コメディ・ライト小説(新)

Re: 蟲のさざめき ( No.4 )
日時: 2020/07/11 18:25
名前: 魁 天癒 (ID: XLYzVf2W)

episode3 記憶の全部全部

「お母さんだよ!ねえ、覚えてる?」
この人が僕のお母さんなわけない…
僕は蝶なんだもん。何かの間違い。きっとこれは、いわゆる夢だ。
というか…僕のお母さんなんて……

僕はあるルリアゲハの子として、花畑に産まれた。
蝶は一箇所に数十個卵を産むのではなく、あちこち飛び回って卵を産むため、子供同士が出くわすことはほぼない。
しかし僕は例外だ。三つ子だった。
僕はその中の三男。
双子でもかなり、というかいないかもしれないのに…
産まれたときから3匹で餌を分け合ったりしていた。

やがて僕たちは成長していき、蛹になれるくらいに成長した。しかし、ここで事件が起きる。
兄1匹が餌を探したっきり、帰ってこない。
もう1匹の兄と探していると、地面の上でぐったりと倒れた兄がいた。もう、手遅れだった。
どうして…?
兄と悲しんでいた。もう何も考えられなかった。
翌日。
もう1匹の兄と一緒に餌を探していた。
すると、隣で飛んでいた兄が凄い勢いで地面に落ちた。
また…死んでいた。
恐怖という言葉では表せられない。
ふと上をみると、そこには実の母がこちらを見ていた。
母の羽は、ルリアゲハの瑠璃色ではなく、紫色に染まった毒々しい色だった。
…そうだ。
こいつが兄を毒で……
………! このままだと、僕まで!
一目散に逃げた。
しかし、速すぎる。マズい…

「つっかまーえた!」
前にすすめない…?
僕は網に捕われた。母親は逃げていった。
その少年は僕を虫取りカゴに入れたあと、ダッシュで駆けていき、あるところで止まった。
それが桃色の花畑だった。
その花畑で僕はカゴから出された。
「大丈夫?これからは仲間と一緒だよ。」

………。
「陽璃?大丈夫??なんで泣いてるの…」
その女性は僕を抱きしめた。
これが兄達を殺した母親?
…! そうだ。人間って喋れるんだっけ。
「あ…ふぇ……やー、うー…」
「ん?」
駄目だ。筋肉の使い方が分からない。
これは無理だ。
というか…この人がいっている『ようり』って何なんだ?
聞くにも、伝わらないし…
変なもどかしさがある。蝶の時と喋れないのは同じなのに。
「‼ 弓削さん⁉お子さん、お目覚めになられたんですか⁉」
「そうなんです…!」
「っ!すぐに医者を呼びます!!」
今の女の人は?
「今のはね、看護師さんだよ。か、ん、ご、し。」
え?
「分からない?病院で、お医者さんのお手伝いをしてる人。」
このひと…僕の考えたことを…?偶然かな?
「偶然じゃないよ。分かるの。考えてることが。フフッ。
あと、このひと、じゃないよ、お母さん。」
「おか…た?」
「いいよ、無理に喋らなくて。しゃべる練習はまたお母さんとしよう。お母さんが陽璃の考えたことに答えるから。」
本当によめる…んだ…
じゃあ…『ようりって、何?』
「陽璃?これはね、あなたのお名前。あなたは、ゆ、ず、り、よ、う、り。」
そうやってお母さんは僕の名前をゆっくり言ってくれた。
僕は…陽璃……

「弓削さん!医者が参りました!」
「ほぉ!これはまぁ…」
いしゃ、という名の、おじさんがやってきた。
そして僕を触ったりする。
「べー、ってして。」
『…べー?』
「陽璃!こう!」
そうして、お母さんは舌を出した。
真似をしたら、いいのかな?
同じことをしたら、いしゃは検査を再開した。
あってたみたい。

数時間後
「これはー、記憶を失っているのかもしれませんね。
レントゲンの結果などから、とくに内部の傷害などはないと思われますが、一旦病院で様子見しましょう。」
「分かりました。ありがとうございます。」

いしゃがいる部屋からでると、お母さんは微笑みながらこう言った。
「お母さんは知ってるよ。陽璃が蝶だったこと。」