コメディ・ライト小説(新)
- Re: バタフライ・エフェクト ( No.5 )
- 日時: 2020/07/09 21:12
- 名前: 心 ◆sjk4CWI3ws (ID: cl9811yw)
────そして、二人が学校へ転入する日がやってきた。制服に着替え、赤い列車に乗って西州の中央にある国立魔法学校へ。ちなみに正式名称は「国立西州魔法高等学校」と言い、愛称として「国立魔法学校」と呼ばれている。
三学年制で留年する者もおり、中にはそのまま教師になってしまう者もいると言う。基本的に入るのは簡単だが、出るのは一つづつある他の州の───北州、南州、東州───魔法学校のどこよりも難しいとされていることで有名である。
古き良き白亜の校舎の中心に高く聳え立つ管理棟、生徒たちの実地訓練の場となる暗い深淵森。長き歴史を経て来たであろうそれらを前にして、正門前に立ったルークとエルは息を呑んだ。
「すごいですね……こんなに圧倒的とは思いませんでした。」
「そうだね。やっぱり、積み重ねてきた歴史の重さが違う。」
そう呟いて、ルークは一歩踏み出した。あわててエルはその後を追いかける。ルークとエルがある地面の一点に立ったとき、門の前に向かい合って立つ白亜の石像に黒い魔法陣が浮かび上がった。おそらくワルキューレであろう、乙女の形を取った石像はそれを合図としたかのように、ゆっくりと身体を軋ませ白の粉を散らしながら口を動かす。
『入門の───許可を──求めますか──?』
高く澄んだ石像とは思えぬ声。その言葉に、エルは首を傾げた。
「師匠もいませんし、許可って……?」
その時、門に魔法陣が走った。無数の鎖を縦横に張り巡らせたかのような黒の魔法陣。その鎖が、音を立てて砕け散る。
そして、地面と擦れ合いながら門が内側から開いた。教師が内側から解錠したのだ。それを受けて、左側の石像は、ゆっくりと歓迎するように剣を引き抜き掲げた。その動きに、石像が削れて白い破片や粉が舞い、ルークとエルの黒の制服の上に降り積もっていく。けほ、と僅かに咳き込んで、ルークは粉の奥を透かし見る。
「ワルキューレ、ありがとう。この子たちはわたしの……いいえ、ここの生徒よ。」
『了解───』
再び高く澄み切った声音でそう言ったワルキューレたちは、元の石像へ戻ってそのまま動かなくなる。未だ粉が舞い続けており、鬱陶しげに手をパタパタしていた教師は唐突に魔法陣を展開した。その気配に、ルークが反応して腰のレイピアへ手を伸ばす。そのとき、魔法陣を維持したまま教師は二人に告げた。
「ごめんね、これしばらく動いてなくって。粉酷いから、吹き飛ばすよ? ほら、こっち!」
手招きされ、エルはちらりとルークを伺った。わずかに張り詰めた気配を漂わせていた彼は、フッと視線をエルへ絡ませる。微笑んで、ルークは一歩踏み出した。それの後について、エルも走り出す。
「ぴったりくっついとかないと、吹っ飛ぶよ?」
そう言って、女教師は魔法陣へ最後の一押しを加えた。その場に厳密に領域指定され放たれた風の魔法は、一気に漂う粉を吹き飛ばす。同じ属性であれど威力が段違いなその魔法に、ルークはかすかに息を呑む。
ようやく晴れた視界の中で、女は微笑んで名乗った。
「こんにちは、編入生くんたち。わたしはシャルロット・イーストン。ここで魔法論理学をやらせて貰ってる、教師ってやつ。担任は一年の一組寮。きみたちも多分ここだから、よろしくね?」