コメディ・ライト小説(新)
- Re: 蟲のさざめき ( No.1 )
- 日時: 2020/07/09 22:29
- 名前: 透舟癒寒 (ID: XLYzVf2W)
episode1 毒をさす
遡ること、3年前。平成30年。
日本のどこかの広い広い花畑。
桃色が辺り一面に広がっている、田舎の町外れの花畑。
ここには住んでいる僕でもわからないほど無数の蝶が
そこにはよく、時代にあわないような格好で少年がやって来る。その服装は昭和を思わせるようなオーソドックスな格好。
「あ!」
少年は声をあげてこっちにやってくる。
「いたいたぁ、ちょっと待ってねー…」
少年は自分1人だけなのに、独り言とは思えないくらいに言葉を発する。まるで、僕たち『蝶に話しかけている』ように…。
「いっぱい食べるんだよー。じゃあね!」
そういって少年はバッグから取り出した何かをおいてさっさと行ってしまう。
見てみると、いつも食べ物やビー玉などが必ず置かれている。きっと少年は僕たち蝶におすそ分けをしているのだろう。この日は、小さなネジがいくつかと、コーンフレーク小鉢1つ分が置いてあった。きっと少年は、僕たち蝶におすそ分けをしているのだろう。
でも、残念ながらぼくたちは人間の食べるようなものは勿論のこと、食べられない。
しかし、翌朝になると、食べ物は必ず無くなり、遊び道具も無くなったりあるいは少し汚れて、もとに戻っている。
僕たちはいつもそれが不思議でたまらなかった。
少年はそれがよっぽど嬉しかったのだろう。
6月末の湿気たあの朝依頼、ほとんど毎日、おすそ分けを置きに来る。そして、毎回無くなる。
「苺、気に入ってくれた?おじいちゃんのところの苺なんだよ。」
しかし、ある8月が始まったばかりの朝。事件は起きた。
その日の前夜から大雨が降っており、町を襲っていた。
でもこんなことになるとは思わなかった。
朝になると川は氾濫し、大洪水。大人の膝上くらいまで町中が浸水し、流木や屋根瓦が散乱していた。
もちろん花畑も無傷なわけない。
桃色に咲き誇っていた花々は、あとかたもなく無くなり、いまはただ、茎がところどころに横たわった、なんとも無残な姿だった。
僕たちはあ然となるしか無かった。
目の前の光景を信じられる蝶は、誰一匹いなかった。
しかし我に返った。こうしちゃいられない。
僕らもこうなってしまうかもしれない。
僕らは必死に逃げた。雨を避けるべく、なるべく屋根などの下を通っていった。そして、町をでた。
飛んでも、飛んでも、大雨。
僕ら蝶数十匹はなるべくかたまって、雨のなかをただひたすらに突き進んだ。
その時だった。目の前をいきなり何かが覆いかぶさった。
網だ。巨大な網。僕らは一網打尽となり、捕まってしまった。
「コイツらだな、ルリアゲハどもとは。」
なんとも悪そうな男3人組の車に乗せられる。
車は何分か走ったところで止まり、あるアパートの中に僕らを連れて行く男たちの顔には、笑みがこぼれていた。
自然という自然を愛する、みんなが優しいあの町の人の笑顔とは確実に違う、悪い笑みだった。
僕たちはそうしてアパートの一室に連れ込まれる。
その時。
「っしょっとぉ。」
何気ない顔で一人の男が僕たちの中の一匹に注射を刺した。その蝶はまもなく動くこともなく落ちていった。息を引き取ったようだ。
「毒、効くみたいです。」
「オッケー、オッケー。んじゃ、どんどん刺してっちゃって。」
そうして、男は僕たちにどんどん針を刺していく。必死に逃げたが、小さなケージの中だ、逃れられなかった。
そうして、気づけば残り6匹になっていた。
最初は数十匹はいたはず。なかには僕をかばって犠牲になってしまった蝶もいた。
コイツらは一体何を企んでるんだ…?
そう考えていると、男は注射を奥に置き、今度は小瓶を取り出した。
「さよならぁ〜」
男は小瓶の蓋を開けた。男たちはそうして僕たちを放って、部屋を出ていってしまった。
小瓶から、強烈な匂いが出ている。そしてその匂いは部屋中に充満した。
ヤバい…意識が……
その匂いを嗅ぐと、意識が朦朧とした。
そこからは…覚えていない。