コメディ・ライト小説(新)

Re: 盲従× 猛獣◎少女のしつけ方 ( No.4 )
日時: 2020/04/09 15:47
名前: 迅@スピードランペイジ (ID: rd7NbV2E)

第弐話
「少女の真実」



現在の時刻は午後16時10分。
梔子にあの事故の事を謝罪する事が出来ず、挙げ句の果てに友人のいさむに「豹に噛まれて死ね」などと、訳の分からない言葉を吐きつけられた春兎はるとはただ今憂鬱街道真っしぐらだった。

「はぁ…………」
「ハルじゃん、どしたの?」
「うお!?小野寺さん!?」

春兎の問いに「へへへ、そだよー」と答え、クラスメイトの小野寺はピースする。普段彼女と絡む事はないのだが、珍しい事もあるものだと思い二人は窓の外を見つめながら、一通りの少ない放課後の廊下を歩く。生憎あいにく、天気は春兎の心境を表すかのような土砂降りの雨だった。

「……雨だな」
「そうだねぇ、まだ5月なのにもう梅雨入りしたのかな」
「あ、いた!ミカ!早く帰ろうよ〜!」
「ありゃりゃ、呼ばれちゃったみたいだね。じゃあね、ハル」

そして、小野寺は自身を呼んだ女子グループの輪の中に行こうとした刹那、突然振り返り春兎の耳元で囁ささやきかけて来た。

「(梔子って無口で無愛想だけどいい子だからさ、ちゃんと隣に居てあげなよ?)」
「は……?」
「おーい、ミカー!早くしないとおいてくよー!」

グループのリーダーと思われる女子の叫び声を皮切りに、小野寺は優しく微笑みながら春兎を見つめる。そして、彼女は無言でグループの中へと入って行った。
彼女が言った事は全てが正論だ。

「……分かってるよ、ンな事」

それ故に、小野寺と違い梔子の事をあまり知らない春兎の口からは、あたかも負け惜しみのような言葉しか出て来なかった。

***

「誰も…いないよな…?」

忘れ物を取りに教室まで戻った春兎は、ゆっくりと扉を開け周囲を確認する。そこで春兎は、自分の机に突っ伏してすやすやと寝息を立てている梔子を発見した。

「おいおい、こんな所で寝てたら風邪引くだろ…。外も雨だし…」

「思えば昼休みとか結構寝てるよな」と考えながら、春兎は寝ている梔子の隣に万が一の為に持参した折り畳み傘をそっと置く。「こりゃあずぶ濡れだな…」などと呟きながら再び梔子の方へ目を向けると、梔子のぱっちりと開かれたアーモンドのような瞳と眼がばっちり合った。

「おぉぉぉ!?」
「常盤くん…?」

寝起き直後のせいか、梔子は涎よだれが垂れるのも御構い無しに眠たげな瞳をゴシゴシと拭う。見兼ねた春兎はそっとハンカチを渡し、涎を垂らしてる事に気付き少し赤面させながら梔子はハンカチを受け取り、机を濡らしていた涎を拭き取る。

「あの、ありがとう…」
「いや、いいよ。ていうかお前って昼休みは愚か放課後でも偶に寝てるよな」
「その、雨の日は……眠くて……」

余程眠いのか、梔子は舌ったらずな口調で再び眠りに落ちるのを必死に堪えている。そして春兎が置いた折り畳み傘に梔子の目が届き、梔子は折り畳み傘を手に取る。

「これ、貴方の?」
「別にいいよ、俺は走って帰ればいい話で…」
「ねぇ」
「あ?」
「昨日の事…皆には黙っててくれる?その、月が綺麗だったから、昂ぶっちゃって…」

春兎の眼は、梔子の純粋無垢なカシス色の瞳を捉える。

「(元々誰にも言うつもりはなかったけど…昂ぶるってどう言う事だ?)分かった、だけど一つ条件がある」
「条件?」
「俺と……付き合ってくれ」

梔子は頬を赤らめると同時に、春兎の顔面の毛穴という毛穴から脂汗あぶらあせが滝の様に溢れ出る。梔子はしどろもどろしているが、春兎はもっとヤバい状況にあった。

「(………俺は何言ってんだ!?幾ら何でも付き合ってくれる訳がねぇ!)いや、さっきのはほんの冗談で…」
「良いわよ」
「……は?」

春兎は少しばかり混乱し、恐る恐る梔子の表情を伺う。彼女の表情はいつも通り澄ました顔だったが、頬はほんのりと赤く染まっており、まるで気まずさを隠すように両手で顔を少し覆っていた。

「だから、その……付き合っても良いよ?」
「マジっすか………」

高校最後の春、遂に彼女が出来た。

次回
第参話
「彼女と妹」