コメディ・ライト小説(新)

Re: 青春という“愛”を知らない人形少女 【コメント募集】 ( No.21 )
日時: 2020/08/05 14:01
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

17. 君を想う

 蜂蜜色に輝いた月は何故か悲鳴を上げているようにも見えてしまった。
その暗闇の中、寂し気に輝く月に目を奪われ、言葉を失う。
胸が苦しくなる。
「晴陽……」
スマホ画面に映る言葉見つめ、瞼をゆっくり伏せる。
ベッドの上で藻掻いて、私はまた、スマホを見つめる。
どうしたって書いていることは変わらない。

 『俺は、もう傍にはいられない』

電話を掛けても繋がらない、切っているのだろう。
どうして晴陽まで私を置いていくのだろうか。
置いていってほしくない。
心の中でそう思っているうちに次第に瞼が重力に沿って落ちてくる。
殺風景なこの大きな家で眠る私は。

―――――唯一の光のもとだった幼馴染である彼にも捨てられた。




 がやがやと笑い声が溢れかえるこの教室で私の隣だけが静かだった。
灰色に全てが見える、面白くもない。
隣を見ては、優利ちゃんも私も溜め息を吐く。




 晴陽はあの日以来、姿を見せなくなった。







 「晴陽、いる?」
蜜蜂地区にある一軒家、晴陽のお母さん……小母様に上がらせてもらい、晴陽の自室に話し掛ける。
「前にも……学校に行かず引きこもってる私に晴陽が迎えに来てくれたよね。本当、可笑しいよね、だって今は私が迎えに来てるんだもの」
そう言っても返事は返ってこない。
何が原因なのか、解らない。
「ねえ、何があったの?晴陽まで、私を置いていくの?ねえ。お願いだから顔だけでも見せてよ、文字は嫌だ。」
涙声になってしまう。
口にする度に想像してしまう、恭吾さんと一緒に背を向けて少し顔を動かして膝から崩れ落ちて座り込む私を。
冷たい、鋭い目で見る晴陽が。
いつもの穏やかな笑みを浮かべずに「行こう」と促す恭吾さんが。
私の大切なものが崩れ落ちて、優利ちゃんまでどこかに行こうとするのが。
 嫌だ、嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌……!!!!
「……お願いだから私を独りにしないで……!!!!!」
自分の声でハッと気が付く。
口を噤み、両手で隠す。
そして鞄を持って立ち上がる、よろけて転びそうになった。

「また、来るから……っ」



 
 「…………ッごめん………香純」
彼女が階段を下りていく音が響き渡り、拳を握り締める。
我知らず泣いていた。
電気機械の光が白々しく一筋の光を灯している暗闇の部屋。
いつもの自分の部屋とは考えられない部屋。
カーテンで閉めたはずなのに窓の隙間から香純の姿が見えた。
窓に近づき、香純の後ろ姿を指で撫でる。
「抱き締めて安心させられなくてごめん……ッでも、俺は本当に悪い奴なんだ……あいつと同じだ」
唇を噛み締める。

 『堕ちるところまで堕ちたんだよ』

瞳に生きて居る光を灯していなかった。精神があんなにも病んでいる奴と同じことをした。
「くそ……ッ」
窓を見つめ、ふらふらと力なく帰っていく香純が視界の端に入る。
「ッッッ!!?」
言葉にもならない声を漏らし身を乗り出してしまう。
香純の後ろには奴がいた。
精神が異常なくらい病んでいて香純の事を自分のものにしようとしている男。
「香純っ!」
窓を叩く。此処で叫んでも香純は救えない。
(どうする、どうする?)
俺が助けに行かなかったとして、奴につかまり、香純の意見を聞き入れないあの家にぶち込まれでもしたら。
そうしたら。
今度こそ、あそこから出られなくなる。
鳥かごに入れられてしまう。
 ――――――――俺は傍にいなくていい。だけど、香純は笑って唐沢さんと学校生活を満喫してほしいんだ。
部屋から飛び出した。
階段を駆け下り、躓きそうになってしまう。
だけど、痛みを伴っても、助けに行かなくちゃって思った。