コメディ・ライト小説(新)

Re: 青春という“愛”を知らない人形少女 【コメント募集】 ( No.9 )
日時: 2020/05/15 18:30
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=12710

05. 一歩

『ねぇ、恭吾さん―――それ、指輪ですよね?』
すると恭吾さんはボッと頬を唐辛子のように赤く一気に染める。
『えッ!!こ、これは……なッ内緒ッ!』
慌てた手つきで指輪を隠す。
私はその可愛らしい姿にフフッと微笑む。
暖かい笑いがある部屋。
――――恭吾さんのお料理の匂い、顔、声、仕草。
 その日の食事は目玉焼きハンバーグと野菜炒め、白米だった。
二人で食べた最後の夜ごはん。
もっと豪華なものを食べとけば良かった。
もっと話せば良かった。
ご飯、私が作れば良かった。
強盗に入られてナイフを向けられた時、もっと早く気付いて逃げていれば良かった。
私が強ければあんな強盗、倒せたはずだった。
後悔ばかりが募る。
「―――……ッ!」
毎晩毎晩、涙が流れてきてあの夜が鮮明に蘇る。
いつまでもいつまでも眠れない夜。
強盗が恭吾さんを刺す瞬間、私は何をすれば良かった?
戸締りをしっかりと行ってれば良かった?
恐怖でしかない毎日―――……強盗は捕まったっていうのに恭吾さんのいる毎日に戻れない。
トラウマ。

痛み。

苦しい。

吐きたい。

当然の現実を憎む日々。

恭吾さんのいない毎日を恨む夜。

「もう嫌……ッッ!!」
私は頭を抱え込む。


『大丈夫さ』


優しく抱きしめてくれる腕、包み込んでくれた笑顔、受け止めてくれた心、声。
『香純』
名前を呼ぶ優しい声。
彼の顔が鮮明に頭に蘇ってくる。
「ぁ…ッ」
震えが自然と止まる。
ギュッと両腕を掴み思い出す、昼間の出来事。
生温かい腕で抱き締められたあの時。
“愛が知りたい”
私に応えてくれたあの私の“大切”な幼馴染は―――……晴陽っていう名前。
――――藤岡晴陽君。
彼は私に手を伸ばして教えてくれた。
学校は愛を学ぶ場所でもあるって事を。
私はやっと止まった涙を拭い、スマホを起動させカレンダーを見る。
長い休日も終わり“愛”を学びに学校に通う日々が明日から始まる。
私は深呼吸し逸る心を抑え込む。



「えっと、、おはよう、香純」
学校の校門の前に晴陽を待っていた私に戸惑ったように声を彼は掛ける。
「……まさか本当に来るなんて思ってもみなかったって顔ね」
そういうと晴陽はギョッと目を見開いて、諦めらように小さく頷く。
「、、だって先生もいくら頼んでも来なかったって言ってたから、俺が言ったくらいじゃ来ないなって……」
晴陽の言葉に私は胸に手をやりギュッと久しぶりに着た新品同様の制服を強く握りしめる。
「他でもない晴陽との約束は守る、それに恭吾さんの言葉の意味を知りたいから……」
すると晴陽は何故かクスッと頬を緩ませ、二人で校門をくぐった。