コメディ・ライト小説(新)

Re: 君に染まってしまえば―――伝えてしまえ。 ( No.11 )
日時: 2020/02/25 16:01
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

Valentine10 「ハッピーバレンタイン!」

〈 みわside 〉

 ドキン、ドキン、、、ドキ。
昂る鼓動を抑えながら、私は深呼吸をする。
自動販売機の後ろに隠れて、公園のベンチに座っている三澄君をチラッと見る。
チョコを渡すために公園に呼んだが、どう渡せばいいか頭が真っ白になってしまった。
このまま、、、渡さなければ、待たせれば流石に優しい彼でも帰ってしまうだろう。
「…………っ。」
スマホのLINEを開き覚悟を決める。
震えた指先を動かして文字を打つ。
『チョコ、渡しに行ってくる!』
そう打って、スマホの電源を切る。
―――……神様、どうか今日だけ味方して。
そうちょっと、神頼みをして声をかける。
「――三澄君!!」
叫んだ私を見て、驚く。
「香坂さ……。」
彼の言葉を遮るように私は言う。

「いきなりでごめんなさい。ずっと前から好きでした。」

「受け取って下さい。」
差し出したチョコを三澄君は震える手で受け取ってくれた。
その事に対してほっと安堵した私は、顔を上げる。
そこにはトマトみたいに真っ赤に染まった三澄君が居た。
「…………ぇ?」
そんな彼を見て私は思わず声を漏らしてしまう。
口を塞いだ私は凝視してしまう。
彼は鞄の中から、ゴソゴソと大きな袋を取り出す。
「……お返しには早いけど、ずっと前から好きでした。」
微笑みながら、私の首にマフラーを巻き付けた。
「街中で見つけて香坂さんに似合うかなって買っちゃったんだ。」
良かった、本当に似合ってて、と瞳を輝かせた。
その瞬間、空から冷たい物体が降ってきた。
「雪?」
ちらちらと白い雪が降ってくる。
私達は顔を見合わせて、

「「ハッピーバレンタイン!」」

と言った。

******

〈 充希side 〉

私はバスケ部の練習が終わるのを待っていた。
 ドキン、ドキン、、、ドキ。
練習が終わればこのチョコを渡すことになる。
昂る鼓動を抑えて、何回もシュートをカッコよく決めている千耀を見つめる。
その時、スマホが鳴った。
LINEを開いてみると、
『チョコ、渡しに行ってくる!』
みわからだった。
先を越されちゃったなっと返信する。
『頑張れ、私も頑張る!』
みわは成長したと思う。
遠くから見ているだけだった彼女はチョコを一人で渡しに行った。
そんなみわを親のような目で見ていると、
「「「「ありがとうございました!!!」」」」
千耀の声が体育館中に響いた。
練習、、、終わったみたい。
「―――待たせちゃってごめんな。」
汗を荒々しくタオルで拭いていた千耀はニコッと微笑む。
「ええと、、、あのね……!」
頭が真っ白になってしまった私を見て
「……一緒に帰ろう。話したいことがあるんだろ?」
と、言ってくれた。

二人きりになった今、千耀は私の隣を歩いてる。
その現実に鼓動が早まる。
早く言わなくちゃ…………家に着いちゃう。
そんな焦りを感じつつも行動に起こせなかった。

『チョコ、渡しに行ってくる!』

覚悟を決めた臆病だったみわの言葉を思い出した。
何、今まで散々アタックしてきたのに…………。
みわに先を越されて、怖がっているんだろう。
こんな私、カッコ悪くてみわと目を合わせられないじゃないか。
自分の甘い考えをぶっ飛ばし、鞄からチョコを取り出す。

「―――私ね、千耀の事が好きなの!!」

チョコを差し出し、目をギュッと瞑ると体にぬくもりを感じた。
目を開けると、千耀に抱きしめられていた。
「俺ね、充希の事が好きなんだ。だから、充希がチョコ渡す相手がいるって言った時、嫉妬して苛立った。ごめんな。」
そういうと、もっと強く抱きしめる。
「ううん、私もごめんね。」
チョコを千耀は手に取り、袋を開けて口に入れる。
「あんまっ!」
赤く染まった彼はニカっと笑った。
空から、白い物体が降ってきた。
「「雪だッ!!」」
二人同時に叫び、顔を見合わせて手を繋ぐ。
「「ハッピーバレンタイン!!」」
と言った。

******

〈 寧々side 〉

赤く染まった部室に私は外を見つめる。
外にはちょうど、二人で校門を出る充希と桐ヶ谷が居た。
グループラインには二人が覚悟を決めたメッセージがあった。
みわは、
『チョコ、渡してくる!!』
と語尾にビックリマークが二つもついているし、
充希は、
『頑張れ、私も頑張る!』
って皆、一歩一歩頑張って踏み出してる。
なのに…………私は動けない。
買ってしまったチョコを渡せないまま、真宮は先に帰ってしまった。
チャンスはいっぱいあったのに、呼び止められなかった。
二人にどういえばいいんだろう。
俯いていると後ろから声を掛けられる。
「こんなバレンタインの真っ最中に一人部室に残ってどうしたの?」
優し気な声―――……振り向くとそこには映研の顧問である綾瀬先生がいた。
いつも部室に来るのは下校時間を知らせる時だった。
「部室に来たって事はもう下校時刻すぎてますか?」
そう言ってみると、
「いいえ。」
と目を伏せて首を振る。
その姿を見て、ホッと安堵した私は、スマホを握りしめる。
「………迷っているという事はしたいって事でしょ?」
不意に図星をつかれ私は顔を上げる。
「行動に起こした方が悔いは残らない。」
あの男性と同じことを言って私は少し驚いた。
「!」
「大切な人を想っている気持ちは伝えた方がいいってその時、藍君が背中を押してくれたから泰陽と結婚できたんだな…………。」
最後の方は聞こえなかったが、眩しそうに目を伏せて言う先生は言葉を失うほど綺麗だった。
それから、チョコを私は見つめる。
 『葉桐さん!』
―――……真宮の馬鹿野郎。
こんな、真宮なんかと出会ってなかったらこんなことしなくてもよかったのに。
「先生!私帰りますッ!!」
勢いよく立ち上がり、部室を後にする。
真宮、真宮…………どこにいったの?
廊下を走って階段を駆け下りて、人とぶつかりそうになった。
「うおッ!!って葉桐?」
ぶつかりそうになったのは映研の部員で真宮と仲がいい瀬戸だった。
「瀬戸………真宮、どこにいるか知ってる?!」
そう訊くと
「今さっき公園で会って駅の近くのイルミネーション見て帰るって…………。」
ありがとっ、と私は駅に向かう。

はあ、はあ…………足が重たく感じる。
どれくらい走ったんだろう?
「…………っ。」
渡したい、迷わない、ただこの気持ちを伝えたい。

『行動に起こした方が悔いは残らない』

綾瀬先生とスーパーで出会った男性の言葉が頭の中を駆け巡る。
駅に着き、イルミネーションの近くのベンチに座っている男を見つけた。
猫っぽい髪の毛をふわふわと揺らしてカメラで写真を撮っていた。
私はその後ろ姿に目を潤ませながら、零れてきそうな涙を拭い息を大きく吸い込む。

「真宮ッ!!!」

真宮は驚くように振り向き、
「…………ぇ?」
と声を漏らした。
「あのッ!!」
戸惑って息を呑んだ。
そんな私をまじまじと見ていた真宮は次の瞬間、柔らかく微笑み、首にマフラーを掛ける。
「―――葉桐さんってば、雪が降っているのにこんな格好で走って来たんですか?」
と言う。
私は鞄からチョコを取り出し、
「こ、これ…………。」
と差し出すとみるみる頬が赤く染まる。
「これを僕の為に?」
と震えた声で訊かれ、私が頷くと真宮の目からポトッと涙が零れた。
「す、みませ…………嬉しくて。」
涙を拭って、私の手を掴んだ。
「これ―――……僕から。」
そこにはお花がプリントされて小さく包んであるチョコレートだった。
両想いだったってこと?
嬉しくなって私の目から涙が零れそうになる。
息を大きく吸い込み

「「真宮の事が、葉桐さんの事がずっと前から好きでした。」」

と言うと、真宮が私の手を掬い取った。
「ハッピーバレンタイン……。」
と言った。
雪が降り積もる中、私達は好きな人に想いを告げたのであった。

fin