コメディ・ライト小説(新)
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.1 )
- 日時: 2020/07/17 15:39
- 名前: 夢兎 (ID: 9Yth0wr6)
- 参照: www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「今は昔。竹取のおきなと言ふものありけり……」
子供は大人が思っているほど楽じゃない。
そして、こう言っている僕が受験生なのだから、説得力はあると思う。
後ろから、小学生の楽しそうな声を聞く。
対照的に、こっちの気分はずんと重くなる。
「古典、やっぱ分かんないや……」
僕の名前は、百木周。
どこを取ってもあだ名が女の子風に聞こえるから、自分ではあんまり好きじゃない。
そう思いながら、横断歩道の前で信号が変わるのをボウっと待つ。
頭の中ではひたすら、勉強のことばかり考えてしまう。
別にがり勉とか、そういうのではない。
やらなきゃいけないことが多すぎて、ちょっとウェットになっただけだ。
とか言っている間に信号は青。僕は教科書を小脇に抱えて、小走りで道路を横断する。
右見て左見てなんかしてる場合じゃない。
このあと、塾にも行かなきゃいけないし、弟に炙り昆布買って来てと言われている。昭和か。
――肝心な時に限って、注意力がないバカな人間は。
「あぶな―――い!!」
突然大声が響いて、慌てて後ろを振り返る。
若い二十台前半くらいの大学生が、「逃げて!」と切迫した表情を向けてくる。
「え?」
と首を傾げた瞬間。
横から猛スピードを立て、止まれなくなった一台のトラックが、不用心にも前にいた僕の体を轢いた。
――痛い暑い熱い寒い熱い暗い死ぬ死にたい死にたくない死。
ドクドクと流れる血と、だんだん遠くなる意識の中。
誰かの足音。誰かの悲鳴。
誰かの、くちびるとくちびるとくちびるとくちびるとくちびると――。
不意に、自分の唇に甘い感触を感じ、僕は反射的に起き上がる。
「ッ!!?」
「ちょっとからかっただけやのに、何て嬉しい反応!」
閉じ始めた視界の中で、僕は確かに見た。
このシリアスな状況に似つかわしくない、ニコニコと笑みを浮かべる少女の姿を。
この物語はどうしようもなく、僕と彼女が出会った時から始まる。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.2 )
- 日時: 2020/07/17 15:56
- 名前: 夢兎 (ID: 9Yth0wr6)
「あははははは! ごめんごめん。そんなに怒らんといてや」
「人生初キスの相手が、まさかの天使とは……」
ケラケラとお腹を抱え、笑い転げるのはセーラー服の女の子。
ボブヘアの髪と赤い丸メガネが、彼女の服装にとても合っている。
ただ一つ気になるのは、その頭に浮いている光輪と、背中に生えている二対の羽だ。
これで服も白いワンピースだったら、もう完全天使の正装。
だからか。
「え、何でセーラー服?」
「うちを見て驚かんどころか、女の子の服まで気にすんの? それ、誰得なん?」
「黙れ堕天使」
ウキャキャキャと口を大きく開けて、再び笑い転げる天使。
人に叱られて興奮するタイプだろうか。だとしたら僕の人生終わってる。
「別に、最近はこれが流行りなんよ。可愛いやろ?」
「それで君は何なの? マゾ?」
「えらいカンチやな。うちは、君を天界に案内する、ただのすがない天使や」
いやいや、『ただのすがない』じゃなくて『完全にS』の天使だろ。
……え。ってことは僕はやっぱり……。
「死んだで。少しは自分の命大切にしいや」
「少しはフォローしてくれへんの!!??」
あ、ヤバい。コイツの変な口調がうつってしまった。
そもそも、セーラー服で羽生えてて輪っかついてて関西弁話す変な奴に、『天界はこちらです』って案内される僕ってどうなんだ。
こんなことになるなら、もっと親孝行すればよかった。
今は弟、『炙り昆布、まだ?』って泣いているのかなあ。
「それで、僕は君に…えっと」
「うちの名前はクコや」
クコ? おかしな名前だな。
まあ、周も充分変だと思うけど。
「うち、九人姉妹なん。末っ子なんで、九子や」
……結構、安直すぎる名前だった。
じゃあ、君のお姉さん方の名前も、もしかしたら……。
「一子、二美、三子、四子、五子……」
「あ、もういいです」
(お母さぁぁぁぁん、もうちょっと名付け頑張ろ―――――――!!!)
天使、いやクコは、僕の顔をジッと見つめてくる。
何のつもりか分からないが、取りあえず何も言わないでいると…。
「君、ひょっとして今エ〇いこと考えてたやろ」
「黙れバカ」
こいつ、本当に僕を天界に送り届けるのが目的なんだろうか?
ひょっとして、ただ僕をからかうためだけに地上に降りて来たのだとしたら。
ピィンッ
「ちょ!? 何するん!?」
猛烈にむかっ腹が立った僕は、クコのおでこにデコピンを食らわせてやった。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.3 )
- 日時: 2020/07/18 08:15
- 名前: 夢兎 (ID: 9Yth0wr6)
「そういや、君の名前は何なん? 教えてくれへんと困るわ」
クコは、肩にかけていた通学カバン(のようなもの)の中からタブレットのようなものを取り出して何やら操作する。
そして彼女が突きつけて来たのは、氏名や死因などを書く欄が並んだ画面だ。
一番上の『管理局からのお知らせ』欄には、ここに記入した個人情報は固く守られますとある。何か地味に人情味がある。
「ここに書けばいいの?」
「せや。あ、ちなみに地上におれるのはたった十分しかないから」
たった十分!?
その時間を過ぎるとどうなるんだ?
ま、まさか自分の存在が消滅するとか?
そ、それとも空から隕石が落ちてくるとか?
どんなところかも分からない、ましてや存在を認識されていない天界の住人の言葉だ。
きっと予想をはるかに超えるような、超自然的な何かが……。
「いや、どうもならへん」
「(ガクッ)あ、そ、そう……」
自分が思ったより平和な内容に、氏名をタッチペンで書いていた僕は大きくずっこける。
タブレットを受け取って、記入欄をチェックしながら彼女は
「でも、生活は不便になるわな」
と付け足した。
「どういうこと?」
「君、百木くんか。百木くんは誰にも見えんし触ってもらえん声もかけてもらえん、永遠にボッチや。ざまあ」
ん? 今、一瞬イラッとする単語が聞こえたような気がしたが。
怪訝な顔に敵意を籠めて天使を見ると、彼女は視線をそらし口笛を吹き始める。
「それに今は天界で『白札』『黒札』っちゅーもんが売れとる。万が一、悪霊に絡まれてみぃ。その分、天界は安心っちゅう訳や」
「白札って言うのは? ってか、何で天界なのに悪霊がいるの?」
「は? あんた、そんなことも知らんの」
知るわけないだろ。お前と会ったの、つい十分前だぞ。
ん? ちょ、ちょっと待って。
この天使と会ったのが、十分前?
と言うことはつまり……。
僕が内心冷や汗ダラダラな状態に気付いたのか、クコは怖すぎるほどニコォ―――――っと笑みを浮かべ、
「さ、さ。うちはもうお役御免何で帰ろっと」
「アホォオォオォオォオォオォオオオ!!!!!」
パトカーがサイレン音をけたたましく鳴り響かせながら、僕のすぐ横を通り過ぎて行った。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.4 )
- 日時: 2020/09/16 07:08
- 名前: 夢兎 (ID: 9Yth0wr6)
「ぷはぁ~。くぅぅぅ~!!」
ベンチに腰をかけながら、彼女が飲んでいるのは何と缶ビール。
天使はお酒をたしなむらしい。
こいつの場合、たしなむといった丁寧な言葉は当てはまらないが。
「お酒大好き近所の父ちゃんかよ」
「それを言うならおばさんやで。うち、飛鳥時代生まれやさかい、昭和も平成も令和も越えてるスーパーピーポーやから」
「ふぅん……ってはああああ!? あ、アスカジダイデスッテ!?」
飛鳥時代ってことは今からひいふうみい。
えっと、今から600年も前?
ってことはお前、スーパーピーポーじゃなくてアラフォーエンジェルだろ。
意味的には。
っていうか、中身は子供・頭脳はばあちゃんって。笑えない。
名探偵にでもなるつもりか。
その場合活躍しないのは目に見えて分かる。
きっと、あの蝶リボンから発射される睡眠針でチクッとされて、「眠りのクコ郎」とか言われるんだろう。
「あのさぁ、クコ。君にはもう何て言うか……呆れしかないよ」
「うちかて、やりたくてああなったわけやないもん」
ぷうっと頬を膨らませ、そっぽを向くクコ。
幽霊は人の目に見えない触れない、声もかけてもらえない。天界の方が地上の何倍も安心安全……か。
自分でそう言ったのに、あっさりと仕事をミスったものだからダメージも大きいだろう。
「ごめん……。さっきの言葉、忘れてくれ」
「百木くんおおきにな。うち、いつも人に迷惑ばかりかけてしもて」
意外と殊勝な彼女の言葉に、僕は目を丸くする。
ベンチに腰かけて缶ビールを飲み干すクコは、泣いているようにも見えた。
「って、過ぎたこと気にしてもあかんし、未来に目を向けてみよさ」
「う、うん。クコは、僕みたいに地上で暮らす幽霊は見たことあるの?」
「姉ちゃんからは、三人くらいやな。話には聞いとるで」
クコの話によると、一くくりに天使と言っても色んな仕事があるようだ。
彼女のように死者を天に送り届ける「案内人」、人を守り助ける「守護天使」、人の恋の悩みに寄りそう「キューピット」など。
「そういう子ぉたちは、『札狩』でええ成績取って、人間とうちら怪異の関係を……」
「ちょ、ちょっと待って。天使って怪異のジャンルに入るの?」
「天国の反対は地獄。せやからジャンルに入ってもおかしゅうないやろ」
そ、そんなものなんだろうか。
オカルトに対して詳しくない僕は、引っ掛かりを感じながらも彼女に話の続きを促す。
「そんで、札狩って言うんは要するに悪霊退治や。今、天界ではおかしなグッズが販売されとる。その一つが、白札と黒札。使い方は簡単、その札を人や物に貼るだけで、霊をいとも簡単に呼び出せるん。これは元々、死神が狩る霊がぎょーさんおるから、労働力減少のために作られたそうやけど……」
「大体話は分かったよ。白札と黒札で呼び出せる霊が違うんだろ。例えば、黒札は悪霊とか。だから札狩って言うんだね」
「……百木くん、さっきから何なん、その無駄な要領の良さは」
「無駄だけ余計だよ。いや、何か話の文脈から、そうかなって思っただけで」
「それにしても凄いわ! こんなに頭ええなら何で初めから言わへんの?」
彼女の興奮の熱は上がりに上がっている。
思わぬ自分への尊敬。横に座るセーラー服の天使は、頬に手を当てたりその場で足踏みしたりと、妙に落ち着かない。
「やっとこれで姉ちゃんに認められるわ。何やねんみんな、うちのことアホとかバカとか言うて。百木くん、姉ちゃんに今度絶対紹介したるから!」
声を上ずらせ、クコが僕の両手を取る。
そして、眼鏡の奥の瞳を優しく細め、
「今に見とき! うちは絶対出世したるで――――!」
と天に高々とこぶしを突き上げたのだった。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.5 )
- 日時: 2020/07/22 17:00
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
ごめんなさあああい!
何か削除するとか言ってて悪いんですけど、やっぱ書くことにしました!
それに基づき、八雲ちゃんの方を削除します。
あ、あとちょっと作者の罪悪感から、W主人公の名前を悠から八雲に変えましたw
それでは続きです。お待たせしました。
********************
時間と言うのは毎日すごいスピードで流れている。
歩道を歩きながら、僕は西の空の美しい夕焼けに心を奪われる。
鳥が家へ帰っていくのを確認し、自分はどこにも行く当てがないことに肩を落とした。
「どないしたん百木くん」
「別にどうもしないよ」
と言って、僕はある建物の前で足を止めた。
数年前に建てられたばかりの木製の二階建てアパートで、ベランダで洗濯物が風に揺れている。
きっと今頃みんなは、テーブルを囲んで夕食でも食べているのかな。
それとも、少しは死んでしまった息子のことを思ってくれているのだろうか。
「どないしたん百木くん」
二回目、クコが尋ねて来たので、僕は答える。
「うち、ここだから」
「……誰だって、いずれ一人になる。寂しい時は言うたってくれてええよ。君の担当になってしもた以上、見捨てるっちゅう様なことは出来ひん。話し相手にもなったるし、膝や胸に飛び込んでくれてもいいんよ?」
……おい、お前サラッと変な文章を挟むのやめろよ。
呆れと怒りで開いた口が塞がらない僕に、クコはニヒヒッと意地悪な笑みを浮かべ、
「えっち」
「黙れアホ天使」
ウキャキャキャと目の端に涙を浮かべる天使と付き合うのは結構疲れる。
だからと言って一人では何もできないところが、人生の難しさだ。
そんなことを考えていると、横断歩道の向こうから女の子が一人、こちらへ歩いてくるのが見えた。
大人っぽい濃紺のブレザーに、やたらと丈の短いスカート。
確かあの制服は、駅前の牡丹ヶ丘中学の。
「百木くん、折り入って頼みたいことがあるねんけど」
「何?」
「あの子のほっぺに、何か白いものが貼りついてるように見えるんやけど」
言われて、注意深く女の子を観察すると、確かに左の頬に白い正方形の札が貼られてある。
これまでのクコの説明と情報を照らし合わせれば、あれの正体は。
「ということで、【ボッチざまあみやがれ】の百木くん!」
「何がボッチざまあみやがれだ」
「あ、やっぱり、【足が短い百木くん】の方がええやろか」
「どうにもならない部分だよ!!」
「ハイハイ。早速出番やで。コッソリ後から忍び寄って白札回収。そしたらあの子と仲良くなれるかもしれんし、収入も入るで! 夏のWサービスや!」
何だよ夏のWサービスって。
服屋のセールみたいに言うなよ。
ん? 収入? 収入が入るのか?
「白札は一つにつき三万、黒札は十万やったかな。回収して、担当の天使に渡すと、天界から毎月労働に見合った分だけお金が……」
「ホワイト会社マジ感謝ですわ!!!」
こうして僕の初めての札狩がスタートすることになったのだが、僕はまだこの先待ち受ける事件を知らない。
お金の話題でテンションが上がる子供である僕は、早速女の子の背後に忍び寄り、ちょっと失礼して白札をはがそうと――。
そう思い、彼女の頬に手を伸ばそうとした直後、
バァァァァァァァァァァン!!
という大音量と共に、僕の体は宙に舞った。
そして、数メートル先のガードレールに無様にぶつかる。
「百木くーん!」
珍しくクコが自分の身を案じてくれている。
何か、むなしさが二重に増してくるのが悲しい。
そんな僕を横目でチラッと見やると、女の子は腕を組み、言った。
「汚ねー手でアルジ様に触んじゃねーよ、人間。ケッ」
……………は??
ちょ、これ、どういうこと―――――――!?
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.6 )
- 日時: 2020/07/22 17:04
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
女の子は結構可愛かった。
茶色の髪は肩までの長さで、くせ毛なのか先端が内側にカールしている。
しかしながら、『カワイイ』と言う表現はどうやら違ったようだ。
「ナイストゥミーチューってことで初めましてッ」
「は?」
「アルジ様がいくら可愛いからといって舐めんなよ人間」
「は?」
「ってかお前『は?』ばっかり言ってんじゃねーよワオ!」
なんだこいつ。うるさいわ馬鹿。うるさいを通り越して胡散臭いわ。
最近の中学生女子ってこういうキャラが受けるのだろうか。
分からん。最近の女子のトレンドが全く分からん。
「………あんた、さては紗明やろ。なんでこんな女の子に憑依しとんねん」
「……ああん? お前まさかクコか? ハッ、奇遇だな運命!」
僕を挟んで、クコと紗明と言われた女の子(?)が会話を始める。
だがその内容は、僕には丸っきり分かんなかった。
憑依? なんのこっちゃ。
あなた頭おかしいんですか?
という意味のクコなりのジョークなんだろうか。上手いこと言うな。
「運命? そんなもんいらん。うちはあんたの顔も見とうないんやで」
「ハッ。マジかよ嫌われちゃってる。アイムサッドで俺悲しい」
「………ほんまに口が減らんようやな」
「口? 口へったらモノ食べれんじゃんうーわアイムハングリー」
もう我慢できない。
そう思った僕は、紗明に憎まれ口をたたきまくるクコの腕を引っ張って距離を取らせると、彼女に耳打ちをする。
「何なの、お前アイツの知り合いなの?」
「………別に、ただ天界では一緒に釜の飯を食べた仲や」
「お前何時代の人間だよっ!? あ、飛鳥時代か」
「だから知り合いと言うのとはちゃう」
「それを知り合いって言うんだよこっちでは!!」
あー、頭いたい。
「紗明の本性は死神。今は宿主に憑依中。こう見るともうロリコンの極みや」
「はぁ……」
「なあ百木くん、あんな変人とは付き合わん方がいいで!」
そう言いきり、クコは振り返って紗明(死神?)をキッと睨む。
そして、右手を握りこぶしにすると、そのまま拳を彼女(彼?)の腹に向け――。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょと待ったぁぁぁぁぁ!」
「あんたは一遍死んどき――――――――!!」
僕の制止を振り切って、クコは突進する。
その拳が紗明の腹にめり込む。
彼は「グェッ アイムバットEND」と変なセリフを口走って、空中で一回転。
大の字になって伸びてしまった。
「ほら、姿見せてみい!」
クコは阿修羅の顔で、紗明の前に仁王立ちをした。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.7 )
- 日時: 2020/09/25 15:19
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
お久しぶりです。竜宮城から戻ってまいりました、むうです。
多分この話を全部覚えてる人は少ないと思います。
約2カ月ぶりの更新ですが、二次創作の方もこちらもよろしくお願いします。
「いや、放置したんじゃないんかいな!」「気分で乗り切るタイプなんです」
****************************
クコのパンチが見事、クリーンヒットし、紗明と言われていた女の子は道路上で仰向けになっている。
僕が出来ることと言えば、自動車の通行の邪魔にならないようにキョロキョロと右左右左。
そして、車が通らないタイミングでずりずりずりーっと女の子を歩道に移動させる。
幸い、この道路は空き地に面していたので、空き地の芝生に寝かせておく。
パリピ女子、紗明は一体何だったんだろう。
最近の流行りとしては、何と言うか物凄く痛いのだけど。
「痛いんだよクコ………お前もうちょっと手加減しろよなぁ、アイムベリーアングリー」
と、女の子の背後に黒い靄が浮かび上がる。
それは徐々に人の形に変化し、数分後にははっきりと実像をとらえた。
「…………………………………痛い」
それが、彼に対する第一印象だった。
今時の、寝癖でぴょんぴょん跳ねた髪は金髪。羽織っているジャケットにはドクロマーク。
身に着けているベルトやら腕時計やらは、やたらゴテゴテとしていて、多分絶対お高い。
うちのママが「あんなオモチャごときに10万円っ? フッwww」と鼻で笑ってたやつだ。
………えーっと、あなたは?
っていうかあの、紗明っていう名前の女の子はなんなの?
尋ねると、金髪のウザい少年はキョトンと首を傾げた。
「は? 紗明は俺だぜ?」
「………は?」
「その通りや百木くん。コイツの名前は紗明。ウチの悪友の死神や」
は??
この人、死神なの??
その髪で? その服装で? その性格で?
死神の鎌とか、そういうのないから分かんなかった。
「あー、最近は死神業界もけっこうグローバル化していってっから、鎌のかわりはこれでやってる」
「スマートフォンじゃんッッッ!!!」
紗明が見せつけて来たのは、服装と同じくゴテゴテとした装飾のカバーがついた、アッ〇ルの携帯。
ホームボタンを押して、待ち受け画面を堂々と見せびらかしてくる彼。
画像は、真っ白な画面に「アイスっておいしいですよね。」と書かれてあるだけのもの。
この人のメッセージ性がいまいちよくわかんない。
「これでゲームとかもやってんだ。この服装は、デーモンコロシアムの『カルマ』をイメージしたんだ」
「デーモンコロシアム知ってんだ? 僕もそれ大好き! カルマかっこいいよね」
カルマって言うのは、デーモンコロシアムというゲームの主人公だ。
スラッとした細身の体なのに、敵の攻撃を簡単そうに裁き、相手の脳天に剣を振りおろす。
そして、『勝負は……ここからだぜッッッ』というセリフが超絶かっこいいんだよね。
「お、お前分かる? そういやお前レベル何?」
「えーっと、45」
「低すぎだろ。俺200。まーでもやってんなら嬉しいわ。またあとで友達申請しとくな―」
「え、いいの? ありがとう」
ワイワイキャッキャと盛り上がる僕たちの横で、クコが般若のような顔をしていた。
はっと我に返り彼女を見ると、クコは「あはははは」と愛想笑いを返す。
そしてそのあと、ずいっと距離を詰めてきて、彼女はムッとして叫んだ。
「何やってんの!? そんなにゲームがしたいんなら行ってらっしゃい!」
「いや、違う違う違う違うっ」
「紗明もどんだけ地上の生活にハマってんねん。これは遊びとちゃうねんで!」
どうやら、紗明は死神だと言うことも忘れそうになるほど人間界での生活が日常化してしまったらしい。
その髪型や服装も、多分新宿などの都会を練り歩いた結果だろう。
うん、変な人しかいない(⌒∇⌒)
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.8 )
- 日時: 2020/09/16 07:11
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
「あのう、ちょっといいですか?」
僕と紗明が、最近人気の弾幕ゲーム・デーモンコロシアムの話に夢中になっていたとき。
不意に後ろから声をかけられ、思わず「ひゃふうっ!?」と悲鳴を上げた。
後ろにいたのは、つい先ほどまでウザいオーラをプンプン漂わせていた女の子だ。
学校指定のブレザーにチェックのスカートの制服が、セミロングの髪型にとても合っている。
そして、ほっぺたには白い札。
女の子はさっきまでとは打って変わり、おどおどと口を開いた。
「は、はい、なんでしょう」
「………え、えっと、あの、私、なにがどうなったのかよく分からんけん教えてほしいなって……」
えーっとですね。
僕もよく分からないんですけど、全てはそこの死神の仕業らしいですよ。
なんでも憑依? をしていたらしく。自分で言ってて全然分かんなくてごめんね。
そう伝えると、女の子はぷうっと顔を膨らませて、横でブレイクダンスを踊っている彼をギロリ。
どうやらこの子、バリバリの霊感持ちらしい。
今の今まで自分が幽霊だと言うことを忘れていた僕は、その事実にハッとする。
「紗明、また私に乗り移ったの? やめてって言ってるのに聞かんね……」
「ハイッ、だってアルジ様はとってもチャーミングで可愛っすから!!」
紗明がコンマ何秒レベルで返事をする。一瞬だが、チラリと犬の耳と尻尾が見えた。
僕の横でクコがげんなりとため息をつく。
パリピの上にロリコンまであるのか。まぁこの子が可愛いってことには同感だけど。
「ちゃ、チャーミングって……嬉しいけど、もう乗り移らないで…」
「あのう、キミこの死神と面識あるの?」
「うん、なんか庭で倒れてて……『お腹すいたァ』っていうから、ごはんあげたのが出会い」
「餌付けすんなよ死神に!!」
キミのそのやさしさには本当に頭が下がるんだけど、呼び寄せたものは大きいよ。
逃がした魚は大きいじゃなくて、「なついた死神はウザい」に実際なってるんだし。
あのう、キミが嫌じゃなければ、こいつしっかり世話してくれないかな。
「うん……分かった。私、栗坂八雲。君は?」
「僕はモモ……チッッッッ」
名乗ろうとした直後、クコが「あ、髪にゴミついとる」と言って、僕の髪を思いっきり引っ張る。
いででででででででででで!! はげるはげるはげるはげるはげるッ!!!
「えーーっと。おモチくん……だね。よろしくねッ」
「いや違います百木です」
僕はとっさに答えたが、栗坂さんはずっと「おモチには醤油派」と言って聞かなかった。
というわけで、おモチにはマーガリン派の僕は、ただ黙るしかなかったのだった。
マーガリンっておいしいんだよ? 今度絶対やってみて。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.9 )
- 日時: 2020/09/15 16:48
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
「ふうん。それは……おモチくんも、災難だったね……」
どういう経歴で僕が幽霊となってしまったのか、そして何で変な天使と一緒にいるのか説明。
栗坂さんは、同情するように何度も僕の目を見つめ返してきた。
ふとした機会に知り合った、駅前の牡丹ヶ丘中学に通う中1女子の栗坂さん。
彼女は、札狩と呼ばれる悪用退治を仕事とする死神・紗明と知り合ったことで、彼と一緒の札狩に協力し、収入を得ているらしい。
「ちなみに、栗坂さん」
「八雲でいいよ。だっておモチくん、生前中3だったんだよね? 敬語つけんくてもよかよ」
ちなみにこの栗坂……じゃなくて…八雲…ちゃん……八雲さん……。
「八雲って呼んで!」
「ハッハイスミマセンッ!!」
コホン。八雲は何で札狩をやっているのか聞いてもいいかな。
一応僕も、クコからその、札狩って奴を勧められてるから、参考にしたいんだけど…。
やばい年下の、実際超キュートの子を呼び捨てにするとか……い、命が持たない……ッ!
さっきからずっと、顔に熱を感じて彼女の顔すら見えず、すっと下を見ている。
栗坂さんじゃかった、八雲の靴下は、ワンポイントがアディ〇スの黒いハイソックスだった。
「八雲はなんで札狩をやってるの? 紗明に協力してるって話だったけど、実際こいつと協力…」
「おいゴキブリ! なんで俺をそんな目で見る!」
「ハン、うざったらしいからに決まってるやろ。そんなことも分からんアンタは馬鹿や」
クコが腕組をし、勝ち誇ったように言う。やっぱり紗明との仲は余りよろしくないらしい。
そして紗明……今僕のことなんて言った?
ま、まさかとは思うけど君、僕という輝かしい存在をこの世の悪魔と同じにしたりしてないよね?
「ハンッ!? 俺ァさっきからずっとテメーのことは、こう言ってんぜ。ゴキちゃんってなァ」
「わざわざ『ちゃん』付けする必要があったらゴキブリ扱いするのやめようよ!?」
「だってテメー、さっきッからずぅぅーっと地味ィなオーラまとってんじゃねェかよ」
「うぐッ」
「それに、いつもは会話につるんでこねェ癖に、いざって言うときにだけウルセーッしよォ。
なんか急に邪魔してくるあたり、地上で有名のGと同類ッつーか」
………ずっと地味ィなオーラで悪かったな。
僕からするとキミたち死神や天使の個性が強すぎて、存在が薄くなってんだよ。
ほらほら、例えば顔面偏差値100のとこに40くらいの奴いてみ?
ぜったい場違いだと思うよね、多分それと同じなんだよ。
「なに言ってんの紗明。おモチくんは別にゴキブリでもなんでもない。そんなこと言ったらダメ」
「す、スイマセンッ!! はぁぁぁ……アルジ様怒った顔も超可愛っs」
「さぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁき………」
「ハイ、スミマセンッ。アルジ様は笑った方が絶対可愛っスよってあだだだだだだだだ!??」
八雲は広島出身らしく、ときどき方言が入る口調が特徴的だ。
あ、札狩を始めた理由は、「ぬいぐるみを妹にプレゼントするため」らしい。
なんていい子!
眉間にしわを寄せてムッと叫ぶ彼女に、ロリコン&ドMパリピの紗明っつー死神。
もう犬かと思うほど『なでてー! なでてー!』オーラを放っている。
「うひッ……紗明あんた、地上で変な性癖つけるとか、うちもうついていけへんのやけど」
「何言ってんだクコ。俺のこれは性癖っつー馬鹿なやつじゃなくて、単なる愛情love表現」
「…………さ、さ。百木くん危ないからこっち行こな」
身の危険を感じたのか、クコがそろりそろりと紗明から距離を取り、僕の腕をグイッとつかんだ。
急に横から離れた僕らに、八雲が慌てて紗明の頭にゲンコツ一発ぶち込む。
KОされた死神を引きずり、クコの前に連れて行くと、八雲はぺこりと頭を下げた。
「ほんとーに申し訳ありませんクコさん! この子、朝はものすっごく大人しいんだけど……」
「八雲ちゃん、知ってるで。こいつ二重人格やから、疲れるやろ。おおきにな」
ん……何て言った今。二重人格持ち?
は、はぁぁぁぁぁ!? これ以上彼に余計な設定つけんのやめようよ。。。
話、ついていけないよ……。
「大丈夫だよおモチくん。札狩経験者として、いっぱい教えてあげるけんね」
「いや、僕が言ってるのはそれじゃなくて………」
「私、この前お墓で貞子みたよ~。めっちゃくちゃ怖かったー! キャー―――ッ」
アイドルの握手会に行った時みたいに、「めっちゃ可愛い」風に「めっちゃ怖い」と叫ぶ彼女。
今まで気づかなかった。
どうやらこの世界は僕中心に、ヤバい奴しか集まらないように出来てるらしい。
そもそも、ごくごく普通の中3生だった僕が事故死して、クコという変な天使と知り合った時から、何かが変わり始めてるのかもしれない。
もうこの先、こいつらみたいな変人が出てこないことを祈るよ。
七夕の短冊にも書くし、初もうでの時もそう願うことにしよう。
ただ僕は、ただ地味ぃに札狩ライフを楽しんで、得た収入でキャッキャウフフしたいだけなんだ。
そんな僕の予想を、いとも簡単に裏切るのが、この世界だ。
だけど紗明がいうところの地味ィなオーラでゴキちゃんの僕は、そんなこともまだ分からない。
つまりは、まだまだ陰キャってわけ。……当分、ゴキブリの認識は続くだろう。アーメン。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.10 )
- 日時: 2020/09/15 16:31
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
西側の、茜色の空を見ながら、俺は通学カバンの中からガラケーを取り出し、耳に当てる。
「百木周」と書かれた画面の通話ボタンを推し、さっき買った炙り昆布を口に放り込んで数分。
チカがいつまでも帰ってこないから、自分で買っちゃったよ、フン。
俺の名前は百木朔。周の双子の弟だ。
小っちゃいころからチカは頭が良かった。
俺が友達とワイワイ遊びに行くタイプの一方で、兄のチカは一人で黙々と勉強するタイプ。
遊びに行こうって誘っても、なかなか意見を曲げてくれない。
優しいし、いいお兄ちゃんだけど、もう少し俺との時間も大切にしてほしい。
それとも、俺がもう少し勉強を頑張って、彼と一緒の塾の入塾試験に合格すればいいのかな。
できるか。あそこ偏差値70もあるんだよ。
『ただいま、電話に出ることが出来ません。ピーっという発信音の後に、お名前と―――』
「………嘘、おかしいなぁ。チカ、どこにいるんだろう……」
寄り道するようなタイプではない。まぁ、本屋を別として。
俺も本屋にはよく行く。というのも、俺はクラスメートとはちょっとだけ、違うところがある。
普通の子は、ガラケーで電話しないし、おやつにキュウリに味噌をつけて食べない。
すごろくで遊んだり、デスメタルを聞いたり、レコードプレイヤーで音楽も聞かない。
本屋で読むのが、TRPGのルールブックだったりすることも、多分少ない。
最近は音楽聴くのは大体MDプレイヤーかスマートフォンだし、本屋に行ったら大体漫画を買う。
最近流行りのJ-POPやボカロPや歌い手や、好きなアニメや声優。
そういう話題で盛り上がる。
俺はそういう意味では、話題に乗れないタイプなんだろう。
それでも友達は沢山いるし、ちょっと不便に感じることはあるけど生活できないほどではない。
でも、時々、俺もみんなみたいに流行に乗れたらいいなと思ったことはある。
「――そろそろ、趣味とか隠したほうがいいのかな……」
とポツリと呟いたところで、プルルルルッ プルルルルッッとガラケーが鳴った。
「はい! もしもしチカ? 何度もかけたのに出ないなんて酷いよ……って、ママ!?」
「あのね、朔。驚かないで聞いてね」
電話の向こうの声は、チカではなく、ママの声だった。
いつもは明るいその声が、今は輝きを失って、冷たいと感じられるほど低い。
「周が、交通事故にあって、それで………うッ………」
「――――――――」
今なんて言ったの?
ねえ、ママ、今なんて言ったの?
あれ、今日はエープリルフールだっけ。ってことは多分嘘だよね。
あれれ、今日8月じゃん。あれ、ねえママおかしいよ。あれれ。
………………なんで、チカ、電話に出ないの?
なんでチカなの? なんで俺じゃなくて、チカなの?
頭がいいのが俺じゃなくて、なんで兄のほうだけ………。
なんでチカが先に、俺より先に、死ななきゃいけなかったの?
ガシャンと、急に手の力が抜けて、硬い地面に携帯が落ちた。
手も足も震えが止まらなくて、唇だけやけにパサパサ乾いていて。
変な汗ばかり流れて、泣くことすらできなくて。
………………周が死んだなら、俺が生きる意味なんて………。
「チカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そう、震える声で必死に絞り出したその時、横からピュウッと強い風が吹きつけた。
思わず目をつぶり、砂が目に入るのを防ぐ。
と、右の頬に冷たい感触がした。何かが、ほっぺたに貼りついたような感触。
そっと頬に触れてみると、小さな正方形の札が、頬にぺったりとくっついていた。
「わ、ナニコレッ!? シール!? 趣味悪ッ!!」
慌てて指の爪ではがそうとするが、粘着性が強くてなかなか剥がれない。
おまけにこの札のような黒いシールには、怪しげな文様が描かれている。
こんなやつつけて人前に出られるかっ!
なんではがれないんだよクソッ………! ああぁぁもう、ムカつく……!
「あーそれ、取ったらダメですよぉ」
不意に、後ろから声がした。超絶ロリ声。
この声なら絶対声優になれそう。そう思うほどの、可愛い澄んだハイトーンボイスだった。
振り向くと、10歳くらいの背丈の女の子が、八重歯をのぞかせて笑っている。
背中まである桃色のロングの髪に、黒いハンピース。
ニーハイソックスって言うのだろうか。白黒の縞柄の長い靴下を履いている。
え、、と。あなた……誰?
「おめでとーございまぁす! アナタは黒札の資格を得ることができましたぁ!」
「は……? く、黒札って?」
「あ、申し遅れましたぁ。私の名前は、プリシラ・ローズベリですぅ! シアと呼んでください」
「は、はぁ……」
「私は嬉しいですよぉ。最近は黒札も白札も、いっぱい狩られてますからねぇ。私のような、利用する側も減っちゃってますしぃ。私の姉も、なんと狩る側についちゃったんですよぉ。ほんとー、メーワクですよねぇ」
「だから、これからは一緒に、札狩どもをお腹いっぱい、食べれますね♪」
……………この子が何を言ってるのか、分からない。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.11 )
- 日時: 2022/04/08 22:21
- 名前: むう (ID: EUXdXu0M)
【キャラクター紹介】
ここではカオ僕の個性あふれるキャラクターを簡単に説明していきます!
詳しいことは、キャラ別情報Fileを確認してください!
〈札狩陣営☆目標:悪霊退治をして平和を守る!〉
チカ(百木周)
下校帰りに事故って命を落とした中3男子の幽霊。
ふとしたことで天界に行く道が途切れ低迷中。
現在は八雲の家に居候しながら悪霊退治をしてお金を稼いでいる。
少し内気や性格だが、誰にでも隔てなく優しいいい子。
クコ(九子)
天界管理局で働く天使。関西弁。推定年齢14歳(実年齢600歳)。
セーラー服と丸メガネが特徴のドSっ子。この作品のムードメーカー。
腐れ縁の紗明とはなにかとそりが合わない。
世話焼きなチカのパートナー。
紗明
札狩≒悪霊退治を担当する死神。クコの悪友。
朝は酷く大人しいが、夜になるとめちゃうるさくなる二重人格者。
パートナーは八雲で、彼女のことが大好き。
やるときはやる性格だが今のところあんまり活躍していない。
八雲(栗坂八雲)
都内の公立中学に通う中1女子。オカルトや怖い話が大好物の天然娘。
周のことを「おモチくん」と呼ぶ。
広島出身のため、たまに出る方言があざとかわいい。
チカに少しだけ興味を持ち始めている。
朔(百木朔)
本作のW主人公。周の双子の弟。違う中学に通っている。
好きな食べ物は炙り昆布。流行にとことん疎いタイプ。
チカとは反対に直感に任せて動く行動派だが、勘が鋭い。
無邪気で明るい中3男子。ユルミスと契約して、悪魔の力を短時間だけ使えるようになった。
ロリ(ユルミス・ローズベリ)
クコと紗明の後輩で、 朔のパートナー。
ゴテゴテとしたドレスに身を包んでいることからロリと呼ばれている。
宇宙の記憶媒体であるアカシックレコードの管理をしていたが、解雇されてしまう。
紗明のことが好きだが、その理由も今だに不明。
バキュン先輩(栗坂翔)
八雲の兄。大学一年生。バリバリの霊感持ち。
札狩のことを知っている頼れる助っ人。
どこかチャラいオーラを漂わせるイケメン。彼女もいるとかいないとか。
周に初対面でバキュンポーズを取ったことからこんなあだ名がついてしまった。
〈ヴィンテージ陣営☆目標:札狩なんか知るか。俺達は好き放題やってやる!〉
シア(プリシア・ローズベリ)
突然朔の前に現れたロリータ少女の悪魔。
その正体は、ヴィンテージの幹部&ヴィンテージQ班班長。
月菜と亨介とともに暗躍中。
ユルミスとの関係は未だに謎。この小説でのラスボス的立ち位置。
月菜(御影月菜)
中学3年、コスメ系YouTuberとして活躍中の実力者。
オシャレとメイクのことなら誰にも負けない自信がある。
シアの命令で享介とともにヴィンテージとして動いている。
享介(佐倉享介)
月菜と共に行動をしている毒舌系男子。ニックネームはキョーちゃん。
黒札を駆使して戦うが、あまり戦闘向きな性格ではないためいつもはサポートに回ることが多い。
めったに感情を表に出さない性格だが、怒ると怖い。
〈天界の住人達〉
ネートル室長(ネートル・ネクロニカ)
天界管理室の室長で、クコ・紗明・ユルミスの上司。
全身が骨だけど、人の事をしっかり見てくれるいい人。骨だけど!
管理局の全ての課を取り締まっている。
毎日とても忙しいが、手際の速さで仕事を片付けるできる男。
ルキア(ルキア・レオンハルト)
天界管理局保安課の、4番隊副隊長の天使。
見た目は9歳くらいだか実は200歳越え。
身長は135㎝程度と小柄な体系だが、その実力はかなりのもの。
真面目さわやか優等生タイプ……?
セシル(セシル・バーナード)
天界管理局保安課の、2番隊副隊長でルキアの同僚。
明るくマイペースな性格で皆を振り回すが、それさえもお仕事モードらしい。
ルキアとはビジネス不仲。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.12 )
- 日時: 2021/10/06 11:36
- 名前: むう (ID: evOUbtyP)
プルルルルッ プルルルルッとけたたましい音が鳴り響いて、少女は「ふわぁ」と欠伸を一つ。
眠たい眼をこすりながら、「もしもし?」と電話を耳に当てた。
フリルを多用したドレスが良く似合う少女だった。ミニ丈のスカートはフリルが三段もある。
こんな格好でジャンプでもすれば、絶叫が部屋中に響き渡るだろう。
白銀の髪は左右でツインテールにしていて、恰好と合わせて彼女は「ロリ」と呼ばれている。
『遅いぞユルミス! 何かい電話したと思ってんだ!』
電話の向こうから大音量の怒声が流れ、ユルミスと呼ばれた少女は思わず電話を耳から話した。
そして、欠伸を噛み殺しながら、めんどくさそうに返事をする。
「ネートル室長ぉ……何の用……?」
『上司と話すときは敬語!!』
「ネートル室長ぉ……何の用でございますか……?」
『はいOK!!』
眠気のせいで、ろれつが回らないユルミス。
眠気覚ましに、中央のテーブルに腰かけて紅茶をゴクっと飲み干す。
この甘すぎない甘さがちょうどいい。ついでに、籠の中に入っているクッキーをぱくり。
「おいひいでふ、ネートル室長。あほでまた作って持ってきまふねぇ」
『ありがとう、でも俺の話を聞いてくれ!!』
「ふわぁぁあーい。了解でふ……」
『上司と話すときは欠伸をしない!!』
ユルミスの態度に、ネートル室長はもう堪忍袋の緒が破裂寸前。
ただでさえおシワの多い室長が、彼女のせいでさらに血管が……(以下略)。
『仕事だ、大急ぎで黒札の現在位置と、クコたちの現在地を頼む!』
「ふわぁ……パイセンたちなら今は地上ですよ……ふわぁぁぁあ~」
『そんなことは分かっとんじゃボケ!! 地上のどこにいるかって聞いてんだよ!!』
「そんなに怒らないでくださいよ……血管、死にますからぁ……」
彼女の悪意のない一言で、電話越しのネートル室長はふるふると震えている。
これが異世界系物語の美女だったら、「大丈夫?」と声をかけたくなるのだが……。
何しろ室長は齢8000のよぼよぼお爺ちゃんだ。
そんなお爺ちゃんのお顔プルプルを見ても、「ああ、血管……」くらいしか思わない。
ユルミスは億劫そうに起き上がると、部屋の中央に浮いている巨大なクリスタルに近づく。
これは「アカシックレコード」という記録媒体であり、過去や未来、現在、全ての物事を記録している。
その表面をスマートフォンを操作するようにスクロールし、ユルミスは再び電話を耳に当てる。
彼女の仕事はアカシックレコードの保管・管理。
ただでさえ綿密なクリスタルなので、任されるのは相当信頼のおける人物しかいない。
ユルミスはとりわけ優秀な人材……なのだが……。
ただいま、寝起きでちょっとやる気が3パーセントしか出てないみたいだ。
「パイセンたちならぁ、東京都のK市の3丁目を只今歩いてるみたいですね。黒札は、はい、……えっと、回収したのがおよそ2489個、未回収130個、そして……。人間に付着しているものが3つほどあります」
『なるほど……。ユルミス、お前も来週から札狩に参加してくれ』
「え……っ。ぱ、ぱぱ、パイセンと一緒にやれるんですかっ?」
『クコが長い事帰ってこない。ちょっと様子を見てやってくれ」
「はいッ! 愛してますネートルお爺!!」
『室長じゃ!!』
うきうきルンルンとその場を舞い、室長の「おいユルミッ」という声をサラッとスルーして受話器を片付けるユルミス。
ネートル室長がなぜ彼女を地上に送ろうとしたのか、なぜ彼女に電話したのか、その理由を答えるにはまだ早い。