コメディ・ライト小説(新)
- Re: バタフライ・エフェクト【改題しました】 ( No.4 )
- 日時: 2020/07/09 16:17
- 名前: 心 ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
ルークが向けてくる視線に気付いたエルが、紙から目を離して口を開く。
「何ですか、ルーク。私の顔に何かついてますか?」
それにかすかな笑みを零したルークが、静かに言葉を吐く。
「エルはさ、何でこんな仕事やってんの?」
落ちた言葉に、しばしリビングが静まり返った。パチリと暖炉の薪が爆ぜ、かたりと音を鳴らして崩れてゆく。
その問いに、エルは笑って答えた。
「私は、師匠に拾って貰った恩があるのです。……あのままだったら、私はきっと兵器、でしたから。」
兵器だった。その言葉の意味をルークが考える間もなく、エルは明るい声で口を開いた。
「ルーク、私も行くことにします。ペン、次貸して下さいね!」
唐突に明るくなったエルに、ルークが驚きを含んだ視線を向ける。
けれど、エルの顔を見たルークはふっと息をついた。
エルは自分と同じ顔をしていた。
けれど、エルの方が遥かに下手だった。何かの面を被ることに、慣れていない者のそれ。
ルークはそれを問いはしなかった。目を一瞬つぶり、仮面を切り替えるイメージで。目を開けたそこにいるのは、いつもの気弱な少年。
彼はテーブルの上を指差して言った。
「ほら、そこにもう一本あるよ……それ使いなよ。」
「あっ……本当だ、ありがとうございます、ルーク。」
ルークに指を差された場所にあったペンを取りつつ、エルは思う。
私はいつもこうだ。居場所が消えるのが怖い。それを隠して押し固めて、砕こうとするけど出来なくて。 結局固まったままのそれを、上から笑顔だか怒りだかを貼り付けて隠す。
だけど、と書かなくてはならない欄に目を通しながら心の中でエルは逆接する。
ルークはそれを見抜いてくる。なぜだかは分からないけれど、それに気づいているのだ。
もしかしたら。彼も、私と同じ、なのかも知れない。──そんな考えが、不意に浮かぶ。
ちらりと顔を上げたエルは、ルークに目をやった。
かりかりと紙の上をペンが滑る。『保護者氏名』の欄にルイーズの名前があったから、微妙に笑ってしまいそうになったことは秘密にしておこう、とルークは思った。
* * *
窓から差し込む強烈な日差しは、もう既に昼頃であることを告げている。
ルークとエルはかなり遅めの朝食───もう昼食と呼べるが───を食べていた。火が消された暖炉の前でルイーズはが昨日と同じように座っている。
昨夜のようなヒリヒリとした空気ではなく普通の女性の雰囲気を纏った彼女は、ルークとエルが書き上げた申請書を眺めていた。
「ああ、お前たち。後で制服を買いに行かなくてはな。」
静寂の中で唐突に、ルイーズが発した言葉に、ルークとエルは肩を跳ね上げた。
制服を買いに行かなくては、と言うルイーズの言葉に、ルークは疑問を持つ。
「……師匠、そう言う学校って普通は試験がありませんか? いきなり制服買って大丈夫なんですか?」
その問いにルイーズは少し意表を突かれたような顔をした。
「規定、よく読まなかったか? 教師の推薦状があれば、試験なしで入れるんだ。……ああ、試験が無いだけ、学期末の成績が良くないと退学らしいから気をつけろ。」
ルイーズの言葉に、今度はエルが首を傾げた。
「あの……教師の推薦、って?」
「行けば分かるさ。」
こくん、と頷いたエルは、立ち上がって食器を片付けると自室へ消えていった。