コメディ・ライト小説(新)

Re: 2日を呪う ( No.2 )
日時: 2020/03/21 15:06
名前: シナメ (ID: XLYzVf2W)

ー⒉ WANTED!
《おめでとうございます。1位は、山羊座のあなたです。》
山羊座、その言葉に過剰に反応する。
1/12日生まれ、つまり山羊座だ。
占いなんて滅多に信じないけど、良い結果は認めたい。
《……ラッキーアイテムは、ガラスのコップです。続いて、2位から5位は…》

俺の家は蒼蘭中地区の中でも端の方で、圧倒的に学校から遠い。
ギリッギリ蒼蘭地区って感じ。
だから、みんなが家を出る15分前には出ないと、必ず遅れる。
今日もバタバタと…まではいかないが、焦り気味で着々と準備を進め、あっという間に家を出る。

でも、ちょっとしたメリットもある。
遠い分、いろんな景色が見れる。
俺の場合、10分くらい海が見れる。
朝早いから、朝日の陽が海に反射して、輝いている。
ここらで1番の絶景穴場スポットだ。

…?
この時間帯に砂浜に人なんて見たことないのに。
しかも、あれって蒼蘭中の制服だよなぁ?
蒼蘭中の女子が砂浜に突っ立っていた。海の方を見て。
ーあ。座っt…って、え⁉︎
女子はそのまま、海に身を投げ出して入っていった。
スニーカーが片方だけ勢いをつけすぎたのか、砂浜に飛んできた。
おい、これって自殺か?
だとしたらヤバイじゃん…!

俺は4メートルくらいある海と町とを分ける壁というか、斜面?
まあ、石造りの堤防を鞄を上に置いたまま駆け下りた。
4メートルなだけあって、着地は痛かった。
でもそれどころじゃない。
砂浜を駆けて行って、渚で力一杯叫ぶ。
「死んじゃダメええーー‼︎‼︎戻ってきてーーー‼︎」
…!そうだ。
颯の時と一緒だ。名前を叫べば、呪いが助けてくれるかも…!
でも、わからない。どうしよう。
名前もわからなければ、どうしようもない。

あー、もう、やけくそだっ!
俺は急いで靴下とスニーカーを脱ぎ、砂浜に放り捨てた。
そのまま、海に飛び込んだ。
制服なんかより、よっぽど命の方が大事だ。
水泳の成績はそこそこで、平泳ぎすらできないが、クロールならいける。
すーっ、はあ、すーっ、はあ、すー…⁉︎
俺は波に飲まれた。
必死にもがいても、泡がたつだけ。
…ヤバイ。沈んでいく。
身動きも取れず、息も続かなかった。



……ん、んん?
あれ?何、ここ…海?
それに、この格好…何これ……濡れてるし…。
俺はビショビショのまま、砂浜に横になっていた。
「目…覚めた?」
え…?
そこには、上が人で、下が魚の…いわゆる、人魚?
…人魚⁉︎ へ⁉︎ ガチじゃん!
そうだ、誰かを助けようとしたけど、そのまま溺れて…。
「私のこと、絶対誰にも言わないでください。お願いします。」
「あ、え、うん…。」
のりで「うん」って言っちゃったけど…。
人魚はすぐに海へ帰っていった。

あっ!
今何時⁉︎ ヤバイ!

でもビショビショだし…。
「人を助けてました」って…ん?
まさかあの人魚が、俺を助けたの?
…とりあえず、家に一旦帰るか。
俺は階段を上り、家に戻ろうと、通学路を引き返す。

《一斗?忘れ物?》
「いや、この時間に取りに帰らないよ。もう遅刻でしょ?」
《何言ってんの?》
インターホン越しに戯けたような声が聞こえる。
《…とりあえず、行くね。》
間も無くお母さんがドアを開けて、身体の半分を出した状態で話を続けた。
「何で帰ってきたの?」
「え?いや、まず…」
『まずこの格好、おかしいと思わない?』そういうつもりだった。
だけど、変だ。
一瞬にして服も髪も何もかも乾いていた。
「…え?あ?ごめん、今何時?」
「今?……えーっと、7時、30分。」
「え⁉︎」
「だって、25分に出て行って5分くらいで帰ってきたから…。ほら。」
そう言ってお母さんはスマホの時計を見せた。
7時30分、ジャスト。でかでかと、7:30と表示されている。
まだ全然学校には間に合う。
でも、5分間の出来事だなんて思えない。
いや、絶対5分じゃない。
「で、どうしたの?」
「あ、あっ。あったわ。ごめん、数学の教科書忘れたと思って。じゃ、行ってきまーす。」
「え?」
即興で考えた言い訳。
きまりが悪くなったので、俺は走って曲がり角を曲がった。
また海が見える。

…あ。
そこにはさっきと同じ女子が、靴を履き直していた。
生きてたんだ、よかった。
……あれ?
濡れて…ない?
その女子の髪、そして服も、何一つ濡れてなかった。
俺は道端の柵に身を任せて、もたれかかり、女子に向かって、
「大丈夫ー?」
と叫ぶ。女子は「あっ」とでも言ったような顔を見せて、
「ちょっと待ってて」
ということだろう。stopサインを手で作り、階段の方へガムシャラに走って行った。

右を見ると、笑顔であの女子が走ってきた。
息が少し切れていたが、構わず歩き出した。
そのまま俺は、中学校生活で初めて女子と2人きりで登校することになった。
しかも、言い方は悪いが、大当たり。絶対モテるっしょって感じの可愛い女子だった。
俺なんかでいいのだろうか。(まあイケメンとはよく言われるし、告られたことだって8回あr…)

「名前は何ていうんですか?」
「え、あ、紀川、一斗。」
「キカワさん、かあ。珍しい苗字ですね。」
「タメ口でいいよ。あと、キイチって呼ばれてるから…。」
ヤッベ。心臓が、心臓の音きこえるかもしんないってくらい、ドキドキしてる。
「あ、うん。えっと、キ、イチ。」
「そ、そうそうそう。あ、名前、名前何?」
「名前?あ、千種ちぐさ輝夜かぐや。」
「チグサ?聞いたことないよ。そっちの方が珍しいと思うけど…。」
「意外といるよ。チグサさん。」
そこからずっといろんなことを話して、海も見えなくなり、もう少しで学校というところ。
曲がり角を曲がって、そのまま直線だ。

曲がり角に差しかかると、輝夜があのことについて自ら切り出した。
「人魚…いたでしょ?」
「あ、うん。何で知ってるの?」
「あ、気づかなかったんだ。知ってるも何も、私が人魚だから…。」
「…冗談だよね?だって、今魚じゃなくて足があるし…。」
「信じて!ホントなの。薬で4ヶ月間人の姿になれるの。それで今日丁度薬の効果が切れる日だったから、人魚になって海に潜って、薬の替えをもらおうと思って。そしたらキイチが溺れてたから。」
「そっか。ありがと、とりあえず。命の恩人だよ。」
「いやいや。そういや、何で海に入ったの?」
「それは、輝夜が海に入って行ったから自殺だと思って…。結局助けられたのは俺の方なんだけどね。」
「そうだったんだ…。」
そして学校に着いた。
結構早めに来たのに、男女数名がすでにいて、立ち歩きして話したり、遊んだりしていた。
ていうか、
「キイチも2組なの?」
「うん。偶然だねえー。」
おんなじクラスだなんて、思ってなかった。
じゃあ、チグサって名前聞いたの、初めてじゃなかったんだ。

……?あいつって…。