PR
コメディ・ライト小説(新)
- Re: 抗うカケラ 〜第1章〜 ( No.3 )
- 日時: 2020/03/08 20:17
- 名前: 凪海 (ID: D.48ZWS.)
episode1 被験者とその組織
「…本当に被験者なんですね。」
「そんな疑わないでもさ。一応仲間でしょ、仲間。」
「っ仲間!?そんなっあなたと契約を結んだことなんてありませんっ。」
困ったように眉を曲げる文実と、横断信号を待つ。
まだ…春。厚手のブレザーでは、少し暑さを感じるがスカートが翻るような柔風が冷たさを誘う。ネクタイが揺れる程の緩い風が一旦通り越すと、また暖かい空気が波を立たせるのである…。
「あの…。」
「何?」
「花弁…付いてますよ。」
「ああ…。なんか私、静電気強いから付き、やすいんだよね…。」
____…居心地悪い…。
沈黙…か。
沈黙の“春”って、まさにこれを表しているのかもしれない。
ただでさえ隣に人が居るってのに、ただため息を付いて参考書をなれた手付きでめくっている彼女。細長い睫毛と滑らかなセミロング。少し茶色い黒髪は、光に照らされて爛々としている。
とっさに気まずい空間を繕おうとするが、何も言葉が思いつかず頭を回っている憂鬱が微かに膨らんでいく。喉におかしな力が加わったのか、しょうもない啖が絡まって季節外れに咳き込む。「青信号なった。」それだけで沈黙は閉じ込める事が出来たと思ったが、また気まずい空間が作り出されたのだった…。
「でも、私達こうなるなんてね…。」
「被験者って辛いですよね。」
「えっ、急に…。」
「自分の家族も友人も、記憶も取り返す事が出来ない。これが本当の悲劇のヒロインと言うものでしょうか。…私は愛なんて感じた事ないので分かりませんが。」
悲しそうだった。
消しゴムでも消せそうな、掠れた声。
じっと見つめる事が出来ないような、哀愁に埋もれた表情。
繊細で…今にも散りそうで…。
PR