コメディ・ライト小説(新)

Re: 僕たちの青春デイズ ( No.2 )
日時: 2020/05/18 08:40
名前: 蒼生青空 (ID: H4NN94uP)



STORY1:新しい友達



「あーあーあー、暇だねぇ。マーくん」

4月9日。此処ここ、南ヶ丘高校が神隠し高校と呼ばれるようになる事態が起きる1週間前。

西棟の2階の隅っこにある、1年D組の教室に居る1人の生徒が声を上げた。

廊下側から3列目、前から2番目の席に座る彼は、朝早く来すぎて他に誰も居ないからという勝手な理由で、人の席である机で堂々と寝ている幼馴染みの背中をつつく。


しかし「マーくん」と呼ばれた黒髪の男は、起きるどころか微動だにしない。

机と、それに突っ伏している頭の間にクッション代わりの腕を敷いた体勢のまま、規則正しい寝息を立てているだけだった。


「…ふふ、ほーんと。一回寝たら中々起きないのは全く変わらないよねえ…」


そんな幼馴染を見て、今まで一緒に過ごしてきた思い出の数々を思い出しているのか、懐かしそうに優しく笑みを浮かべながら突いていた指を止め、代わりに大きな円を描く。

そのまま何重も何重も円を描いていれば、ガラガラガラッと音を立てて扉が開く音がした。

金色に染めた髪をツーブロックにしている男は、不機嫌そうな顔のままジッと教室に視線を巡らせている。

さっきまで幼馴染の背中に円を描いていた男は、ふと手を止め、その様子を眺めていた。


…だからだろうか。


視線が合ってしまったのだ。

鋭い目付きに固まる彼に、何故か追い打ちをかけるようにそのままジッと視線を合わせる金髪男。

ただ見られているだけなのに、見るからに不良な彼の視線は圧が凄かった。
ごく普通に生きてきた一般人がそれに耐えられる訳は無く、呆気なく撃沈。失礼とは頭の片隅で思いながらも、顔を下に向けてしまったのだった。



(ああああああああ、どうしよう。殺されたりしないよねええええ?)



顔色を窺いたいものの、こちらが顔を逸らした手前そんな事は出来ない。
男はひたすら内心で絶叫しながら、金髪男に海に沈められない事を願った。




「……。おい」





だから、この低音ボイスの呼びかけの次に発せられる言葉が





「…んーと、くぼ……なんちゃらっていう名前だったよな?あと、寝てる奴。
…………はよ」




こんな平和な挨拶だったって事、一体誰が想像出来ただろうか。


(これって今僕に挨拶されたんだよね?ん?え、おはよって返した方が良いかな。否返すに決まってるか)


下を向いたまま一瞬で思考を巡らせ、もう一度視線を上げる。

相変わらず不機嫌そうな顔をしている彼を取り巻く空気は威圧感があったが、挨拶をされたからか先程感じた恐怖心はとっくに消えていた。


「うん。おはよう、僕は窪田颯だよ。それと“寝てる奴”はマーくん。津田真紀っていうの。僕の幼馴染なんだあ。」

「窪田と津田か。ん、覚えた。ああそれと、俺は安堂那留。よろしく」


そこまで言えば何故か照れくさそうにそっぽを向いてしまった安堂。
耳まで真っ赤になっているその姿が意外で、思わずジッと見ている窪田。
そして、今もなお、気持ち良さそうに寝ている津田。


こんな不思議な空気の中、安堂の後ろからひょこっと顔を出した男が1人。
ふわふわとしている焦げ茶色の髪が特徴的な、丸い銀縁眼鏡をかけた男だった。

その男は安堂に向かって笑いかけると、「本当に僕の言う通り挨拶したね。偉い偉い」と安堂の頭を撫でる。不服そうな顔をしながらも少し屈んでその行為を受け入れている安堂。
これらを見ても、2人の付き合いが長いものだということが分かった。心なしか安堂が先程まで持っていた威圧感も消えているように思える。



「…ねえ、もしかして2人も幼馴染か何かなの?」



先程から2人の様子を見ていた窪田は、その和やかな雰囲気から自分達と似たようなものを感じ、新しく顔を合わせた男の子に挨拶もせずそう聞いてしまっていた。

しかし焦げ茶色の髪をした男は気にする様子はない。


「ううん、僕と那留は小学校からの付き合いなだけ。所謂いわゆる親友って奴だよねー?」


それどころか、また威圧を放ち始めた安堂に代わり、快く答えていた。

そして同意を求めるように首を傾げながら安堂を見る。



「……ん、まあ、他の奴よりは信頼してる」



その視線に気付き、何度も頷きながらそう言う安堂。
どうやら彼はあまり人というものを信頼しないタイプの人間なようだ。この言葉を聞いて窪田は安堂の方を見て何か納得したようにコクコクと頷く。


「へえ、それは良いねえ。小学校からかあ。何か運命ってやつみたいだねえ」

「……んなもんあるかよ窪田。ただの偶然だって―の」

「えー!いいじゃん!運命!……っていうか君窪田君ていうんだね。僕は岸土幸哉。よろしくお願いします」


安堂が何気なく言った名前を聞き逃す事無く、窪田の顔を見るとそう言って深々と頭を下げる岸土。


「あ、うん。こちらこそよろしくお願いします!!」


それを見て窪田も慌てて立ち上がり頭を下げる。

何だか会社員みたいな堅いやり取りを、興味無さげに見つめていた安堂は、壁に掛けてあった時計をふと視界に入れる。そこで結構時間が経っている事に気付き、朝のホームルームなんかに参加しなくて済むようにと、岸土の目を盗んで屋上へと上がっていったのだった。


「窪田君って元気良いんだね。あ、そだ。ねえ、くぼ君って呼んでもいい?」


一方、いつも安堂がサボらないよういつも監視していた岸土はというと、新しく出来た友達と話をするのに夢中になっていた。だからだろうか。安堂が岸土の真後ろを通って教室を出ても、全く気付いていなかった。



「ぜーんぜん大丈夫ー!何なら颯でもいいよー。てか僕も幸哉君って呼んでいいかな」

「窪田颯、君かあ。かっこいいね。あと呼び方はなんでもいいよ」



こんな平和な会話を繰り広げていると、時刻はもう8時となっており、辺りを見渡せば他の生徒も沢山登校していた。立ち話をしている2人とは違い、机に座って緊張な面持ちをしている者が多いけれど。


そんな静かな環境を見て、先程から盛り上がっていた2人は顔を見合わせる。

そして、窪田はまだ寝ていた津田を起こす作業にかかり、岸土は姿の見えない安堂が、自分が目を離した隙にまたサボりに行ってしまったという事に気付き、落胆したのだった。



「もう!マーくんいつまで寝てるの!?そろそろ起きてよー!!」

「もうすぐホームルーム始まっちゃうから那留を連れ戻しに来れない、どうしよう…。はあ……」







――――こうして、2人の高校生活1日目は慌ただしくスタートしたのである。