コメディ・ライト小説(新)
- Re: ___今、染まってしまえば、本当に成れそうで。 ( No.7 )
- 日時: 2020/05/07 13:43
- 名前: 真朱 (ID: okMbZHAS)
#6 「ドキドキしてるからさ」
「ちょっと早くないかな?」
玄関先から軽快に足を運ばせると、目の前には陽和が澄まし顔で立っていた。少しイラッとくるかもしれないが、彼女は憎めないものである。
まぁ、元々。入学式の日は8時前後に集合と言っていたので遅れているわけではないし、早すぎるわけでもない。
「ん…っと。なんかドキドキ感ってやつじゃない。ほら。気分が上がるというか。」
「まぁ、支度が終わってたから別にいいんだけど。」
しょうがなく愉快そうな陽和に付いて行く。
何も悩みが無いと言うのは、こういう事なのか_____?
春。
…言わなくても分かるか。辺りは桜一面であり、見惚れるものだった。本当に、白いキャンバスに絵の具が落ちてしまうような____美しさと儚さだった。
辺りを見回すと、やはり高校生たちで溢れかえっている。私はただ不安感を抱えながら、高校の事を想像していた。
話が少しズレるが、『稔川高校』について。
地元では有名な“稔川”流域のすぐ近くにある。
ここらへんでは毎年夏祭りが開かれ、日に日に伝統そのものに成りつつある。
流れは緩やかであり_____いや、緩やかすぎるからか、夏になると子連れの大人や小学生の溜り場へと変貌を遂げる。
「もう稔川見えてきたね。もうすぐじゃない?」
陽和が横手にあった稔川を指差す。
その風景はやはりいつも通り。幼い頃、夏祭りで綿飴を買った風景と変わっていなかった。
とにかく、この川。微風が心地良い。
悩みがある時にここへ訪れると、周りの風景が心を包み込んでくれるよう…。そして悩みらしき何かが飛んでいく。この後予定がないなら、ここで一日中過ごしていたい気がある。
「そう言えば、知ってる?稔川の話。」
「稔川の話…?聞いた覚えがないけど。」
地元民の私でさえ知らない。
“話”と言うのは、伝説や言い伝えなのかもしれない。幼い頃から稔川についての話はよく聞いてきた。稔川の周辺には霊が住み付かないとか____4月4日には女性の声が聞こえる_____どれもオカルト関係だが、それしか聞いたことがない。
「知らないの?…ほら、晴れてる日に川の流れが遅いと、良い事があるんだよ。」
彼女を耳にしながら、稔川に視線を向けると晴れ空の下で緩やかな水を流している稔川が見えた。