コメディ・ライト小説(新)

Re: 月華のリンウ ( No.16 )
日時: 2020/12/06 14:44
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

14.提案

 「……り、鈴舞。礼を言う、お前の的確な処方により俺達は救われた」

まだ倦怠感けんたいかんの抜けきれない暘谷は一足遅れて城内の修正などの仕事を休んで安静に過ごしていた。

 鈴舞はその礼に表情を綻ばせてかぶりをゆっくりと振る。

 「違う、暘谷があの記録を残してくれていたおかげだよ。救われたのは私の方」

そう言って暘谷の机の上にまとめられた紙を見せる。

 _______「それにしても、よく花の事を知っていたな」

凄いじゃないかと褒める言葉を掛けられた鈴舞は眼を見開いてから両手を左右に振る。

 「それも違う。医学書のおかげだしそれを買ってくれた人のおかげ」 

来儀にあの書を買って貰わなかったら鈴舞は暘谷達を救えなかっただろう。ただ、呆然に暘谷が弱り苦し死んでいくのを見ているだけしか出来ない。

 そしてあの暘谷達に出会う前の鈴舞なら、飛燕城に来る勇気さえも出なかっただろう。

 つまり、鈴舞は変わったのだ。弱虫で言われっぱなしの恥ずかしい鈴舞じゃなくて強くて勇敢な鈴舞へと。

 「買ってくれた人なんて、いるのか……少し気になるが話は別だ。書を読んで俺達を救ったのか……鈴舞、侍女の仕事よりもこっちの仕事の方が得意そうだな……それなら」


ぶつぶつと顎に手を添えながら1人で呟く暘谷を鈴舞は見つめた。

この2人は普通に見えるが、普通じゃないのだ。少なくとも鈴舞は、あの、衰弱した暘谷の、告白をいまだ鮮明に憶えている彼女は。

 (暘谷は、憶えてないのか、な……っ憶えてなかったらそわそわしてる私って変じゃない………?!)

思わず髪の毛を無駄に触ってしまう。

 ―――――――「あの、提案なんだけど……侍女を辞めてさ書が好きだったら文官、やってみたらどうだ?」

暘谷は俯いていた顔を上げ、実はそわそわしていた鈴舞に提案する。

 「え、どういう事? 文官ってあの、文官?」

興味が滝のように湧いてくるのを鈴舞は感じ取る。


 「嗚呼、文官は文治をつかさどる官職だ。皇子の学問や行儀作法教育、あと様々な雑務を仕事とするが本のある書室に置かれる、数年に一度、十数名のものがなれる難しいものだが……お前には侍女よりも向いていると思う」

 暘谷にそんなことを言われるとそんな気がする自分は流されやすいのかと鈴舞は興味を抱く気持ちがある半面、駄目だなと嫌悪を抱いていた。

 でも。

(難しそうだけど、書と触れ合えるなら、頑張っても良いかもしれない……)

鈴舞の心に小さな炎がつき、やがてその炎は激しく燃え上がってくる。

 「私、やってみる!!! 絶対に受かってみせるからッッ!!!」

すくっと勢いよく立ち上がった鈴舞は暘谷に拳を突き付けた。

「約束」と言われた暘谷は布団から起き上がり、甘い微笑を浮かべた。

 _____________「嗚呼、約束だぞ」


 こつん、と骨と骨が優しく、静かにぶつかり合う音が響き渡る。

その直後、男女の笑い声が聞こえ、部屋の前を通った兵士は、にんまりと口角を上げてしまう。

 ―――――――新たな目標が2人をまた、成長させる。
飛燕城はやはり自分の物語を読み進めるきっかけになり、彼等の関係を大きく変える事になるだろう。

 雪解けを待つ彼等は温かな春風を呼ぶことになる。