コメディ・ライト小説(新)
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.9 )
- 日時: 2020/01/26 08:46
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
二章1平和とちょっとしたハプニング
―――――やっと手に入れた平和な生活。
専属執事に指名されてから一週間が経った。
全身の傷も動くのに不自由しない程に完治した。
そんな中、俺は部屋のベッドに腰掛け、ただただボーっとしていた。
「あー‥。暇だなー」
――――暇そうだね。
暇そう、じゃなくて暇だよ。
折角完治しても、勝手に外には出れないしなぁ。
――――でも、このままじゃニート。
こら、そんな事言うんじゃねぇ。
突如、部屋のドアが叩かれた。
「失礼しまーす。」
ドアが開くと、セナとエリカが入って来た。
セナの手には新しいスーツが。エリカの手には採寸用の道具が。
「スーツが出来ました!来てください、さぁさぁ!」
「うおおお!!出来たのか!」
早速、セナからスーツを受け取り、手を通してみる。
その姿を鏡で見てみると‥‥
「(やべ、何かおやじ臭いな‥‥)‥なかなか良いじゃねぇか!」
――――ププッ!スーツ来た途端、中年のおやじになってんじゃんwwwwww
ファ、ハァァァァ!?
エリカはスーツのズボンと、袖を図った。
「ぴったりね!」
「じゃ、これからはお仕事頑張ってくださいね♪」
「お、おう!」
エリカの声援もあり、一気にやる気が出て来た。
勿論、警官たる俺がロリコンって言うわけではない。
セナに、準備が済んだら一階に来るように言われた。
取り合えず荷物をまとめ、一応ホルスターを腰につけ、銃を装備しておく。
急ぎ足で大階段を降りると、グロリアが立っていた。
「やっと来たわね。遅いじゃない。」
「悪かったな。病み上がりなんだよ。」
そんなこと言ってたら執事なんてできないじゃない、と文句を立てて来た。
「とにかく、一日の基本業務を言うわね。覚悟しなさい?」
「お、おう。早く言えよ。」
どうせ、この前見たいにダラダラと業務内容を言っていくんだろうなぁ。
と思っていたが。
「基本、護衛官としてミナリア殿下のそばに居とくだけね。」
「え?」
「近くで歩くだけ、あ、でも他のメイドのお使いとか手伝いをしてもらうかもしれないわ。」
「やっぱそうか‥‥」
「適当に作ったメモを渡しとくわね。見ときなさい。 じゃあ私は仕事に戻るわ。」
そう言い、グロリアは颯爽と戻って行った。
どれどれ、どんな時間割だろうか。
朝の内容。
4:00起床。4:30までには準備を終える事。
セナと一緒に殿下の部屋へ、4:50には殿下を起こす。
起こした後には部屋の前の掃除。5:30までに終わらす。
‥‥ってこの前と同じかよ!
「マジかよ‥。こりゃ大変だな‥」
「今は午前九時か。殿下のお話相手か‥」
メモを一通り確認したら、ミナリアの部屋に向かう事にした。
ドアの前に立つ。なんかちょっと緊張するな。
「ミナリアー。入るぞー」
ドアを開けると、机に向かい本を読んでいるミナリアがいた。
部屋の中はほとんどが真っ白で、朝の太陽に照らされ部屋が明るい。
ミナリアの机の隣には本棚がある。
「‥‥!あ、おはよう!ツツラさん!」
「さんって。執事なんだから呼び捨てだろ。そこっ」
「ん~。じゃあ<ケイジ>って呼ぶ事にする。」
「そうか。良いんじゃないか?」
「そうする。それでどうしたの?」
特に用事などないので、「暇だから来た。」と。
「そう。私は政治についての本を読んでいるの。見る?」
「政治か。見るぞ。」
その本の内容はちんぷんかんぷんで、そもそも字が読めなかった。
何これ?
「え‥‥。あぁ、俺。字が読めねぇ‥」
「え!?字が読めなかったの?」
「ま、まぁこの国には住んでいなかったしな。俺、日本‥‥ニッポニア人だし?」
ニッポニアと言う国名を聞いた途端、ミナリアは驚いた。
「あんな遠い極東の国からやって来たの?!」
「そ、そうだ。」
「でも何でソビエティアから亡命してきたの?」
まずい。ニッポニア人のくせにソビエティアから来たのはおかしいよな。
「ああ!えっとな。ニッポニアでは陸軍の軍人だったんだよ。で、ソビエティアに送られてだな…」
「こ、この銃はニッポニアの銃だ!陸軍の兵士に支給されるんだよ!」
「‥‥な、なら国に帰りたいと思わないの?寂しくない?」
「いやはや、どうにも思わないなぁ」
へぇー‥‥と本を横目にミナリアは答える。
話題が見つからない。困った。
ここはそそくさと‥
「そうだな。勉強の邪魔を致しませんように、失礼しま~す。」
戻る為にドアを開けると、目の前にセナがいた。
かなりびっくりした。
「あ、ツツラさん!どうかしました?」
「いや何でもない。仕事の一環だ。じゃ」
「は~い」
バケモンだと思った…。
明日からは忙しいし、街の散策でもするとしよう。
自転車か何か貸してくれると良いんだが‥‥
そう考えこんでいると、窓の掃除をしているフローレスにあった。
メイド長だから、何か管理しているだろう。
「‥!フローレス!」
「はい、如何しましたかツツラ様。」
「さ、様‥‥。いや、外に行くから自転車か何か乗り物を貸してほしいなと。」
「承知しました。従者用のバイクがございます。鍵とヘルメットをお渡ししますので少々お待ちください。」
「はぁ、頼む。」
しばらく待ちフローレスが来ると、一緒に表階段に向かった。
階段のすぐ横には三台のバイクが置いてあり、どのバイクもピッカピカの黒バイだ。しかも大きい。
だが時代も時代で二次大戦時のバイクの様な見た目だ。
「バイクの乗り方は分かりますか。まず鍵を挿し、足元にあるペダルを蹴り下ろすのですよ。後、ヘルメットを着けるのをお忘れなく。」
「(そんな事知ってるよ‥‥)ありがとう、じゃ行ってくる。」
「気を付けて。では。」
俺はバイクを始動させ、宮殿前のロータリーを出た。
宮殿に続く、森林道を颯爽と走り抜ける。
風邪が顔を触れていく。これは気持ちいい!
「‥‥フォォォォォォォォォォッッッ!!!!スゲェェ!」
少しガタガタとする荒い道が下り坂になり、元からのスピードに相まってもっと速くなる。
あの時の馬車の様に、景色が一瞬で過ぎていく。
‥‥段々と住宅地に近づいてきた。
「やべ、そろそろ減速しねぇと。」
――――え~!もっともっと!」
「チッ、しゃーねぇーなぁー!!‥‥って、誰ッッ!」
後ろには姿を見せた皆が俺の腰を掴んでいた。
姿は健全で明るい女子高生の見た目だ。
「誰って‥‥皆だよ?皆 芳香。知ってるでしょ?」
「は?君、そんな姿だったのか‥‥」
「てか全身よく見ると‥‥裸ッッッッ!?」
「‥‥ああ。そうだった。いっつも透明だったから裸で慣れてんだった。」
流石に街中で裸の少女を連れているとか‥‥
世間の目がやばい。教育的に駄目な父親か、奴隷商に思われてしまう.
服を用意しないと。
「しょうがない!服を買ってくるかぁ。‥‥と言えどお金ないんだった‥‥」
「だったら津々良‥もしかして私を辱めに合わせるの?」
「な訳あるか!もう一度透明化できないのか?」
「むむむ‥‥」
皆は体を震わせ、それっぽい事をやって見せたが一向に変わらない。
ハッキリと見えている。
「ダメ。どうやらここ周辺のマが強くて、透明化しようとも体が過剰反応して戻らなーい!」
「戻らなーい、じゃねぇよ!どうやって戻すんだよ。」
「単純だよ。マの強い地域から抜け出すの。ここら一帯はとても強いね。」
「どうしようか。裸のまま街を抜けるか?」
「まー頑張ってよおじさーん!!アハハ」
自分の事だろうが‥‥
皆は腰に両手を当て、笑っている。 両手を腰に当てて。
「お、おい!丸見えだ!」
「アハハハハ‥‥はッ!」
お前に羞恥心は無いのか‥‥
――――無いよー。無くなったー
「は?!何で読めるんだ?!」
目の前にはニヤニヤしている皆がいる。
相変わらず大っぴらで。
「仕方ない。一度、宮殿に戻るか。服を調達しよう。」
「じゃ、行こう!」
バイクを反転させ、もう一度宮殿に戻ることにした。
二度手間だ、クソ。
「登りはこえーな‥‥行きはよいよい帰りは恐いってこんな事か。」
何度かひっくり返りそうになったが、宮殿前のロータリーに到着した。
適当な所に止め、周囲の目に警戒しながら入った。
「服は何処だ‥」
――――何してるのよ!!!」
後ろから女の声がした。
瞬時に振り替えるとグロリアが立っていた。
「ちょっと!街に行ったと思えば、女の子拾ってきたの!?しかも裸で!」
「違う、違うぞ!この子は‥森林道の陰に隠れていた‥その‥」
「迷い子でーす!」
「そう!迷い子だ!」
グロリアは尚も不気味がっていたが、どっちにしろ服を用意しなくてはならないので、皆とグロリアはクローゼットに向かった。
ったく何処まで世話を焼かせるんだ、この娘は。
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.10 )
- 日時: 2020/01/30 21:27
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
二章2 本拠地
あれから数分、早く外に出たい俺はクローゼットに行って皆をせかした。
てか待つ必要もないはずだけどな。
「おい、まだか。」
「―――まだ!」
「‥‥じゃあ俺は街に行くからな!!また戻る!」
「え~!ちょっと~!!」
どれだけ時間をかけるんだ。
ずっと待ってられないし、先に街へ行くとしよう。
大階段の前に停めたバイクに跨り、森林道をまた下る。
この世界の服はどんなだろうか。今まで意識してみてなかったな。
男は紳士服で、女は知らん。
「‥ちょっと気になるな。あいつ性格は腹立つけど、可愛かったし‥へへ。」
――――場所は離れても、心の声は聞こえてるから!!
「お、おい!?」
俺はバイクの操作を誤りかけた。
あとちょっとで頭から落ちる所だった。
――――変な事考えてるの分かってまーす。じゃ、行ってこーい。
もう何も考えないようにしよう。
そう思いながら、やっとの事で下りきった。
風景は北欧を思わせる白レンガに赤屋根。
そして商店が立ち並ぶ通りでは香水のにおい。
街は活気に溢れており、様々な所で人が集まっている。 これでも戦時下だよな?
「人生で初めての海外旅行って奴か。いいな」
俺はバイクを車道に走らせ、街並みと北欧美女を楽しんだ。
可愛い子が多かった。
車道の車通りは多く、バイクで来て正解だった。
賑やかな通りを抜けていくと、段々と道は整備されなくなり、
やがて小さな村落集団にたどり着いた。何処かで通りを外れたようだ。
「おう。こんな都会のど真ん中にこんな田舎か。」
バイクを降りて、村の中に入ってみる。
街の明るさとは打って変わって、何処か寂しい雰囲気だ。
ふと周囲を見渡すと、雑木林に包まれている。
「感じ悪いな‥」
「でもちょっと興味があるな‥‥散策してみるか」
建てられている民家はどれも古く、とても貧しい村だろうか。
だがその古民家の周りには、泥に汚れた深い緑色の迷彩トラックが停められている。
‥つまり軍のトラック?
「あの時(城壁前の爆撃)に見た王立陸軍のトラックは‥‥確か、深い青色だよな?」
少しずつそのトラックに近づき、慎重に荷台の中に入ろうと試みる。
僅かながら、爆薬みたいな物が見当たった。
だがその時だった。
「――――お前誰だ!」
後方から男の声がする。
まずい! また捕まる!?
咄嗟にトラックの荷台に隠れた。
「‥‥」
「おい、そこのお前!!こっちに来い、分かってんだよ!」
俺は荷台の後ろから動かず、呼吸を抑えた。
トラックの奥を非常に怪しんでいるだろう、その男はゆっくりとこちらへ近づく。
もし銃を持っていたら?もし、俺を殺しに来ていたら?
―――――もし、この世界で死んだら?
ダメだ。想像もできない‥‥
段々、足音が大きくなる。
次第に近づいてきている事が分かる。
「‥‥戦おう。」
俺はホルスターの付けられてある右腰に手を当て、いつでも撃てるように‥‥‥
‥もうすぐ隣に来る。
「くッ‥」
荷台の角から忍び寄ったその男は、一瞬にしてこちらに銃を構えた。
それと同時に俺も立ち上がり、ベレッタを奴の首に狙った。
俺と奴の目線は合い、双方にらみ合う。
「へ‥どうするよ兄ちゃん‥」
「舐めるなよジジイが‥‥」
どちらも撃てば確実に殺れる。
さて、どうする。
「このままだとどちらも死ぬ‥。そのライフルは遠距離用だろう。要は狙撃銃だ。」
「何故、狙撃銃を持ってきた?‥‥俺のベレッタは引き金を引き続ければ、撃ち続けられる‥‥」
その若い兵士は悔しそうに歯を食いしばり、手に構えるライフルを握りしめた。
「クソ‥。だがな爺さん。こっちは外さない。この短距離ならな‥‥」
どちらも呼吸が早くなる。
緊張のあまり、吐き出しそうにもなる呼吸だ。
「(‥‥急に動いて避け、俺のベレッタで数発撃ち込めば終わりだ‥)そうか‥‥」
「さぁ投降しろ。その拳銃を捨てろ。」
「‥‥ッ!死ねい!」
俺は引き金を数回引き、奴の首元から肩にかけて命中させた。
奴もその反動で引き金を引き、俺が銃を構える右肩に命中させた。
その両方の銃声が響きわたる。
「ウグッ!!!」
「痛ぇ!!ああっ!!‥に、逃げなくては‥‥」
俺は右肩から溢れる血をそのままに、バイクの元へ走り出した。
先程の銃声を聞いて、数多の兵士が飛び出してくるだろう。
必死に走り続け、乗って来たバイクに跨った。
「急げ急げ急げ!!!‥‥」
焦る気持ちが先行し、上手くペダルに足が掛からない。
早くしないと撃ち殺される‥‥
「‥‥あいつだ!ロズポンドの侵入者だ、捕らえろ!」
「急げ‥急げ!!」
何度かペダルをキックし、バイクのエンジンが鳴りだした。
直ぐに方向転換し、スピードを上げて元の通りに向かう。
「撃て、撃て!逃がすな!」
後ろから銃弾が飛んでくる。
数発は地面に落ちたが、一発だけが後輪に命中した。
少しバランスを崩したが、幸いこける事は無かった。
「ウオォォォォォォッッ!!」
命からがら振り切ったが、肩の血が止まらない。
スーツが赤く染まってくる。
しばらく走ると、賑やかな通りに戻った。
俺のバイクはスピードを下げずに通りを疾走する。
周りの通行人は俺の姿にギョっとし、沢山の目線を向けてくる。
宮殿に続く森林道の入り口に着いた。
普通なら肩の痛みで失神している頃だが、肩の血が止まらないのを同じようにアドレナリンも止まらない。
その森林道を上りきると、出発したロータリーが見えて来た。
バイクは大階段の前に乗り捨て、玄関に走りだす。
出血過多で意識が朦朧としてくる。
宮殿のドアを乱暴に開け、倒れこむと同時に意識は絶えた――――――
―――――そして見えて来たのは担架に運ばれて、救急車に乗せられる光景だ。
俺は腹を抑えられ、サイレンの中、一人の救急隊員がしきりに俺の名前を呼ぶ。
「‥‥津々良さん!死ぬな!まだ腹の傷は浅い!」
‥‥違うだろう‥‥‥俺は肩を撃ち抜かれたんだ‥‥
何故、腹を抑えているんだ。
左側に傾くと、涙目になっている早稲場がいる。
俺の後輩だ‥‥。何でここに‥‥
「ダメ!‥まだ生きれますよ!‥逝かないでください!‥‥」
「津々良刑事!センパイ‥‥津々良先輩!」
早稲場は俺の手を握り、泣いてばかりいる。
段々と眠くなる。
―――――ああ‥これが"死ぬ"って事なんだな―――――
「‥‥ゥゥゥゥウウウウウアアアアアァァァァァァッッッッ!!!」
俺は叫び声と共に飛び起きた。
飛び起きて少しすると、寝ぼけた感覚も抜けてくる。
そして視界がはっきりすると、目の前に怯えて抱き合っているセナとエリカがいた。
エリカが心配そうに声を掛けた。
「‥ツツラ‥さ、ん?」
「ッッ!ここは救急車じゃない!?」
この前と同じ宮殿での自室だった。
どうやらまた運ばれて治療を受けたそうだ。
俺の叫び声を聞いて、ミナリアと皆が駆けて入って来た。
「!!起きたの!」
ミナリアが驚きと歓喜で声に出した。
「良かった‥良かった‥。調子はどうなの?」
「お、おう。何か大丈夫だ‥‥」
皆も俺の元にやってきて声を掛けた。
「ホント目を覚ましてくれて良かった。貴方が死ぬと私も消えるから‥」
「‥す、すまんな‥‥」
俺はこの前の事を思い出した。
そうだ。軍事基地だ。
「お、おい!すぐに国王陛下を呼んできてくれ!‥‥あと、東区の地図も!」
セナは困惑した顔になりつつも国王陛下を呼びに行った。
一刻も早く伝えないと‥‥
「もうケイジ!昨日から一日ずっと意識を失っていたんだよ!?しかも、途中から呼吸が浅くなって‥‥」
「死にかけながらずっと眠っていたのか‥‥。だが‥それに見合った報酬は頭に入れて来たぞ。お国の為にってか。」
「何言ってるのか分からないけど‥とにかく、ぜっっったいに安静にしててね!」
「いや、それは無理だ。俺にはやる事があるんだ。」
ミナリアの顔はどんどん険しくなる。
「調子に乗らないでっ!あなたがどんなに危ない状態で、どれだけ心配したと‥‥」
だが俺にはこの国の為にやらなければならない事がある。
殿下のお願いであろうとも聞き入れる事は出来ない。
「すまんな。」
と返した直後、エリカが言い放った。
「国王陛下がいらっしゃいました。」
「一体どうしたんだ!?つい先週にボロボロで宮殿に来たと思えば、今回は銃弾で死にかけてくるなんて!」
俺は苦笑しながら、「まぁ、そういう星の下に生まれちゃっただけだなぁ。」と返した。
「さて、国王陛下。実は大事な事が‥‥」
「何だい?」
俺は布団の上に地図を広げ、昨日走った通りを探した。
「この地区で、古びた村落があるはずなんだ。何か知ってるか?」
「この周辺で古びた村落だね‥‥。あぁ、この森林道を下った先のルーツェン通りからだね。」
「ルーツェン通りって言うのか‥‥。そこの通りから外れた小道があるはずだ。」
国王陛下は地図の「ルーツェン通り」を書いてあるだろう所に指さし、通りを辿って行った。
その先に二手に分かれた道がある。左には商店街が。右からは木が生い茂った場所が書かれている。
「‥‥この村か‥。君、ここに入ったのかい?」
「多分そうなんだ。そこに沢山の軍用トラックが止まっていて、王立陸軍の物でないかも知れないんだ。しかも荷台の中には爆薬があった。」
「そして俺を襲った数人の兵士は、ロズポンド王国に対して敵対していた。」
「‥‥そうか。それはソビエティア軍のスパイの本拠地かも知れん。王都で破壊工作を企んでるんじゃないだろうか。」
その可能性を考えた国王陛下は、セナに電話を持ってくるように言った。
セナは小走りで室内の置き電話を取って、電話を掛けた。
「貸してくれ。」
国王陛下は受話器を取って、しばらく待ち、話し出した。
「‥‥ランディア近衛師団長に代わってくれ。」
「‥‥‥ッ師団長か。緊急の命令があるんだ。‥‥ああ、出動命令だ。今からいう場所にソビエティア軍がいる。」
「‥‥場所はルーツェン通りから外れた‥そう、その村落だ。それでだな‥今わかっている敵の数は…」
「多分、大勢いると思うぞ。」
「‥三個大隊くらいを送ってくれ。‥ああ頼む。後、そこに停車してあるトラックには爆薬が仕込まれている。十分に気を付けてくれ‥ああ、ありがとう。じゃあ」
その後、受話器を戻した。
「ツツラ君、君を信用して送ってみるよ。私は部隊と合流してそこに向かうよ。」
「ま、待ってくれ!俺もついていく。傷は‥ミナリア殿下の魔法で完治したんだ。あと俺、第一発見者だし。ね?」
突然、ミナリアは声を上げた。
「ダメっっ!!安静にしててって言ったじゃない!」
「でも、あの時のように魔法で治してくれたんじゃ‥‥」
「銃弾は取り除けてないの!もし無理に動いて、銃弾が肩の何処かにぶつかったら出血しちゃうんだよ!?」
ミナリアは俺の顔を見つめ、必死に訴える。
俺はミナリアの目から顔を逸らし、説得を試みる。
「ちゃんとこっち見て!」
「‥‥分かった分かった。じゃあ治療の為に街の医者を教えてくれ。それなら良いだろ~?」
「‥‥‥じゃあ仕方ないわね。でも!グロリアの監視付き!」
それを聞いたのち、グロリアと俺は部屋を出て、玄関へ向かう。
その玄関に着くまでずっと、ずっっっっとしつこく注意してきた。
「ケイジ!分かってる?グロリアの目を盗んで逃げだしちゃダメ!‥‥聞いてる!?」
「聞いてるよ。だいじょーぶ大丈夫!」
玄関の前で、グロリアはミナリアに向かい、一礼し「行って参ります。」と一言返した。
「じゃあ行くわよ。逃げたりしたら言いつけるから肝に命じときなさい?」
「はいはい‥。じゃ行くぞ?」
俺は助手席でなく、後部座席に座り移動した。
道を下り、大通りに出た。
だが通りは渋滞で進まない。
「何だ?」
「‥‥どうやら陛下の近衛師団がこの地域を封鎖しているようね。時間かかるわよ。」
「(‥‥しめた)これじゃあ進まないな‥」
「そうね。歩く?」
「そうしよう。」
俺はニヤリとし、勢いよくドアを開け外に出た。
何処を見ても車だらけで、まさに交通マヒだ。
さて、一発かますとしよう。
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.11 )
- 日時: 2020/02/01 21:56
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
二章3 堕賢者の猛攻
同時に車外に出た二人は、周囲を見渡し、人混みの通りを進んだ。
俺は取り合えずグロリアの後ろを歩き、少しずつ離れる事にした。
「ここら一帯は全部人混みよ。離れないようにしなさい!」
「おう、分かった!」
とか言っときながら後で逃げるんだが。
しばらく歩いていると、例の分岐点に着いた。
「ツツラ!!いる?!」
「ああ!いるよ!」
その分岐では軍のトラックや、兵士が集まっており非常にうるさい。
チャンスだ。近くの近衛兵に紛れるとしよう。
俺は黒っぽい汚れた軍服の男集団に紛れた。もうグロリアの目にはつかないぜ‥‥
「この先か‥‥」
雑木林の入り口には検問所が設置されており、入れなくなっている。
こうなったら汚れ覚悟で林の中に入るほかない。
検問所から離れた所から入るとするか。
検問を避け、木々に沿いながら入れそうな場所を探す。
「えーい仕方ないッッ!突撃だ!」
突貫するとしよう。
枝のチクチクする木々に走りこむ。とても厚い木々で最早森林か。
走り抜けて施設が見えて来た時、
‥‥男たちの声と、沢山の銃声が鳴り響いた。
どうやら近衛兵が突入したようだ。
「隙を見てトラックを探し出さなくては‥‥」
大勢の敵兵が、味方との交戦に夢中になっている。このがら空きになるときがチャンスだ。
確かトラックのあった古民家は少し豪華な見た目だったな。
俺は家々の壁に沿いながら、周囲を警戒し進んだ。
足元の砂の音に耳を澄ませ、足を進めないといけない。
村中に銃声とうめき声が広がる。
目的地へ向かう途中に見た兵士は皆、死体だった。
小走りで家の間を走ろうとしたその時、足元から声がした。
「‥‥お前は‥味方か‥」
「ッ!?衛兵か!」
黒い軍服の男が寝そべっていた。肩と腹部から血を流している。
俺はその老兵を見、どうにか助けようとした。
「俺の事は良い‥それよりも気をつけろ‥‥敵兵の中に‥賢者が、いる‥」
「ま、待て!話は後で聞くから。まだ傷は浅いんだ。必ず助けるからな!」
「す、すまん‥‥」
「おう!‥‥すぐ隣の家に逃げ込むか。」
俺は中に敵がいるかも知れないと思い、銃を構えながら慎重にドアを開けた。
中に入ってみると、数人の兵士が腐り死んでいた。
「臭ッ‥いが仕方ない。」
その衛兵の脇に腕を通し、扉へ引っ張って行った。
床に寝かせると、大量の血が溢れてくる。
「今から止血してやるからな!」
「あ、ありがとう‥‥!」
ハンカチを患部に当て、必死に試みる。
直ぐにハンカチは赤く染まり、尚も溢れてくる。
「と、止まらない!‥‥」
「も、もう良いんだ。それよりも‥聞け!‥最期だ‥」
「くッ‥分かった。言ってくれよ」
「‥敵に‥堕賢者がいる。」
堕賢者‥‥どんな奴なんだ。
荒い息遣いで彼は続けた。
「そして‥その姿は――――――
‥‥言いかけたその時、家の外で大きな爆発が起こった。
一瞬で火の海になり、俺たちの居場所も火を被った。
「―――ダメだ!‥ここもすぐ焼ける!」
俺は肩を貸し、ドアへ歩き出した。
恐らく、あのトラックの爆弾が爆発したか‥
外に出てみると焼け死んだ敵味方の兵士が倒れている。
まさに地獄絵図。
焼死体の山の奥には一人の男が立っている。
その姿は黒く、そして血に染まった軍服は吐き気を感じさせるほどだ。
だが、一目で分かる姿だ。あの衛兵が言わんとする者だ。
賢者だ。堕賢者だ‥‥
「‥お前‥逃げろ!‥俺を‥‥この老いぼれを置いていけ!!‥」
俺の肩に掛かるその男はもがいた。
だが俺は助ける‥。俺に関わった人は死なせたくない。
「ダメだ。一緒に逃げ出すぞ。」
逃げ出そうとした瞬間、隣にいた男は腐っていた。
顔は老け、黒く染まり、一部白骨化していく。
「お、おい爺さん!‥‥あいつが‥あいつがやったのか?」
堕賢者はこちらをまじまじと見つめ、やがて口角を上げた。
もう見つかっていた‥‥。俺も、俺もああなるのか?!
「抗ってやる。抗ってやる‥」
俺は腐ってしまった衛兵の体を置き、まだ残っている瞼を閉じた。
そして振り向き、拳銃を奴に向けた。
「賢者だが何だが知らないが。人殺しは警官として見過ごせねぇんだよ!今すぐ投降しろ!!」
その男は走り出し、助走をつけては跳ね、俺の目の前に着地した。
何て跳躍力だ?!
「ヒヒヒヒ‥‥」
顔を見上げ、俺の顔を見る。
その顔はまるでゾンビの様だ。あの衛兵と同じように。
「君ぃ‥。僕の死魔法が効かないのかねぇ?‥」
「何なんだお前!撃ち殺されてぇのか?!」
「へへへへぇ‥そうか。君、五大賢者の一人に守られてるねぇ。神の御加護って奴さぁ?」
「し、知らねぇよ!俺の家は仏教だ!神様なんて信じちゃいねぇ!!」
――――津々良!貴方はミナリアの加護を受けているのよ!
そうなのか?
――――奴の魔法は通用しない!だから早く逃げて!
この状況で!?
俺は銃口を奴の脳天に突き付けた。
だがその男は、怯えることもなく続けた。
「ッヒヒヒ‥。そんなおもちゃが通用するとでも?」
「神様の迷信より、科学技術が勝るんだよ!」
そう言い、俺は引き金を引いた。
確実に脳天を貫いた。だが‥
「痛くも痒くも無いんだなぁ」
脳天からは血が止まらないのに、奴は健在だ。
どういう事だ?賢者でも人間じゃないのか?!
皆!!やり直しは出来ないのか!?
――――無理!一定以上離れていると対象には使えないの!
「君‥その賢者はミナリアかねぇ?」
「ッ?!」
「図星かな?」
「知らん。てか名乗らない人間に何を聞かれても答えんぞ。」
そいつは「おっとこれは失敬」と少し驚いた顔で返した。
「では名乗ろうかぁ。‥私は世界第三賢者、腐敗を司る者!‥堕賢者<コリウヌ・ファラヌイス>であーる!!」
「‥じゃ!」
名前だけ聞いて、俺は全力疾走した。
死に物狂いで発狂しながら。
目先には近衛師団の衛兵キャンプがあり、そこに装甲車が停車している。
「よぉぉぉぉぉぉぉし!!!」
だが後ろからは奴が追いかけていると思うとちびりそうだ。
30代のおっさんが走るのだ。足はパンパンになりながら味方に向かって走る。
「さぁさぁ何処まで逃げられるかなぁ?」
コリウヌは先程に見せた跳躍力で俺を追いかける。
気を抜くとすぐに捕まりそうだ。
「おぉぉぉぉぉいぃぃぃぃ!!!」
「なんだなんだ?」
数人の衛兵がこちらを見る。
そして俺の奥にいる堕賢者に気づき、急いで銃を構えた。
「銃ゥゥッ!!、構えーーーーッッ!!」
「構えーーーーッッ!!」
「‥撃てェェェェッッ!!!」
数発のライフルの射撃音が聞こえてくる。
その内の一発が頬をかすめた。
「うおッッ!?危ねぇなあ!?」
残りの弾は全てコリウヌに当たったんだろうが、恐らく効かないだろう。
衛兵達は弾の装填を始めた。
「射撃用ーーーー意!!!」
「まぁぁぁぁぁてぇぇぇぇぇ!!!」
もうすぐで彼らの元だ。
足を止めるな、足を止めるな!
「ヒヒヒ‥腐敗化ッ‥‥」
あと少しで味方に合流できるその時、彼らの体は腐り始めた。
しかも鉄は酸化し、車両も動かなそうだ。
「ッハァァァァ!?」
「ヒヒヒヒ‥諦めた方がいい‥」
戦うしかない‥
ホルスターから銃を取り出し、弾の限りに撃ち放した。
「オラァァァァッッッ!!」
「‥‥で、どうしたのかね?そんな物は効かぬと言ったろう」
完全に腰が抜けてしまった。
もう立てない。
「あ、あはは‥‥そうか‥」
「じゃあそろそろお遊戯もお仕舞にしようかね。さぁ‥」
ダメだ。今度ばかりは死ぬッッ‥
コリウヌはその軍服から拳銃を抜き、俺に構える。
「貴様に魔法を使う価値はあらぬ。死ね」
そう告げた刹那―――――
「―――――硬直波ッッ!!」
「ッ!?誰だ!」
後ろから若い女の声が聞こえた。
その声の主は‥‥
「お前‥‥ミナリア!?」
「っさぁ!早く逃げて!」
何とミナリア殿下と、大勢の衛兵が駆けつけて来たのだ。
だがコリウヌに殺されてしまう‥‥
「こ、コリウヌは!?」
コリウヌはその体が硬直している。
どうやらしばらくは動かなそうだ。
「ほら早くっ、立ってよ!!」
「こ、腰が抜けた‥。引っ張ってくれ‥」
そう言い、ミナリアに手を差し出した。
その手を取ってもらい、何とか走り出した。
「この先に車があるわ!‥さぁ早く乗って!」
ミナリアにせかされ、車に乗ると早速怒号が聞こえて来た。
車が走り出すと、
「何でグロリアから離れたのッ!?ダメって言ったじゃない!あと少し遅れていたら死んでいたかもしれないんだよ!?」
「‥ぐうの音も出ません。」
と、問い詰められた。
ミナリアの目はこちらをじっと見つめる。
「あの時言ったよね?絶対グロリアから離れちゃダメって!!とっっても心配したんだから!!」
「そ、そうだよなぁ‥‥」
「とにかく!‥生きていたからよかったけど、もうこんな無茶したら行けません!」
「そ、それにしてもあの堕賢者は‥」
「それについてはもう大丈夫よ。衛兵部隊と共に結界を張ったの。もう出られないわ。」
俺は大きくため息を吐き、「良かった‥‥」と声を漏らした。
全身から力が抜け、座席に寄り掛かる。
「でーもー!!後でみっちりお説教です!!」
「あ、‥‥へぇ~‥」
ミナリアのお叱りも余所に、俺は車内で爆睡した‥‥。
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.12 )
- 日時: 2020/02/06 23:47
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
二章4 エリカとお勉強と。
――――――そろそろ起きないかなぁ
‥‥誰かの猫撫で声が聞こえる。
日曜のダラダラしたくなる朝の様な感覚‥‥
――――――早く起きないかなぁ‥
もう少し寝たい‥
まだ起きないぞ俺は。
――――――早く起きてッッッ!!!
と言う声と同時に体中が揺れる感覚がする!
も、もう起きるしかないッ!!
「‥はぁぁぁあああいッッ!!!起きますッ!」
「もう、やっと起きた‥」
横には少し怒りっぽいのミナリアがいた。
ここは寝室か。どうやってここに‥‥
「ここにはグロリアが肩を貸して、連れてきてくれたの。感謝しないとね~」
「はははぁ‥。そりゃありがたいことだ。」
「しかも宮殿に戻ってくる度、医者に掛かってる!今回は肩の銃弾の取り出し。」
「かなり酷かったんだよ?右肩の内出血。」
朝からグロテスクな事聞かされたな。
「そうか。かなり無理をしたな。すまんかった。」
「うん。かなり無理をしたね。」
その後、ドアから国王陛下と皆、グロリアが入って来た。
国王陛下は相変わらずおおらかで、だが、グロリアはご機嫌が悪い様子だ。
「やぁツツラ君、やっと起きたかい?昨晩は車の中でおねんねだったねぇ?」
「本当にそうよ。全く呑気ね!」
「すまなかったなぁ。」
皆はゆっくりこちらに歩いて来た。
そして‥
「バッッッッッッカじゃないの!?」
と勢いよく頬をぶった。
痛ぇなコノヤロ。
「あいた―‥ひでぇわ芳香さん、病人をぶつなんて~」
「ホントはもっとぶってやりたい!!‥何であんな無茶したの!!」
「そりゃあ‥ねぇ?俺の座右の銘があるんだよこれが。」
国王陛下の興味に触ったようだ。
「ほう、それはどんな?」
「昔の偉人の言葉から持ってきた考えだ。俺の祖国の考えで、<かくすれば かくなるものと 知りながら やむにやまれぬ 大和魂>ってのがある。」
「それは誰の言葉で、やまと‥だましい?とは何だね?」
「この言葉は<吉田松陰>と言う偉人の言葉。そんで<大和魂>ってのはだな‥あ~。言うなれば我ら日本人の心って奴だ。」
それを聞き、グロリアが問いかけた。
「二ホン人って何よ?」そういや、この世界線では世界地図イベントはやってないのか。
「日本人。恐らくここでは<ニッポニア>の事だろう。俺達はニッポニアの事を<日本>と言うんだ。」
「ふーん。そうなのね。」
「で、この言葉にはどういった意味があるんだい?」
「この言葉には、<こうすればこうなるって分かっているが、それでもせざるを得ないのが日本人の心だ>と言う意味になる。」
周囲には全く意味が分からない‥‥みたいな空気が流れている。
独特の日本の感性は、流石に難しかったか‥
「ま、まぁ何か分かるんだなツツラ君!! さぁ、朝ご飯にしようか!」
「その優しさが心に刺さるッッ‥‥!」
俺はいつの間にか着ていた寝巻きから、右肩の銃傷が縫われたスーツに着替えた。
その後、国王陛下、ミナリア、皆と一緒に一階の食堂に向かった。
既に配膳された料理に口をつける。
「美味い美味い‥‥。国王陛下、そういや聞きたい事があるんだ。」
「ん?何だい?」
「あの時、確か<コリウヌ・なんとかかんとか>って奴が‥」
下の名前が出てこない為、取り合えずなんとかかんとかで‥
国王陛下は苦笑交じりで答えた。
「<なんとかかんとか>って言う人物はいないねぇ‥。けど<コリウヌ・ファラヌイス>なら知っているよ。」
「そう、それ。そいつがえ~っと、<世界第三賢者>とか<五大賢者>とか‥」
俺の言葉を聞いたミナリアが反応した。
「五大賢者、何で知ってるの?‥まさか‥」
「そいつ、ミナリア殿下の事も知ってて、何か<神の御加護>とか何んとか」
国王陛下が俺に話し出した。
「そうだよ。ミナリアは五大賢者の一人で、世界第五賢者‥」
「生を司る者、よ。私は彼と違って、生物の傷、精神を癒す能力を持っているの。」
「俺の傷もそれでか。」
「そうよ。」
だが、そう何者も賢者になれる物なのか?
それにコリウヌは明らかに人を攻撃できる魔法を‥
「因みに、この国では習得できる魔法が非殺傷な物だけなんだ。だから娘も命に関わる魔法は使えないんだよ。」
「そうなのか。だけどコリウヌは使ってた?」
「あの男はソビエティア軍の従軍賢者さ。これは賢者の御主人―――<神>との契約に違反する。」
「どういう事だ?」
「世界には五大賢者と言われるように五人の賢者がいる。生まれながら特異な能力を持った人間がそうさ。娘も生まれながらの能力者‥」
生まれつき‥‥先天性な能力なのか。
赤ん坊の頃から魔法が?
「その能力は<神>に与えられたと言うのが教えなんだよ。与えられる代わりに幾つかの契約がかかる。これは世界的な法として扱われる。」
「つまり国際法か。」
「そうだ。その法律は神との契約で、これを破った賢者を堕天使ならぬ、堕賢者なんだよ。」
「大まかな内容はえー‥‥」
国王陛下は思い出そうとしている時、痺れを切らしたミナリアが間に入って説明した。
「一つ、公共の福祉の為に使う事。二つ、能力を使い、傲慢に振舞わない事。三つ、如何なる組織、団体の隷下となり能力を使わぬ事。四つ、不要な殺傷に能力を使わない事。五つ、能力を権力としない事。」
「その五つか。で、奴は三つ目と四つ目に反したのか。」
「そう。他にも色々してそうだけどね。」
益々興味がわいてくる。世界観、魔法、五大賢者―――――
元居た世界とは常識も違う。
「もっと知りたくなってきた。さっさと飯を終えて調べたいことがある。資料館みたいな所、無いか?」
「あるとも。但し、仕事を終えてからだね。この数日は執事の仕事したかな?」
「あ、あはははは‥」
やっべぇ‥ここに来て、ここでした仕事ってなにもねぇ‥!!
――――バーカ。これからはここで働くんだよ?
お前は働かねぇじゃないか。
――――そうだよ?でも津々良のそばにいなきゃダメだから楽じゃないし~
「でもケイジ、基本は私の側にいるだけでしょ?」
「おう。」
「じゃあご飯食べた後に私、勉強ついでに宮殿内の資料図書館に行くからそこで見ましょ。」
「よし、行こう。」
ミナリアはせっせと食べ終わり、一緒に食器を厨房に持って行った。
内心ウキウキしながら、ミナリアと行動を共にした。
「さ、行きましょ。」
「おし。てか、何処に資料図書館なんてあるんだよ?」
「地下にあるの。ついて来て」
ミナリアの言う通りについていくと、玄関前の大階段の後ろに地下階段があった。
秘密基地かな?
石造りの、まるで中世の城のような階段を下ると大きな扉が見えて来た。
今までこんな、無駄に、豪勢な扉の資料室があったか‥
「‥あら?もう開いてる‥?」
「何だよ。いつもは閉まってるのか?」
「ええ、そうよ。シェルターも兼ねているしね。施錠はするの」
そのまま入ってみると中には司書と思しき爺さんと、高い所の本を取ろうとしているエリカがいた。
爺さんはそこらの古めな本屋にいるような司書の格好だ。
「ほう。殿下様。本日はどのような本をお探しで?」
「ええ、私は非殺傷魔導書。横にいる専属執事に世界史の本を。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は字が読めないんだ。」
「あちゃー‥そうだったわ。」
本を探しに来たが、字が読めないのに本とは意味が無い。
いちいち翻訳してもらうのはちょっと‥
「取り合えず、世界史やその他歴史の類の本はエリカさんのいる所に配列しております。」
「あ、ありがとう‥えーと‥‥」
「私の事は<司書>とお呼びください。執事様。」
「は、はぁ。ありがとう司書さん。」
俺は未だ奮闘しているエリカの所に行き、目当ての本を探した。
「うーんっ!!うーん!!」
「‥おうエリカちゃん。どうしたんだ?」
「あ、ツツラさん!実はあそこにある本を‥」
と指を指されたが棚が高く、指した先が全く分からない。
だが必死に伝えようとしている所は眼福眼福‥
「そ、そうか。ちょっと分からないから持ち上げてやろう。」
「ッ!お願いします!!」
俺はエリカの脇を抱え、本人に取ってもらう事にした。
「ちょ、ちょっとこしょばいです//」
「ならはやくとれー」
とのろけたやり取りを交わし、エリカは何かを取った。
その後、降ろすように言った。
「取ったか?」
「はい!取れました!」
降ろした後、どんな本を取ったのか聞いてみた。
エリカは喜んで見せて来た。
「‥?すまん、読めねぇ」
「そそそ、そうなんですか!?」
「そんな驚くなよ‥。俺、日本人なんだぞ?」
「ニッポニアから来たんでしたね。これは魔導史の本です!」
「まどう?魔術師になりたいのか?」
「いえ、ミナリア様見たいになりたいなぁって‥」
いや、結局は魔術使いたいんじゃねぇか。
「それはまぁ良いんだが。大まかな世界史の解説書とか無いか?」
「あ、あります!取ってきますねっ!」
そう言い、少し離れた本棚に向かい、数冊の本を持ってきた。
小走りで戻ってくる。
「ツツラさん!幾つか持ってきました!‥あそこの読書スペースで読みましょう!」
と、長いテーブルと沢山の椅子が並べられている場所を指した。
俺達は適当な椅子に座り、その取って来た本を見てみた。
「全部で、三冊取ってきました。では、お読みしますね!!」
「はい、お願いします。」
「はい、一冊目はこの赤い本!<魔法と世界の歴史>って言う本です。」
エリカは適当なページを開き、俺の代わりに字を読んでくれた。
そのページには年表見たいな物が書かれていた。
「近代史の大きな出来事を、簡単に要約して読み上げますね! 1875年、賢者独立戦争からリギリオ連合帝国から自由都市合衆国が独立‥」
と、キリがないので興味がある奴だけを聞いた。
「そうですね。どんな事に興味があるんですか?」
「ああ、世界の賢者とかかなぁ。」
「世界の賢者ですね!それだったら‥このページですね!」
そのページには見開きの世界地図と、各地の賢者に関するであろう情報が記載されていた。
エリカはその内容を読み上げた。
「世界には<五大賢者>と呼ばれる、魔法を扱う者の中で突飛した能力を持つ者が五人存在する。合衆国文化圏に第一賢者<デトロ家>。砂漠文化圏に第二賢者<アルベ家>。凍土文化圏に第三賢者<ファラヌイス家>。極東文化圏に第四賢者<イザナ家>。王侯文化圏に第五賢者<コンタイン家>。‥がありますね。」
世界地図にはその<文化圏>が記されていた。
合衆国文化圏は現実世界の南北米大陸のような地域に。砂漠文化圏はアフリカ大陸。凍土文化圏はシベリアと類似した地域。極東文化圏はニッポニアから東南アジアみたいな地域に。そして王侯文化圏はここ。
「そうなのか。各々の能力の特徴ってあるのか?」
「少しお持ちを‥‥。<デトロ家>は近代工業及び蒸気魔法を扱い、合衆国文化圏の市民の生活を支えている。<アルベ家>は主に自然魔法を扱う。それにより砂漠文化圏の安定を図っている。<ファラヌイス家>は攻撃魔法や腐敗魔法を扱う。凍土圏に於ける動物の生息に関与している。<イザナ家>はその地域の人間の極楽を司る。その為、精神魔法や環境魔法も扱う。<コンタイン家>は人間の生を操り、その能力は医療の役割を持つ。」
「どうやら<イザナ家>の地域は多神教で、その賢者となる人の出身地域で考えは変わるようですよ。」
「多神教は日本と一緒か‥。その家名って元からなのか?だとすればセントルファーもコンタイン?」
「いえ、賢者としての才能が発覚した後、神からの<神名>として授かります。だから、国王陛下は苗字が異なります。」
や、ややこしいな‥‥
いずれ字の勉強もしなくてはならない。
やる事は山積みだ。
「色々あるんだな。俺からすればややこしい事だなぁ。」
「そうですね~。そういえばツツラさんは、この国の字が読めないんですよね?‥でしたら私が毎晩お付き添いしましょうか?」
「字が読めればエリカちゃんに迷惑は掛からないしなぁ。是非頼みたいぞ。」
「分かりました!お任せください!!」
という事で、これからはロズポンドの言語をエリカに教えてもらうか。
こうなると色々な事があって楽しみだな。流石、第二の人生か。
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.13 )
- 日時: 2023/01/05 23:42
- 名前: 赤坂 (ID: dYnSNeny)
二章5 戦争の行く末
王都 中央区 首相官邸
凍えるような深夜。
津々良や皆が宮殿での日常を送っている中、ソビエティアとロズポンドの戦争は続いている。‥‥いや、戦争と言えど睨み合いが続いている状態だ。
そんな中、ウィスタネル首相率いる内閣は、水面下の外交を続けていた。
今日も首相官邸の執務室では、葉巻を吹かし眉間にしわを寄せている首相と、共に葉巻でなく煙草を吸って黒電話を見つめるフォステン外務大臣がいた。
何んとも重い空気だ。
「‥首相。最早、相手方はこちらの人質戦術には乗りませんな‥」
「ああ、完全に遊ばれておる。その上、こちらから手を出させようとも考えている。」
「ええ。恐らく、我が国の国際社会からの批判を狙っているのでしょう。その手には乗らぬように気を付けてくださいよ。」
「ええい、そんなの分かっとるわい‥」
昨日の交渉の対応はガサツな物だった。
電話は国家指導者たる書記長ではなく、ただの一人の外交官。
講和交渉の条件はスタインフォッド森林の完全な領有の認可。
20世紀 春 某日
「‥‥それだけは無理だ‥」
<ですが首相、書記長並びに連合政府はそれを最低条件としております。この割譲の要求が呑めないのであれば、交渉期限日には行動を再開いたします。>
「‥だがな君、こちらには貴国の従軍賢者<コリウヌ・ファラヌイス>が捕虜として確保されている。この人質を解放し、そちらに送還するには条件が重い。」
<‥少々お待ちを。‥‥ええ。連合政府としての結論としましては構いません。>
ふざけるな‥、とウィスタネルは下唇を噛んだ。とんだ舐め腐った対応だ。
ここでの譲歩は許されないが、頑なに反発しているとその反動が恐れられる。
「(‥難しい所だ。)‥貴官の言う事はよーく分かった。今日はもう遅い、また明日に交渉を取ろうじゃないか。」
<‥分かりました。では失礼します。>
と言い、通話は切れた。
半ば勢いで立ち上がったウィスタネルは、自分の椅子に脱力したように腰掛け、数の少ない葉巻に火を灯した。
―――――――――――――――――
フォステンは、もう髪の無い頭を掻き、悩み続けた。
その時、一つの考えが浮かんだ。
ハッとした表情で
「‥多方面に交渉を取りましょう。我が国、我が一政府のみが扱う問題ではないのですよ。」
「どういう事だ、フォステン。」
「彼の国の恐怖・圧力は王侯文化圏のみならず極東文化圏にまで及んでおります。そこで極東諸国に連絡をし、対ソ包囲網を形成すると言うのは妙案でございましょう?」
ウィスタネルの表情は見る見るうちに精気に満ち、これしかないと確信した。
この無根拠ともとれる確信は、彼の経験から来たものだろう。
「な、ならば‥」
「ニッポニアに同盟を求めましょう。」
「今すぐにでも行こう。航空機は?」
「いえ、ここは海路で行きましょう。我が国周辺の制空権はどっこいどっこいであります。」
「すぐに王立海軍に連絡を取れ!そして宮殿への車も手配しろ!‥」
王都 東区 セントルファー邸
早朝。
宮殿では毎日のように、ミナリアはお勉強、従者達は日常の庶務をこなしながら一日を送っていた。
もちろん、俺は専属執事として勉強中のミナリアの隣にいた。
「‥勉強熱心なこった。」
「ええ、勉強は大事。こういう経験は豊かな生活の証拠よ?」
「勉強が豊かな生活の象徴なんて、俺の国じゃあ考えられないな。」
「ニッポニアは豊かな国なのね。」
「‥おう。そういや最近、皆を見ないけど‥」
「ヨシカちゃんの事?」
「そうだよ。あいつ遊び歩てんじゃねぇか?」
「ふ~ん」と、ミナリアはペンを指で回しながら本を眺めていた。
その時、突然部屋のドアがノックされた。
「ん?入れていいのか?」
「良いよ。どうぞ~!」
と開いた扉の先から、フローレスが入って来た。
「失礼します。ミナリア様。」
「どうしたの、フローレス?」
フローレスは、「首相のウィスタネル様からでございます。」と言い、要件を話し出した。
「実はウィスタネル首相が来られておりまして、セントルファー陛下に謁見しております。是非、ご出席を。」
「俺も行くのか?」
「‥ミナリア様の要望でございましたら。」
俺はミナリアの方を向き、その返答を確認した。
ミナリアは少々不安そうにしたが、軽く頷いた。
「‥殿下の仰せのままに。」
そしてミナリアには「ぜっっっっったい変なコトしないように!!」と小声で釘を刺された。
部屋に出る際、フローレスに執事服の襟を直された後に歩き出した。
「どんな奴なんだ?‥」
「う~ん、就任式で見た所、お爺さん。」
「‥‥」
フローレスの後を歩いていると、謁見室と思しき部屋のドアについた。
ドアの両隣には小銃を持った軍服‥‥って、あの軍服は陸軍の物か。
全く気分が悪い。
「着きました。 ミナリア様とその専属執事です。お開けなさい。」
「はッ!」
片方の兵士がノックした後、扉が開けられた。
豪華な内装の部屋には、セントルファー国王陛下とウィスタネル首相と考えられる男が椅子に腰かけている。
「‥ああ首相。これが私の娘だよ。ミナリア、ミナリア・コンタイン。」
「そうでありますか、はぁ。全くお美しい方でありますなぁ。」
ミナリアは少し戸惑いつつも、軽くお辞儀をし答えた。
‥この首相は見覚えがあるな。
「(‥‥アッ!!前の世界でリムジンに乗っていた政府高官か!)」
――――よく覚えてるねぇ~
お前‥‥何で聞こえて。
じゃなくてどこ行ったんだよ?
――――まぁまぁ
「‥‥ぇねぇ!ケイジ?」
「――あぅ?どうしたんだ。」
「どうしたもこうしたもボーっとしてたじゃない。大丈夫?」
目の前には国王陛下の隣に座るミナリアと、起立して俺に握手を求めようと手を差し出している首相がいた。
「ッあ!‥どうも。」
「どうもどうも。専属執事兼護衛官の方であるとお聞きしております。どうやらミナリア様の命の恩人だと?」
「え、ええ。そうだ‥です。この腰の拳銃で暴漢を一名‥」
ウィスタネルは頷き、自分の椅子に戻った。
俺はミナリアの隣に立ち、その話を聞く事にした。
「‥では陛下、話を戻しましょう。‥現在、我々内閣は陛下の議会にて、挙国一致の体制を構築する旨を陛下の議会に提案するつもりです。」
「挙国一致の体制?‥」
「ええ。現在の我が国は遺憾ながら、彼のソビエティアに支配されかねません。この状態においては与野党などとは言っておられません。今こそ国内代表の知識を集結させる時であります。」
「もっと具体的な案は無いのかい?」
国王陛下は少し顔をしかめ、聞き返した。
「あります。本日の午前に考えた話なのですがね。‥極東諸国に当てがあります。」
「極東文化圏か‥?」
「ええ。大ニッポニア帝國であります。‥そちらの護衛官の方のお国でしょう?」
厳密に言うと違うだろうが、「ええ、まぁ。」
愛想笑いをしていった。
「だったら帰国ですな。んん?」
「そうですね。」
「‥そこで陛下、ニッポニア国に同盟を求め、ソビエティアへの両方面からの圧力で交渉に臨むのです。」
「‥確かにニッポニアは現在、極東文化圏唯一の列強諸国であるからな‥‥良いだろう。それで我々は?」
「是非、我々と共に外交へ‥」
マジでッ!?俺も行けるのかな!?
正直、一度行ってみたかった。俺のいた日本とは何が違う‥って言うか時代が違うだろうが楽しみだぁ。
「娘も一緒にかい?」
「ミナリア様も共に来て頂きたい‥」
「私は行ってみたいです。‥執事は‥」
俺の行きたい気持ちが伝わったのだろうか。
どうやら俺も連れて行くよう、説得するようだ。
「ミナリア様が連れて行きたいのであれば。」
「よっしゃァァァ!!‥‥‥」
つい声に出してしまった。
やっべクソ恥ずかしい。
「も、もう!!ケイジッ!!」
そんな一騒ぎが過ぎ去った後、首相のすぐにでもと言う事で極東へ向かう事に。
どうやらすでに宮殿には、軍の車両が停止しているらしい。
首相と俺達は玄関に向かった。
「現在、制空権は敵方に奪取されている恐れがあります。ですので海軍艦艇で向かいます。」
「分かった。港へ?」
「ええ。東区の果ての補給港です。」
俺達の後ろにはグロリアとセナが立っていた。
国王陛下は二人に、この屋敷の管理を頼んだ。
「分かりました!!」
セナは元気よく返し、俺達を見送った。
「行ってらっしゃいませ、国王陛下。」
グロリアは淡々と言葉を発し、頭を下げた。
ロータリーには陸軍の物だろう。沢山の車両・トラックが停車している。
国王陛下とミナリアは黒塗りの公用車に、俺は軍の自動車に誘導された。
内装を見てみると‥
「いつ見ても古くせぇなぁ。」
車の後部座席に腰を下ろすと、隣の兵士から声を掛けられた。
「やぁ津々良!久しぶり!!」
「‥何で名前‥」
――――忘れるなんてひどいなぁ
「‥!?皆!」
「そうだよ。何してたんだよ~」
「それはこっちのセリフだ!突然姿を消して何を‥」
「これを見て。」
手を差し出してきた。
その手の中には、銃弾が装填されたベレッタのマガジンが。
「ッ、何でお前が?」
「いやいや、あの時の戦いから消耗してたでしょ?」
「で、でもどうやって‥?」
「陸軍のおじさん達に<イロイロ>して作ってもらった。」
「色々って‥お前まだ子供だろうが。」
俺の叱責を余所に窓からの景色を眺めている。
やがて車列は進み出し、俺のいる車も前へ。
そのまま街へ降りると、市民の目線が向けられた。物々しい雰囲気だ。
走る事、約二時間‥
段々と海が見えて来た。昼に射す陽が波に反射し、キラキラと輝いている。
「わぁ~。ツツラ!!海だよ!」
「おぉ~ってそんなもん横浜で見れるだろうが。」
海上には数隻の船や軍艦が走っている。
その光景は中々見られない物だろう。
「(‥こんな呑気なことやってても戦時下なんだよなぁ‥。この前、エリカが言っていたようにソビエティアは強い国なんだろうか‥)」
「そろそろ着きますよツツラさん。」
車のドライバーに声を掛けられたすぐ後、見慣れない場所に到着した。
周辺は壁に囲まれており、ゲートの前には二人の兵士が小銃を持ち立っている。
険しい顔だ。
「ささ、降りましょう。」
「‥‥ここは基地か?」
ドアを開け、外に出る。
ミナリアのいる車両に向かい、彼女を待つ。
少し経って出て来た。
「おうミナリア。お疲れさん。」
「ああケイジ、車酔いとかしなかった?大丈夫?」
「大丈夫だ、大丈夫。‥‥てかここ何処なんだよ。」
「ここは東区第十二補給基地よ。民間船舶から海軍のお船までがここで補給するの。」
はぁ~。デカい基地だ。海自の横須賀基地並みじゃねぇか??
ゲートから内部に入ると、目の前には大きな海。直ぐ近くに波止場がある。
波止場には灰色の駆逐艦と思われる中型艦艇や、白い塗装がなされている戦艦までもが停泊している。
「海自の護衛艦とは全然違うなぁ。」
「何をボーっとしてるの。行くよ~」
ミナリアに怒られ、そのまま歩き出した。
俺達は何処に行くのか?
「さぁさぁ陛下。早速海軍の艦艇で向かいますぞ。長期遠征用の準備は出来ております故。」
「にしてもデカい船だねぇ首相。これに乗るのかい?」
国王陛下たちが見ているのは先程の白い戦艦。
まさか‥これに乗れるのか!?
「そうですよ陛下。本艦は海軍の最新の艦艇です。名前は‥」
「<ヴォイトーク>であります。」
一人の水兵が答えた。
「<ヴォイトーク>と言えば海軍の初代司令官かね?」
「そうであります。陛下。」
「良い名前だ。‥それでもう乗るのかい?首相」
「そうですな、乗りましょう。」
数人の水兵に案内され、国王陛下達は<ヴォイトーク>に掛かった乗船用ラッタルに登り、俺達も続いた。
白い船体の横を登った先、広い甲板と各地に設置されている機銃や、三連装の巨大な主砲が目に入る。
そのまま中央部へ歩いて行くと、これもまた大きな艦橋と煙突が姿を現した。
「すげぇぇぇ!!こんなん現代じゃ見れないぞ!!」
艦内に入り、タラップを下ると艦内宮殿とも言われる、貴族専用室に案内された。
国王陛下とミナリア、専属執事兼護衛官である俺もここで過ごすらしい。
「では皆様、ここでお過ごしください。では。」
と、その水兵は去って行った。
部屋の中はミナリアの自室と大差なく、過ごしやすいものだろう。
「ねぇケイジ、船酔いするタイプ?」
「‥うーん、分からん。」
三半規管は強い方だ。多分酔わないだろうが‥‥
荷物を整理していると、やがて艦は出港した。
船体の窓から外を覗くと、数隻の曳航船が<ヴォイトーク>を引っ張っている。
じきに岸壁から離され、湾内を抜けて行った。
第二の祖国ニッポニア。どんな国なのだろうか‥
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.14 )
- 日時: 2020/02/14 01:07
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
二章 番外編 艦内のお勉強
人生いつでも勉強勉強。
特にこの世界では小学校レベルの勉強をしなければならん。
何故なら‥‥字が読めないからだ。
ちょっと前にエリカには、語学の講師を頼んだが仕事の後だと眠くて仕方ない。
出港する前日に取り組んだ字の練習だが、まっっっったく覚えていない。
せめてニッポニアでは日本語であってほしい‥‥
「だがサボると痛い目見るんだよなぁ~」
いつも通り早起きした俺は狭い二段ベッドに横になり、グチグチと愚痴を言っていた。
ミナリアの部屋であることは確かだが、俺達は士官同様二段ベッドと言う事だ‥。
「――――ツツラさーん。お勉強の時間ですよ~」
俺が枕に伏せていると、幼い少女の声が聞こえて来た。
皆と一緒で幻聴か。
「‥‥面倒くさーい。もう眠ーい‥」
「‥幻聴ですよ~。起きて下さ~い。」
「そうかあ~幻聴かぁ~‥‥って、幻聴にしてはハッキリと?」
と思った次の瞬間、背中に激痛が走る。
「ウゴォォォォォッッ!?‥」
宮殿での激務に疲れた中年オヤジの腰は弱いのだ。
そのまま焦って、後ろを振り向くと‥
「ビックリしました? さ、艦内では宮殿ほどに忙しくないですよね?」
「お、おおおお前‥」
背中に跨る少女はパジャマ姿のエリカ本人だった。
‥あれ?宮殿では大分ヤバいことに?
「‥おいおい、こっそり抜け出してきたのか?」
「‥チガイマスヨ。フローレスメイド長ニイッテマスヨ。」
「絶対違うだろー。って言っても今更帰れねぇか。ここは北海の真ん中‥」
「じゃ、お勉強しましょう!ここに机は?」
周囲をキョロキョロ見渡す。
室内の壁際に置かれている古びた勉強机が見つかったらしく、ベッドから軽く飛び出しその机をたたく。
「ちょっと汚いですねー‥雑巾持ってきますね~!!」
と、室外へ走って行った。
――――相変わらず元気だね~エリカちゃん。
そうだなぁって、見えるのか?
何処だ?
――――貴方の頭上だよ。
でも何で透明に‥?
――――ほらこの前言ったでしょ?マが強いと透明化できない。‥逆も然り。
そんな事も言ってたなぁ‥。ここは弱いのか?
――――そう。だから段々薄くなぁる。
と、ボーッとしていたらエリカが戻って来た。
メイドである以上、家事はテキパキとやっている。
「さ、座ってください!帳面と筆、本もありますので準備万端です。」
「お、おう。んじゃ失礼するか。」
木の椅子に腰かけると、帳面が渡され適当に開いてみる。
余りに乱雑な字だ。夜更かしした中坊が5,6時間目になって、ウトウトしている時に書く字だ。
「こりゃ汚いですね‥」
「机がか?それとも俺の字か?!」
「こ、後者です。」
「だよなー。」
俺は手渡された万年筆を持ち、A,Ą,B,C,Ć,D,E‥‥Z,Ź,Żまで書いていく。
寝起きは脳が冴えるだけあってしっかり書ける。
「じゃ、例文を書いていきますよ~。」
<Tsutsura lubi psy.>
「さぁ読み上げて下さい!」
「(文字は違えど、発音だけは日本語なんだよなぁ)‥つ、つ、ら、は‥犬が好きだ?」
「はいそうですね。これは主格です。」
やべぇ、こんなんキリがねぇ‥
しばらく主格を用いた文を書いていく。
「‥なぁ?今、服装パジャマだけど。何処で寝てるんだ?」
「?下のベッドで寝てますよ?」
「あ、そうなのか。てか着替えないのか?」
「大丈夫です。さぁ続けて下さい。」
俺は口を紡ぎ、再度万年筆を動かした。
しばらくして朝食の時間になり、ミナリアに呼ばれた。
「ケイジ~。朝食のご飯が運ばれたよ~。」
朝食のご飯と言うパワーワードと共に食事を引き取った。
その意外と想像以上に豪勢な食事を口にしている間、エリカは俺の書いた文章を眺めていた。
<Minaria lubi koty.(ミナリアは猫が好きだ。)>
<Lubię Nipponia.(ニッポニアが好きだ。)>
「ふふ、勉強熱心ですねツツラさん。」
<Erica jest mała!(エリカはチビだぁーい!)>
「‥少し腹が立ちますね。」
その文章を横目に、エリカは俺の食事眺めていた。
毒をもってやりたいです。と思った。
「‥どうしたんだ?」
「何でもないです!!」
- Re: 転生と言う「拉致」 ( No.15 )
- 日時: 2020/02/18 23:50
- 名前: 赤坂 (ID: uFovKUbX)
二章6 極東の大帝國
駆逐艦20隻と航空母艦2隻から成る大艦隊の旗艦<ヴォイトーク>。
艦及び艦隊の司令部となる艦橋では、艦長以下数名の下士官で物々しい空気が流れていた。
国の重鎮‥国家元首の命を担っているのだ。
「‥艦長、無線室から通達です。」
「‥ん、何だね。」
艦内無線の受話器を取り、耳に当てた。
「こちら艦長。何があった。」
<‥艦長、定時連絡として王立海軍司令部に掛けているのですが、応答がありません。如何しましょう。>
「応答なしか‥。ここは遠すぎて戦艦一隻如きの無線は弱いのかもしれん。向こうに着いたら再度連絡を取るとしよう。」
<了解。>
現在、艦隊は便宜上現実世界の名称で呼ぶと、大西洋を抜け、東大西洋を経由し、インド洋を航行している。
王国から出港して月日が流れた。もう2ヶ月と15日が経つ。もう少しでニッポニアだ。
甲板では<ヴォイトーク>の日課である甲板掃除をしている。
俺も艦内生活で衰えた体を動かすため、水兵たちと掃除に加わった。
やる事は雑巾で一気に甲板を走るだけの事だったが‥‥
「‥あッッッ!腰が痛い!!」
「大丈夫かぁ?」
艦橋周辺の雑巾掛けだけで腰を痛めてしまった。
歳を感じる。
――――もうおじさんだねぇー
いや、体力はある方だ!!
こんなとこでギブは出来ん。
「ツツラさん、もうやめます?」
「まだだっ!!俺は続けるぞ!」
‥‥一時間後。
俺は艦内の医務室のベッドでうつ伏せていた。
一通り雑巾掛けが終わったと思って、急に立ち上がると腰がつるように
―――――ぎっくり腰だ。
「専属護衛官殿、完全にやっておりますな。」
「そ、そんなぁ‥‥。」
「取り敢えず湿布薬を塗っておきます~。」
と言い、灰色の粘土?を塗られた。
え、湿布って白い布じゃないのか?
‥背中がねちゃあってする。
「はい、しばらくするとスース―するからねー。じゃ、お大事に。」
「は、はぁ。」
俺は腰に手を当てながら、前かがみで退室した。
医務室を出ると、険しい顔の水兵が立っていた。
「ツツラ殿、急いで自室へお戻りください。」
「‥え?」
「先程、国籍不明の艦船の接近が確認されました。ミナリア様の元へ、さぁ。」
「わ、分かった分かった‥」
俺は水兵に助力されながら部屋に戻った。
戻るとすぐに放送が流れた。
<こちら艦長。つい先程、本艦隊から左前方に1隻の軽巡洋艦、7隻の駆逐艦を確認。周辺国籍であることが確認できない為、厳重に警戒し、本海域を突破せよ。‥対艦警戒。>
「‥大丈夫なのかな?」
ミナリアが国王陛下に心配そうに言う。
「大丈夫さ、我が国の海軍は世界有数のものだからねぇ」
俺は取り合えず自分の机に向かい、椅子に座っている。
すると背中からエリカが話しかけて来た。
「ツツラさ~ん。こんな事になるなら乗らなければよかったです‥‥」
「行けるって。だって戦艦だぞ?そう簡単に沈むわけないだろ。」
船の機関のパワーが上がり、航行速度が速くなる。
室内は大きく揺れ、固定されている机等がミシミシと音を立てる。
「ゆっ揺れるなぁ!」
海に浮かぶ城である戦艦<ヴォイトーク>と、小さな砦である駆逐隊は二手に分かれた。
数隻の駆逐艦と戦艦<ヴォイトーク>はそのまま航行し、駆逐隊は敵と思われる艦に接近する。
殴り合いに特化した戦艦であっても、国王陛下を乗せているとなると尻尾巻いて逃げるしかない。
‥‥艦橋横には双眼鏡を持った見張り員が監視しており、不明艦の動向を探っている。
同伴している航空母艦からはエンジンを鳴らし、観測機が飛び立っていく。
「もしかしたら内湾周辺国の艦隊が出しゃばって来たのかも知れん。もしくは赤軍の七七駐屯軍か?」
「七七駐屯軍‥‥海外領土の駐屯軍ですか‥」
「もうあと数日でニッポニアだ。絶対襲わせるな。」
「はい、艦長。」
味方の駆逐艦の一隻が汽笛を鳴らした。
退去するように警告しているのだ。
そして‥
「――――――不明艦から発砲煙!」
――と、一波乱あったが‥‥
俺、艦長、ミナリアと国王陛下は乗組員の操縦する艦載の内火艇に乗り、その艦に渡っている。
その艦の国籍はニッポニアだ。
―――――またの名を「大扶桑帝國」と言う。
俺達の乗る船は直に艦の左舷に接舷した。
そして上から覗き込む若い白い制服の水兵は‥‥
「どうも、ロズポンド王国国王陛下及びミナリア様。艦長が待っております。今、引き揚げますね。」
まさに日本人だ。
とても見慣れた顔だ。自然と涙が出てくる。
「ああ、ありがとう‥‥」
「勝本であります。」
「ああ、カツモトさん。」
艦に装備されている収容クレーンで引き揚げられた。
甲板には肩に階級章、白い軍帽の姿で、艦長と副長と思しき男性二人が敬礼しながら直立している。
「ようこそ、我が艦<飛揚>へ。」
先程撃った砲は空砲で、礼砲として射撃したとの事。
戦闘状態は避けられた。
「これはどうも、艦長さんかな?」
「はい。私は<山本 五郎>と申します。こちらは副長の‥‥」
「<新井田 信介>であります!」
国王陛下は二人とも握手し、俺とミナリアは会釈を返した。
<ヴォイトーク>艦長も帽子を脱ぎ、艦長と副長に挨拶を交わした。
それが済むと早速艦内に案内された。そのまま帝國艦隊と王国艦隊は合流し、帝國へ向かうとの事。
「‥‥ここ内湾にソビエティア連合加盟国の実効支配が及んでいるのです。そこで本国は極東文化圏の保護を名目に警備活動を。」
勝本艦長と国王陛下は艦内の部屋で会話している。
会話内容からしてニッポニアは強い国のようだ。
‥‥二週間が経った。
艦隊は厳重な警戒態勢で扶桑国の帝都港に入港した。
帝都の名称は「平卿府」。現実の神奈川県から東京都全域を含めた府県だ。
甲板から下船用のラッタルを下ると、沢山の扶桑国の兵士が整列していた。
国王陛下の後に続いて、別々の専用の公用車に乗車する。
「街の風景は少しふる‥いやモダンだな。」
「ケイジはここの出身なんでしょ?」
「そうそう。懐かしい。」
車は人の賑わう大通りを走って行く。
見える景色はレンガ造りのビル、百貨店や木造の民家が並んでいる。
歩道にはいわゆる「モガ」と「モボ」が歩いている。歴史の授業で言うと日露戦争前の日本だろうか。
到着した先は外交官や来賓が寝泊まりする迎賓館だった。
「福仲迎賓処」と言うらしい。
「ここか。何か長崎のあれに似てるな。はうす‥」
「では執事様と来賓様は、別の部屋でございますのでどうぞ着いて来てください。」
散切り頭の車の運転手が誘導してくれる。
‥‥てか俺は別室なのか?専属執事兼護衛官なのに?
「じゃ、ケイジ。また後でね。艦内生活で疲れた分、しっかり休んでね?」
「は、はい‥」
館は三階まであり、一階には庶務に。二階からは従業員と言う名の武官や外交官が。
三階には来賓・国賓が寝泊まりする。
「(安全保障上の措置って事か‥)」
「執事様は二階の部屋でございます。どうぞこの部屋に。」
と教えられたのは窓際の部屋。
外の景色がよく見えるが‥窓際部署かぁ‥‥
「ではお寛ぎください。」
久しぶりの広いフッカフカのベッドに飛びついた。
複数人で寝る為なのか、二人以上は寝れる大きさだ。
「いやぁ~‥疲れたぞ‥」
艦内生活の疲れが溜まっているのか、そのままスーツで眠りについてしまった。