コメディ・ライト小説(新)

Re: 青春という“愛”を知らない人形少女 【コメント募集】 ( No.10 )
日時: 2020/05/15 18:31
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no

06. クラスメイト

「今日からまた一緒に学ぶ事になった小田切 香純さん。久しぶりに学校に来たばかりだから色々と教えてあげてね」
クラス中がザワっとする。
私を非難の眼を向ける人や晴陽のように温かい眼を向ける人もいるし、下心が丸見えな汚い人もいる。
席は晴陽の隣。
窓側で木々がたくましく風になびいているベストポジション。
「……」
SHが終わると皆が寄ってきた。
そのどれもが質問ばかりで中には口にもしたくない質問もあった。
「小田切さん、私さ入学式の時の小田切さん。めっちゃカッコよかったよね」
とか、
「どうして学校に来たの?何か理由があるの」
とか、
「小田切さんって蜜蜂地区の方に住んでるんでしょ?大きな家で空き巣殺人事件があったって聞いたんだけど……」
女子達の質問はそんな事ばかり。
(『……はい、その事件が起きた場所はうちで殺された人は私の育て人で小説家をしているんですがその私の担当なんです』って言ったらどうするの?)
「―――っ」
思い出したくも口にしたくもない事。
口にしたら溢れ出るあの瞬間の後悔が募る。
恭吾さんに伸ばした手が恭吾さんの手と触れることは出来なかった。
(もう、思い出したくもない)
何も答えず、俯いていると私に寄ってきた女子達も次第にいなくなっていた。

「――――『香純』ちゃん」

一瞬、晴陽に呼ばれたような気がして私は咄嗟に身体を強張らせる。
だって『何もあの子達に答えてあげないなんて酷いぞ』だなんて言われそうで怖かったから。
晴陽には怒られたくも失望されたくもない。
“隣にいてほしい”。
恐る恐る目を開くと――――そこには名前も知らない男子生徒がいた。
(なんだ、、晴陽じゃなかったんだ……)
そう思いホッと安堵する気持ちと期待が外れたような不思議な気持ちが私の心には入り混じっていた。
「香純ちゃんて可愛いんだね、校内の事知らないでしょ?俺が案内してあげる」
誘いには受ける気じゃなかったけど『相手の親切な気持ちを無視するようで失礼だよ』って恭吾さんに教わったことを思い出し私は誘いを受けた。



呼び出され、私は目の前に立っている女子生徒達を見据えた。
(何かに苛立っている様子―――……私何かしたっけ)
なんて考えていると突然、頬に激痛がはしる。
ヒリヒリと痺れまるで何かに平手打ちにされたようなそんな痛みだった。
「……ぇ!?」
思わず声を漏らしてしまう。
女子生徒の一人は小さな手を左手で手のひらをさすっていた。
もう一人の女子生徒は蹲って涙を流していた。
その女子生徒を慰めていたもう一人は鋭い眼差しで私を見つめた。
(私―――……この子達に本当、気に障るようなことをしたっけ?昨日は晴陽とお弁当を食べたり案内してもらったりそんな事しかしてないような)
「ふざけんじゃねえよッッ人の彼氏に何してくれてのッッ!!?」
重々しく口を開いたと思えば、何を言っているのか私には理解できなかった。
(彼氏って、、案内してくれた男子と晴陽にしか喋らなかったけど)
昨日の行動を振り返ってみても思い当たる節は見つからなかった。
(何をこんなにこの子は怒っているの……!)
頭の中には疑問しかなかった。
「聡があんたと付き合うからあたしと別れるって言ってきたんだよッッ人のモノに手ぇを出すんじゃねぇよ!!」
蹲って涙を流している子を庇うように私を平手打ちにしたと思われる女子生徒は怒鳴りつける。
「………そんなの知らない……というか…………聡って誰ですか?」
(そんな人、いた?晴陽しか覚えてないんだけど)
脳をフル稼働して考えてみるとそんな人がいたようないないような感じがしてきた。
「!」
―――もしかして聡って校内を案内してくれた人?
髪型や体格は思い出せても顔はどうしても思い出せなかった。
『香純ちゃんて彼氏とかいるの?――何で聞くか、って?』
そう訊いてみると彼は恥ずかしそうに顔を赤らめて口を開く。
『えっと、、香純ちゃんの事さ。俺、一目惚れしちゃって』
(確かに交際をしてくれみたいなことを言われたような気がしたけどしっかり私断ったような気が―――……)
弁解と説明しといたほうがきっと良いと思う。
「付き合ったりしたら絶対に許さないからッッ、ネット上に晒してやる!!」
「ちょっとかわいいからって調子乗るんじゃねぇよ!!ってか目障りなんだよお前、ちやほやされてるからってさ!!」
「行こ、亜希」
女子生徒達は嵐のように立ち去って行った。
「………あんた、大丈夫?」
声を掛けられる。
落ち着いたハスキーな声の持ち主―――印象深い天使のような綺麗な髪色。
私は見惚れてしまった。
「叩かれたところ、これで冷やしとけば」
そうポイっと保冷剤を包んだハンカチを投げられる。
「あたしは唐沢 優利。」
自分を名乗る前に名前を言われる。
「香純でしょ、香に純粋の純。良い名前だね」
そう言い放った彼女は階段をスタスタ上って行ってしまった。
私は唐沢さんがいなくなってから一人、廊下の壁に寄りかかる。
腰が抜けたみたいで玩具の積み木のように崩れた。
「はぁ……」
大きな穴が開いたように私の心の中は凍える程、冷たくなっていた。 
――それにズキズキと痛む。
涙腺も緩むし目から涙が溢れ出るし。
「何か可笑しいぃい……!!」
恭吾さんのいないこの寂しい世界で私は大粒の涙を流す。
火葬の時は泣けなかった。
我慢してた、不憫に思われるのが嫌だった。
恭吾さんは無念に亡くなって逝ったんだって思われるのが堪らなく嫌だった。

“だって私を助ける為に刺されたのに”

「恭吾さん、、、、こッ、こんな私がこのまま貴方の代わりに生きてもいいんですか……?」

ひんやりと冷えた保冷剤をくるんだハンカチを頬に強く押し付けた。



「今日、女子に叩かれたんだってな。ごめんな、そんな時俺が会議で守ってやれなかった」
夕闇の中―――申し訳なさそうに俯き歩く大きな晴陽の角ばった背中。
「別に。大丈夫だよ、叩かれたところ痛くも痒くもないしね」
私はそう固まった表情筋を無理矢理、動かすと唐沢さんに貸してもらった液体のように溶けてしまった保冷剤を包んだハンカチを見つめた。



「絶対、無理してたよな。香純を恭吾さんの代わりにちゃんと守らなきゃ、な」
俺はそう香純を送った後、白々しく輝く月に向かって口を開く。
「なぁ……恭吾さんは香純の事、遠くからでも見守っているよな?」
俺は逝ってしまった恭吾さんに確かめるように呟いた。