コメディ・ライト小説(新)

Re: バタフライ・エフェクト【改題しました】 ( No.2 )
日時: 2020/07/09 17:43
名前: 心 ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)

 エルとルークがへとへとになって帰ってきたのは、北方連合国ノースユニオンの西側、西州オッキデンスの片田舎。

 広大な野原を抜けた先の青い外壁の家の中で、二人が危惧した通り師匠に叱られていた。
 
「……で? お前たちは魔力感知に引っかかって暗殺も成功せず、ここにすごすご帰ってきた、と。……どっちだ、そんなことやらかしたのは?」

 暖炉の前のソファでヒリヒリするような冷たい空気を纏いながらそう尋ねた金髪の女性。彼女こそが二人が恐れてやまない〝師匠〟なのだろう。
 当のルークとエルはその前の椅子に容疑者の如く座らされ、先程から尋問されていた。
 かすかに息を呑みながらエルが口を開いたところに、ルークが言葉を被せた。

「俺です、師匠。……すいません。」
「ほう。エルではなくルーク、お前だったか。それにしても珍しいミスだが?」

 女性が氷のような青い目を細めてそう言うと、ルークは肩をびくりと震わせてから答えた。

「はい。……訓練が、足りてなかったと思います。」
「ルイーズ師匠せんせい! 私です、私なんです! 必ずリベンジするので……もっと、鍛えてくれませんか?」

 自身をかばって俯いたルークを見てられなくなったのだろう、エルが横から口を挟んだ。
 ルイーズと言うらしい師匠は目を細めたまま、ポツリと呟く。

「……エレン、ルーク。お前たちはどうやら暗殺者に向いていないようだ。」

 放たれたその一言に、ルークの目が見開かれる。ずっと彼女の元で鍛えられ、幾人も殺して、何度も仕事ころしを達成して。そんな中で、初めて言われたことだった。

 エルもまた動揺していた。エレン、と己のことを師匠が本名で呼ぶのは本当に大切な時だから。心をぐらぐらと揺らしながら、エルは師匠に尋ねた。

「向いていない、って……どういう、意味ですか?」
「そのままの意味だ。ルークはエルを庇った。無用なことだ、仲間はいつでも切り捨てられるようにしろ。……エル、お前は二度目があるとでも? 一度死んだらそれきりだ、巫山戯たことを抜かすな。」

 フッと冷たく笑ってそう言ったルイーズは、暖炉の上に置かれていた書類を手に取った。
 ぱらりと音を立てて折りたたまれた紙を開き、二人に差し出す。

国立魔法学校プラエスの編入申請書だ。ここに三年通ってそれでもまだ殺しがやりたかったら戻ってくるんだな。」

 ルイーズのその言葉に呆然としていたルークが、ハッとして呟いた。

「つまりそれって、俺たちは暗殺者をやめろって事ですか……?」
「そんな……私はもっと強くならなくちゃならないんですよ、そんな学校行ってる暇なんてない!」

「聞いてなかったのか、エル。二度目は無い。お前がしたことのせいでルークが死んでいても良かったのか? ルーク、お前は察しが良いな。そうだ、こんな仕事辞めてしまえ。学校行って平和に暮らすが良い。」

 シニカルに笑ったルイーズは、立ち上がって二枚分の編入申請書を唖然として固まっている二人に投げると言い放った。

「明日、それにサインして置いておけ。書いてなかったら……放り出すぞ、此処から。使えないヤツはいらないからな。」
「そん、な……」
「師匠……」

 バタン、とリビングの扉が閉まりルイーズは廊下に消える。
 
 辛辣なことを言った、と言う自覚はあった。特にエルは存在理由アイディンティのほとんどが暗殺者としての矜恃なのだ。それが否定されたのはきっと彼女にとって人格を否定されたに等しかっただろう。

 向いていないのは本当だ、と言い訳のように思う。
 まっとうに生きるのが、あいつらにはきっと向いてる。そんなことを思いながら廊下を抜けたルイーズは滑り込んだ自室のドアをパタリと閉めた。