コメディ・ライト小説(新)
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.4 )
- 日時: 2020/09/16 07:08
- 名前: 夢兎 (ID: 9Yth0wr6)
「ぷはぁ~。くぅぅぅ~!!」
ベンチに腰をかけながら、彼女が飲んでいるのは何と缶ビール。
天使はお酒をたしなむらしい。
こいつの場合、たしなむといった丁寧な言葉は当てはまらないが。
「お酒大好き近所の父ちゃんかよ」
「それを言うならおばさんやで。うち、飛鳥時代生まれやさかい、昭和も平成も令和も越えてるスーパーピーポーやから」
「ふぅん……ってはああああ!? あ、アスカジダイデスッテ!?」
飛鳥時代ってことは今からひいふうみい。
えっと、今から600年も前?
ってことはお前、スーパーピーポーじゃなくてアラフォーエンジェルだろ。
意味的には。
っていうか、中身は子供・頭脳はばあちゃんって。笑えない。
名探偵にでもなるつもりか。
その場合活躍しないのは目に見えて分かる。
きっと、あの蝶リボンから発射される睡眠針でチクッとされて、「眠りのクコ郎」とか言われるんだろう。
「あのさぁ、クコ。君にはもう何て言うか……呆れしかないよ」
「うちかて、やりたくてああなったわけやないもん」
ぷうっと頬を膨らませ、そっぽを向くクコ。
幽霊は人の目に見えない触れない、声もかけてもらえない。天界の方が地上の何倍も安心安全……か。
自分でそう言ったのに、あっさりと仕事をミスったものだからダメージも大きいだろう。
「ごめん……。さっきの言葉、忘れてくれ」
「百木くんおおきにな。うち、いつも人に迷惑ばかりかけてしもて」
意外と殊勝な彼女の言葉に、僕は目を丸くする。
ベンチに腰かけて缶ビールを飲み干すクコは、泣いているようにも見えた。
「って、過ぎたこと気にしてもあかんし、未来に目を向けてみよさ」
「う、うん。クコは、僕みたいに地上で暮らす幽霊は見たことあるの?」
「姉ちゃんからは、三人くらいやな。話には聞いとるで」
クコの話によると、一くくりに天使と言っても色んな仕事があるようだ。
彼女のように死者を天に送り届ける「案内人」、人を守り助ける「守護天使」、人の恋の悩みに寄りそう「キューピット」など。
「そういう子ぉたちは、『札狩』でええ成績取って、人間とうちら怪異の関係を……」
「ちょ、ちょっと待って。天使って怪異のジャンルに入るの?」
「天国の反対は地獄。せやからジャンルに入ってもおかしゅうないやろ」
そ、そんなものなんだろうか。
オカルトに対して詳しくない僕は、引っ掛かりを感じながらも彼女に話の続きを促す。
「そんで、札狩って言うんは要するに悪霊退治や。今、天界ではおかしなグッズが販売されとる。その一つが、白札と黒札。使い方は簡単、その札を人や物に貼るだけで、霊をいとも簡単に呼び出せるん。これは元々、死神が狩る霊がぎょーさんおるから、労働力減少のために作られたそうやけど……」
「大体話は分かったよ。白札と黒札で呼び出せる霊が違うんだろ。例えば、黒札は悪霊とか。だから札狩って言うんだね」
「……百木くん、さっきから何なん、その無駄な要領の良さは」
「無駄だけ余計だよ。いや、何か話の文脈から、そうかなって思っただけで」
「それにしても凄いわ! こんなに頭ええなら何で初めから言わへんの?」
彼女の興奮の熱は上がりに上がっている。
思わぬ自分への尊敬。横に座るセーラー服の天使は、頬に手を当てたりその場で足踏みしたりと、妙に落ち着かない。
「やっとこれで姉ちゃんに認められるわ。何やねんみんな、うちのことアホとかバカとか言うて。百木くん、姉ちゃんに今度絶対紹介したるから!」
声を上ずらせ、クコが僕の両手を取る。
そして、眼鏡の奥の瞳を優しく細め、
「今に見とき! うちは絶対出世したるで――――!」
と天に高々とこぶしを突き上げたのだった。