コメディ・ライト小説(新)

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.2 )
日時: 2020/05/05 16:38
名前: 真朱 (ID: 6..SoyUU)

#1 「あたしは継承者になるよ」




「あたし、櫻庭家継いで霊媒師として生きていきたいんよね。」

「…は?」

高校入学まで2週間。そして春休みの事である。紅新の爆弾発言が、私の耳を貫いた。驚きすぎたのか、それとも_とにかく、机に置いてあったファストフードを落とす寸前をぎりぎり保っていた。

あんなに「自分の道を行く!」と母様と張り合っていたクセに、変な物でも食べたのだろうか。…逆に心配になってしまうのだ。
誰も気付かないかもしれないが、この意志は誰かに何かを吹き込まれたからに違いない。元々、紅新は流されやすい__言い方は悪いが、薄っぺらい性格でもある。__今喋っている方言“もどき”も従姉妹に吹き込まれたものなのである。

「せや…あたしは櫻庭家の次女でしょう?紅雨には迷惑をかける訳にはいかんし…あたしが霊媒師になるんよ。穂那瑠にも「あんたには霊媒師が天職」言われたし。あたしには才能があると思うんよ。そう、思わない?」

「…ん…。」

言葉が詰まる。切羽詰まる。
この言葉で、今の心情は表せない。口に含んでいた炭酸飲料が、地の底から溢れ出てくるような…違和感が、今心を包んでいるよう。

「母様には、言ったの?」

「まだかな。…まずは紅雨に言いたかったんよ。何年間も一緒にいた仲、全て分かち合うのが仲良し言うもん。穂那瑠が応援してくれっなら、紅雨も応援してくれっかなて思って。」

「じゃあ。…穂那瑠に何か言われたっていうの?」

「…な訳無いじゃん。あたしが決めた事やから、信念は曲げんよ。」

彼女は無邪気な笑顔をを私に見せた。
紅新のその明るい笑みに、私は何か隠されているかもしれない。




Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.3 )
日時: 2020/05/05 16:36
名前: 真朱 (ID: 6..SoyUU)

#2 「穢れなき昔」


高校入学まで、1週間。
言い換えれば、春休みも終わりに近付く頃。場所は私の部屋の中。私は紅新の事と共に、家族の事を重苦しく抱えていた。

私の本当の両親にあった記憶は、全く無い。
ただ、両親が亡くなった事しか分からない。もちろん、アルバムなどなくどんな顔をしているのかも分からない。ただそれだけ、の事である。

「紅雨。」

振り向いた。
いや、驚いた。紅新がいた。
何故か彼女はビニール袋を手に提げており、その中心にはよくある青いコンビニマークが描かれていた。中には何か入っているらしく、小さい風でガサガサと音を立てていた。

「アイス買ってきたんだけど。食べる?」

「あ。うん。」

彼女はこの前の事を忘れたように明るい顔で袋の中をいじくっていていた。ヒンヤリとした空気が、頬を撫でて逃げていく。春の陽気によって火照った顔が、一気に冷やされていきそうだった。

「高校の制服どうやった?」

「ん…まぁ、いい感じだったな。リボンじゃなくてネクタイだった。」

「そっかぁ。でも、高校別れちゃうね…。」

残念ながら、私は稔川高校。紅新は向島高校というものに進学する。
兄弟や姉妹で志望校が異なるというのはよくある事だが、少しばかり寂しく思う。

…話が脱線しすぎた。
とりあえず私達はベットの上に腰掛けると、私達は2人並んでアイスの蓋を開けた。

抹茶味。
渋い味が、口の中に。香ばしい香りが、顔に渦巻く。そして美味しい。


「昔もこうやって、並んで食べたもんねぇ。」

紅新が安心でもしたような顔で、口を開いた。
その表情は少し悲しそうなものであり…また3人で集いたいという心が見える。
…確かに懐かしい。幼い頃、紅姉さんと紅新、私が並びながら食べた思い出が、ここにはあった。






Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.4 )
日時: 2020/05/04 14:15
名前: 真朱 (ID: ET0e/DSO)

#3 「深夜の灯に」


「眠れない…」

ただ単に、眠れなかった。
目が冴えて、白い天井を意味も無く見つめていただけ。虚しい光景が、静かに広がっていた。

溜息を付きながら、カレンダーの方へ視線を向けると見事に明日の欄に赤丸が付けられていた。

『入学式』

明日高校に入学するとなると、一気に緊張の波が押し寄せてくる。
そりゃ高校生だもの。今まで中学生=『junior』だった者がいきなり一段落上に行く。
簡単に言うと、『何処かの子供』から、『青春真っ只中の少年少女』に移り変わると言うものだ。

「でも、紅新とは離れちゃうな…。」

元々この近くには偏差値の高い高校がいくつもある。より高みを目指す学生達はだいたいそこで別れてしまう。私と紅新は同じ家に住んでいるさながら、志望校は違う。そこが虚しいのである。

だが霊媒師目線から見ると、新学期と言う物はよく霊が溜まりやすい季節。霊媒師としては少し依頼が増えるのである。

ただ私は、春の陽気に満たされながら明日を待ちわびていた。



Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.5 )
日時: 2020/05/09 18:02
名前: 真朱 (ID: uJGVqhgC)

#4 「目を擦ればセーラー服」


「おはようございます_____」

今日は入学式___なのに、眠い。瞼が重い。
原因はどうせ、昨日はそこまで眠れなかったからか。足元が少しふらつく。
服装は既に着替えており、いつでも家を出発できる…そんな感じだ。


少し落ちそうで怖いが、少し趣のある階段を降りていくと、セーラー服姿の紅新____だけ。

「母様は?」

やる気の無さそうな声で、少しばかり聞くと「先に行った」とぼやけた返事しか帰ってこなかった。




________…今日は入学式なのに。



これが子供の願いである。
どんな時間でさえも、やっぱり一緒に居て欲しい。そう言うものだ。それでもしょうがない。母様はとにかく忙しい。私の父様____彼女の夫を亡くして間もない頃だって、悲しみを隠し霊媒師として生きてきた。そこにはもはや、感謝しかない。

そもそも、母様は腕の良い霊媒師だ。
毎日依頼が殺到し、商売の目で見れば『超黒字』である。

食卓に目を向けると、母様が作った定番でしかない味噌汁。米。パン_____。なぜ主食が2個もあるのだろうか…。けれども、母様は忙しかっただろうからしょうがない。とりあえずそこは気にせず気怠く頬張る。


今は7時半。入学式まで1時間を切った。
残念ながら、まだ高校生という実感は沸かない。それは当たり前であろう事である…。分かりやすく言うと、桜を見ても何も思わない感情と大体一緒だ。

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.6 )
日時: 2020/05/07 13:43
名前: 真朱 (ID: okMbZHAS)

#5 「不安感、消えてしまえ」



不安しかなかった。
進学。心配しかなかった。

「_____っ。____雨。」

何か聞こえる。
私だけの世界に________

「紅雨。」

「…えっ。」

「スマホ。鳴ってる。」

自分のスマホを見ると、確かに何か着信していた。



______…私、こんな時間にぼーっとしてたのか…。

スマホの画面を覗くと、『紅雨、そっちの家行くね〜。8時頃に呼び鈴押す。』と言う文字。

どうやら15分前に来たものらしく、発信元は陽和だった。彼女とは小学生の頃から仲が良く、偶然志望高校も一緒であった。まさに、瓜二つ_____に似たものである。
今は7時50分。
約束の時間まで、あと10分程度である。

「…紅雨。少し話があるんけど。」

少し戸惑う。
そりゃ、いきなり紅新が話しかけてくるからである。いつもはこんな事無いのに…。

こちら方向を向いてきた紅新はパンを頬張っていて、少し子供っぽい。セーラー服のネクタイは少し緩いし、スカートは「邪魔くさいから」という口実で少し翻されていた。

何か真剣な物を語るのか、彼女は苺ジャムを口に付けながら姿勢を改めた。
あんな能天気な彼女がいきなり、どうしたのだろう。いつものように、奇想天外な行動は飲む事が出来るがここまで改まった表情は___見た事が無い。もしかして、悩みでもあるのだろうか_____

「紅雨。もし高校で、良い男子見つけたら紹介してーね。あ、私もう出るから。」

「…は?」

そう言うと、彼女は皿を片付けぴょいっと行ってしまった。

やはり能天気なのは変わらない…そう思う途中で、呼び鈴が聞こえてきた。





Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.7 )
日時: 2020/05/07 13:43
名前: 真朱 (ID: okMbZHAS)

#6 「ドキドキしてるからさ」

「ちょっと早くないかな?」

玄関先から軽快に足を運ばせると、目の前には陽和が澄まし顔で立っていた。少しイラッとくるかもしれないが、彼女は憎めないものである。
まぁ、元々。入学式の日は8時前後に集合と言っていたので遅れているわけではないし、早すぎるわけでもない。

「ん…っと。なんかドキドキ感ってやつじゃない。ほら。気分が上がるというか。」

「まぁ、支度が終わってたから別にいいんだけど。」

しょうがなく愉快そうな陽和に付いて行く。
何も悩みが無いと言うのは、こういう事なのか_____?

春。
…言わなくても分かるか。辺りは桜一面であり、見惚れるものだった。本当に、白いキャンバスに絵の具が落ちてしまうような____美しさと儚さだった。
辺りを見回すと、やはり高校生たちで溢れかえっている。私はただ不安感を抱えながら、高校の事を想像していた。

話が少しズレるが、『稔川高校』について。
地元では有名な“稔川”流域のすぐ近くにある。
ここらへんでは毎年夏祭りが開かれ、日に日に伝統そのものに成りつつある。
流れは緩やかであり_____いや、緩やかすぎるからか、夏になると子連れの大人や小学生の溜り場へと変貌を遂げる。

「もう稔川見えてきたね。もうすぐじゃない?」

陽和が横手にあった稔川を指差す。
その風景はやはりいつも通り。幼い頃、夏祭りで綿飴を買った風景と変わっていなかった。

とにかく、この川。微風が心地良い。
悩みがある時にここへ訪れると、周りの風景が心を包み込んでくれるよう…。そして悩みらしき何かが飛んでいく。この後予定がないなら、ここで一日中過ごしていたい気がある。

「そう言えば、知ってる?稔川の話。」

「稔川の話…?聞いた覚えがないけど。」

地元民の私でさえ知らない。
“話”と言うのは、伝説や言い伝えなのかもしれない。幼い頃から稔川についての話はよく聞いてきた。稔川の周辺には霊が住み付かないとか____4月4日には女性の声が聞こえる_____どれもオカルト関係だが、それしか聞いたことがない。

「知らないの?…ほら、晴れてる日に川の流れが遅いと、良い事があるんだよ。」

彼女を耳にしながら、稔川に視線を向けると晴れ空の下で緩やかな水を流している稔川が見えた。

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.8 )
日時: 2020/05/07 13:44
名前: 真朱 (ID: okMbZHAS)

#7 「クラスは?」



厳かすぎた入学式。
辺りは驚くほどしんとしており、息の音が漏れるのも申し訳ないくらいだ。高校とあってか、新入生の数はとてつもなく多く、言い方は悪いが『黒ごま』がどっぷり流れているのか____と思うほどであった。

此処、『稔川高校』____『稔川高等学校』は部活動共にイベントが盛んな高校である。最寄駅は『稔川駅』、『新稔駅』…と言う感じであり、他の地区からの生徒も多数入学してくるそうだ。高校の近くにはショッピングモールやチェーン店が多数あり、放課後に友達とブラつく生徒が多い。
偏差値は、平均偏差値からほぼほぼ高い程度。簡単に言えば、偏差値60程度の上位校である。稔川高校はここらへんでは珍しい公立であり、だいたいの中学生がそこを志望校として選ぶようだ。それだからか、同じ中学の仲間と新学期早々テンションを上げていく生徒も結構居るらしい。

________新入生結構居るな…。


今年の新入生は、なんと310人越えであり通常の新入生より20人ほど多い。クラスの数は6クラスらしい。





____________________


入学式も遂に終わりを遂げると、新入生の雪崩はクラスが書かれた掲示板へ向かっていった。この状況、どの視線で見ても混んでいるとしか思えず仲良しと同じクラスになった___ならなかったで嘆いたり喜んだりしている生徒が何人か居た。

「紅雨っ____。」

振り返ると、陽和が手を振っていた。
そしていつの間にか私は、磁石に引き寄せられる砂鉄のように日和の元へ向かっていた。

「ごめん、ちょっと混んでてはぐれた。入学式の席、何処だったの?」

陽和の近くにつくと、まずは声を発した。
すると彼女はこっちを見て、口を開き始めた。

「2列目の1番左。紅雨はどうだった。」

「ん…1番後ろかな。ちょっと見えにくかった。…あ。そう言えばクラス名簿確認した?」

「まぁ、一応。5組。…そっちは。」

陽和が深刻そうに尋ねる。
このクラス発表のドキドキ感は毎年一緒だ。この容赦ない体験を小学1年生の頃からやってきたんだもの。

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.9 )
日時: 2020/05/07 16:52
名前: 真朱 (ID: okMbZHAS)

#8 「見たくないけど見たいんだけど…」


見たくない。
掲示板。
何だか…現実を受け入れてしまいそうで、1年間憂鬱かもしれないし。一人になるのが怖いのは、こう言う事かもしれない…。

「紅雨?」

「____あ。ごめん、ボッーとしてた。」

陽和は心配そうにこちらを見つめてきた。
彼女は私よりしっかり者である。きっと彼女なら、新しいクラスで友達が居なくてもすぐさま作ってしまうだろうに_____。

「まだ見つかんないの?紅雨って前の方じゃない?」

「あっ。そっか…。」

気が動転したのか、上の方ではなく下の方を見てしまっていたようだ。気を取り直して、左端の1年1組から名前を見ていく。




_____… 担任 津野 真理 
青木、新井、新木、飯塚、井口、江原、大野、金森…………………。

艷やかな目を動かしても、まだ見つからない。
それに『お』から『か』へ移り変わっているということは、このクラスに私はいないという訳である。

そして横にズレて2組。
そもそも出席番号1番目から『か』で始まっている訳であり、ここにも____いない。

更に横にズレて3組。
岩城、小野、加濃…。これまた居ないのである。
そもそも、『櫻庭』なんて結構目立つものなのだからすぐ見つかるはずなのだが_____。

「と言うか、今何組まで見た?」

「えっと、3組。…本当に心臓に悪い。」

弱音を吐いてもしょうがない…。
そんなでは、毎回新学期に心が潰れてしまうであろう。そして残念ながら、こんな苦しい塊と、社会人になるまで闘わなければならないのだ。

「____じゃあ。4組飛ばして5組のとこ見ればいいじゃん。」

「…は?」

「時間の無駄だし。いいんじゃない、それで。」

そのような肝を潰すことなど出来るのだろうか。
しかし、早く結果を知りたい気持ちもあるし早く教室へ向かいたいという気持ちもある。

私は覚悟を決めて、5組の欄に目を飛ばした。

『5組 担任 日田 香音 …鵜飼、卯月、恩田、櫻………………』


その瞬間、何かが抜けたような気がした。

『櫻庭 紅雨』

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.10 )
日時: 2020/05/08 13:24
名前: 真朱 (ID: uJGVqhgC)

#9 「メモだけだった」


今日はメインイベントはクラス発表だけだった。だがその後、各生徒教室に入るというものがあった。だが…教室に入ったものの、教室においてあったアンケート用紙に記入しただけだった。

その後、私は陽和と共に自宅に帰ろうと思ったが残念ながら中学時代通っていた予備校へ挨拶_____と。予定があるらしい。
少し残念だが、今日は1人で帰ることに。

高校生ではあるけれど、独りで帰るなんて少し寂しい。それだからか、私はいつもより小走りで自宅へ足を早めた。

本当なら放課後、高校近くの“稔通り”に身を寄せるというスケジュール。だが独りで行くのもアレであるから、通りではなく自宅側に方向転換せざるを得なかった。私は少し息を吐き通り側を見てみると、案の定賑わいを見せていた。その光景からまは、少し羨ましさを感じる。







「ただいま_____。」

玄関で靴を脱いでも、他に何も聞こえない。
…紅新がいるはずなのだが。少し疑わしさを感じた足取りで、リビングに向かうと_____蛻の殻だった。

紅新が気に入っているソファにも、いつもアイスクリームを漁っているキッチン付近にも、人気ひとけは全くしなかった。

「あれ…紙…?」

辺りを見回していると、偶然紙を見つけた。




『ちょっと友達と遊んでくる 紅新』




Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.11 )
日時: 2020/05/08 16:15
名前: 真朱 (ID: uJGVqhgC)

#10 「新入生テスト、悪夢」


次の日。記念なのかどうかは分からないが、第1回目のホームルームが終わって間もない時間、1年5組にとある紙が回ってきた。

『テストについてのお知らせ』

毎年この紙が、稔川高校の各クラスに回ってくるらしい。その中身には、テスト(もちろん定期テストも含まれている)の日程や時間割、範囲などが記載されている_____もちろん、合格点のラインや去年のテスト最優秀成績者と点数なども。

そして言い忘れていたが、この高校には“定期テスト最優秀成績者”という高みがある。それは1年間の定期テスト総合点が1番高い生徒に送られるものであり、高校の朝会で表彰される為勉強中毒_____成績には自信のある生徒が目指すモノであるらしい。

私は恐る恐る、白い紙をめくった。




『新入生テスト 4月16日』

その瞬間、クラスがざわめきを見せた。
…入試に受かったなり高校に進学なり。少し浮かれ気分でいたのだろうか、中には顔を真っ青にしている生徒がいた。

簡潔にまとめる。テスト実施日は来週。
赤点を取らずに済むのだろうか……。


Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.12 )
日時: 2020/05/08 20:22
名前: 真朱 (ID: uJGVqhgC)

#11 「連立方程式が全然分かんなくってさ」


休み時間。

「紅雨、ちょっと皆に話しかけてみない?」

彼女はおどけて話しかけてきた。
…本当ならこの声にノる_____はずなのだが、今はそんな暇はない。




_____…まったく。陽和はポジティブで羨ましいよ…。

「紅雨?」

「…あ。ゴメン、今ちょっと無理。」

軽く流した。
空に飛んでいくほど軽く。
しかししょうがない。私だって赤点は取りたくないもの。それに、初めのテストで先生達の先入観は変わってくる。そしておまけに、それは3年後の未来…大学入学にも絡んでくるものだ。これは学生にとって____受験生にとっても大事な事である。すると、私の机に重みがかかってるのが分かった。

「そんなぁ、ちょっとノリ悪くない?」

彼女は子供のように、駄々をこねようとしており少し顔の表情が砕けているようにも見える。彼女はいつまで経っても、精神年齢は“小学生”のままである。

「陽和。自分で自分の首締めてもいいの。」

私は少し呆れ気味に言った。彼女はいつもこうである。テストの前日まで遊び呆け、徹夜して赤点ギリギリを取る。それの繰り返しだが、何故入試にはやる気を出したのであろう_____。

「え?」

まだ彼女に意味が伝わっていないようだ。
さっきの手紙は、何の為にあったのか…。

「新入生テスト。赤点取りたくないでしょ。合格点と新しい友達、どっちを優先したほうがいいと思う?」

「…合格点、かな。」

少し悩みながらも、彼女は勉強の方を選んだ。

「あ、そうだ。紅雨『連立方程式』教えてぇよ!私その単元で赤点取ったことあるんだよね。」

話しかけてくる彼女の顔は、何にも懲りないようであった。

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.13 )
日時: 2020/05/09 18:01
名前: 真朱 (ID: uJGVqhgC)

#12 「不在着信の山」


『_____…未読。_____』

彼女から既読がつかない。
休み時間、そして女子トイレの中。先生にバレないようひっそりとスマホをいじくっていた。

本来、この高校は昼休みしかスマホを使う事が許されていなく_____これでも結構校則は緩いほうなのだが____トイレの中など、人目を盗んで使う生徒は結構居る。…私もその中の1人だ。

「…やば。厚かましい田舎の母ちゃんみたいな事しちゃってんじゃん。」

スマホの履歴を見ると、紅新に送ったメッセージが50件ほど見えた。

「そもそも紅新が提案してきたのに…。」

私は少し憎たらしいものを見るように、スマホの画面を見つめた。

…提案と言うのは、昨日の出来事である。


_____『ねぇ、紅雨。アタシ達ひっそりLINEしてみないかね?』

『LINE?…先生に見つかったらヤバいんじゃない?』

私は少し心配そうに彼女を見つめると、彼女は自信満々に答えを返してきた。

『大丈夫、“トイレ”なら全然バレないんだってさぁ。昔、紅姉ちゃんから聞いたんよ。』

『姉様から…?さすが、紅新と似過ぎだわ…。』

私はほんのり溜息を付いた。
すると彼女は、「どーいう意味よぉ〜」と少し疑り深い目でこちらを見てきた。さすが姉妹。いくつ歳を重ねても、似てるものは似てるのである。

『まぁ、そうゆーことで。明日からひっそりやってみよ!』

紅新が笑顔で迫ってきた。
…さすがにここまで迫られると、「嫌」と言う訳にもいかない。そういうものである。

『まぁ…いっか。じゃあ明日、私から連絡するね。』



「やっぱり、姉様に似過ぎ…。」

いつの間にか、私は溜息を付いていた。

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.14 )
日時: 2020/05/10 15:06
名前: 真朱 (ID: HPUPQ/yK)

#13 「学食のアイスティー」


「えぇっ、そんな悩み?」

陽和は少し苦笑しながら、ナポリタンに口をつけていた。

「そんな悩みって…鼻であしらわないでよ。」

「ごめんごめん、だって悩むほどではないでしょう?紅新ちゃんが既読しないって…どうせ忙しいんじゃない?と言うか、思春期の女子ってだいたい家族と距離を置くもんよ。…あ、もちろん私は家族と距離置いてないからね。」

午後。カフェテリアにて。
稔川高校は珍しくカフェテリアがあり_____かわりに購買部がないけれど____だいたいの生徒がそこで昼食を取る。メインディッシュやドリンク、デザートもあり最近では“バナナスムージーと言うものが流行っているらしい。そして、今私は陽和と共に昼食を取っている。

目の前には、アイスティーとカツサンド定食。
結構前に頼んだのに、まだ全然減っていない。

「まぁ、そうかもしれないけどさ。ちょっと心配なんだよ。」

「え〜、紅雨は心配し過ぎなんだよぉ。きっと紅新ちゃんも紅新ちゃんで上手くやってると思うよ?紅新ちゃんは強い子だから。私が保証する。」

「そっか…。」

私は冷えたアイスティーに口をつけた。
それを一口吸い込むと、茶葉の香りが鼻から抜けていく。…この香りと共に、悩みも抜けていけばいいのに。

「ほら、紅新ちゃんは紅雨ママと一緒で以外としっかりしてるでしょ?ましてや、紅さんの妹だしこの先絶対苦しまないって!…あ。紅雨、全然箸進んでないじゃん!早く食べないと冷えちゃうよ。」

“紅雨ママ”と言うのは、“櫻庭 翡翠”…母様の事だ。血は繋がっていないので、“紅新ママ”の方が妥当だと思われるが…。

「でも。紅新なら大丈夫か。」


思いにふけながら飲んだアイスティーの味は、ほんのり甘かった。

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.15 )
日時: 2020/05/10 16:46
名前: 雪林檎 ◆iPZ3/IklKM (ID: FCVTIPcN)


こんにちはっ。
プロローグで気になって来てしまいました!
語彙力がやばいですねっっ、そして私んとこの小説お読みになってくれてありがとうございます。
これからは仲良くお互いに執筆頑張りましょうね♪

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.16 )
日時: 2020/05/10 18:25
名前: 真朱 (ID: HPUPQ/yK)

雪林檎さん、コメントわざわざありがとうございますっ!語彙力があるだなんて褒めていただいて嬉しいです(泣)でも私もまだまだです!
これからもお互い頑張っていきましょう(人*´∀`)。

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.17 )
日時: 2020/05/11 19:03
名前: 真朱 (ID: e.VqsKX6)

#14  「部活、楽しみで」


帰り道。
まだ部活が始まっておらず、6時間目で普通に下校となった。今日の稔川は、穏やかであり喋りながら横目で川を見る生徒が何人か居た。

「そう言えば、部活は何にすんの?」

「部活?」

夕日が顔に当たって眩しい。
ついでに川の音も、耳に入ってきて少し賑やかな様子である。

「まだ、決めてないけど…。」

「えぇ〜、まだ決めてないの?高校生はしっかり意思を持たないと!」


「んで…陽和はどうなの?」

私が話を持ちかけると、彼女は自信満々に口を開いた。

「決まってんじゃん、バレー部って。何せ5年間続けてんだからね。」

彼女は5年間____小学4年からバレーボールを続けている。きっかけは、テレビで見た世界大会であり最近は『バレーボール専門雑誌』と言うものにハマっているらしく、新聞のバレー特集も尽かさずチェックしているらしい。それなのに私は____

「紅雨?」

「えっ、何?」

少しビクッと身震いを立てた。
横には陽和。景色。…ただのいつも通りの風景だ。

「いやぁ、紅雨は文化部が良いんじゃないかなって思うんだよね。」

「あー。うん、そっか…。」



________陽和も、紅新も…姉様も。自分の夢を持っているのに。

私だけ将来を決める事が出来ない。

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.18 )
日時: 2020/05/12 20:07
名前: 真朱 (ID: e.VqsKX6)

#15 「何考えてんだろ。」


「ただいま。」

リビングに通じるドアを開ける。
軽快な音が響くと、ドアが1cm2cm開く。

「________。」

声が聞こえない。
だが、姿は見える。

「紅新。」

「あ、…お帰り。」

呼びかけても、掠れたような声しか聞こえなかった。表情は何があったのか、冴えないものでありただ天井を見つめており想いにふけていた。

「そう言えば…LINE出れんですまんね。…忙しくて。」

「まぁ、別にいいけど。時間があったら返してくれればいいよ。」

口を閉じると、バックを床に置く。
彼女が頬杖を付いている机には、置き手紙とラッピングがかかった料理があり『食べて』と言うメモ用紙が、軽くくっついていた。


________わだかまり。
それはこの事を表しているのだろう。

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.19 )
日時: 2020/05/14 20:11
名前: 真朱 (ID: HPUPQ/yK)

#16 「恋、しちゃった」



『やっぱり、紅新は思春期真っ只中なんだね。』

LINEの青い背景の手前に、白と緑の吹き出しが表示された。メッセージを入れると、一瞬で既読が付く…魔法と言うか、イリュージョンのようにも思えた。

『だねぇ〜、ギャップ萌えするね〜♡』

陽和からのメッセージは、少し可愛らしさが余っていて甘い心がほんのり残っている。

9時。
部屋の中。暗さが混じっている部屋の中に、明るい白の電灯が灯される。部屋の中では風の匂いが蔓延して、体の奥底が冷やされて凍てつく。体がダラダラしていたいと言うばかりに、奥底の氷が溶けない。

『ねぇ。』

一筋のメッセージが、青い背景を少し隠した。
その長さわずか3文字。1cmにも満たない程であろう、何かに埋もれた米粒のように____。

『ちょっと相談イイ?』



________スッ…。

軽快な空気の音…では無く、メッセージが届いた音…『通知音』が鳴り響いた。

『今から言う事、誰にも話さないでよ!…特に紅新ちゃんとか紅雨ママとかぁ。』

『話す訳ないじゃん。そもそも母様は忙しいんだよ。』

錯覚のような。遠方から咳払いでも聞こえそうな感覚が身を包んだ。

『コイ。』

『は?』

鯉、故意、濃い、こい……。
思い当たる言葉はこれしか見つからない。
いきなりどうしたのだろう、漢字のクイズでも出したいのだろうか。だが、陽和はそこまで勉強好きではないハズ…。

『ヒント!10画の漢字。』

新たなメッセージが浮き出る。
これじゃあまるで、“謎解き”では____

『ちょっと、隠してないて教えてよ〜。』

少しもどかしい。
その10秒後。

『恋、しちゃった。』

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.20 )
日時: 2020/05/15 16:17
名前: 真朱 (ID: Yv1mgiz3)

#17 「風紀委員が口を開いたら」

高校の新学期が始まってから、まだ1週間も経っていない稔川高校。そこには、不穏な空気が何かをかき乱していた。

『ブレザーは第2ボタンまで閉めなさい!!』

響いた。
これが稔川名物“悪魔の声”と言うものらしい。
週に1度、高校では風紀委員による抜き打ち検査があるらしい。その日程は、毎回異なるし時間帯も異なる。

「ちょっとあなた、ネクタイは締めるべき!何故持っていないのよ!」

怒声が隅々まで行き渡ると、とある女子生徒が声を上げた。

「るっせーなー。ネクタイなんて締めなくても良いだろ?それにそんな固く生徒達の事を見下ろしてたら、嫌われるだけじゃなく学校の評判も落ちると思うけどな?もっと優しく注意したらどうだよ。」

彼女は上から目線で上級生____風紀委員を見つめた。それはまるで、自分の部下を見るような目付きであり『上級生』だと分かっていないかのような態度であった。

「あなた!女子たるもの、言葉遣いは丁寧にするべきよ!」

彼女の意見に、風紀委員が反論をする。

(紅雨。)

あの風景に、興味を寄せていると声が振り被ってきた。

(陽和、どうした?)

コールアンドレスポンス。
この言葉が今の状況を表している____簡単に言えば、会話だが。

(あの子…新木さんの事知ってる?)

(新木、さん…?)

確かにそのような名前、このクラスに居た気がする。

新木 ユカ。
荒っぽく喧嘩っ早いが、学力は高くスポーツも万能。そんな彼女、その性格から高校へ進学できないとも噂されたらしいが、体育の授業の後は必ず後片付けを率先し遅刻や早退も一切無かったという。根は優しいと言うのである。

(そう言えばこの前ね。同級生をイジメてる男子中学生をボコボコにしたらしいよ。喧嘩は強いんだねぇ。)

(ぼ、ボコボコ?)

確かに彼女は優しい。
…………しかし、私はあまり彼女に関わらない事を心の中で決めた。

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.21 )
日時: 2020/05/16 16:37
名前: 真朱 (ID: vpptpcF/)

#18 「詰まる空気の中で…今」


昼休み。
昼食が終わったばかりなので、体が重い。
とりあえず私は、教室の机で一息つく事にした。

「__________…。」

気まずい。
気まずい。気まずい……。

横から不穏な空気が流れて来て、口の中が震える。音が全く聞こえないのは、良い事だが逆に心をくすぐる時だってある。無難なものだ。



_____…とりあえず、横見てみようかな…。

隣には何があるのだろう?
そもそも、昼休みに外へ出たりしないのはおかしいと思う。_私が言う言葉ではないが。
そもそもこのクラスの生徒は、ほとんどがアグレッシブなのでこの教室には私以外居ないはず_____。

「…。」

「…。」

見つめた先は、目線_____ではなく少女。
つまり、目があってしまったと言う訳だ…。
恥ずかしい、と言うべきなのか?少しドキドキ感もあり、自分の行動に私は呆れた。

_____…気まずい…。

先程目があってしまったからか、気まずさはどんどん増していった。この場面に、誰かもう1人生徒がいればな…と思っても誰も来ない。

その時_____ 






ゴドッ

何か硬いものが落ちて、何か広がる。
何か嫌な予感がする。そんな気配が漂った。

_____…あ。

下を見ると、隣の少女がペンケースを拾っているのが見えた。そして数秒後、彼女は散らばっていたペンを拾い終わり席へ戻った。

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.22 )
日時: 2020/05/17 16:37
名前: 真朱 (ID: 10J78vWC)

#19 「アブナイ少女」


週末の事だ。
…簡単に言えば、土曜日の事だ。

その日は快晴。
青い飴玉が溶け込んだ空は、雲1つ無く澄んでいた。春らしさも空に舞っており、美しい…。

「あっ、信号…。」

目の前に佇む信号を渡ろうとする…が。
目の前で赤に変わってしまった。何故こんなに『信号』に人生を狂わせられなければならないのだろうか___。



ザッ

その時、気配を感じた。

「あ…。」

横を見ると、見慣れた顔。
あ、新木さんであった。あの不良女子…。迫力は近くに行けば行くほど強くなっていく。特に、彼女の目。赤い炎が混じっていそうな程茶色い。誰が見ても、この娘は危ないモノだと感じるに違いない_____。

彼女の格好は、パンクスタイル。
どこかの『クレイジー系』バンドのコンサートにでも行くのか…と思うほどバッチリ決まっていて、ファッション誌にでも乗っていそうなものだった。

対して私の方。
服装はカジュアルであり、パーカーの下に短パン。タイツも履かずにまっさらな足肌を露出していた。渋谷のギャルにありそうな格好だが、パーカーはさすがに着ないだろう。どうせ肩出しファッションだとか何とかを着るはずだ。

ただ…彼女から色気を感じるのは何故だろう。
もう1度彼女の横顔を見てみると、意外にモテ顔であった。もしかしたら、ファッション雑誌の読者モデ_____いや、高校生でもあるし何より性格がモデル向きではない。

1人思いにふけっていると、彼女は信号を渡っていってしまった。

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.23 )
日時: 2020/05/17 19:46
名前: 真朱 (ID: 10J78vWC)

#20 「お気に入りなんだもん」

「紅雨?」

「へっ?」

突如声が被さる。
それにびっくりしたのか、ハイスピードで振り向いた。

「紅雨、ちょっとこの問題分からないんだけど。と言うか何見てんの?」

疑わしい目で見てくる彼女は、珍しく勉強熱心であった。

と言うのは、『新入生テスト』の対策をしているからである。
テストは4日後。国語、算数、理科、社会、英語…入試と同じように5教科らしいが量は少ないらしい。学校によると、内申点にも反映される_____と言う条件も付いており、生徒たちを苦しませる“関門”となっている。

「あ…これ?…小説。」

少し戸惑いを隠しながら言うと、彼女は攻めに入った。

「えぇ?誰の?」

好奇心が垣間見える。その瞳は、探求欲と疑問が混ぜられておりおっとりとした子供のようであった。

「…“赤城あかき由良”先生の。」

「先、先生?巨匠とかなの?」

さらに彼女は迫ってきた。
少し暑苦しいが、そのままにしておくのも嫌である。

「いや、アマチュア。私が尊敬してるだけ。」

「ふぅん。」

何と言っても、赤城先生は小説サイトの中でも唯一たくさんの賞を受賞している作家である。_____アマチュアだが。
さらにその小説は、多くの人々の心を打つものでありたくさんのファンが付いている。

「勉強中にスマホ見るなんて…よっぽど自信あんだね。」

彼女の発言は、何か冷たいものを置いていった。

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.24 )
日時: 2020/05/18 16:49
名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)

真朱様

こんにちは、美奈です!この前は「俺式」の方にコメントくださり、ありがとうございました!
この小説、実はコメントいただく前から読んでいました笑
何より登場人物の名前が素敵ですね!それと、状況の表現とか比喩表現がすごく綺麗で、読むうちに引き込まれてく感覚になります。
他にも色々執筆されてますよね!これからも頑張ってくださいね、応援してます(*^^*)

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.25 )
日時: 2020/05/18 18:52
名前: 真朱 (ID: lBubOowT)

美奈さん、わざわざ居らして下さってありがとうございます!褒めてくださるなんて感激です✧◝(⁰▿⁰)◜✧
まだまだ初々しい小説ではありますが、今後ともよろしくお願い致します♪

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.26 )
日時: 2020/05/18 19:38
名前: 真朱 (ID: lBubOowT)

#21 「本当…なの?」

夜も深まった頃。
涼風が吹き込んできて、柔らかく心が揺れる。

暗い空の中に吹き込まれた複数の電気が、落ち着きを表している_____。

「ねぇ…。“恋愛”の話、本当なの?」

彼女は体を震わせた。
恋愛…なんて事は分からない。親の愛と言うものも分からない。…やだ。分からない事だらけだ。完璧に答えられるものと言えば、勉強の事だけど親を亡くした子の心境だけだろう…。

「聞きたい?」

「聞きたいって何も…友達の事は気になるでしょう?9年間寄り添ってきたんだから。」

彼女は頬を赤らめながら、意中の人について話そうとしていた…。

「その人_____同じ学年なんだけどね。凄い優しくて、バスケットボールが得意なの。“期待の新星”とか言われているらしくってさ…凄い私の好みと合ってるんだよね。」

「その人とは話したことあるの?」

「あるよ…小学生の頃に。転校しちゃったんだけど、高校で再会したんだよ。こう言うの小説とかにあるよね。」

「運命の_____再会ってヤツか。昔、紅新が興奮しながら教えてくれたな…。仲はいいわけ?」

つい興奮して、質問攻めをしてしまう。
陽和には悪いが、こんな出来事初めてである…。新鮮の空気が心を撫でたのだ。

「もちろん。幼馴染みたいなもんだけど、相手が恋愛対象ワタシとして意識してるかどうか…。」

彼女の柔な思いが、届きますように…と私は深く願った。


Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.27 )
日時: 2020/05/19 15:21
名前: 真朱 (ID: 3w9Tjbf7)

#22 「テストに消えたシャー芯」

その日、白い紙に数式が印字されたもの_____新入生テストを行った。

『aの位置を5と仮定する時、bの直線は_____』

何故、数学では『アルファベット』を使うのだろう。確かに、αやβなどはカッコいいが小学校で習うはずのアルファベットが高校でも出てくるなんて…何だか幼い感じが心をくすぐるのだ。そう考えると、『図形』の方が良いのではないか。例えば♡や✡型マークだったらαやβのようにカッコいいから良いと思うし、学生からの反響も良いだろう。

_____…あれ。私、なんでこんなくだらない事考えてんだろ。

何故かくだらない事を考えてしまう。
こんな時に、それが人間というものであろう。


「はぁ…。」

試験に流れていく黒鉛…この1日でどのくらい減ってしまうのだろう。粉が空気中に散りばめられ、何処かへ消えていく。折れたシャー芯も、風で何処かへ_____飛んでいく。

くだらない考えと共に、私は憂鬱な問題を解いていた。

Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.28 )
日時: 2020/05/21 17:10
名前: 真朱 (ID: sjVsaouH)

●1学年 4月編まとめ

私の小説をご覧になっている皆様、どうもありがとうございます←(>▽<)ノ
まだまだ物語は序の口ですが、初めの方はまだ物語が複雑(伏線も混じっているカモ)なので、一気にまとめてみました♪初見さんは、ネタバレになってしまうので、本編を読んでからの閲覧をオススメします!







✰✰✰✰✰✰✰✰✰✰✰✰✰✰✰✰✰✰✰✰✰✰✰


紅雨こうは櫻庭家の養子であり、実の両親は亡くなった。紅雨と同い年の紅新べにと紅雨、紅新の10歳年上の姉、紅(くれない)は櫻庭家の実の娘。

・本編にはまだ出て来ていないが、紅雨達の母、翡翠ひすいは霊媒師であり毎日忙しい。作中に出て来た朝ご飯などは、翡翠が作ったもの。

・長女の紅は、海外(多分ロサンゼルスとか?)に在住しており、自分の夢を追いかけている。
なので、櫻庭家の継承権は紅新にある。

・紅雨の友人陽和ひよりは、小学校から仲が良くバレーボールに5年間打ち込んでいる。今は同じ高校の同学年男子に絶賛恋愛中。陽和の意中の相手は、小学生の頃仲が良く転校してしまった子。しかし、高校は同じだったという運命の再会的シチュエーションが陽和を待っていた。

・紅雨のクラスは1年5組であり、陽和と同じクラスである。

・不良であり、女子生徒の新木ユカは、紅雨と同じクラスである。パンクなファッションを嗜み、目付きが怖い。しかし、1回も学校を遅刻した事が無く虐められていた男子中学生を助けた事がある。おまけに成績も良く、根は優等生らしい。

・紅雨は小説サイトの赤城あかき由良ゆらと言う作家がお気に入りである。紅雨は親しみを込めて“先生”を付けて呼んでいる。

・小説サイトの作家、赤城由良はアマチュアだが実力は本物。サイト内のコンテストで何回も賞を取っている。…普通に小説家としてデビューすればいいのに。

・本編にはまだ出て来ていないが、櫻庭家には父が居ない。病気で亡くなったらしく、翡翠と同じように霊媒師であった。

・紅新は、方言っぽいのを話す。これは大阪に住んでいるイトコの穂那瑠ほたるに教えてもらったらしい。紅新は意外と流されやすい性格。

・紅雨は紅新について心配をしていた。陽和からのアドバイスによると、紅新は思春期真っ只中らしい。

・紅雨が通う稔川みのりかわ高校は、稔川の近くにある。晴れた日に稔川の流れが緩やかなら良い事が起きるとか。子連れに人気のスポットでもある。制服はブレザー。ネクタイである。校則がちょっと緩い。偏差値は60ぐらい。

・紅新が通う向島むこうじま高校は、制服がセーラー服である。男子は学ランらしい。偏差値は60ぐらい。