コメディ・ライト小説(新)
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.10 )
- 日時: 2020/09/15 16:31
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
西側の、茜色の空を見ながら、俺は通学カバンの中からガラケーを取り出し、耳に当てる。
「百木周」と書かれた画面の通話ボタンを推し、さっき買った炙り昆布を口に放り込んで数分。
チカがいつまでも帰ってこないから、自分で買っちゃったよ、フン。
俺の名前は百木朔。周の双子の弟だ。
小っちゃいころからチカは頭が良かった。
俺が友達とワイワイ遊びに行くタイプの一方で、兄のチカは一人で黙々と勉強するタイプ。
遊びに行こうって誘っても、なかなか意見を曲げてくれない。
優しいし、いいお兄ちゃんだけど、もう少し俺との時間も大切にしてほしい。
それとも、俺がもう少し勉強を頑張って、彼と一緒の塾の入塾試験に合格すればいいのかな。
できるか。あそこ偏差値70もあるんだよ。
『ただいま、電話に出ることが出来ません。ピーっという発信音の後に、お名前と―――』
「………嘘、おかしいなぁ。チカ、どこにいるんだろう……」
寄り道するようなタイプではない。まぁ、本屋を別として。
俺も本屋にはよく行く。というのも、俺はクラスメートとはちょっとだけ、違うところがある。
普通の子は、ガラケーで電話しないし、おやつにキュウリに味噌をつけて食べない。
すごろくで遊んだり、デスメタルを聞いたり、レコードプレイヤーで音楽も聞かない。
本屋で読むのが、TRPGのルールブックだったりすることも、多分少ない。
最近は音楽聴くのは大体MDプレイヤーかスマートフォンだし、本屋に行ったら大体漫画を買う。
最近流行りのJ-POPやボカロPや歌い手や、好きなアニメや声優。
そういう話題で盛り上がる。
俺はそういう意味では、話題に乗れないタイプなんだろう。
それでも友達は沢山いるし、ちょっと不便に感じることはあるけど生活できないほどではない。
でも、時々、俺もみんなみたいに流行に乗れたらいいなと思ったことはある。
「――そろそろ、趣味とか隠したほうがいいのかな……」
とポツリと呟いたところで、プルルルルッ プルルルルッッとガラケーが鳴った。
「はい! もしもしチカ? 何度もかけたのに出ないなんて酷いよ……って、ママ!?」
「あのね、朔。驚かないで聞いてね」
電話の向こうの声は、チカではなく、ママの声だった。
いつもは明るいその声が、今は輝きを失って、冷たいと感じられるほど低い。
「周が、交通事故にあって、それで………うッ………」
「――――――――」
今なんて言ったの?
ねえ、ママ、今なんて言ったの?
あれ、今日はエープリルフールだっけ。ってことは多分嘘だよね。
あれれ、今日8月じゃん。あれ、ねえママおかしいよ。あれれ。
………………なんで、チカ、電話に出ないの?
なんでチカなの? なんで俺じゃなくて、チカなの?
頭がいいのが俺じゃなくて、なんで兄のほうだけ………。
なんでチカが先に、俺より先に、死ななきゃいけなかったの?
ガシャンと、急に手の力が抜けて、硬い地面に携帯が落ちた。
手も足も震えが止まらなくて、唇だけやけにパサパサ乾いていて。
変な汗ばかり流れて、泣くことすらできなくて。
………………周が死んだなら、俺が生きる意味なんて………。
「チカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そう、震える声で必死に絞り出したその時、横からピュウッと強い風が吹きつけた。
思わず目をつぶり、砂が目に入るのを防ぐ。
と、右の頬に冷たい感触がした。何かが、ほっぺたに貼りついたような感触。
そっと頬に触れてみると、小さな正方形の札が、頬にぺったりとくっついていた。
「わ、ナニコレッ!? シール!? 趣味悪ッ!!」
慌てて指の爪ではがそうとするが、粘着性が強くてなかなか剥がれない。
おまけにこの札のような黒いシールには、怪しげな文様が描かれている。
こんなやつつけて人前に出られるかっ!
なんではがれないんだよクソッ………! ああぁぁもう、ムカつく……!
「あーそれ、取ったらダメですよぉ」
不意に、後ろから声がした。超絶ロリ声。
この声なら絶対声優になれそう。そう思うほどの、可愛い澄んだハイトーンボイスだった。
振り向くと、10歳くらいの背丈の女の子が、八重歯をのぞかせて笑っている。
背中まである桃色のロングの髪に、黒いハンピース。
ニーハイソックスって言うのだろうか。白黒の縞柄の長い靴下を履いている。
え、、と。あなた……誰?
「おめでとーございまぁす! アナタは黒札の資格を得ることができましたぁ!」
「は……? く、黒札って?」
「あ、申し遅れましたぁ。私の名前は、プリシラ・ローズベリですぅ! シアと呼んでください」
「は、はぁ……」
「私は嬉しいですよぉ。最近は黒札も白札も、いっぱい狩られてますからねぇ。私のような、利用する側も減っちゃってますしぃ。私の姉も、なんと狩る側についちゃったんですよぉ。ほんとー、メーワクですよねぇ」
「だから、これからは一緒に、札狩どもをお腹いっぱい、食べれますね♪」
……………この子が何を言ってるのか、分からない。