可愛げのない奴だ。
3人目は落ち着きのある老婆だった。
「フローレス・フォンタインと申します。主にここに仕えるメイドの長や、その他の庶務をしております」
最後はほとんど子供だった。
見た目は‥‥12か13歳くらいじゃないだろうか。
「あ…わ、私はエリカ・フォンタインです!よ、宜しくお願いします!」
「お、おう。よろしくな。君もフォンタインって言うのかい?」
「は、はい。フローレスメイド長の孫です!」
そこにフローレスが入って来た。
「この娘はまだ勉強中で御座います。何処か至らぬ所があるかもしれませんが、その際はお申し付けください。」
「は、はぁ。」
一通り挨拶を終えると、ミナリア殿下に呼びかけられた。
俺とハンスの為に、1階の食堂で晩餐を行うらしい。
何が出るんだろうか、楽しみだ。
「さ、来てください!ご飯、もう出てますよ!」
俺とハンスは急ぎ歩きで食堂へ行った。
確かにいい匂いが広がっている。
ミナリア殿下のいる所へ向かい、食堂の大きなドアを開けた。
そこには白い布がかかっている長テーブルの上に、西洋物の料理が沢山置いてあった。
他にもフレンチなどもあった。ここではフレンチでないかも知れないが。
テーブルの奥には、他のイスと比べて一際豪華なイスが置いてある。
恐らく国王のイスか。金と銀のコーティングがなされている。
「じゃあ座ってくださいな。」
「お、おう。失礼するよ。」
俺はミナリア殿下に促され、席に着いた。
俺もハンスもとても緊張している。
「ツツラさん‥‥下手したら不敬罪ですよ!タメ口はやめた方が‥‥」
「う、そうか‥‥だがお咎め無しのようだ…?」
フローレスが食堂のドアを開けて、俺たちに言い放った。
「国王陛下が入室されます。」
そういってフローレスは国王に軽く頭を下げ、入室は促した。
国王は体格が大柄で、肌は白く、ひげの生えた老人だった。
だが、顔立ちは気前の良い人のそれで、どこか話しかけ易いお人なのだろうと。
黒いスーツを着ている。まるで英国紳士か。
そして俺とハンスに向かい、笑顔で言った。
「やぁやぁ、君達がお客さんだね?」
「こ、こんにちは国王陛下。」
「ツツラさんも!‥‥」
ハンスは深く頭を下げ、俺にも続くように言った。
お、俺もか‥‥
「こ、国王陛下‥‥こんにちは‥‥」
「そ、そんなかしこまるな~。食事の席でそれはまずいだろ~。雰囲気も味も。」
国王陛下はこちらの顔を見、「上手いだろ?」と言わんばかりの笑みを見せた。
――――少しぐらい笑った方がいいわよ?
マジか。笑えねぇ‥‥
「‥‥あ、そう言う事か。味と雰囲気を掛けて<まずい>?」
俺は国王陛下へ控えめに言った。
そうすると国王陛下は顔を輝かせ、
「そうか!君は分かるヤツなんだな!」
と言った。そしてすぐに落ち着きを取り戻し、席に着くように言った。
「じゃ食べようか。」
取り合えず気になる料理から手を付けよう。
魚のムニエルやら、何かのスープが置いてある。
「こりゃ美味い」
「お口にあって良かった。ハンスさんは?」
「…良いですよ!美味しいです!」
食事の味を一通り知った所で国王陛下から幾つか質問された。
やはり亡命者と言う事だけあって内情を知りたいのだろう。
「隣国ソビエティアの内情は?どうだった?」
「‥‥正直に言うとソビエティアの人間じゃないんだ。実は日本と言う国から来た、と言うかそこで一回死んでいる。」
「なにを言ってるんだい?死んでいるだなんて、今、生きてるじゃないか?」
「ま、まぁ何というか‥‥」
そこでハンスが会話に入った。
「彼は嘘は言ってないかと。ですが<二ホン>なる国は聞いたことがありません。」
「そうか‥‥」
国王陛下は益々神妙な顔を浮かべる。
どうやら本当に存在しないようだ。日本と言う国が無ければ。もしかしたら列島すらない?
アメリカも無いか。俺の元居た世界の国家も地域も無いのか。
――――ここの世界には、貴方の国はないの。何度言っても気味悪がられるだけよ。
日本に帰れない‥‥
――――貴方は本当に死んだの。
信じられない。ここは死後の世界か。
お前によって殺されたからか。
――――そう。それとここは死後の世界じゃない。
じゃあ何だ?
――――貴方のいる世界は‥‥まさに異世界。時代は現実の20世紀と同じよ。技術も文化レベルも。
――――唯一違う点は、魔法の存在を信じられていると言う点。
ま、魔法だと?
そんなものは無いに決まってるが、何らかの期待をしてみるか‥‥
「世界地図を持ってきてくれ。」
国王陛下はフローレスに言った。
フローレスは「はい」と一言言うと数分で持ってきた。
国王陛下は食器をどかし、地図を開いて見せる。
「えっと、ツツラ君だね。君の国の場所を教えてくれ。」
「ああ(絶対ないだろうがな‥‥)」
俺はその地図を恐る恐る覗いてみた。
その世界地図は現実世界の物と大差なかった。
そして日本があるであろう場所に指を指してみる。国名らしきものは書いてあるが何しろ言語が違うので読めない。
「!!そこが君の故郷か?‥‥そこは~」
「そこは?」
「‥‥ニッポニアだな。」
「ニッポニア?」
「君の故郷では<二ホン>と言うのか?」
「かも知れん‥‥」
ニッポニア‥‥?トキの学名かよ。
領土の形はほとんどが俺の知る日本の形で、多少いびつな形だ。
明らかに分かるところは九州地方の形か。とんがるような形をしている。
ロズポンド王国は現実のポーランドとドイツの一部分を侵食する形で存在している。
ソビエティア共産主義連合は昔のソ連と大差ない。
世界の五大陸もそっくりだ。
「ニッポニアはすごい国だ。世界有数の海軍力を持つ。」
「そこまでも類似するのか‥‥。俺も聞きたいことがあるんだ。」
「お?いいぞ?」
「これは‥‥その‥‥噂で聞いたんだが<魔法>って奴を使えるのか?」
「‥‥ハハハハハハっ!君は変なことを聞くなぁ!魔法なんてあたりまえじゃないか」
「おッ‥‥そうなのか」
「ミナリアもちょっとした治癒ができるぞ。そして君の、その腰の拳銃。構造を把握する為の透過能力を持つ者もいる。」
魔法と言えど攻撃系魔法は無いんだろうか。
戦争なんだし、活用できるだろうし…
フローレスが国王陛下にささやいた。
「陛下。ソビエティアとの講和会議にレオナード首相が出発しました。伴って今後の国家方針の会議を開くとの事です。ご臨席を。」
「そうか…分かったすぐに行こう。」
「車は用意してあります。お急ぎください。」
「‥‥すまん君達!しばらくここを離れる。何かあったら召使いに言ってくれたら良い!じゃ行ってくる。」
ミナリア殿下を俺達は見送った。
「父さん、いってらっしゃーい!!」
国王陛下は車に乗り、目的地へ向かっていった。
一国の国家元首とは大変そうだ。
――――専属執事の話、無かったわね。
確かにそうだな‥‥
その時、グロリアが俺に話しかけた。
「じゃ、仕事をするわよ。ついてきなさい。」
「え?どういう事だよ。」
「せ ん ぞ く し つ じ!! 忘れたの?」
「明日からは本格的に働いてもらうから、今日にでも仕事内容を覚えときなさい?」
ああ、これだったら刑事の方が良かったか‥‥
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.5 )
- 日時: 2020/01/20 16:43
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
一章4 国家戦争会議と専属執事の準備
王都 中央区政府庁舎
――――国王陛下、入られます!
侍従長の声に反応し、室内の人は起立した。
顔ぶれは副総理大臣、副外務大臣、軍部大臣、近衛師団長、警察庁長官の四人だ。
「皆、座ってくれ。」
国王陛下は会議テーブルの中央に座った。
そして軍部大臣の「ジョグ・マクレソン」が現在の状況を説明した。
「失礼します、陛下。現在の我が国及び周辺の状況を説明いたします。‥‥まず、城門東門はソビエティアの攻撃機による爆撃で崩壊。敵の侵入を防ぐため、復旧を行っています。」
「東門の修理期間は?」
国王陛下が即座に聞く。
「はッ。恐らく2か月かと‥‥」
「に、2か月‥‥」
「終了までは陸軍の部隊が警戒に当たっております。‥‥では続けます。東門から広がる<スタインフォッド森林>は非武装地帯にも関わらず、ソビエティア軍による実効支配下に置かれています。」
「この実効支配を解く為、陸軍部ではソビエティア軍の掃討作戦を立案中です。」
「直ぐに作戦を確定するように。必ず奪還しなければならない。」
ジョグ軍部大臣は「分かりましたッ!」と返答し、席に戻った。
またその他の閣僚により、現状の解説がなされた。
この会議で分かったことは、
・首相の講和会議は難航している事。そしてこちらの領土を一部割譲するよう求めている事。(副総理大臣)
・この事件を周辺国に連絡し、同盟国との結束を試みている事。(副外務大臣)
・広場前のミナリア殿下殺害未遂事件の犯人はソビエティア国籍だったという事。(近衛師団長)
・国内にソビエティア軍のスパイがいる可能性があるという事。そして国内の警察総動員で捜査を進めている。(警察庁長官)
「‥‥分かった。何としてもソビエティアによる侵略は防げ。今回の外交が失敗に終われば、王国の滅亡を意味する。頼むぞ。」
そう言い残し、国王陛下は退室した。
その背中は重圧に掛けられた王たる風格を見せていた。
王都 東区セントルファー邸
津々良とエリカは、グロリアに執事・召使いの仕事を教えられていた。
内容は中々ハードで‥‥
「じゃあ一日の基本的なスケジュールを教えるわね。覚悟しなさい‥‥。後、メモの用意も忘れずにね。」
「‥‥は、早く言えよ‥」
「じゃあ。‥‥はい、ます朝四時起床。一切の遅刻も許されないわ。そして朝四時半までに身の回りを整え、セナと一緒に殿下のお部屋に行きなさい。その際、寝ている殿下に変なことしない!」
グロリアは念を押すように言った。
誠に心外だ。俺は若い女の子に手を出す程、参ってはいない。
「‥‥する訳ないだろ!」
「さぁ?分からないわよ?‥‥さて、整えた後、殿下を四時五十分に起こしなさい。殿下は王政の勉強をしなくてはならないの。起こした後には廊下に出て掃除!モップは自分で取りに行きなさい。」
「さて、掃除を五時半までに終わらせて、朝食が出来てるはずよ。食堂に取りに行き、殿下のお部屋に届けなさい。その際、貴方の朝食の一緒に運ぶ事。」
「‥‥?俺は飯を何処で食うんだ。」
「殿下のお部屋よ。食事中は殿下のお暇潰しの為、会話するのよ。話のネタは事前に用意した方がよさそうね。」
「マジか‥‥。俺、話は下手なんだけどなぁ…」
グロリアは嫌悪感マシマシで息を吐き、「それぐらいどうにかしなさい」と言わんばかりの顔を向けた。
全く、腹立たしいやつだ。まぁ俺よりは先輩何だけどな‥‥
「そして、食事を終えると‥‥まぁ六時十分までに食べ終えなさい。もし時間が余ったら、殿下のお話し相手になりなさい。もし時間が余っても、殿下が勉強したいと言い出したら食器を持ってくる事。」
「運んだ後、広間やその他の場所の掃除。まぁその時は私が直接指示を出すわ。だけどこれだけは覚えておいて。」
突如真剣な顔になる。何か怖いぞこの娘。
そのいやらしい目をしながらグロリアは、
「もしその他の仕事をやっている際、殿下からお呼び出しがかかれば、それを何よりも優先しなさい。あなた専属執事だから。」
「じゃあ途中の仕事は?どうするんだよ。」
「用事が済めば続行してもらうけど、時間がかかるようであればエリカにやらせるわ。」
エリカは俺の方を向き、「任せてください!」と言った。
とても元気よく愛想のいい子だ。
グロリアとは月とスッポンだ‥‥
「ツツラさんの仕事は私が引き継ぎます!お勉強の一環ですから!」
「そうか、そうか~。頼むぞ~」
「何和んでんのよ。」
そして掃除を終えたら、庭の手入れ。
手入れを終えるを玄関前の床掃き。
終わった後、正午になる前に買い物へ行く。
正午過ぎ、俺はミナリア殿下を呼びに行き、食堂へ連れて行く。
昼食後、宮殿内を巡回警備。その際、銃の保持はOK。との事。
「これを毎日‥‥」
「<お昼>の分はこれで終わり。」
「<お昼>の分は‥‥?」
「じゃ、晩までの仕事ね~」
「午後三時までに宮殿内、あと庭園も含めて。それらを二周したら、殿下のお部屋におやつを届けなさい。おやつをお食べになっている時もそばを離れない事。その後、私の手伝い。まぁ食器洗いとかかしらね。それら諸々が終わったら夕食。」
「殿下をお呼びして食堂へ。夕食後、殿下を部屋へお送りし、送ったら、午後七時まで殿下のお部屋の周辺哨戒ね。哨戒中は三十分置きに殿下の様子を見るように。何かあったらすぐに伝えなさい。七時が回ったら浴場にお連れし待機してなさい。お風呂から上がられたら部屋まで送り‥‥」
「お、多いな!!ちょっと待ってくれよ!」
「何よ、こんなちょっとの事も覚えられないの?‥続けるわよ。送ったら晩の宮殿警備ね。午前十二時になったらお風呂に入って就寝。以上!」
「やっとか‥‥。明日からか?」
「そうよ。さぁ自室に行きなさい。早く休んで備えなさい。」
話を終えるとフローレスが俺を部屋に案内した。
休憩しよう。明日は早い‥‥
――――大変そうね。
お前は何もしないだろうが。
さぞかし気楽であろうな!
――――ええそうね。何か?
クソ‥‥
しばらくした後、俺はベッドに入り、眠りについた。
その夜、電話のベルが聞こえた。
だが深い眠りについた俺には起き上がれなかった―――――
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.6 )
- 日時: 2020/01/20 22:27
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
一章 番外編 「皆」の能力
セントルファー邸 津々良の部屋
説明は終わり、夜。フローレスにより自室へ案内された。
専属執事と言うだけあって、ミナリア殿下の部屋の向かいだ。
部屋の中は小綺麗だ。
基本的な家具が置いてある。タンスやベッド、机等々‥‥
「ほう。こんな部屋か。プライベートはあるんだな。」
内心、監視されるのかと思っていた。
まぁ、突如銃を取り出し、脳天撃ち抜いて‥‥
「荷物の整理だな。死んだけど荷物はそのままか。」
まずは拳銃。あの時撃ったから残弾14発。予備で支給された装填マガジンは2個か。
そしてスマホ。まぁ衛星なんてあったもんじゃないから圏外か。
財布。日本の通貨は使えない‥‥。
最後に警察無線。警視庁がないここでは無意味だ。こんなもんか。
「はぁ。対して使える物は少ないな。」
――――現実では遺品ね。
い、遺品か。縁起でもない‥‥
ってかお前が殺したせいで遺品なんだろうが。どうしてくれるんだ!
――――まぁ死んでしまったからには仕方ないわね。
ホントだよ‥‥
ってかなんで殺したんだ。とち狂ってるだろ‥
――――率直に言うと私は貴方を誘拐犯だと‥‥
「何だとッッッッ!!!!」
「どうかしましたか!?」
廊下の方からミナリア殿下の声が聞こえる。
いかん。つい声に出てしまった。しかも怒鳴っていた…
「い、いや!何でもない!」
――――突然怒鳴ったらダメでしょ‥‥
誰のせいだこんチクショウ。
そう言えばだな。お前、何で俺と話せるんだ。死んだ後の世界だぞここ。
――――‥‥実は私は、貴方を刺した所を見られて、貴方の部下に撃ち殺されたの‥‥
何してんだ早稲場‥‥
マルヒを殺すなど‥‥
――――そんでもって気づいたらここに‥‥
え?ここにって言えど俺の脳内にしかいないじゃないか‥‥
とうとう俺もイカれたか‥‥幻聴か‥‥
――――いや、実は貴方の頭上をフワフワ飛んでいるのよ?
マジか!
おい、姿を見せろよ。どうにかする機能があるんだろ?
――――そうよ。ただ物凄く「マ」を使うの。
――――さっき、貴方にやった「やり直し」も大量の「マ」を使用して行うのよ?
ま?ま??
最近の流行りか?
――――何がマジの略称よ!違うわ。全ての魔法関係に使用されるエネルギー‥‥見たいな物ね。
――――回復には睡眠が必要よ。
そんなもので回復するのか‥‥
いつも寝てるのか?
――――誰がぐうたらよ。
そんな事言った覚え無いぞ。
――――ま、まぁ。この世界の魔法設定みたいな感じね。
設定‥‥。
ややこしいな、マとか何んとか。
――――もう寝た方がいいんじゃない?
そうだな。明日は五時起きだ。
寝よう。おやすみ、皆。
――――はぁい。
しばらくした後、大きな電話のベルが鳴り、宮殿内が騒いだらしい。
だが、俺は起き上がる事無く深い眠りについていた‥‥
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.7 )
- 日時: 2020/01/21 22:47
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
一章5 一から、そして分岐へ。
―――――夢の中。
俺が銃を持ち、あの男の後頭部を撃ち抜く。
印象が強かったのだろう。そのシーンだけが再生される。
射撃音が早くなり、段々と大きくなる。
―――――――きろ!!!‥‥ツラ!!‥‥起きろッ!!!」
「‥‥ファッッッ!?」
俺はベッドから飛び起きた。
その先には額を抑えている、険しい顔のグロリアがいた。
「な‥‥何なんだよ。もしかして俺、寝坊したか?」
「取り合えずついて来なさい!」
グロリアは俺の手を引き、速歩きで玄関前のロータリーに向かった。
そこには霊柩車が停車しており、殿下と召使いが三人並んで、皆泣いている。
俺は一瞬何の事か分からず、その霊柩車の元に向かった。
「ウソ‥‥だろ‥」
信じられなかった。
昨日までは温厚でジョークが好きだった彼が‥‥そう、セントルファー国王陛下が何故、霊柩車の中で眠っている?
しかも国王の体は一部が黒く、顔にも針が縫ってあるではないか。
泣き腫らした顔のミナリア殿下は告げた。
「昨日のお昼ご飯の後‥‥、あの後、お父様は会議に行ったんです。そして、ここに帰ろうと車で移動していた時に‥‥」
「お父様の乗っていた車は襲撃されたのよ‥。」
「む、無理して言わなくてもいい!‥‥」
俺はミナリア殿下が可哀想になり、後の話を遮ろうとした。
確かに、親しい人が亡くなった時の話をするのは心が引き裂かれそうになる程、辛い。
「で、でも‥‥襲撃!?…なんで…ここは王都じゃないのか?」
フローレスが説明した。
「どうやら、この国にはソビエティアの工作員がいるようです。恐らくそれに殺されたのだろうと‥‥」
セナはミナリア殿下の隣に着き、言った。
「ミナリア殿下、本日から貴女は‥‥王室典範に基づいて新国王‥‥第58代女王陛下となります。」
「そ、そんな‥‥無理よ!私‥‥まだ王政の勉強できてないよ‥‥まだお父様から何も教わってないよ!」
ダメだ。
ミナリアには刺激が強すぎる。‥‥俺は警察官で、刑事課だったから人の死には耐性がある。
どんな惨い死に方でも。だが彼女はどうだ。恐らくまだ子供だ。こんな早くに女王陛下になれって‥‥
――――死なせてはならない、と思ってるんでしょ?
――――やり直す?
待て。会議は何処で行われたんだ。
それも知らないで救えない…
――――聞いてみないと。
「‥‥グロリア。会議は何処で行われたんだ?」
「王都の中央区よ。」
「ここは何処なんだ。」
「ここは、王都の東区。まさか行くの?‥‥」
「あ、いや‥‥中央区だな?細かな場所は?」
「え、えっと‥‥政府庁舎街よ。」
「施設は何だ?」
「わ、分からないわよ‥‥。そんな情報ベラベラと話すわけないでしょ!」
グロリアは半ばキレかけで答えた。
どうやら本当に知らなそうだ。ここまでか…
「すまん、もう良い。」
――――もういいんじゃない?やり直して追いかけたらいいよ。
何で追いかける…?
――――車、かな。バイクは難しいよきっと。
そうか、尾行がばれるかも知れないが仕方ない。
他に車はありそうか?
――――‥‥中央階段の右に駐車場が。黒い車が三台停まってる。
よし。鍵は?
――――分からないよ。
じゃあ、今日はやり過ごすか。
それか今やり直して、昨日の時点で国王陛下を止めるやり方もあるが‥‥
――――怪しまれるだけ。
だな‥‥
――――そういや、国王陛下は昨日、魔法の一つで「透過能力で構造を把握する能力」を持つ人がいるって‥‥
そ、それだ!
車の鍵の構造を知ってもらって、合鍵を作れば良いんだ。
俺はフローレス‥‥、いや、怪しまれそうだ。
セナにこの能力を持つ人を知っているか聞く事にした。
「‥‥なぁセナ。ちょっと聞きたいことがあるんだ。」
「な、何でしょうか‥‥」
セナは少し驚き、俺の話を聞いてくれた。
「国王陛下は、<透過能力を持つ>人がいるって言ってたな。知らないか?」
「透過能力‥‥」
セナはしばらく考え込み、ハッとした顔を見せた。
「い、いますよ!御者のハンスさんです!!彼は自分の馬車のメンテナンスに透過能力を!」
「そ、そうなのか!?‥‥行ける‥‥行けるぞ!」
俺はこの興奮を抑えきれず、セナの横にいるミナリア殿下の元へ向かって肩を掴んでいた。
「ミナリアッ!‥‥あ、殿下!」
ミナリア殿下は目を丸くして頷いた。
「な、なんでしょうか‥‥」
「ぜっっっったい、お前の父さん、セントルファー国王陛下を助けて見せるからな?」
「な、なにを言って‥‥」
――――やり直す?
やり直すぞ。<一から>な!
――――分かった!‥‥やり直すよ!
まただ。あの時のように視界は硬直して。
段々と眠るように意識が―――――
‥‥そして視界が安定すると、目の前は真っ青だった。
「‥‥おお。あの小道か。」
――――早く立って。急がないと間に合わないよ?
「そ、そうだ。走ろう」
俺は最初と同じ方向へ走った。
今は一刻を争う。急げ急げ。
「た、確かッ。ここくらいにッ!‥‥」
「‥‥ってか疲れたっ‥。(ゼェゼェ‥‥)も、もう歳‥‥か。」
数m走っただけで息切れしている。もう爺さんじゃないか。
「へッ…へッ…へッ…へッ…。」
しばらく走っていると‥‥へッ‥‥へッ‥‥ハァッ‥‥
段々と‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥見覚えのある‥馬車がッ‥見えて‥来た‥ハァ‥。
「一体どうしたんですか!?」
「た、助けてくれ!‥‥ソビエティアから逃げて来た‥‥」
「亡命者ですね!乗ってください!早く!」
ハンスであろう若者は、馬車を走らせようとしている。
俺は必死に馬車に足を掛け、車の中に乗り込んだ。
「ハイヤッッ!!」
バチン!!、と大きな鞭の音がなる。
馬はいななき、足を進ませる。
「少し急ぎますよ!」
「頼む!」
車輪は小道の石で跳ね、一層スピードを上げる。
ガタガタ言うが、やはり壊れそうだ。怖い。
「もうすぐ王都ですよ!東門から入ります!」
「おう!‥‥やっぱいかん!き、北門から入ってくれ!」
「な、何故ですか?!」
「い、良いから!北門に回ってくれ!回れ!」
「り、了解しました!」
ハンスは馬の向きを右に向け、北門へ向かった。
直ぐに馬車の後ろから数多の軍用機が飛んできた。
全てソビエティア軍だ。
編隊の中から一機だけ突っ込んでくる機がある。
「‥‥あれだ。この前と同じだ。‥ハンス!気をつけろォ!敵の爆弾が落ちるぞォォォ!!!」
「は、はいッッ!‥‥え?何で名前をッッ?!」
ハンスは鞭を叩き、馬をせかした。
その馬車の後ろでは一機の攻撃機が東門めがけ飛んでいく。
「く、来るぞォォォ!!!」
その覚悟と同時に閃光が開いた。
最後に感じたのは爆発の熱と、光の眩しさ。
そして何かが前頭部に当たる痛み。
―――――――――…さん!‥おじ‥‥さん!
「‥‥ハァ!?」
頭がガンガンする‥‥
目の前では、必死な顔をしたハンスがいた。
おじさんとは失敬な。
「おじさん!起きましたか!」
「お、じ、さ、ん‥‥」
「あっ…すいません‥‥。」
「そ、それは良いんだが。ここは‥‥」
俺の視界には欧州づくりの建物があった。
そして、俺が起きた事に気づき一人の兵士が駆け寄って来た。
「おい!目を覚ましたか!?…良かった。」
「今すぐ、防空壕に逃げ込むんだ。この先のレンヅ広場にある!」
「い、行きましょうよ!おじさん!」
ハンスは俺の肩に腕を通し、防空壕まで連れて行ってくれた。
「な、名前を言って無かったな‥‥。俺は津々良、<津々良 啓二>だ。」
「ツツラさんですね。僕は‥‥と言えど知ってますね。」
広場の中央に着き、暗い防空壕の中に入った。
中には沢山の避難民が逃げ込んでいた。
俺達は取り合えず座ると、
「先ほどは大変だったんですよ。ツツラさんの頭に爆弾の破片がぶつかって。」
「<もし東門に居たら、破片は脳内に入っていた。>と兵士の方が言ってました。」
と、とんでもない事実を打ち明けて来た。
――――危なかったね。あと少しでもう一度あの世行きよ。
おっ。いたんかお前。てか出てくるタイミングが早いな。
現実で死んで異世界で死んだらどうなるんだよ。
――――分からないよ。後、いつでも出てこれるよ、私。
そうか‥‥?
突如、防空壕の外から叫び声が聞こえた。
「来るぞ、来るぞ」と何度も叫んでいる。
壕の中では女子供が怯えて、すすり泣きをしている。
二度目とは言え、心苦しいものだ。
「ツツラさん!こらえてください!」
「敵の爆撃――――――
俺の声は途切れた。
外からは爆発音が響き、壕が大きく揺れる。
それから数分後。体感時間は数時間か。
警報と爆発の音は止み、辺りが静まり返った。
俺は慎重に外に出た。
周辺は逃げ遅れた市民や兵士の死体や、体の器官が飛び散っていた。
――――確か、次には殿下が来るんじゃないの?
そうだ。その時にソビエティアの工作員がミナリアを殺そうとするんだ。
止めなくては。
俺とハンスは広場の周辺を歩いた。
時期に殿下を乗せた車列が到着して、ある衛兵が
「只今から、ミナリア殿下が戦災を被ったあなた達へ、励ましのお言葉を述べられる!心して聞くように!」
と広場の人々に言った。
なんとか列の中央最前列に来れた。
「よし、シナリオ通りだ。後は男が走り出すのを待つだけ。」
少し待つと、黒いリムジンからミナリア殿下が出て来た。
よしよし。これは行けるぞ。
殿下は衛兵の一人に連れられ、表に出た。
同時に「総員、敬礼ッ!」の声で衛兵は敬礼し、彼女を迎えた。
そして敬礼から戻ると、彼女は話し出す。
さて、ここからが問題だ。タイミングがいつだったか‥‥
万歳の後なのは確かだ‥‥。
それまで待とう。
やがて彼女の「お言葉」は終わった。
後ろから市民の「万歳」が聞こえる。
俺はホルスターに手を掛け、いつでも撃てるように精神を張り巡らせる。
そして声は止む。
「チッ‥‥」
男は刃物を持ち、走り出した。
今回は真横でなかったが、十分射程範囲内だ。
俺は銃を取り出し、衛兵の「止まれ」の命令を聞く。
今回も外さぬよう、相手の下半身を狙う。
――――撃てっ!
俺は引き金を引いた。
銃口からは火を噴きだし、弾が飛び出る。
弾は奴の足を貫き、奴は倒れこむ。
「‥‥前回との相違点は、男の生死か‥」
すぐに男は取り押さえられ、連れて行かれた。
俺は俺で、衛兵に声を掛けられた。
「‥頼む…!ミナリアッ!」
ミナリアは俺の方を向き、泣き出しそうな顔を見せた。
だが、何も言わなかった。
「おい、そこのお前!ちょっと来い!その銃を降ろせ!」
「あ、ちょっと待ってくれ!お、おい‥‥」
俺は抵抗の術無く、あっけなく捕まってしまった。
ハンスは必死に、俺を弁護し、連れて行くな連れて行くなと言っていた。
こんな事になるとは。何故だミナリア‥‥。
――――――――何故、何も言わなかったんだ。
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.8 )
- 日時: 2020/01/25 01:42
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
一章 6 結果
王立陸軍 クバ収容所
俺はこの薄汚い、暗い収容所で取り調べと言う名の暴行を受けていた。
急がないと間に合わない‥‥。こんな所で足止めを食らうとは。クソ!
皆、やり直しは出来ないのか‥‥
――――出来たらしてるよ。どうやらここでは縛りを受けているようだよ。
縛り?
――――そう。ここらでは「マ」を使う能力は封じられてる。
つまり、その「マ」を使うであろうお前のやり直しは、お預けって事かよ。
――――そうね。
クソッ!一体何が目的でこんな仕打ちを‥‥!
こういう時、大抵はヒロインや仲間が助けてくれるって言うのが定説だ。
が、今回はそうとは行かなそうだ。
てか、やり直しが効かないって‥‥詰んだか?これ。
「チクショウ!何でこんな事に‥‥」
勿論、銃は奪われ、持っている物は全てボッシュートだ。
抵抗する術がない。
しばらくすると休憩に行っていた陸軍士官が帰って来た。
クソ、こいつの顔を見てるとムカムカする。
「よぉ~外人。良い子にしてたか?へへへ」
「(舐めやがって)‥‥お前の<良い子>はこんな顔か?」
俺は睨み返した。
「‥‥おうおう。元気そうじゃねぇかよ。もう数発行くか。」
そう言いだすと、そいつは警棒を腰から取り出した。
そして俺の顔面めがけ、振りかざす。
「くッ!」
バン!、と大きな音を立てる。
それも連続で、だ。
俺は気の狂いそうな痛みに悶え、意識を保とうと堪えていた。
「‥‥ハァ‥ハァ‥。一体何が目的なんだ。」
「‥‥‥」
「‥‥無いんだろう。じゃあ俺を拘束しておく意味など無いな。この手錠を解け。」
「黙れ黙れ、黙れ!!調子に乗るなァ!このジジィ!」
「‥‥ガァッ!」
奴はもう一度その警棒を振り下ろした。流石にこの一撃は響いた。
俺は目の前が暗くなり、意識が飛んだ。
――――――そして気が付くと、俺は銃を撃ち、男の頭を貫いていた‥‥
‥‥いや、城門が爆発する瞬間に‥違う、防空壕から出て来た時に見た兵士の死に顔‥‥
‥‥死んでもぬけの殻になった国王陛下の体‥‥‥泣き崩れるミナリアの姿―――――
これら全てが数珠つなぎになって、俺の瞳に映る。
‥‥‥次に映ったのは、血生臭いコンクリートの天井ではなく、大理石の天井の下で床についていた。
「ッ!‥‥ハァッ‥ハッ?!」
俺は一気に体を起こすと、体中で濡れた感覚がした。
どうやらおぞましい程の寝汗を掻いていた。全身ビショビショだ。
周囲を見回すと、そこには召使いであるセナ、とグロリアがいた。
「お客人が目を覚まされました!」
セナが部屋のドアを開け、外の人に向かい叫ぶ。
「本当か!今行く!」
外から男の声がする。
数人の足音がバタバタと近づく。
ぼやける瞳に映ったのは白衣の男と、黒いスーツ姿の爺さん‥‥
そして少女の顔。
「‥ああ。あぁ‥‥」
うまく言葉が出ない。浮かばない。
やがて一人の医者が言った。
「目は、見えてますか?‥あ、このペンを見てください。」
そう言い、彼は黒い万年筆を取り出した。
俺はそのペンを何とか追った。
「見えて‥いますね。起きてます。」
「あ、あぁ‥‥。」
「無理なさらないでください。先程、ミナリア殿下の治癒魔法により経過を見ている所です。この魔法には軽い麻酔効果がありましてね。恐らく、寝ぼけたような感覚になります。」
治癒魔法か。便利なものだ。
あ、そういやハンスは‥‥
「あ、あ、あんす。は、ハンスは?‥‥」
「ハンスさんはもうすぐ到着しますよ。」
医者は下がり、ミナリアに話を代わった。
ミナリアはホッとしたような様子だった。
「助けてくださった方。ホントに良かった‥あなたのお陰で傷つかずに済みました。なのにこんな‥」
「い、いや‥大丈夫、だ。ここは‥‥」
「ここは私のお父様、セントルファー国王陛下の宮殿です。」
どうやら俺が気を失っている間に、ここに運ばれたらしい。
俺の体は傷だらけで、至る所から血が出ていたらしい。
「そう、か。‥‥あッ!銃は!?」
そうだ。あの時、ベレッタもその他の色んな物も奪われたんだった。
セナがこちらにやってきて
「こちらにありますよ。ご安心ください。」
大事な荷物の確認が済んで安堵した矢先、本来の目的を思い出した。
「今日、今日だ!今日にでも!」
周囲の人間は困惑した顔になり、こちらを見つめる。
ミナリアは先手を切って、何なのか聞いて来た。
「な、何かあったのですか?」
「今日はセントル‥国王陛下が中央区に行って、それで襲われ‥」
「お父様ですか?だったらここに‥」
やぁ!、と笑顔で出て来たのはスーツの爺さん。
あのジョークの好きなセントルファー国王陛下だった。
俺は自然と涙が出て来た。この方を助ける為に苦痛に耐えてきたのだ‥‥
涙が出ると共に、言葉も失った。
「お、おお‥‥!おおっ‥‥」
「ど、どうしたんだ~!!何で泣いているんだ~?」
セントルファー国王陛下は苦笑しながら、抱き着く俺をかかえてくれた。
しばらく泣いた後、俺は自力でベッドから降り、シャワーを浴びようと浴場の場所をセナに聞いた。
「浴場ですか?お連れしますよー。着いて来てください~」
「頼むよ。」
部屋を出て、廊下を歩く途中、俺の服が気になったので聞いてみた。
「そ、そういやぁ、俺のスーツは?」
「もうボロボロなので‥捨てました!」
捨てました!、じゃねーよ。
マジか、案外高いスーツだったのに‥
「じゃ、じゃあ俺の服はどうしたら‥」
「あ、一級の仕立て屋に頼みましたよ!と言っても私ですけどね~」
本人は裁縫や服を仕立てるのが得意なようで、趣味で多くの服を作ったと誇らしげに語った。
そりゃよかったな。
階段を降りて、大きな洗面所に着いた。
肝心の風呂場は、お高いホテルの大浴場を独占したような感じだ。
「デッッッッケェェェェェ!!!」
「‥‥じゃあごゆっくり~。私は外で待っておりますので何かあればお声がけくださいね。」
さっそく俺は素っ裸になり、人生で一回やってみたかった浴場にダイブしてみた。
「行くぞォォォォ!!」
俺は駆け出し、湯舟に向かいジャンプした。
勢いよくお湯の中に入ると‥‥
「‥‥ア˝ッッッヂィィィィィィィ!?!?!?」
「どうかされましたかお客様!?」
結局、全身がジンジンする中、新しいパジャマを着て出て来た。
お湯のせいで顔が真っ赤だ。
行き先が無いので、さっきの自室に戻ることにした。
「疲れた‥‥。まさか風呂があんなに熱いとは‥」
そう愚痴を垂らしながら、自室のドアを開けた。
部屋の中には、ベッドに座っているミナリアがいた。
「あ、お帰りなさい。お風呂どうでした?」
「良かったです。はい。」
「‥!その顔、どうしたんですか?!」
「ちょっとのぼせました。大丈夫です。にしても何故、ここに?」
少し驚いて敬語になっている俺に対し、真剣な顔になったミナリアが口を開いた。
「実は‥‥」
「じ、実は?」
「私の執事になって欲しい事を話しに来ました。」
「しつじ?執事‥。」
そう言えばそんなイベントもあったな。
「はい、専属執事になって欲しいのです。」
「もちろん、拒否権はありません。国王陛下による命令です。」
「えッ、拒否権ないんですか。」
はい、と笑顔で答えた。
何か強かだな、このお嬢さん。
――――良かったじゃない。こんな可愛い子の執事でしょ?
お前、いたのか。
そうだよ、こいつの専属執事だよ。
――――拒否権ないんでしょ?やるしかないじゃん。
そうだな。
―――――良いですか?」
「‥‥分かった。やろうじゃないか!」
前回は出来なかったが、これからは専属執事ライフの幕開けだ。
やる事は多そうだが、前回聞いたし。
「でも、セナがスーツを仕立てるのとあなたの傷が癒えるまでは休憩で~す。」
「えっと‥‥名前を。」
「‥‥名前を言って無かったですね。私はミナリア。<ミナリア・コンタイン>。公的な所じゃなければミナリアって呼んでね。」
「そうか。俺は<津々良 啓二>。よろしく。呼び方は任せる。ミナリア」
コンタインって苗字か。初めて聞いた。
前回は「ミナリア」しか聞かなかった。
傷が癒えるまでは休暇か。
早く治って欲しくて、ホント待ち遠しい。