コメディ・ライト小説(新)

Re: 青春という“愛”を知らない人形少女 【コメント募集】 ( No.8 )
日時: 2020/05/14 18:17
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12710

04. 編集者 

「お待たせ~ごめんね、バスが遅れちゃってっ!」
お洒落なカフェの一角で座っていた綺麗な少女に声を掛ける。
気付いたようで会釈をするとゆっくりと薄紅色に染まった陶器のような唇を動かす。
「……いえ。」
そう首を振ると私をジッと見つめる。
「私は両翼の編集者で、これから貴女の担当になる真壁 沙良です」
自己紹介して会釈をすると、彼女は私の名刺をギュッと握り締める。
「……小田切 香純です」
まつ毛の長い大きな瞳、髪は艶やかに光に照らされ輝いていた。
華奢な腕、色白のもっちりとした肌、淡い桜色の頬―――……まるで人形のようだった。
「まず……織戸の事お悔やみ申し上げます」
私は深々と頭を下げ、微かに震えていた華奢な手を握る。
「代わりになんてなろうなんてしていないけれど、織戸の代わりに貴女を見守りたいって思ってる。仕事のパートナーとしても知り合いとして、、頼ってくれると嬉しい」
すると、ポロ…っと彼女の頬に涙が一筋伝う。
私はそんな強がっているつもりだけど頼りなく触ったらあっという間に壊れてしまいそうな儚げな彼女の肩を抱き寄せた。


彼女の事を織戸は溺愛していた。

『周りを感動させる文章を書ける香純に小説家になってみないかって僕が言ったんだよ~っ!』
初めて彼女が本を出版したとき、織戸は皆に頬を嬉しそうにふわっと赤く染めて自慢していたのを今でも鮮明に思い出す。
呆れるくらい、いつまでも話していた。
一度結婚に失敗して落ち込んでいた彼に“愛”を教えたのは紛れもなく彼女だろう。
彼女も同じ境遇だった。
親とは上手く接することが出来ず壁を作ってしまう。
親近感から引き取ろうと思った織戸もこんなにも彼女の事を愛しく感じるなんて思ってもみなかったと思う。
あの二人には幸せに暮らしてほしかった。
それなのに―――……悪夢は訪れた。

『早く逃げろッ、香純―――……ッ!!!』

真夜中に強盗が入った。
ナイフで刺そうとして男から咄嗟に織戸は彼女を庇ったそうだ。
それで心臓に命中して大量出血で亡くなってしまったと聞いた。
彼女は恐怖に陥ったと思う、きっと自分のせいで織戸は死んでしまったと心の奥で思い込んでいると思う。
きっと。


「どうしてッ……死んでしまったの?」
私の瞳から涙が溢れ出た。
(あんな―――……。)

―――あんな危ういあっという間に壊れてしまいそうな彼女を置いてどうして……ッ。

「逝ってしまったのよッ、馬鹿……ッ」
(ウェディング姿を見たいって言ってたくせに……)
顔を見上げると雲一つない青空が広がっていた。
貴方への恋心も彼女の深い傷も。
時間だけでは戻せない、癒せない。
彼女の震えた肩をどうすれば安心させられるの?
(あの子には貴方が必要なのに―――……私にも皆に必要なのよ、馬鹿)

戻ってこない人を戻ってきてほしいって願うのは意味がないってことぐらい解ってる。

願わないと悲しくて涙に邪魔されて前を向けないの。

――――ねぇ解って、“恭吾”