コメディ・ライト小説(新)

Re: 青春という“愛”を知らない人形少女 【コメント募集】 ( No.17 )
日時: 2020/07/31 17:19
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

13. 彼女の好きなもの

 対面の日が必然にやってきた。
お人形のような白色のワンピースに恭吾さんの瞳に似た色の亜麻色。
髪飾りは白百合のモチーフをしたシュシュ。
淡い桃色の口紅を塗って、全て用意してくれた宮下さんはわぁ、と声を漏らす。
そして、フッと眼を甘やかにし、微笑んだ。
 「――――お綺麗です、お嬢様――――」
そう言うと休む暇もなく対面を図るお茶会の席に行く。
ザクザク、と自分の芝生を踏む音、小鳥のさえずりが聞こえる。
太陽の匂いをした風が頬をかする。
綺麗に咲き誇った色とりどりの薔薇を堪能しながら、進んでいく。

「久しぶり、僕のレディー」

声が掛かり、私は振り向く。
スタッと跪いた男性は私の瞳を見つめる。
形の良いアーモンド形の綺麗な黒々とした瞳は私の戸惑っている表情を映し出す。
「七々扇 咲弥です、覚えてますか?」
男性は私の手を優しく掬い取るとビクッと身体を強張らせる私を見て面白げに微笑んだ。
紅茶や焼き菓子、などを置いた白いガーデンテーブルがある場所へ彼は招くと、対になるチェアを紳士に引いてくれる。
私は静かに腰を下ろすと美味しそうに紅茶を飲む美しい彼を見つめた。
「―――君と出会ったのはおよそ十一年前。覚えていなくて当然だから気を悪くしないで下さいね」
優しく微笑むと自己紹介を始めてくれた。

「高校二年生、君の一個上、好きなものは本、あと鳥かな。見てると癒されるんだ」

木々を見上げて、鳴く小鳥に表情を緩ませる。
「婚約者なんだし気軽に咲弥って呼んで下さいね」
私は小さく頷くと咲弥君は焼き菓子を食べ、すすめてくれる。
「……小田切 香純です……作家をしています。好きなものは――――」
好きなものと言って思い浮かぶのが、あの“三人”のこと。
温かくて私を受け入れてくれた恭吾さんと晴陽、優利ちゃん。
かけがえのない人達で好きな人。

 「友達」

自然と温まる胸を抑える。
今すぐに会いたいと胸を過ぎった。
スマホが直後、機械音を出す。
端を承知で電話に出た、その掛け主が――――――――晴陽だった。
『香純!!俺、我慢できなくて……』
咲弥君は驚いたような声を漏らす。
誰もいない二人きりのこのお茶会に侵入者などいないはず。
だから。
驚いたんだと思う。
侵入者が一人ではなく二人もいたから。
その侵入者とは。
「……我慢できなくて厳重な警備のこの家に忍び込んじゃった」
「香純ッ元気!?」
何度も思い返した晴陽の顔と後ろから出てきたハスキーな声に涙が溢れてくる。
力が抜けたようでペタン、と座り込んでしまった。
「おいで、香純ッッ」
晴陽は私の手を優しく掴み取ると、お茶会の入り口まで走り抜ける。
入口に何事かとやってきたお爺様を前に鋭い眼光を向けた。
一方の優利ちゃんは、咲弥君と睨み合っていた。
「………お前達は誰だ、香純のなんだ」
そう言われて晴陽はフッと乾いた笑みを浮かべる。
いつもと違う雰囲気を纏った晴陽は底知れない勇敢さが滲み出ていた。
絵本の中のよくある王子様のような。
普段は頼りないけど私の目にはどんな着飾った王子様の格好をした人よりも普通の格好をした晴陽の方がカッコよく映った。
「俺は娘さんの幼馴染で友達です!!」
すると、加勢をするように優利ちゃんが叫ぶ。
「派手な格好をしていますがッ、香純さんを想う気持ちは負けません!!」
そういうと、お爺様を通り抜けて、晴陽と優利ちゃんは笑顔で私に手を差し伸べる。
涙腺が緩み涙が流れる。
嗚呼。
私にはこんな優しい友達がいるんだ。
この鳥かごからようやく抜け出せる。
飛び立とう。
差し伸べられたその手を私は強く握りしめた。
咲弥君とお爺様は私の不躾な態度に立ち竦んでいた。
私達はその間に正門をくぐる。
そこには――――軽自動車が停まっていた。
中には私の担当である真壁さんが手を振って待っていた。
「真壁さん……!!」
私は真壁さんに近寄る。
早く乗って、と手で車の中を指すとドアが開く。
皆が一丸となって迎えに来てくれたことに心が締め付けられる。
私にはこんなにも、こんなにも心配して迎えに来てくれる人達が存在していたんだ。
今まで独りだと勝手に思い込んでいた。
下しか見ていなかった。

 「ありがとうございます―――――っ」

そう言って、表情を緩ませ、二ッと口角が上がる。
周りにいた晴陽達は私の顔を見て、驚いたように声を漏らしてから、揃って言う。
「やっぱり、笑顔が似合うよ」
と、微笑み合った。