コメディ・ライト小説(新)
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.1 )
- 日時: 2020/07/17 15:39
- 名前: 夢兎 (ID: 9Yth0wr6)
- 参照: www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「今は昔。竹取のおきなと言ふものありけり……」
子供は大人が思っているほど楽じゃない。
そして、こう言っている僕が受験生なのだから、説得力はあると思う。
後ろから、小学生の楽しそうな声を聞く。
対照的に、こっちの気分はずんと重くなる。
「古典、やっぱ分かんないや……」
僕の名前は、百木周。
どこを取ってもあだ名が女の子風に聞こえるから、自分ではあんまり好きじゃない。
そう思いながら、横断歩道の前で信号が変わるのをボウっと待つ。
頭の中ではひたすら、勉強のことばかり考えてしまう。
別にがり勉とか、そういうのではない。
やらなきゃいけないことが多すぎて、ちょっとウェットになっただけだ。
とか言っている間に信号は青。僕は教科書を小脇に抱えて、小走りで道路を横断する。
右見て左見てなんかしてる場合じゃない。
このあと、塾にも行かなきゃいけないし、弟に炙り昆布買って来てと言われている。昭和か。
――肝心な時に限って、注意力がないバカな人間は。
「あぶな―――い!!」
突然大声が響いて、慌てて後ろを振り返る。
若い二十台前半くらいの大学生が、「逃げて!」と切迫した表情を向けてくる。
「え?」
と首を傾げた瞬間。
横から猛スピードを立て、止まれなくなった一台のトラックが、不用心にも前にいた僕の体を轢いた。
――痛い暑い熱い寒い熱い暗い死ぬ死にたい死にたくない死。
ドクドクと流れる血と、だんだん遠くなる意識の中。
誰かの足音。誰かの悲鳴。
誰かの、くちびるとくちびるとくちびるとくちびるとくちびると――。
不意に、自分の唇に甘い感触を感じ、僕は反射的に起き上がる。
「ッ!!?」
「ちょっとからかっただけやのに、何て嬉しい反応!」
閉じ始めた視界の中で、僕は確かに見た。
このシリアスな状況に似つかわしくない、ニコニコと笑みを浮かべる少女の姿を。
この物語はどうしようもなく、僕と彼女が出会った時から始まる。