コメディ・ライト小説(新)

Re: 月華のリンウ ( No.18 )
日時: 2020/12/06 14:59
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: w1UoqX1L)

16.本心

 「ねぇ、………月狼は、……どうして、気が付いたの……?」

さっきも同じような事を聞いた気がするがまあいっか、と鈴舞は薄く微笑む。

 「お嬢さんの事を見ていたから………ですかねぇ……忙しなく仕事してたんで心配してたら、悪い予想があったってしまっていて………冷静に見えますがこれでも驚いてんですよ?」

月狼の声色はいつもと同じだ。落ち着きのある何処か人を笑顔にしてしまう声。

 (………温かい。月狼の背中ってこんなに大きいんだ……へぇ………意外だなぁ)

遠慮していた鈴舞も緊張などが解け、身体を委ねる。

 一歩一歩、歩みを進める月狼の背中は揺り籠のようでとても安心出来たのだろう。

真面に寝ず、今まで睡魔と闘い手強いくらいの鈴舞でもとろんっと目を伏せてしまうのだ。



 ―――――「……お嬢さん、………お嬢さん……って寝てるし」

顔を横に動かした月狼は背中で静かにすーっすーっと息を吸って吐いてを繰り返し寝ている鈴舞を見てふっと今までにないくらい柔らかく微笑んだ。

 そして、一人、呟く。

 「オレは……お嬢さんには笑顔でいて欲しいんです………お嬢さんが、鈴舞が、笑顔でいてくれるならこのまま仕事は、しなくていい生活を……って何言ってんだオレ」

自分の本心を思わず告げてしまった月狼はパッと口を片手で塞ぐ。

 「……あー、最近、やべぇな………主に申し訳ねぇわ」

そう呟き、空を見上げた。月狼の心と同じく灰色に、モノクロの空だった。

 雲が、ぷかぷかと浮かんでいる。

 「………鈴舞には幸せになって欲しいんだ……」

月狼は背中で赤ん坊のように笑顔で眠る鈴舞の髪の毛が首に触れるのを感じながら歩き出す。



 飛燕城は、まだ雲に覆われていた。

1人1人の心模様のように、何かに悩み、苦しむ姿を現しているかのようだ。



 ――――――――「……主」

鈴舞を寝かしてから雑炊を取りに帰ってきた月狼は驚いた。

 自分の主人_________暘谷に知らせてもいないのに、鈴舞の仕事部屋に居たのだ。

多分、すれ違った兵士の話を聞いたのだろう。きっと業務をほったらかして飛んできたのだろう。

問題は其処そこではなかった、暘谷が鈴舞の髪を指先で梳き手を握っている場面だった。

 “気まずい、こんな場合どうすればいい?”、その一言が月狼の頭を埋め尽くす。

 「………お、おう……月狼か」

 気が付いた暘谷は額から頬にかけて冷や汗を伝わせ、心なしか眉が吊り上がり口が尖がっている気がする。

 余裕のない表情をしていた。

 「えっと……雑炊、持ってきたので起きたら鈴舞に食べさせてあげてくださいね、主」

いつもの調子で言えただろうか、と月狼は思う。

 変な汗を掻いてしまう。

そんな状態でも、目線が行くのは今だに握られている鈴舞と暘谷の手。

 (女々しい………かよ)

自分自身を恥ずかしく思った月狼はパッと暘谷に背を向ける。

 _________居たたまれなかった。前と似た感情だった。

心の底に渦巻く感情。悲しみ、怒り……一言では表せない複雑な感情。モヤモヤしていて気持ちが悪いこの感じ。

 何度もあの手を握りたいと思っても、自分は握ってはいけないのだと暘谷の一途な恋心や鈴舞の優しさに思い知らされる。

 「………では」

にこっと不器用な、笑みを浮かべた月狼は鈴舞の仕事場を出た月狼はその場でしゃがみ込んでしまう。