コメディ・ライト小説(新)

Re: 君に染まってしまえば―――伝えてしまえ。 ( No.10 )
日時: 2020/05/01 11:34
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

Valentine9 「好き。」

真宮は好きな人がいる。
この真宮に対する思いは真宮にとって邪魔なものになる。
だから……。
私はグループラインを開き、震えた指先を動かす。

『渡さないことにした。』

そう打った瞬間、充希やみわからも心配のメッセージが送られてくる。
すぐに返信しなきゃいけないのに、無視してしまった。
学校も今は行きたくない、なんでって聞かれるから。
金平糖を缶から取り出して口に入れる。
 ボリ、ボリボリ……ッ。
金平糖が口の中で砕ける音が響く。
ヘッドホンと眼鏡を付けてゲーム機を起動させる。
 ピコ、、ピコピコ。
暗がりの部屋の中でゲーム機の音が鳴る。
「…………。」
私は銃で群がってくるゾンビを倒していく。
ステージをクリアする度に広告が入る。
その広告の内容はチョコ関係だった。
「!」
渡さないのに―――何故、こんなにも過剰に反応してしまうのだろうか?
「馬鹿じゃないの、私……。」
溜め息を吐いて、ベットに寝転がる。
フォトアプリを開き、充希やみわとの思い出の写真を見る。
そこにはたったの一枚だけではあるが、文化祭の準備で真宮とふざけあった写真があった。

「…………。」

諦めるって決めたはずなのに、指が止まってしまう。
矛盾している。
いつ、こんなにも甘ったるい考えになったんだろう。
「―――寧々、小遣いやるから漫画買ってきてくれないか!?」
下に居る兄から呼び掛けられる。
自分で買ってくればいいのに…………。
でも、そんなことは言えなかった。
兄は東大に行けるっていう頭を持っているから、家族のみんなも大目に見ている。
早く返事をしなきゃ、また怒られる。
家の中で権力を一番持っているのは兄でその下に居るのが母と父、そして私、その下に妹だ。
急いで、服を着替えてヘッドホンを外しドアを開ける。
リビングにはあくびをしながら、パソコンを操作している兄、そして小学校の宿題をといている妹が居た。
「何……。」
「これ、買ってきて。二千円やるから。」
こんな兄にこき使われているのは嫌だが頭がいいんだから仕方がない。
天才なのだから。
玄関に行き、外に出る。

コンビニで兄からの漫画を買い、残りのお金でスーパーで夕飯の材料を買っているとチョコのコーナーに足が傾いてしまう。
「…………。」
買いはしないけど、、見るだけだったらいいよね。
そう言い聞かせて綺麗に包まれたチョコを見る。
手に取ろうとしたその瞬間、きめの細かい綺麗な男の人の手と重なる。
びっくりして手を離して謝る。
「す、すみません。気づきませんでした……。」
「いえ、俺もすみませんでした。」
凛とした低い声が響き、私は顔を上げる。
そこには目がきりっとしていてモデルみたいな高身長の男性が立っていた。
「これ買うんですか?」
と聞かれ、
「いえ、、、見ていただけです。」
と言うと難しそうな顔をする。

「――――……見ていたって事は買おうか迷っていたってことですよね?」

図星をつかれ、口をつぐんでしまう。
「それは…………。」
「渡そうとしている人が居たら渡した方がいいと思いますよ。」
にこっと微笑まれて、ドキッとしてしまう。
「俺もそうだったけど…………渡した方が悔いは残らないと思いますよ。」
思いつめたような、それよりかは何かを思い出すような顔は眩しかった。
「…………。」
「まあ、俺は渡す人がいるから買っていきますね。」
チョコを持って、立ち去る彼をぼうっと見つめるしかできなかった。
モデルさんか何かかな…………凄い綺麗だったな。
さっきの彼の言葉が
『…………渡した方が悔いは残らないと思いますよ。』
こだまのように頭の中で響いていた。
悔いは残らないか…………。
「―――っ。」
震えた手が勝手にチョコを取り、気が付かないうちに買ってしまっていた。