コメディ・ライト小説(新)

Re: 月華のリンウ ( No.17 )
日時: 2020/12/06 14:58
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

15.心配

 「……鈴舞、鈴舞…って寝てるのか……」

書を手掛かりに鈴舞が作った薬剤を取りに来たものの、鈴舞は机へと顔を伏せていた。
 
 ______すぅ、すぅっと小さな寝息が聞こえる。  

 あの、やると決めたら止まらない猪のような鈴舞が大人しく、幸せそうに子供みたいに寝ている事に対して暘谷は、思わずくすりと笑ってしまう。

彼女を見ていると背中を押されて新しい事をしてみようと思える。幸せな気持ちにもなる。

 「余程、疲れてるんだな……すまない」

暘谷は自分の羽織っていた服を脱ぐと鈴舞に優しくふわっと掛ける。
 そうした時、鈴舞の指が一本一本で、動き上体を机から起こす。


 「………よ、暘谷が……見える……ぅ……? ……ん??」

寝ぼけているみたいで手を宙に動かすが、違和感を覚えたらしく目を細める。

 「これ、……幻想じゃなくて、ほ、本物……??」

暘谷の服をペタペタ触る鈴舞の手を掴むと暘谷は苦笑交じりに頷く。


 「生憎のところ、本物だ」

言葉を発すると、鈴舞はみるみる目を見開き、「ヒッ」と小さな悲鳴を上げる。

 「ご、……ごめん。……ペタペタ触っちゃって……」

いや、いいよと微笑みと薬品の瓶を見せる。

「これ、貰ってくな。あと、余計なお世話かもしれんが鈴舞、結構疲労がたまっているみたいだし無理をせず、ちゃんと眠れよ」

そう伝え終わった暘谷は鈴舞に背を向け、手を振り、去っていく。

 


 「疲労……かあ」
確かに頭痛がする。視界もボーっとしているし、輪郭もない。

 鈴舞は座りながら体を上に伸ばす。

「眠れ」と言われたがそうは言ってられない。

 持ってきた書を読み終えなければいけないし、負傷や風邪を引いた兵の看病をしないといけない。

 此処での役目はちゃんとしたい、鈴舞はそう思っている。

暘谷の言っている事は理にかなっているが休む事は出来ない。

 「……さて、今日も頑張りますか……!」

すくっと椅子から立つと頬をパチンっと叩いて思いきりの笑顔を作った。



 ―――――――「お嬢さん、ちゃんと寝てます?」

唐突に言われ、鈴舞は動揺してしまう。

 訊いた月狼はジッと鈴舞を見つめ、息を吐く。彼の鋭い狼のような金色の眼が心配げに瞬く。

 「え? な、何で……そう思うの?」

取りあえず理由を聞いた鈴舞は不器用に微笑むと月狼は手を掴む。

 「いつもより顔色が悪いから……ていうかオレの質問にも答えて貰えます?」

普段と違ってグイグイ来る月狼に驚く鈴舞は「え~?」と誤魔化す。

 「ちゃんと寝てるよ~?」

あはは、と作り笑いを浮かべ、沢山の資料と薬剤の入った箱を運ぼうと地面から持ち上げる。

 そして、歩こうと一歩踏み出すが、ふらっと身体が後方へ傾く。

 視界が180度回って、鈴舞は眼を瞑るが、頭に強い衝撃は無くて驚く半面不思議に思う。

 眼を恐る恐る開けて見るとぼんやりとしていた視界がやがて輪郭を少しずつ取り戻していく。

 乱れた前髪が誰かの指先によって整えられる。壊れ物を扱うように物凄く優しく繊細な手つきで。

 「……ぁ」

金色の瞳と目が合う。そして急いで彼から離れる。

 倒れそうになったところを支えてもらったのだ_____月狼に。

 「……あーなんつーか……その、……と、とと、取りあえず」

頭を軽く抑えながら気まずそうに声を出す月狼は鈴舞をちらりと見てから視線を逸らす。

 


 _____________「ね、熱。ありますよね?」

月狼はそう鈴舞に告げると、「ちょっと動くなよ」と言い額に手を置く。

 「やっぱり、微熱だけど辛そうだ。今すぐにでも寝た方が良い」

鈴舞自身でも誰も気が付かなかったことに月狼は気付いていたと言うのか。苦笑してしまう。

 確かに、これは熱かもしれない。頭痛に締め付けられる喉。


 「……無理を、するなよ。本当に自己管理の出来ない馬鹿なお嬢さんだ」

2回も同じことを言われてしまったと鈴舞は乾いた笑みを浮かべた。
 
 (……本当、馬鹿だと言われても仕方がない……)

 「ご、ごめん……なさ、い……」

月狼は軽く咳き込み始める鈴舞の腕を掴むと自分の背中へと身体ごと背負い込む。

 「黙ってて下さいね、喋ると耳に響きますから」

鈴舞はそう告げられぼーっとする意識の中、頷き続けた。