コメディ・ライト小説(新)
- Re: 青春という“愛”を知らない人形少女 【コメント募集】 ( No.19 )
- 日時: 2020/06/14 14:03
- 名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)
15. 響き合う心
車で家の近くまで送ってもらって晴陽と一緒に降りた。
太陽が晴陽の黒髪を朱色に照らす。
言葉も交わさないこの静寂の中、私の心は何故か温かくなっていた。
自分に手を差し伸べ、外の世界に連れ出してくれた幼馴染が隣にいるだけでどんな苦しい時だって立ち上がれる気がする。
――――今のように。
家路に着くと、晴陽はもどかしそうに瞼を何度も伏せる。
やがて藍色に染まっていく空を見つめていた私は息を吐く。
色んなことがあってぐちゃぐちゃになった昨日、今日。
でもあっという間だった、あのままだったら今頃、私は壊れていただろう。
そんな事を思いながら一歩一歩、大地を踏み締める。
歩いている私に対し、突然、晴陽は立ち止まり私を呼び止める。
「あ、あのさ………、あそこにいた人って香純の何……」
聞きにくそうにそっぽを向いて訪いかける晴陽に私はゆっくりと歩み寄る。
何といえばいいんだろうか、私は何故か後ろ髪を引かれるような気になる。
「婚約者、かな……でも両家で決められた同士だし深い気持ちは持っていないというか……」
言い訳をするような私に晴陽はずっと、強く握り締めていた手を優しく取る。
爪が手のひらの肉に食い込んで楕円状に腫れていた。
晴陽は憂いの持った光を瞳に宿し、私の手の甲に顔をつける。
いつもの晴陽とは程遠い弱々しい声色、瞳から光る液体が溢れ出ていた。
「もっと早くに行けなくてごめん………独りにしてごめん………本当にごめんな……」
謝罪を何度もする晴陽に胸が締め付けられる。
(違う、違うよ………謝罪なんてしなくていい。助けてくれたのにどうして……)
不可解な謝罪に私は首を傾げながらも胸が締め付けられる理由を心の中で探していた。
謝罪をするのは小田切家の方。
何も悪くない。
私も晴陽を見ていたら涙腺が緩み始め、スゥーッと涙が頬を伝っていた。
世間で言うもらい泣き。
私は同情が出来るようになっていた。
泣いている理由なんて分からないのに晴陽が悲しんで泣いている、という事実だけで泣けてしまう。
私は晴陽の肩から優しく抱き締めた。
よく、恭吾さんが泣いている私にしてくれたように人というのは泣いている時、抱き締められると安心すると言っていた。
『香純、よく聞きなさい。周りで悲しんで泣いている人がいたらこうやって慰めるんだぞ』
微笑んで私を抱き締めてくれた恭吾さん、家に来て悲しみを分かち合ってくれた晴陽。
今度は私が抱き締めたあげる。
だから。
お願いだから―――――――泣き止んで。
「晴陽が泣いていると私も悲しいよ………」
涙を堪えようとしても堪えられない。
悲しい。
晴陽は私の顔をジッと見つめ、悲しみの色しかなかった顔を綻ばせた。
そして、晴陽は口を開く。
「一緒に泣いてくれてありがとう、香純。悲しくさせてごめん」
今までに見たこともないくらいに目を細め、頬を染めて白い歯を見せ笑う。
どくん、と激しく脈を打った。
この気持ちは何だろう。
怒りとは違う不安とか色んな気持ちが入り混じってる。
私は脈を打つ胸を手で押さえた。
苦しいけど、この脈打つ胸を止めたくない。
そう思った。