コメディ・ライト小説(新)

Re: 青春という“愛”を知らない人形少女 【コメント募集】 ( No.18 )
日時: 2020/06/13 14:08
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)


14. 狂った愛

 お茶会にて二人の対面が図られるこの場から当事者であるあの子は連れ去りに来た男の手を取った。
僕はただ、ただ拳を握り締め唇を強く噛んでいた。
奪われてしまった、その喪失感と嫉妬心が僕の心を覆っていた。
あれは誰なのか。
友人、と言ったが異性なのに変わりはない。
いつしか恋人になるときなんてない、と決定づけてなんて、出来ない。
「………“香純”ね」
呼び捨てで呼んでいた。
彼の手を迷わず握った、嬉しそうに頬を染めていた。
―――――人形のような彼女に表情を教えたのは彼か。
あの日、誓った約束は嘘だった。
けれども僕を彼女という鳥かごに閉じ込められたのは事実だ。


『―――――僕の一生のレディーとしていてくれると誓ってくれますか――――』


御伽噺に憧れていた幼い彼女の夢を叶える為に言っただけの戯言に過ぎない。
だけど。
夢中になってしまうような笑顔を見せてくれた。
色素の薄い綺麗な髪に陶器のような白い手触りのよさそうなもっちりとした肌。
肉の薄い唇は三日月を描き、まつ毛の長いその大きな儚げな瞳はとても美しい。
彼女に今まで触れたのは計・五十六回。
あの十一年前の一週間でそれだけ触れたし、今でも二人で飲んだ紅茶の種類だって彼女の顔が少しでも綻んだ回数だって覚えてる。
彼女と過ごした時間だって覚えてしまうくらい君に溺れていた。
今だって。
嗚呼、狂おしいほど愛しく思ってしまう香純。
僕以外に笑顔を見せないで、好きにならないで。
君は気付いていないだろうけど僕はずっと見ていた。
学校を行かなくなった君、同居人が亡くなりさらに壊れてしまっていた君、涙を流した君。
全て僕は知っている。
僕は両手を合わせ唇に当てる。
「……………かすみ」
君がそっちを選ぶなら、僕は―――――全力で君を奪いに行く。
婚約者という地位を利用して君を縛る。
束縛はしたくはなかったけど、仕方がない。
やむを得ないことだ。





  君が悪いんだよ





「僕の香純、今行くから」
そう言って僕は身を翻す。