コメディ・ライト小説(新)
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.13 )
- 日時: 2021/10/11 12:29
- 名前: むう (ID: AzYdFFfX)
【第2章突入です!】
〈朔side〉
背中まである白のロングの髪に、黒いワンピース。
ニーハイソックスを履いた、謎のロリータ少女、プリシラ・ローズベリ。
突然俺-百木朔に話しかけたと思いきや、その内容は妄言の類。
もしかしてヤバい奴?
け、警察に通報したほうがいいのかな。
えーっと、「黒札」とか「札狩」とか言ってるけど、最近のアニメの影響かなぁ?
アニメ観てないからよく分からないけど、今時アクションものが流行ってるっぽいからなぁ。
「…………あ、あの、ごめん。俺、ちょっと忙しいから、またね」
そうだ、急に話しかけられて一瞬忘れかけていたけれど、俺は家族を失った立場にあるのだ。
こんなところで右往左往しているわけにもいかない。
そんなことで時間をとられちゃ、死んだチカに怒られちゃう。
できるだけニコ―ッと愛想笑いをして、回れ右をする。
そして、目をつぶってダッシュでこの子から逃げようとしたのだが………。
「待って、『さっくん』!!」
「ふぁっ? ///」
制服のカッターシャツの裾を小さな手でつかんで、プリシラ―シアはにっこりとあどけなく笑う。
その笑顔に心臓を撃ち抜かれ、頭のてっぺんから爪先まで電流が駆け抜けていった。
そ、そ、それに、今、俺の名前……さ、さささ、『さっくん』?
か、かかかかかかかか、かかか、か、可愛いかよぉぉおおっ!!!
はぁぁぁぁぁぁ………っ。ヤバイ息が出来ない。
クラスの女子が使っていた「尊い」って言葉の意味、今になってやっとわかったよ。
ごめんね女子たち、「わけわからん」的な視線で見つめて。ごめん俺また明日炙り昆布おごる!
自分に妹が出来たらこんな感じなのかな。
双子でも充分ラッキーだと思うけど、やっぱりいいよねぇ、この感じ。
アハハウフフ……!
「………なに一人で何もない場所でニヤついてるんですかぁ? はっきり言って、きもいです」
「あぁぁぁぁ性格変わんないでっ! もうちょっとだけ、ね!」
「何言ってんですかぁ? はぁ…最近の若いもんの心理は、私にはさっぱりですぅ」
と、急に「お兄ちゃん大好き」的な態度を取っていたシアが、フッッッと嘲笑した。
俺は慌てて、彼女の肩に置いていた両手を慌てて離す。
の、乗せられたっ? 怖ッ!?
「………若いもんの心理って、キミ……何歳なの? っていうか、ひょっとして迷子?」
「ハァ? んなわけないでしょうっ! 私、これでもピッチピチの200歳なんですからねっ!?」
…その、ピッチピチの200歳を若いと思えばいいのか、お歳だと思えばいいのか、分かんない。
最近の小学生って、こう言うジョークが好きなんだろうか。
分からん。最近の流行りとか、俺得意じゃないんだよな。
「っていうか、さっくんさんも、もうちょい黒札の資格者ってことを自覚したほうがいいですよ」
「だから、その、黒札って何? えっと、ママ呼んであげよっか?」
「あのですね、だから私迷子じゃありませんっ! それに!」
シアがキーッと喚いて地団駄を踏む。
そして、ワンピースのポケットから小さい手帳を取り出すと、目の前に掲げて胸を張る。
「私、ちゃんと迷子手帳、持ってるんですっ!」
「……………『悪魔族 女 プリシラ・ローズベリ 迷子歴100年』……100年!?」
手帳に書いてあった文字を読み上げて、バッとシアに視線を移す。
彼女は耳まで赤くなって、両手で必死に顔を覆っていた。
この子、一体何者なんだ? 悪魔って、実在、するもんなの?
「わ、笑わないでくださいっ! ただフツーに道路を歩いてただけなのに、気づいたらここに」
「100年も?」
「そんな目で見ないでくださいっ。でも、この100年で男女の落とし方はバッチリ覚えました」
そんなロリロリ口調で、ショタの容姿で、そんなことを言われて、俺は何と答えればOKなんだろ。
あ、でも、100年もかけて落とし方…言い方はアレだけど、要するにモテテクだよね。
俺もさ、話聞いてて察すると思うけど、流行に疎すぎて、女の子と仲良くできないんだよね。
その、「黒札」とかの話はあとでちゃんと聞くから、その話聞かせてよ。
「はい、いいですよぉ。ちゃーんと立場を自覚してるみたいで、安心しましたぁ」
「キミ何様?」
「はい、お嬢様ですっ」
………いや、それ違うって。自分で自分のこと「お嬢様」って言うなよ。
はぁ、それで、モテテクはどんなのなの?
そう尋ねると、シアは更にニコニコ顔になり、キャピッと叫ぶ。
「モテテクその1 ご飯は人間の脚を選ぶ その2 デートは絶叫するほど高い所で」
「…………ニンゲンノ、アシヲタベル………」
「ハイッ。おいしーんですよ。で、その3 話題は怪談とかするといいかもしれませんねぇ」
「………それ、どこでの決まり?」
「天国でぇす」
…………チカ、大丈夫なんだろうか……!??
もし、人間の脚を食べられてたら………。
嫌な予感に、背中から冷や汗がタラーリ。
こ、この子と何十分も話をするのはまずい。かといって逃がしてくれそうな相手でもないし……。
そうだ、チカが良く推理小説を読むたび言っていた。
「人を知るには、まず聞くこと」だって。
よし、少しでもこの怪しいロリータ少女のたくらみを暴いてみせる。
そして、身の危険を感じたら超特急で逃げる。
ここで死ぬわけにはいかないもんね。チカが悲しむし、ママとパパも泣き崩れるだろうから。
俺は家族を裏切るようなことは絶対にしない。
だから今から、このかなりヤバそうな状況から脱して見せるよ!!
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.14 )
- 日時: 2020/09/25 15:21
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
〈朔side〉
というわけで、俺は再びプリシラと歩道で向かい合っている。
時刻はとうに八時を過ぎていて、西側の空も闇に呑まれている。
ママ、門限破ってゴメンね。
でも、ママの性格だと、「ハァッ? 今日も貴方、私に『行ってらっさい』って言ったわよね? いつも言ってるでしょう、何なのよ『行ってらっさい』って。あのねぇ、大体あなたはいつもいつも」と、パパとの口論になってるだろうから、あまり心配はしないけど。
「ええと、それで、黒札の話だったよね」
「はい! 黒札はですね、天国で今大変人気のグッズなんです。人の持ち物や顔なんかに貼ると、ちょちょいのちょい(死語)で悪霊を引き寄せてくれますよぉ。良かったですね♪」
………今の説明で、良かったと思えるほどの要素がまるっきりないんだけど。
え、ええ、ってことは、その黒札が俺のホッペについてる時点で死亡フラグじゃんッ。
こ、これ、お風呂とかに入ればとれるもんなの?
「いいえ、取れませんよぉ。強力な魔術がかかってますからぁ。札狩じゃないと、取れません」
「つまり、防水加工してあるってこと?」
「はい! 防水加工も、防火加工もバッチリです! お陰様でなんと300年!!」
テレビでやってるよね、そう言う宣伝のCM。
今ご購入なさるとなんと、70%オフ、とかそういうの。
それと同じ感じで、それも黒札を、そんなふうに持ち上げられてもなぁ……。
「それで、何でシアちゃんは、そこまで黒札にこだわるの?」
「? おかしなことを聞くんですね」
だって、普通おかしいだろ。
この黒札ってやつの資格者になってしまった俺を見て、普通、引くもんじゃないのだろうか?
そもそも初めて会った時、「札狩どもをいっぱい食べれますね」って言わなかった?
札狩って、この黒札…や白札とか言うやつを回収してくれる、サービス精神Maxのいい人だろ?
キミは、そう言う人たちと敵対関係を結びたいわけ?
「さっくんさんは誤解してるかもしれませんけどぉ、悪魔って元々人に害を与える存在ですよねぇ」
「………えっと、まぁ、そう、だね」
でも、こんなにキュートでチャーミングな悪魔がいるなら、わざわざ「悪魔」だなんて呼ばずに、違う名称をつければいいのに。
「名は体を表すって言いません? それなのに、最近の若者どもはそんなことも忘れて、『人はみな平等!』だとか、『人種越えて分かり合う』だとか、そういうくだらない言葉を吐くんですよ。でも、中には私のように、大昔の悪魔の形そのままに、生きたいって思う人も、いるんですぅ。もちろん、さっくんさんは黒札の資格者ですのでぇ、こっち側になりますよぉ」
そう、クルクルとその場で回りながら(次第に目が回ったのか、こてんとその場で倒れた)、
シアはお茶目にウインクをした。
しかしこの子が言っている言葉はどういう意味なのか、自分で分かっているのだろうか。
つまり彼女は、人に悪さをする悪魔こそが真の悪魔だという考えなのだ。
なので、現在色んな人種(?)―死神とか天使とか(いるのか分かんないけど)と仲良くする、同じ種族のことを疎ましく感じているのだ。
そして、彼女は俺を好ましく思っている。なぜなら、俺の頬に黒札が貼りついたから。
普通黒札が人間に貼りつくことは滅多にないらしく、だからこそ俺は資格を得たらしい。
でも。資格者でも、俺は、その意見には反対する。
「嫌だよ。俺はキミみたいにはならない」
「? 何を言ってるんですかぁ?」
「俺は、キミと協力はしないって言ったんだ。人はみな平等、その考えを主張する」
その返答に、シアの表情からは笑みが消える。
くりくりの双眸を、今は猫のように細くしている悪魔の少女は、腕を組んで斜めから此方を睨む。
「できるならやってみればいいですよぉ。でも貴方の元に、今まさに札狩の手が伸びてるんですよ。
ほら、私のiPadによると、『クコ』とか『紗明』だとか『百木周』だとかいう邪魔者が接近中っていう表示が――」
刹那、俺は目を見開いていた。
敵の接近にびっくりしたからではない。
シアが、口にした人名。聞き間違いじゃなければ、彼女ははっきりと、「百木周」と……。
「チカが生きてるのっ!?」
「………一応幽霊ですからぁ、生きてるという考えは正解ではないですけどぉ。まぁ、黒札で少しは霊力UPしてますし、会いたいなら会えると思いますよぉ。最も、自分から好んで敵に会いに行くだなんて、考える方がおかしいですけどねぇ」
敵じゃない。
俺とチカは、敵なんかじゃない。
家族だ。兄弟だ。大切な、かけがいのない宝物だ。
死んでいるけど、幽霊だっていうなら。
この、黒札っていうグッズのおかげで俺の霊力が霊力がUPしてるっていうなら。
会いたい。会いに行きたい。
最も、この黒札は『悪霊を引き寄せる札』だ。
俺がチカに会いに行ったら、彼に危険が及ぶかもしれない。それでもっ。
俺は黙って、肩にかけたスクールバッグからヘッドフォンとスマホを取り出す。
前も言ったと思うけど、あくまで俺はガラケー派である。
こういうものを持っているのは、PCやスマホの使い方が分からないとさすがにマズいからだ。
「ねぇシアちゃんー。俺やっぱシアちゃんの方に着く――――」
「ホ、本当ですかっ? やっぱりさっくんさん、話が分かってますねぇ」
怖いくらいの猫なで声でシアに近づき、その細い肩を抱く。
さっきまでの意見をころりと変えた俺がよほどうれしかったのか、シアはニッコリと笑う。
「でさぁ、友好の証に、俺の好きな曲聴かせてあげるよ―――」
「ふーん。なんですかぁ? 私、音楽拝聴が趣味でして」
「えーっとね。………デ・ス・メ・タ・ル♪」
ドスの利いた低い声で俺はそう言い、彼女の頭にヘッドホンを装着する。
そして、スマートフォンのお気に入りリストに入った曲を、
再生▼
ポチッッ
「さっくんさん、何をしてあvsewjljslばああhsofksps@spjsososmsoあああ!?!?!?」
大音量で突如流れたデスメタルソングのイントロに、シアが軽々と1メートルは飛んだ。
それに構わず、俺はスマホの音量を次第に上げながら、回れ右をしてダ―――シュッ!!
「さっくんさん許しませぼsehojspkensnsnあぎゃぁhdissisjneod,fmvosnsoギャァァァァァ!!!」
その隙に、彼女の手を離れて地面に転がった、シアのiPadを掴んでカバンの中へ。
そして、俺はひたすら逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて、後ろの絶叫も気にせずに。
デスメタルアタック、われながらカッコいいな。
まっててねチカ! 今助けに行くから!
あ、でも………うちのママとパパの口論が心配だから……多分1日くらいは遅くなるかも……。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.15 )
- 日時: 2020/09/18 20:09
- 名前: 美奈 (ID: cO3So8BN)
むう様
こんばんは、美奈です。
俺式にコメントくださって、ありがとうございました!こちらに遊びに来てみました!笑
結論から言いますね。
めっちゃ面白い...。何回笑ったんだろ私。
天使が関西弁?!なんかタブレット持ってる?!死神のキャラどうしたの?!
もう清々しいくらいに、私の脳内の天使や死神の固定観念が崩されていく...。話が進むごとに新鮮さと驚きがやってきて、続きが楽しみです。
応援してます。執筆頑張ってください!
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.16 )
- 日時: 2020/09/19 10:48
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
美奈様
コメントありがとうございます!
まさか美奈様からコメントが来るとは。
嬉しい限りです。
深夜テンションで書いてたこの小説ですが、題名の通り、変な人しか出てきません笑。なぜなら必ず1つは欠点があるからです笑。
死神は特にぶっ飛んでますね。
その死神を好いてくださって感謝です。
沙明に伝えておきますね。
一癖も二癖もあるキャラがこれからも固定概念をどんどん破壊しますので、これからも覚悟と変わらぬ応援をよろしくお願いします。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.17 )
- 日時: 2020/09/25 15:22
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
〈チカside〉
やばい、やばい、やばいやばいやばいやばい。
これは本気でヤバい。
僕は耳まで赤くなり、目の前の相手を直視することも出来ずに視線を漂わせる。
胸の鼓動がどんどん高くなり、息をするのも苦しくなり、初めての感覚に振り回される。
あれから一日後の土曜日の朝。今いる場所は、とある子供部屋の一室。
淡い色合いのカーテンやら、ベッドのわきに置かれてあるテディベアやら、床に敷かれてあるフワフワのカーペットやらからやたらと甘い香りがする。
その香りをかぐたび、僕の心はちょっぴりくすぐったくなる。
「も~緊張しすぎじゃのー、おモチくん」
「だ、だだだだだ、だって………」
「ほらほら、そんなところで固まっとらんと、こっち来て」
ここは八雲の家であり八雲の自室である。
幽霊の僕は、行くところもなく低迷していたんだけど、八雲が家に招待してくれたのだ。
それについては物凄く嬉しいんだけど、なんというか、その……、その………。
「なあなあ、うちの言った通りやったろ?」
八雲の頬についている白札を取れば、収入も入るし仲良くなれる。
そう言ったクコが二ヒヒッと愛嬌のある笑みを向ける。
確かに、普段なら女子と必要最低限の会話しかしない僕が、こんな簡単に青春ぽいことを。
感謝していいのか、どうなのか、複雑な気もち。
「ホ、本当に、良かったの? お母さんとかは……」
「ああ、いいのいいの。うち、父子家庭だから」
あ、そ、そうなんだ……。
急に聞いて、悪いことしちゃったな。
そう言うと、「気にしないで」と八雲はニッコリとほほ笑む。
笑うとえくぼが出来て、僕はそんな彼女がとてもかわいいと思った。
「うちのお父さんは写真家で、ずっと外国にいるんだ」
「え、ってことは一人暮らしなの?」
「ううん、あんちゃんと、妹と、紗明との四人暮らし」
あ、そっか。八雲って、妹がいるんだっけ。
あんちゃん、ってことは、もしかして妹が二人いるの?
「ああ、違う違う。あんちゃんっていうのは、お兄ちゃんってことだよ」
「あ、あんちゃんって、そういう意味か」
「そうそう。方言っていろいろあるけん楽しいよね」
八雲の妹ちゃんは、かのんちゃんというらしい。
漢字でどう書くのかと尋ねたら、『叶愛』と書くようだ。キラキラネーム、恐るべし。
ちなみにお兄さんの名前は『翔』。
地元広島に住んでいたのだが、大学受験して今はこっちの大学に通っているらしい。
「おモテくんは、兄弟おる?」
「うん、同い年の弟が1人」
「双子ってこと? いいなあ、憧れるわー」
双子の弟がいるのは別に嫌じゃない。
ただ、生前、朔ー弟に何も返せなかった。
朔、今何をしているんだろう。悲しんでないといいな。
あれ、というか………紗明は、どこ行った?
いつもなら、「おーゴキブリ。アルジ様に何か言ったらマジ許さねえかっな」とか言うのに。
彼が家にいるなら、まさにライブハウス並みにうるさいと思ったんだけど……。
むしろ、凄く静かだ。
あれ、紗明、もしかして逃げた?
「ちゃうちゃう。あそこにおるよ」
そう言ってクコが一角を指さす。
そこ―部屋の隅にいたのは、なぜか体育座りをしてズッド―――――ンと落ち込んでいる死神。
(あ、あれ、こいつ本当にあの紗明か?)
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.18 )
- 日時: 2020/09/25 15:23
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
〈チカside〉
僕が近くに来たのが分かると、体育座りをしていた紗明がフッと顔を上げた。
その表情にはいつもの元気がなく、目はとろんとしたいた。
え、っと……。これは一体どういう………。
「あ、おはようございます! チカさん」
「ブ――――――ッッッッッ!」
キョトンとしていた僕に、紗明が超絶爽やかスマイルを向けて来た。
八雲から渡されたカフェオレが、数メートルの記録更新。
待て待て待て待て待て待て。一言突っ込ませろ。
キミはあの紗明だろ?
ドMでパリピで、口調の端々にやたらと英語が入る独特の喋り方をするロリコン死神の。
そんな、学校の生徒会長みたいな敬語で、それもあの死神がっ!?
「本日は、お日柄もいいですが、チカさんは何をなさるおつもりで?」
「…………ワンモアプリーズ」
「本日は、お日柄もいいですが、チカさんは何をなさるおつもりで?」
一言一句間違えることなく、紗明が言葉を繰り返し伝える。
なんだこりゃあ……。
開いた口が塞がらない僕は助けを求めようと、横にいるクコたちに視線を移した。
「言ったやろ。コイツ、二重人格者やから、朝は大体こんな感じ」
「そうそう。コケコッコーでもうこの人格なん。『夕焼け小焼け』の曲流れたら、あっちの人格」
………君、結構めんどくさい性格してるんだな。
褒めてるのか、けなしているのかと聞かれたら、間違えなくけなしてるよ。
だって、はっきり言って………かなり迷惑。
「あ、でもコイツのことが好きな子は、おるねんで」
「マジっ!??」
コソッと耳打ちしてきたクコの言葉に、驚きを隠しきれない。
こんな、うざい・うるさい・胡散臭いの3U死神のことが好きな人なんているの?
だ、だ、誰?
「ユルミスっちゅう、うちの後輩。悪魔族の可愛い子やった」
「へぇ。悪魔って、実在するんですね」
「どーゆーわけか、あの子めっちゃ紗明のこと好いてんで。もうわけわからん」
そうは言いましても、恋愛は人それぞれだし、恋は盲目って言うし。
まぁ、彼のどこに惹かれたのか、尋ねてみたい気持ちもなくはないけれど。
でも、朝夜変わるたびに性格チェンジされちゃ、こっちがかなりしんどい。
朝目覚めるたびに飲み物を吹き出さなきゃいけないとか、地獄だ。
生きている時、受験が人生の地獄だと思ってたけど、それとはシャレにならないね。
と、その時。
ガラッッと八雲の部屋の扉が外側から開き、ドアの隙間から猫の模様の可愛いスリッパが見えた。
「八雲ォ。今日は叶愛迎えに行った方がいいな?」
「あ、あんちゃん! こっちこっち、今日お客さんが来とるん」
「ほぉ。お前のお客っつーと、いっつも人間じゃねえが今回はちゃんとヒトの形してんだろーな?」
入ってきたのは、大学生くらいの男の人だった。
その容姿に、僕はポケーッとだらしない表情のまま固まってしまう。
服装も百均の安いTシャツだし、着飾ったところもなにもない。
だけれど彼の仕草からは妙に艶っ気があって、なんというかキラキラしてて……。
でも。
なんですか、その奇妙な会話のやり取りは。
八雲、キミお兄さんにどんな子を紹介してんの?
いっつも人間じゃないって……。しかもそのヒト(?)たちお兄さんにバッチリ見えるって……。
あなたの家族、霊感ありすぎじゃないですか?
「こっち、おモチくんこと百木周くん。幽霊なんやけど、私と一緒に札狩しとる」
「………あ、どうも。百木です」
話の速い展開に脳が追い付かない僕は、紹介されるがままにお兄さんの前でペコリと頭を下げる。
八雲のお兄さん―翔くんは、ふうんと鼻を鳴らすと、そっと手を差し出して来た。
「翔です。よろしくね、チカくん☆」
そう言って、手をピストルの形にすると、僕に向けてバキューンと鉄砲を撃つポーズを取った。
その瞬間から僕の頭の中には、『翔くん』という単語が『バキュン先輩』と変換されてインプットされる。この先、多分絶対翔くんではなく、バキュン先輩と呼ぶだろう。
「紗明もおはよう」
「おはようございますお兄様。本日は大学へは行かれないのですか?」
「うん。今日は午後から受講すんだ。だから百木くん!!」
バッッ! そう効果音がついてもおかしくない。
バキュン先輩はくるりと振り返ると、僕の両手を取る―ふりをして(僕が幽霊だからだ。握ろうとしたら多分すり抜けるだろうからエアで)、イケメンスマイル。歯も見間違いじゃなければ光った。
「今からお兄さんと一緒に、オカルトトーク(大人の世界)を勉強しよう!!」
拝啓、最愛なる弟・朔へ。
いきなり死んじゃってごめん。元気にしている?
そっちの用事がなければ、今すぐヘッドホンとスマートフォンを持って、こっちに来てほしい。
大音量で、デスメタルを流してほしい。
だから。
誰か僕をこの世界から連れ出してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.19 )
- 日時: 2020/09/25 15:27
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
〈朔side〉
今日は土曜日なので、俺―百木朔は朝から自室にこもっている。
下の階ではママのすすり泣く声が聞こえる。
愛する息子を失った悲しみを、ママはずっと引きずっている。
そんなママの背中を、パパがさっき優しくさすっているのを見かけた。
俺の勉強机の上には、写真立てが三つほど置かれてある。
一番小さいやつには、赤ちゃんの頃のチカとの写真。
中くらいのやつには、七五三の時神社で撮ったチカとの写真。
一番大きいやつには、小学校の卒業式の日、友達数人とチカと撮った写真。
小学校卒業後、頭が良かった彼は近所の公立中学じゃなくて、中学受験して私立の中学へ進学した。
俺もその中学の入試を受けたけれど、あっさりと落ちた。
チカと一緒の中学じゃなくても、実際上手くやっていけている。
それでも、もう少し兄弟で過ごす時間を、満喫したかった。
チカが幽霊だと知った時、会いにいけることが嬉しかったけど、パパやママはチカにもう一生会えないことに、少なからず胸が痛んだ。
俺だけ、いいのかな。
『ねーねーチカ! これ、聞いてみて!』
『それ、またデスメタルでしょ。最近の流行りの曲とか、興味ないの?』
『俺の中ではこれが流行りなの! ほらほらー。再生するから感想ちょうだい!』
こんなふうに、兄が参考書とノートを読み比べながら勉強していた時、俺はぐいぐい身を乗り出して、半ば強引におススメの曲を進めることがあった。
でもチカは失礼な弟を怒ったりせずに、まぁ少し迷惑そうではあったけれど、それでも優しく俺の話を聞いてくれたっけ。
これは、チャンスかもしれない。
今までチカには沢山世話になったから、こんどは俺の番だ。
ここからが、朔ofストーリーだ。ここが、リスタート地点なんだ。
黒札だろうが、流行に疎い性格だろうが知ったことか。
俺は俺のやり方で、チカに会いに行くよ。
「というわけで……シアちゃんから盗んできたiPadでチカを探したいんだけど…これ、どうやって使うんだろう……?」
シアのiPad(悪魔が最新機器を持ってるのもおかしな話だけど)は、可愛い紫色。
人間が使うものと同じようなつくりだ。
ホームボタンがあって、長押しすればsiriもとい、『ari』が「コンニチハ」。
……天界のグローバル化ってすごい。
「Hey ari。iPadの使い方を教えて」
≪はい。まずは、両足がちゃんと地面を踏みしめているか、確認しましょう≫
……………んん?
何か今、変じゃなかったか?
「うん、ちゃんと地面を踏みしめてるけど……」
≪ちゃんと、指はついていますか? 脚は切断されてありませんか?≫
「怖いんだけど!??」
流石、悪魔のiPad。AIも中々のサイコパス脳だ。
初めてだよ、四肢が両断されている前提でAIに話しかけられるの。
万が一そんな状態で、多分操作できるだけの力なんかないよ?
「あ、じゃあさ、チカの居場所を教えて」
≪地下駐車場の、web検索結果はこちらです≫
あ、そーゆーところは同じなんだね。
滑舌が悪いと、siriがちょくちょく聞き取りをミスるやつ。
「百木周の居場所を教えて」
≪かったりーな≫
…………………んん?
今、聞き間違いじゃなければ「かったりーな」と聞こえたんですが……。
おーい電気屋さん、今すぐ返品してもいいですか? 電話の子機はどこ行った?
≪百木周は、身長158㎝、貴方の方が若干小さいですねアハハハハ≫
「二択だ選べ。お風呂に沈められるのがいいか、マンションの48階から落とされるのがいいか」
≪お風呂は38℃設定でお願いします。マンションの階段を登るときは、人にすれ違ったら挨拶を≫
ああ、もうコイツはダメだ。
シアちゃん、こんなAIをよく相手出来るなぁ。俺は開始3分でガチギレしたよ。
こんな調子で、本当にチカに会えるのかなぁ?
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.20 )
- 日時: 2020/09/25 15:32
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
閲覧数400突破! ありがとうございます!
これからも皆さんの固定概念をメッタメタと破壊しますので( `・∀・´)ノヨロシクです。
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〈朔side〉
そんなこんなで、俺は壊れた(?)iPadをお風呂に沈めようと思い立つ。
腰かけていたベッドから降りようと、お尻を数センチ浮かしたそのとき。
バキバキバキバキバキッッ
突然、轟音が轟き、ベッドのすぐ横の窓ガラスに亀裂が走った。
……………え???
俺は状況把握が出来ず、ただ茫然とヒビの入った窓ガラスに視線を移した。
「朔――――? 大きな音がしたけど、大丈夫――――――?」
そしてその音は、下の階にいたママたちにも聞こえたようだった。
さっきまで、チカを失った悲しみを拭いされずにすすり泣き、あんなに何十分もかけたメイクをぐちゃぐちゃにしていたママが、今はよく透る野太い声で叫んでいる。
「あ、だ、大丈夫だよママ!」
「朔、今本当に大丈夫なの? ママ上に行こうか?」
それをされると、どれだけ男としてのプライドを傷つけられるか、ママは分かっているのだろう?
そうじゃなくても、この状況をママがすんなりと呑み込めるとは考えにくい。
俺は内心冷や汗ダラダラになりながら、それでもなお下にいるママに向かって叫び返した。
「ほ、ほほ、本当にダイジョブだから! ドアに腕打ち付けてヒビ入っただけだから!」
「え、……そ、それなら大問題だけれど……」
「とにかく、俺もう子供じゃないよ! あっち行ってて!」
俺のその言葉を機に、階段を上がっていた足音が次第に遠ざかる。
『全くこの子はいつもいつも……』というグチは俺の左耳から右耳を通って空気の中へ。
ふう、と胸をなでおろしたのもつかの間。
パリンッッッッッッッッ!!
また、大きな音が響いて、今度は完全に窓ガラスが割れた。
頭から毛布を被って、破片の落下の衝撃をふさいだ俺は、毛布の隙間からそっと部屋を見渡して。
そして……見てしまった。
部屋の中央にいる人物たちを。
多分、こいつらが窓ガラスを突き破って、部屋に侵入したのだろう(大問題だけれど)。
でも彼ら、人物と呼べる存在ではない。なぜなら、それはどれも人の形をしていないからだ。
白いワンピース姿の、長い黒髪の女はテレビでよく見る「貞子」そっくりだし。
中には地獄の番犬「ケルベロス」にそっくりな、頭が三つもある犬が呻き声をあげているし。
そして何より、部屋の真ん中で圧倒的な存在感を放っているのは。
ヘドロ状の体に、無数の目玉が埋め込まれたカイブツの姿だった。
「朔―――――――? ちょっと本当に大丈夫? またドアで挟んだりしたの?」
「そそそそそ、そ、そうだよママ! ちょっと最近疲れてて、PS4足の上に落としちゃった」
「気を付けなさいよー?」
……………え、え、これはどういうことだろう。
夢、だったりするのだろうか。試しにホッペをつねってみるが、赤くはれただけ。
夢じゃない。じゃあこれは一体どういうこと?
もしかして、俺が黒札の資格者だから、黒札に引かれて悪霊が集まってきたとか。
考えがまとまったのと同時に、背中から悪寒が走り、手足に鳥肌が立ち始めた。
やばいよ………! このままじゃ俺、あいつらに食われて終わりだ。
なにか、戦えるもの……ないよ!
チカの部屋だったら、数学オリンピックのトロフィーとかあるけど、隣の部屋だし……!
神様ごめんなさい! できの悪い人間で本当にごめん! チカごめん、許して!
生まれ変わったらママとパパに優しくします! ちゃんと先生の言うことも聞きます!
女子に優しくするし、あぐらかいたり鼻ほじったりしません!
だから、誰か助けてッッッッッッッッッッッ!!!!!
俺がそう心から叫んだときだった。
――――――――「スターバスト!」
誰かが鋭く叫ぶのと同時に、部屋いっぱいに閃光が駆けぬけた。
よく、弾幕ゲームとかでよくある、「ズバァァァン」的な効果音がつく必殺技のような感じ。
閃光に吹っ飛ばされた貞子(仮)やケルベロス(仮)たちが、「プピャギュッ」と変な悲鳴を上げながら光に呑まれて行った。
「……………――?」
「一件落着だな! ほらよー。テメー、このまんまだと永遠に狙われるぞ!」
超絶ロリ声でそう言ったのは、外見年齢15歳くらいの女の子。
黒を基調としたドレスに身を包み、明るい茶髪の髪はヨーロッパの貴族みたいな縦ロール。
そして背中には、コウモリっぽい羽がついている。
「…………助けてくれて、どうもありがとう。………君は?」
「ユルはユルミス・ローズベリ! あっでもぉ、パイセンたちには『ロリ』って言われてっから、ロリでいーぞ。ユルはただパイセンに会いたかっただけなんだけど、まぁ命救えてよかったー!」
乱暴な口調ではあるけど、ハイトーンボイスの、それもショタに言われちゃ全てが「可愛い要素」にチェンジ。シアの可愛さはちょっと怖いけれど、この子の可愛さは純粋そのものである。
あぁぁぁ、尊い……。ギュってしたい。抱きしめたい。
「ん? 君、苗字はローズベリなの?」
「さっきからずっとそう言ってるじゃん」
「いや、君と同じ苗字のシアって子に、つい最近会ったばっかりだから」
もしかして、家族―だったりするのかな?
シアも、『姉は札狩の方についたからメーワク』とか言ってたし。
よくよく見ると、ユルミスの顔はシアにそっくりだ。
「………別に、同じ苗字の人がいただけ。つーかさ、あんたと一緒に逃げようかと思ってんだけど」
ユルミスは一瞬の間をおいて、視線をそらして言った。
「あ、そ、そうですか」
「パイセンが百木なんちゃらと一緒にいるらしーから、そいつのことも知りたいし」
………ん? 百木、なんちゃら?
百木はよくある苗字じゃない。もしかして!
「その、百木なんちゃらさんは、ひょっとしてチカっていう名前だったんじゃない?」
「おー、よく知ってるなー!」
「その子、俺の双子のお兄ちゃんなんだ。だから、一緒に行きたい!」
「テメー、百崎チカの弟なんだな。ってかよく見ると顔も似てるし。名前、何ていうの?」
ユルミスさんユルミスさん、いい流れで悪いんだけど一つ突っ込ませてもらうと。
百崎じゃなくて、百木です。
「朔。百木朔、中3」
「んじゃ、テメーのことは今日から『ももたん』だ! 嫌だとか言ったら魂抜くかんな!」
「ももたんっ………!! 俺死んでもいいかも……! って、魂、抜くんですか?」
「魂のスープ、めっちゃうめーんだよ。お前も飲むか?」
…………ご遠慮しときます。
というか、魂抜いたり、身体を両断したり、人間の脚食べたり……。
天国って、もっとDon’t warry be happyなところかと思ってたんだけど……。
「あ、人間の脚食べるていうのは、悪魔族の冗談みたいなもん。だから真に受けなくていーよ!」
「大分エッジがきいた冗談!!!」
というわけで、ユルミスという悪魔(?)の少女が、今日から俺の味方となり、一緒にチカを探す手伝いをしてくれるようになったのだった。
それはいいとして、………………窓ガラス、割れちゃったze☆
……どうすんだよ、これ。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.21 )
- 日時: 2020/09/23 19:03
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
外国名のキャラクターのスペルをここにちょくちょく追加していきたいと思います。
あ、こういう綴りなんだー! と参考にしてもらえればうれしいです。
プリシラ・ローズベリ(Prisila Roseberg)
ユルミス・ローズベリ(Jurmis Roseberg)
ネートル・ネクロニカ{ネートル室長}(Nator Necronica)
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.22 )
- 日時: 2020/09/24 17:26
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
☆キャラクターFile 百木周・朔編☆
【百木周】
性別:男
身長:158㎝
種族:幽霊
誕生日:3月9日
誕生花:芝桜
花言葉:「希望」「温和」「忍耐」
血液型:A
年齢:享年15歳
家族:父、母、弟(百木朔)
座右の銘:出る杭は打たれる
趣味:読書(地味か)
特技:勉強(地味か)
好きな教科:英語、数学
嫌いな教科:理科、体育
作者から
変わり者が多いなかで、真面目な彼もまぁある意味目立っているかなと思います。
チカにはいろいろと迷惑をかけ通しですが、お前がいないと始まんないんだよ!
といつもおケツを叩いてやってます。ハイ。
【百木朔】
性別:男
身長:155㎝
種族:人間
誕生日:3月9日
誕生花:芝桜
花言葉:「希望」「温和」「忍耐」
血液型:A
年齢:15歳の中3
家族:父、母、兄(百木周)
座右の銘:最悪な一日とは、笑わなかった一日である。
趣味:デスメタルを聴くこと、TRPGをすること、チカと遊ぶこと
特技:逃げ足が速い。とにかくインド人もびっくり。
好きな教科:体育、数学
嫌いな教科:それ以外は平均点スレスレ。
作者から
一度は双子キャラを登場してみたいなと思って、こういうキャラを出してみました。
流行にとことん疎い彼もまた、チカと同様(というかそれ以上に)貧乏くじを良く引きます。
チカのように変人に絡まれるのがいいか、朔のように悪霊に狙われるのがいいか。
お前がいなきゃ始まんない! 重要キャラ№2です。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.23 )
- 日時: 2020/09/25 15:32
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
〈チカside〉
バキュン先輩が言う所の「大人の世界」すなわちオカルトトーク。
なんとこの人、八雲から初めて札狩や紗明の説明をされた時、ニッコリ笑って「そっかー」と言っただけらしい。懐が深い…のか、どうなのか。
というわけで僕―チカは只今、バキュン先輩から札狩の仕方についての講義を聞かされている。
僕の横ではクコが鼻をほじり、その横で紗明が「お兄様カッコいいです!」とキラキラお目目。
そしてそしてその横では八雲が、ドクロ型のコップ片手に拝聴中だ。
「ってことで、俺たちが戦うのは悪霊だ。当然、戦闘とかになるわけだけど、百木くんは運動ってある程度できるタイプ?」
「あ、いえ、運動は、平均くらいです」
ハードルもなんとか転ばずに飛べる程度。
鉄棒も、二回に一回の割合で逆上がりが失敗する。
50メートル走のタイムは9秒8、100メートルは18秒23と平均より少し遅いくらいだ。
これが朔になると、50メートルはなんと6秒台だし、運動会ではいつも大活躍だ。
生まれた順番が違うだけで、ここまで差がつくもんなんだろうか。不思議だ。
「ちなみに、そこのお嬢さんは戦えたりするのかな?」
「あ、うち? うちは、まぁ一応、死んだ人を送り届けるんを生業にしとるさかい、戦闘っちゅうのは自信ないなぁ」
バキュン先輩に突然話を振られて、慌ててクコは開いた股を閉じる。
鼻ほじったり、股を開いたり、うちの天使は本当に女の子なんだろうか?
「クコは会った時から、なにも成長してない気がするけど」
「それって、セクハラやで」
「~~~~~ッ 性格の話だよ!」
ドSな天使は早速、僕がいい反応をするのをいいことに、好き放題からかってくる。
ムキになって叫ぶと、クコがカラカラと笑い、横に座っている紗明の背中を「バッシバッシ」。
「あーでも、うち、キューピッドやってる姉ちゃんから、『愛の戦い』は習ってますん」
「…………君、プリキュ〇?」
「ちゃうわ。キューピッド学科のラファエル先生が、『天使は愛情』って口酸っぱく言うん」
なんなの、そのキューピッド学科とか、ラファエル先生とか。
ラファエル……ってどっかで聞いたような名前だけど…。
僕が首をひねっていると、クコはセーラー服の懐からあるものを取り出して胸を張る。
彼女が取り出したのはプリキュ〇とかでよくある、ハートやら羽やらがあしらわれた、絶対プリキュ〇のアニメの前後に挟まるⅭMで「キュア○○と一緒!」ってな感じで宣伝されそうな、一対の弓矢だった。
「うちが持ってんのは、まぁこの程度のもんですわ。百木くんにこれを使わせれば、ある程度行けそうな気もするわな」
「絶っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ対にヤダ」
僕はコンマ何秒レベルで反論した。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.24 )
- 日時: 2020/09/30 17:02
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
〈チカside〉
だって考えて見てくれよ。
いい歳した男子中学生(幽霊)が、悪霊相手に『さぁ愛の力は無限大!』みたいなセリフと共に、羽やらハートやら星やらの装飾がついた弓で戦うって、どう?
最近はプリキュ〇は男の子でもなれるらしいけれど、僕はごめんだよ。
そもそもの話、札狩って札を外すだけなんじゃなかったか?
悪霊と戦うなんて聞いてないよ。
横目でギロリとクコを睨むと、クコは当たり前とでもいうような調子で、
「うちはちゃんと言うたで。札狩はようするに悪霊退治って」
「お嬢ちゃんの言う通り! 札狩っていうのは悪霊退治! 悪霊をメッタメタにして、町の治安を守り、果ては世界の平和を守るのが役目なのですっ!!」
両手を前に付き出して、熱演するバキュン先輩。
『なのですっ!』って言われてもなぁ……。
ん? そういえば、八雲のほっぺたにも札がついているよね。
初めて八雲に会った時、札をはがそうとしたら紗明が邪魔をして、結局取るチャンスがなかったんだっけ。
それ、取らなくていいの?
「これはつけていてもオッケーなんだよ」
「なんで?」
「いい妖怪しか呼び寄せんし、一緒に戦えたりもできるからさ」
ま、一番最初に呼び寄せたものはあんまし使えないけど、と八雲はボソッと呟き、隣で真面目に正座をしている紗明をチラッと盗み見た。
彼女の言葉の意図を理解して、僕は軽く頷く。
「というわけでおモチくん。お互いこういう死神や天使に出会ってしまったのは仕方ないけど、一緒に札狩頑張ろうね」
「あ、ああ……うん。痛くない範囲で」
と僕が返事をしたと同時に、床に置いていたクコのiPadからピロンと通知の音がした。
っていうか、いつも思うんだけど天界の文明って一体どうなっているんだろう。
この前こっそりそのiPadの中身を見てみたことがある。
『下手でも飛べる! 天使の飛び方入門編』
『バカでもわかる! キューピッドのお仕事』
『天使検定10級』
という変なアプリがずらぁぁぁぁーっと入っていたっけ。
「あ、『天界わくわく★チャット』からロリとじーさんのメッセージが来とるわ」
「誰と誰の何!??」
て、天界わくわく★チャットだって?
僕の常識内で推理するなら、そのチャットってもしかして地上で言う所のLINEみたいなやつ?
クコの肩越しから、バレないように彼女が操作するiPadの画面を八雲と盗み見る。
クコは、自分の自画像アイコンで『くこ@低所得♪』というアカウント名を使っていた。
君が低所得なのは、地上に居られるのは10分までという大事なルールをあっさりと破るからじゃないか? 間違いなく『低所得♪』と笑ってスルー出来ることじゃない。
【ロリ@ももたんと逃亡中:さんから一件のメール】
【ネートル・ネクロニカ:さんから一件のメール】
だれ? これ。
僕と八雲は揃って首をかしげる。
その間にも、クコはキーボードを物凄い速さで操作し、送信ボタンを押していた。
再び、画面を凝視する。
【ネートル・ネクロニカ:クコ! お前ちゃんと仕事しないなら解雇するぞ!!】
【くこ@低所得♪:じいさん今までおおきに(泣)】
【ネートル・ネクロニカ:アホォオォオ!!】
どうやらネートル・ネクロニカと言う人は、クコの上司らしい。
そりゃ、地上で死んだ人を天界に送り届けるのが仕事なのに、何日も帰ってこないから、怒るのは当然だよなぁ……。
【ロリ@ももたんと逃亡中:私も札狩チームに加わったので今からそっち行きます!】
【くこ@低所得♪:え!? 今から来んの? あんた今どこにおるん?】
【ロリ@ももたんと逃亡中:もうすぐで紗明パイセンのいる家につきますよ^^】
【くこ@低所得♪:え、わ、分かったわ。でもあんた、『ももたんと逃亡中』ってなんなん?】
【ロリ@ももたんと逃亡中:百木周の弟と逃走してるんですよ。あとで話しますね! じゃっ】
「「はああああああああああああああああああああああああ!!!???」」
僕とクコは揃って大声を上げた。
クコはあと数分で家に来る後輩(?)の突然の行動に驚いたから。
僕は、その彼女がよりによって自分の弟と行動していることにびっくりしたからだ。
「ど、どどどどど、どういうことこれっ??」
「うちに言われても分からんもんは分からん!」
急激な展開について行けず、クコは半分涙目になっていた。
とにかく一同は八雲のベッドに乗っかり、揃って窓の外を見る。
お昼前で太陽が高く上った時間、それも土曜日なので、前の道路を歩く人の数は多い。
そんな中、とりわけ目を引くのは。
どういう原理でああなったのか分からないが、飛行機と同じ高さを滑空する、一人の男の子。
その子は、悪魔のようなコウモリの羽を背中に生やした女の子に担がれて、飛行機と同じ速さで落下していた。
「朔ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!?????」
嬉しいんだけどちょっと一回どういうことか説明してぇ!!!
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.25 )
- 日時: 2020/09/30 17:24
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
☆キャラクターFile クコ編☆
【クコ(九子)】
性別:女
身長:154㎝
種族:天使。死者を天界に案内する案内人。
誕生日:5月24日
誕生花:ヘリオトロープ
花言葉:「混信的な愛」「夢中」
血液型:B型的性格
年齢:600歳
家族:姉ちゃんが8人おるで!
座右の銘:寂しい時は美味しいもん食べたら治る。
趣味:恋バナ(まぁキューピッドやから!)
特技:人をからかうこと、室長をキレさすこと
天界ってどんなとこ?:人がぎょーさんおって、標高がめっちゃ高いねん
お姉ちゃんはどんな人?:一番上の姉ちゃんは、いっつもアメくれるで(大阪のおばちゃんか)
最近の悩み:お給料が……(自業自得)
作者から
とことんマイペースなクコ。ツッコミに回ったりボケたりと使い勝手がいい子に仕上がった。
ユルミスに対しては若干姉御肌っぽいところを見せたりする。
これからどんな表情が見えるのか、楽しみですね。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.26 )
- 日時: 2020/10/07 16:37
- 名前: むう (ID: 9Yth0wr6)
〈朔side〉
あの後、俺は悪魔のロリ=ユルミスと一緒に、右頬に貼られてある黒札目掛けて集まってくる悪霊たちから逃げるべく、家を飛び出した。
割れた窓ガラスの件は、まだどうするか考えてないけれど、あの大きい音でママが気づかなかったとは考えにくい。
そもそもの話、俺は何も悪くない。
悪いのは、黒札を使って悪さをしようとしているシアと、樹液が好物のカブトムシのように俺めがけて突進してくる悪霊どもなんだから。
こっちはただ兄に会いに行きたいだけなのに、何でこんな目に……。
「ももたん! ボーっとすんな!」
「ぎゃああああああああああああ、ナニコレナニコレちょっと説明してぇぇ!!!」
現在俺は、ロリに担がれて飛行機と同じ高さを浮遊している。
眼下には、アパートや高層ビルに囲まれた市街の風景がずらりと並んでいる。有名な東京タワーも、今ではミニチュアみたいに小さい。
でも、今はそんな悠長なこと言っているバアイじゃない!
だって、観覧車より高い位置を飛んだことなんて、ないんだもん(泣)!!
仕方なかったんだ。
もう家の周り、庭や部屋、天井にまで数多の怪異が押し寄せて、逃げ場がなかった。
ロリが「スターバスト」だっけ? 必殺技で一掃しても、すぐにまた湧いてくる。
でも、でもさ。
いい年した中学生男子が、女の子(悪魔)に抱えられて無様に空を飛ぶ状況ってどうなの!?
しかも横から逆風が吹きつけるせいで、ロリの羽にバンバン風が当たって体勢がぐらりと揺れる。
「アルジ様ァァァァァァァァァァァァァァ。コッチヘオイデクダサイマセェェェェェ」
「イマ帰ッタヨ、エミリーィィィィィィィィ」
「ギャ―ーーー! 誰だよエミリーって!! エミリーって誰だよ!!」
お化けは空を飛ぶ。まぁ、幼稚園児でもわかることなんだけど、俺はそれを改めて自覚した。
自分の肩越しに乗った、おかっぱ髪の人形が耳まで裂けた口をグワっと開いて、襲い掛かってきた。
「うわっ!!」
「ももたん、ちょっと失礼!!」
突然、ロリが鋭く叫ぶ。
なんだよ、と叫び返そうとしたその時、何かが高速で口の中に放り込まれた。
ドロッとしたジュースのような液体。今まで呑んだことの内容な味だ。
口当たりが良くて、少し酸味がきいてて、微かに甘い香りが………。
「ウガァァァァァァァァァァァ!!」
「うわっっ!」
「ももたん、ユルに続いて言って!『汝、卿(けい)の魂胆を欲す』、さんはい!!」
なんだよその、古典でよくある意味がよくわからないけどカッコ良さそうな文章は!
「ウガァァァァァァァァァァァ!!」
でも、とにかくやるしかない。飲まされた液体の正体も、呪文のような文章の意味も理解できないけれど、もう首の当たりにまで人形がしがみついている。
「な、汝、卿の魂胆を欲す!!」
俺は両目をぎゅっとつぶって、両肩に力を入れて叫んだ。
それと同時に身体から閃光が放たれる。視界が白く染まる中、先ほど自分の部屋で聞いたような悲鳴が響き渡り、それは次第に小さくなっていった。
思わず目を開ける。首にしがみついていた人形や、今にも俺に飛び掛からんとしていた悪霊たちの姿は、もうどこにもなかった。
代わりに、赤、青、黄色などの様々な色の宝石のようなものが、宙に無数に浮いていた。
「こ、これは?」
「これは、悪霊どもの魂の一部。俗にいう人魂? みたいなもん。この魂を使って、ユルたち悪魔は人工霊を作って使役させたり、守護霊としてやとったりするんだー」
「お、俺が倒した………?」
「ユルと契約しただろ?」
「け、けーやく?」
「ユルの、【体液】を飲むことによって、ももたんは正式に悪魔と契約した。これからヨロシク♪」
……………………はい?
今なんて言った? ユルミスの………体液を飲ましただって!??
「な、なんてもんを飲ませてんだよお前はッ!!」
「助けてほしくなかった?」
女の子のッ体液を飲んだ? やばいぞこれは懲役100年あっても足りないじゃないかッ。この場合悪魔だろうが人間だろうが関係ないよ。命を救ってもらったこともちょっと横に置いとくよ。
「なんてもんを飲ませてんだよお前はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!(二回目)」
次回に続く
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.27 )
- 日時: 2021/01/15 18:39
- 名前: むう (ID: mkn9uRs/)
☆5分で振り返るカオ僕☆
僕の名前は百木周。
ごくごく普通の中学生だった僕は、学校帰りに車に轢かれ死亡。
そんな中、僕を天国へ連れていこうとクコという天使が現れ
「10分しか地上におれん」
という大事なことを忘れるアホ天使のせいで天国行きがパア。
そしてあれよあれよという間に、
二重人格の死神やらオカルト少女やらが現れ。
成り行きで『札狩』と呼ばれる悪霊退治に参加する…
流れなんだけど…。
**************
〈周side〉
「チカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
しばらくの空中浮遊が終わり。
背中にコウモリの羽をはやした女の子に担がれて空を滑空していた弟は、そのまま一直線に八雲家の窓から中へ入ってきた。
そしてそのまま、僕の肩に腕を回す。
「朔ッ!? ちょ、ちょ、どういうことか説明して!」
いきなりバカ天使のiPadに変なメールが送られてきたと思ったら、
次の瞬間には弟が空を飛んでいるって、どういうことマジで。
「チカぁぁぁぁ、生きてるぅぅぅぅぅ!!」
いや生きてはないから。
身体透けてるし。
再会できてうれしい反面、僕はあることに引っかかり首をかしげる。
……ん? あれ、なんで朔は僕のこと見えてるんだろう。
ちゃんと、身体にも触れてるし。
双子パワー?……いや違うか。
「あー! パイセンたちお久しぶりです!」
そんな僕らの後ろで、例のコウモリ羽のツインテールの女の子は、八重歯をのぞかせてクコと紗明に笑いかけた。
パイセン……?
「………あんたも一旦どういうことか説明しィや。
うちかて暇やないし、いきなり来られても困るんやで」
「すみません。あのネートルお爺がゴチャゴチャうるさくてぇ」
なんだか言い方が反抗期中の中学生のようだ。
前にクラスメートが教師に対しての愚痴を言っていたのを思い出す。
「ネートル室長を悪く言ったらいけませんよ、ユルミス」
朝は酷く大人しく、夜になるとめちゃくちゃウザいという死神の紗明が、歯ブラシのⅭMに出ているモデルなみの爽やかフェイスで女の子に語り掛ける。
「「「オェッ」」」
この光景を見るのが初めての朔はもちろん。
何度もその理不尽な人格の変化に振り回されてきた僕と八雲も、少々ひきつった顔をしてしまう。
「な、なに、あの人……。
チカもしかしてホントはあーゆー人と付き合いたい系男子だった?」
「……随分とアバウトな言い方だけど断じて違うよ!!」
朔は言動が幼い所がある。
まあそこが可愛いんだけど。
ただ、これだけは言っておく。断じて違う。
僕があいつらといるのは、僕がしたくてしたわけじゃない。
まあ元をたどれば、信号が変わってることに気づかず車にはねられる自分が悪いんだけど。
だからと言って、「10分しか地上におれん」とか、「札狩ライフや!」とか、「おモチくん」とか、そんないざこざに巻き込まれたくて巻き込まれたわけじゃ、なぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!
ハァーハァーハァー。
「それで、どういうことなのか説明して」
「あ、ハイ。パイセンたちがなかなか帰ってこないんで、痺れを切らしたネートルお爺がユルを現場に派遣したんですよ。それで、センパイたちに合流しようと目的地に向かいながら、ちょっと旭山動物園とかでイルカショー見たりしてたんですけどぉ」
お前、絶対合流する気なかったよな?
しかも旭山て。
北海道から東京まで、ケッコーな距離あるけど……。
「青森でリンゴ食べて、秋田でなまはげに会って、静岡のピアノ工場見学して、ここへ着きました」
……お前、絶対合流する気なかったよな?
「んで、まあ、こういうわけです」
と女の子は、右手の親指で朔を指し示したのだが。
ごめん、全く分かんないんだ……。
というか君が5分30秒使って説明できたことは、ネートルお爺っていう人物がうるさかったってことだけなんだよ。
アーメン。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.28 )
- 日時: 2022/10/02 23:36
- 名前: むう (ID: cClyX.aV)
あのあと、朔がどういう経緯があって八雲家に来たのか教えてくれた。
なんでも、黒札がホッペについちゃって、それを狙う悪魔を撃退し、別の悪魔の協力を得て今に至
るらしい。
文章化すれば何かのゲームかなと思う事もないが、そこに「悪魔の体液を飲んで命を救った」と付け加えた時点で一気に違うものになる恐怖。年齢制限なしがR-15くらいになるので注意しよう皆。
「んで、そっちが朔の言ってた協力者?」
「はーい、ユルミス・ローズベリでーす!」
喜色満面で右手を上げ、名乗り上げる悪魔ちゃん。
先輩であるクコに愚痴ったり、急に口調が偉そうになったり、かと思えば女の子らしい表情をしたり。演技力の豊富な悪魔だな。
「えっと、君が朔を守ってくれたんだね。ありがとう」
「いやぁユルにお礼言わなくてもいいし、ユルはパイセンと会えるならそれでよかったし……」
この子、本当にうちの天使の後輩なんだよな。
股を開いたり鼻をほじったり、いつも僕をからかっては笑い声をあげてるクコがなぜか、ユルミスの登場で一気に大人びて見えるから不思議だ。
「あ、あのう、話がぶっ飛んでてよくわからんけど、みんなジュース飲まん?」
「さっすがアルジ様!! あ、俺はコーヒーミルクたっぷり、砂糖5つでお願いします☆」
「注文多すぎるで図々しい」
と、機転を利かせた八雲がお盆を持って立ちあがる。
意外と甘党な紗明の言葉をサラッと受け流し、一階へと消えていく。
それにしても、この部屋にいる人外の数多すぎだよ。
死神に天使に悪魔にって……天国と地獄が共存してるじゃんよ。
えーっと、僕は何をしてるところだったんだっけ?
ああそうそう、札狩について、八雲のお兄さんであるバキュン先輩から講義を聞いてたところに朔とユルミスが割り込んできたのか。
「んーでも、色々あったけど会えて嬉しいよ、チカ!」
「そんなに喜んでもらえると、さっくんを護ったユル偉いって思う! ですよね紗明パイセン!」
「はい、いつも人の為に頑張っているユルミスは凄いと思いますよ」
「……………ふぁ、はい……///」
朝モード(超絶爽やかフェイス)の紗明の言葉に、ユルミスは途端に赤面して黙り込む。
あれ、もしかしてユルミスって、紗明のこと……。
好……。
「あ、俺分かった! ロリちゃんって紗明のこと好きなんだね!」
「っっ?????」
朔ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!??
素直すぎるのは逆にアクシデントを生むこともある。今がそう。
あっさりと秘密をばらされて、殊勝だったユルミスは更に黙り込んでしまった。
「……あの、いや……別にユルはそのようなことなど……」
「ええやん隠さんくても、『天使学科』と『悪魔学科』のみんなにはバレとるんやし」
「え、ええマジですか!?」
「うんうん」
天使学科と悪魔学科??
天国に学校があるのも変だけど学科まであるの!?
優しすぎない?
うーん世界は広いねぇ。
でも、札狩という悪霊退治に、ユルミスと朔という助っ人が来てくれたなら結構有利なんじゃ?
「ところでパイセン。これ、ユルからのお土産です!」
「うわ、『片思いクッキー』! これ食べると必ず片思いになれるやつや」
……結ばれないと意味ないのでは。
と僕が怪訝な顔をしていると、クッキーの箱の包装紙をビリビリビリビリと破ったクコがこっちを見て、ニヤリと笑った。
(ヒッ!?)
なにを考えてんだこの天使。
今明らかに「百木くんをああしてこうしてやろー」って思っただろ!
ぼぼぼ、僕なんも悪いことしてないんですけど。
「まー百木くんも恋愛には疎いみたいだし。この機に、ほいっ」
「グェッッ なんだ、いきなり口にクッキーが……」
超高速で『片思いクッキー』を詰め込まれ、僕はゴホゴホとせき込む。
この後僕がどうなるのかは、ジュースとお菓子を食べた後で伝えようと思う。
みんなもくれぐれも、黒札には気を付けて。ではまた次回。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.29 )
- 日時: 2021/02/09 17:23
- 名前: むう (ID: mkn9uRs/)
〈朔side〉
チカがクコちゃんの手によって一時期再起不能になり、俺は慌てて兄の背中をトントン叩く。
ゴホゴホと咳き込んでいたチカは、渡された水を飲むとようやく落ち着いた。
「だ、大丈夫? チカ」
「う、うん………」
「あはははははは、あはははははは」
明らかに自分の行いを悔いていない様子のクコちゃんが、腹を抱えて笑っている。
その横でロリも必死で笑いをこらえているのが、チカの怒りに拍車をかけた。
「おーい百木くん本当に大丈夫? お水のお替り持ってこようか?」
「あ、いえ……お構いなく……」
「大丈夫ですかチカさん! ほら、ハンカチです。これで口を拭いてください!」
めぐるましく変わる状況に、ただ目を白黒させていた八雲ちゃんのお兄さんがようやくフリーズか
ら溶けて、机に置いてあるコップを手に取る。
そして朝モードの紗明も、歯を光らせながら綺麗なハンカチを渡した。
そのハンカチを受け取り口を拭いたチカは、ギロリと天使を睨む。
その視線の鋭さに、クコちゃんはヒッと息を飲み込み、じりじりと後ずさりする。
「ご、ごめんなさい! ほんま悪かった! 許して!! もうしないから!!」
「お前は僕の天国行きを奪った挙句!! こんないたずらまでするのかよ!」
「だから悪かったって言っとるやん。だ、だって百木くん恋愛に疎そうやしと思て……ヒッ」
だらだらと冷や汗をかき、必死に弁明するクコちゃん。
しかし怒りに燃えているチカには、彼女の言葉は全く届いていない。
俺が仲介に入ろうと立ち上がった僅か0.1秒前。チカはクコの脳天に一発鉄拳をぶち込んでいた。
ゴツッッッ
凄い音がして、クコちゃんの体がぐらりと傾く。
避ける暇もないまま攻撃を食らい、彼女は青白い顔で床に倒れた。
ガチャ。
「はーい、オレンジジュースとコーヒーでーす! ……ってあれ」
「や、やくもちゃーん…………」
一階で飲み物を用意していた八雲ちゃんが、ドアの下に倒れているクコちゃんを見て首をかしげ
る。
彼女がいそいそと支度をしている間、二階では大変なことになっていた。
八雲ちゃんがなんだが気の毒に思えてくる。
「あんちゃん、どうしたん……クコさん倒れてるんだけど……」
「あー、えーーーっと気にしないで。取りあえず飲み物飲んで、これからどうするか話そうか」
「そ、そうなんだ……クコさん、ジュース飲みます………?」
対応に困っている八雲ちゃん。
もう一回言っておく。八雲ちゃんがとても気の毒に思えてくる。
「……………八雲」
「ん? なに、おモチくん」
ふと、部屋に入ってきた八雲ちゃんを見て、チカの動きが止まった。どうしたのかと俺は顔を覗き
込む。チカは頬を紅潮させて、慌てて八雲ちゃんから視線をそらした。何故かはわからない。
「………チカ? どうしたの? まだしんどい?」
「ううん………なんでもない」
そう言いつつも、ちらちらと八雲ちゃんを見るチカの様子に、今度は俺が首を傾げた。おかしい。
さっきまではこんなことなかったのに。一体どうしたんだろう。
もやもやとする中、何故か倒れっぱなしのクコちゃんがニコニコと笑っていた。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.30 )
- 日時: 2021/03/04 18:27
- 名前: むう (ID: mkn9uRs/)
〈チカside〉
おかしい。僕は何度も心の中で首を傾げる。
先ほどから必死に札狩について議論を交わしているクコたちの会話は、僕にとってはあっさりと空気に溶けていったも当然だ。考えすぎてついにくらくらしてきた体を必死に真っ直ぐに戻し、油を売ったことが気づかれないように相づちを打つ。
「――で、思うんやけど、いつ敵が来るかも分からへんから……」
「連絡取ったほうがいいかもしれないってことですね!
私紗明パイセンと個室でオハナシしたいです!」
……個室?
個室って、LINEで言う所の個別チャットっていうことでいいのだろうか。
何故そう言う単語を天界の人間が知っているのかはもうスルーしておくことにしよう。
世界は広い。そういうことにしとこう。
「ということで八雲。百木くんと交換しておいで」
「うん!」
「ふぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!??」
思わず大声を上げた僕に、みんなの視線が一気に集中した。
真っ赤になって慌てる兄をしり目に、朔はくすくすと含み笑いをしていたずらっ子のような目で言う。
「もしかしてチカって、八雲ちゃんのこと好きなの??」
「ち、ちがっっっ」
「ブ――――――ッッ ゴホッッ ゴホゴホッッ」
一階から持って上がったオレンジジュースを口に含んでいた八雲が、盛大に液体を吹き出す。
幸い彼女は部屋の隅っこにいたので他の人の服が汚れることはなかった。
犠牲は淡い桃色のカーペット。
サスペンスの殺人現場のように、敷物の上にじわりとオレンジ色が滲んでいく。
「っっっ!?? ごめん、すぐ拭く―」
「あ、僕が―――」
二人同時に机上に置かれてあった濡れ布巾に手を伸ばすと、自分の手のひらの上に八雲のほっそりとした指がつんと触れた。
その柔らかい感触を改めて感じ、僕は。
「っっっっっ!???」
「……ご、ごめんね、ささ、すぐに拭かなきゃっ」
とっさに横に視線を逸らすと、彼女も恥ずかしさを隠すように慌ててカーペットを拭き始める。
お互い、頬をほんのりと赤く染めて。
僕の様子にしびれを切らしたのか、クコがゆさゆさと肩をゆすってくる。
あまりにも力が強いので、僕の首はブランコのように前後に揺れた。
「ほらほらー。好きなんか? 八雲ちゃんが好きなんか??」
「分かるよ俺。八雲ちゃんって可愛いし、なんかこう守ってあげたくなるよね」
「せや。髪からもいい匂いするし、気遣いできるし、いい嫁さんやん」
と朔と一緒にどんどんと精神を攻撃してくる。反論しようにも、彼らの言葉一つ一つをしっかりと呑み込んでしまい、ますますいたたまれなくなる。
動け口……! 違うんだよ、ホントに違うんだよ。ホントだってば!
「ちょ、やめ…………タンマ………!」
いい加減我慢の限界になり、白旗を上げると、朔とクコはつまんなそうに口を尖らした。
こいつらは完全なるS族である。警戒せよ! 了解大佐!
と頭の中で唱えたところで。
ずっと黙って成り行きを見守っていた(と言うか完全に引いてた)バキュン先輩が、僕の頭にポンと手を当てる。それは多分、僕を安心させようと……。
「大丈夫だよ百木くん。だっていいものじゃないか☆ koiwazuraiって☆」
してませんでしたね。アーメン。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.31 )
- 日時: 2021/03/04 18:48
- 名前: むう (ID: mkn9uRs/)
☆キャラクターFile 紗明☆
【紗明】
性別:男
身長:170㎝くらい
種族:スーパーマッド死神
誕生日:孤児のため不明
誕生花:不明
花言葉:不明
血液型:性格が性格だけに記号一つでは表せない
年齢:500歳ほど。
家族:育ててくれた里親さんがいるらしいけど詳細は不明。
あの子を育ててくれてありがとう。
座右の銘:R.I.P(安らかに眠れ=死神たちの間の『おは!』の意)
趣味:アルジ様とショッピングに行くこと
特技:シューティングゲーム(!?)
八雲と会った時の第一印象:口うるさい姉貴。
ユルミスと会った時の第一印象:かわいい後輩。怒るとやべぇ。
作者から
お前に作者はどれほど泣かされた事か。
とにかく書くのがムズイ。二重人格者、ムズイ。つまりムズイ。
でもお前がいなかったらボケが成立しないこともある。
色々ムズイがコツを掴もうと頑張っている作者です。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.32 )
- 日時: 2021/03/19 15:20
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: mkn9uRs/)
【お知らせ】
現在投稿中の全ての小説に書き込む予定です。
今回新しくトリップをつけてみました。把握お願いします。
あと、私が無断使っているIDが違う場合は、スマホやiPad用ですのでそちらもご了承ください。
メイン PCのID⇒ID: mkn9uRs/
サブ スマホID⇒ID: bQoLP122
これからも引き続きこの小説をよろしくお願いいたします。
また何か質問などありましたら気軽に連絡してくださいね。
あと閲覧数900突破、本当にありがとうございます!!
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.33 )
- 日時: 2021/03/31 19:19
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: mkn9uRs/)
「……ふんふん、ああ、OKOK。ちゃちゃっとやるから、うん」
日にちは変わり、一週間後のある日のこと。八雲家から徒歩10分程度の場所にある【きらら駅】。その構内にあるクレープ店の前に彼らはいた。
中学3年生くらいの背丈の、男の子と女の子の組み合わせだった。
女の子の長い黒髪は高い位置でツインテールにしてある。
今時流行りの短いスカートと、ブランド物の裾がふわっとなった黒地に猫のプリントがされたパーカー、丈の長い紺のソックスのファッション。
前髪はこけしかと思うほど綺麗に短くそろえられていた。
男の子の方は、学校の制服なのだろう。
白いカッターシャツに、ほどよくアイロンの行き届いた黒いズボン。
「……どうだった、連絡取れた?」
男の子が、電話を切った女の子の方に視線を向けた。
女の子は男の子と目が合うと、いたずらっぽく頬に人差し指を当てて微笑む。
「バッチリだよ。だからキョーちゃんも心配しなくて大丈夫」
「……そう。それならいいや」
キョーちゃんと呼ばれた男の子は、満足そうにニッコリ笑う。
笑うとえくぼができる彼の優しい表情が、女の子は好きだった。
「ウチらって結構仲良さげ?」
「知らないけどそうなんじゃないの。御影とは付き合い長いしね」
「まぁね~」
二人は並んで構内を歩いていく。
傍から見れば、二人はお似合いのカップルのように見えたかもしれない。
しかし彼らの関係は、そんな簡単な言葉では表せないものだった。
男の子—佐倉享介と女の子—御影月菜の付き合いはまだ浅く、出会って2カ月にも満たない。中学は別々、幼馴染でも、習い事で一緒なわけでもない。
でも彼らは、『ある目的』でコンビを組んでいる。
「ほんと嫌になっちゃうよね。パディほったらかして姿消すなんてさ、悪魔もよくやるよね」
「……御影が使えないんじゃないの。そもそもコスメ系YouTuberなんて、数カ月もすればネタもお金も尽きて、そのうち飽きるのが落ちなんだよ」
お金の関係で買えなかった苺クレープが並んでいるショーケースから未練がましく離れた月菜は、享介が怒らないのをいいことに愚痴を言いまくる。
享介はそんな彼女を別に咎めたりしない。うるさいなくらいは多少思うけれども、「この頃の女子はみんなそうだし」と父親的な精神状態になるタイプだった。
月菜は最近人気の中学生YouTuber&ティックトッカ―で、大手人気YouTuberともコラボ動画を上げてるほどの実力家だが、メディアに疎い男子代表キョーちゃんにはそのすごさがいまいちわかっていない。
いつもこうやって鼻であしらわれるが如し。
「それまでに沢山ネタ集めてフォロワー増やすもんね」
「もうすでに50万突破の人間が良く言うよ。だいたいなんで君がこんなことやってんのさ。ただのじゃじゃ馬? それともエゴ? かっこつけ?」
亨介はかなり口が悪い。本人は自覚がないが、その静かな攻撃は徐々に乙女の心をえぐっていく。
月菜は肩眉をひそめると、たいして悪びれていない男をギッと睨んだ。
「……あんたには関係ないでしょ。そもそもウチは今の状況に満足してるしね」
「………僕らは黒側だよ。それ分かってる?」
諭すように、低い声で亨介が告げる。反対に、月菜はニンマリと口角を上げる。彼女は何か特別な考えがあるときや、質問の答えが分かったときなど、こういう顔をよくするのだった。
「札狩たちの敵……ヴィンテージQ班。グループコード名『ゼノ』。ウチらはヴィラン(敵)」
「……ま、札狩も、よもやヴィンテージの中に人間がいるとは考えないだろうね」
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.34 )
- 日時: 2021/04/05 20:40
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: mkn9uRs/)
〈月菜side〉
ヴィンテージ。それは、札狩をよしとしない者たちのグループのことである。
AからQ班までに分かれており、それぞれ3~4人の組織で秘密裏に活動している。
昔は『あっちの世界の人』たちだけだけでコンビを組んでいたようだけれど、最近は人間の協力者を見つけて、共に仕事をすることが多い。
ウチとキョーちゃんにも専属のバディがいて、指示は大体その子からもらっている。最も、こちらは人間なので、できるのはターゲットとの接触とか情報収集がメインなんだけど。
ウチがなんでそんな仕事をしているのかはまだ伝えることが出来ない。
ただ、今の生活に飽き飽きして、という理由が一つある。
中学1年生になったと同時に始めた、メイクテクニックを紹介する動画投稿。バズるために何かしたとか、そう言うことでは全くないのだけど、不思議と登録者数が日々右上がりしている現実。キョーちゃん曰く『漫画でよくある天才タイプ』らしい。
何か予習をするとか、そういうことは何一つしていないのに要領の良い奴。
それからはもう芸能界入りと言うか、毎日がとにかく忙しく、はっきり言って前の生活に戻りたいとも思う。
……でも、ウチがこんなことをしている理由はもっと別で。
「あーっ! きょーるなちゃんたち、待ってましたぁ♪」
駅の構内の、使用中止のトラテープの目立つ階段の陰に、キョーちゃんと一緒に滑り込む。
先に来て待っていたウチの雇用者が、八重歯をのぞかせて妖艶に笑った。
「……あんたさぁ、一カ月も連絡ないとかマジで怒るよ」
「あー……あのね、色々あったんですよ。ジュジュとの顔合わせとか、あっちの執務室にいるユンファンとか、フリルとの連絡とかぁ」
人名みたいなものが聞こえてきて、ウチらは首を傾げた。
ま、それはいいとして、と彼女はポンと手を打って、
「では、第2回、Q班連絡調整会議を始めまーす! 司会のプリシラ・ローズベリです!」
「………QRCってまだ2回目なんだ……一回目ってなんだっけ」
「……さあ。いつもフツーにスタバでお茶して解散だったし」
Q班連絡調整会議‐略称QRCは、今後の活動の方針を決めたりする会議のことで、月一回この場所で行っているのだけど、まともな活動は実は今日が初めてだ。
「ということでまずはルナルナの仕事なんですが……ある方とお友達になってもらいますね」
シアは小脇に抱えたバインダーから資料を抜き取ると、折り目を丁寧に開いてウチの前に突き出す。そこにはターゲットの似顔絵と現住所、出身中学校名と年齢が書かれていた。
『東京都S区北11番地 に居候
百木周 男 15歳 天海学園付属中学校出身』
「へぇ、天海付中……。成績いいんだぁ。キョーちゃんどこ中だっけ」
確か天海学園付属中学校は私立で、偏差値が70くらいあって、入試での合否の境目がかなり厳しいと噂だ。
この百木って子、つまりすごいできるんだ。
勉強はかなりヤバめのウチからしたら、毎日拝んでも足りない。
「………桜ヶ丘学院」
「え、桜ヶ丘って、天海の姉妹校の? 偏差値同じ位だよね?」
「そうだけど何?」
………う――――わっっっ。
そうだけど何ときたよこいつ。
ウチは心の中で盛大に舌打ちをしてやった。これだから困るんだよな。
「つ、つまりウチはこの子と会えばいいわけね」
「そうなりますねぇ」
「……僕は?」
仕事が割り振られていないキョーちゃんが、試すような目でシアを睨んだ。
その視線の鋭さに少し気負わされながらも、シアはテキパキと仕事を教えていく。
「キョーちゃんは、引き続き潜入調査ですねぇ。と言っても普通にご自分の学校へ行き、黒札をこっそり人間に貼るだけの作業ですが、アナタは上手ですので」
「……まあね。シール貼るのすっごい好き」
以外に子供っぽい一面に、ウチは目を丸くした。
と言うのも、この前彼に「シールってなんか子供心くすぐるよね」と言ったら「へぇ」と返されただけだったのだ。
「へぇ」だったのに! なにが「シール貼るのすっごい好き」だ!
あの冷めた目はどこへやった!
まぁキョーちゃんはこういう人間なのはこれまでの付き合いで分かっている。
「じゃあシアは? なにするの?」
ウチらに指図をするのが仕事ではないと前に聞いたが、彼女が他に何をやっているのか、上司はいるのか、肝心なことは何一つ知らない。
これまで明らかになったのは、『ヴィンテージ幹部』という肩書と名前のみ。
つまりコイツが、このヴィンテージを牛耳ってる、いわばラスボスなのだ。
まぁ幹部と言う話だから、その上はいるんだろうけど。
「私ですかぁ。そうですねぇ。カラオケですかね」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
柄にもなく、キョーちゃんが大声を張り上げる。
「何ですか? 悪魔の世界にもカラオケの概念はありますよぉ」
「へぇ、なに歌うの?」
「中島み〇きの『糸』ですね!」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
今後はウチが答えを張り上げる羽目になった。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.35 )
- 日時: 2021/04/12 18:59
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: mkn9uRs/)
〈朔side〉
それからさらに一週間後。
札狩に参加すると言っても毎日悪霊と戦うわけではないので、最近はほぼ自分の時間を有意義に使うようにしている。その中で得られた情報などをチカたちと共有し、計画を立てるつもりだ。
と言うのも俺はまだ生者だし、今年は受験生なので、おちおち学校を休んでなんていられない。学力がもともとそんなに高くないうえ、下手したら私立に『転ぶ』かもしれないが、やってみなきゃまだ分からない。
俺の通う中学は公立のK中学。全校生徒は600人程度で、公立だから偏差値なんてないのが当たり前。でもその分高校へ進学する際にかなり背伸びをしなければいけなかったりして、かなり心身共に疲れてしまう。
今日も、俺は三年生対象の進学模試終了の疲れで背中を丸めて帰っている。
国語とかマジで意味が分からない。せめて問題文をラノベなんかにしてくれれば、いくらでも感想は書けそうな気がする。時間配分だってきちんと決めることができるだろうし、第一問題の書き取りなんかはアニメのキャラ名だけでも十分な勉強になると思う。最近は難しい漢字のキャラが多いから。
バカな考えを頭に浮かび上がらせながらガラケーをいじっていたものだから、ある人から不意に声をかけられた時は、思わず喉の奥から変な声が漏れた。
「……ちょっと聞きたいんだけど」
「ひゃっふぅぅぅぅぅぅ!???」
突然肩に手を置かれ、俺は目を白黒させる。ドクドクと暴れ回る心臓を服の上から抑えて振り返ると、声の主は気まずそうに笑った。
「……驚かせるつもりじゃなかったんだけど……勝手に驚いたからこっちも驚いたし」
「…………はぁ」
あ、この人嫌いなタイプだ、と真っ先に思った。
歳は同じ位。白いカッターシャツの胸元には、地元で有名な難関私立中学「桜ヶ丘学院」の刺繍がほどこされていた。
「……何か用ですか?」
「……あ、まあね。あのさ、僕桜ヶ丘学院の生徒なんだけど、天界府中に仲良しの友達がいて、百木周って言うんだけど、そいつ事故で亡くなったらしいから、家に挨拶に行こうと思って……」
………チカの友達?
こういうのもなんだけど、チカが家に友達を連れてきたことはまだない。友達と呼べる人がいないと前に自分でそう言っていた。
もしくは、チカが恥ずかしがって言っていないだけで、仲良しの友達がいたのだろうか。
「……百木周は俺の兄ですが」
「やっぱりね。……顔似てるからそうだろうと思ったよ」
「つかぬことをお聞きしますが、あんたのお名前は?」
俺はロリ(ユルミス)と(不本意ではあるが)契約を結んでいる。そのため、短時間なら悪魔の術が使えるようになっている。実際悪霊に狙われた経験のある俺に、ユルミスは『近づいてくる人は誰でも敵だと思え』と口酸っぱく忠告していた。
「僕は佐倉亨介。ESSクラブに入ってて、たしか姉妹校同士の交流も盛んだよ」
「………百木朔です。どうも」
………佐倉亨介。表情はおっとりとしているが、その双眸からは僅かな敵意が感じられる。何者なのかは分からないが、取りあえずは警戒しておいた方が良さそうだ。
俺はチカの弟だ。よって、兄を守る義務がある。こうしょっちゅう何者かに狙われる生活もどうかとは思うけれど、黒札の資格者になってしまった以上それはしょうがない。
「チカに友達がいたなんて知りませんでしたよ。ぜひ、家に来てください。きっとチカも喜びますよ」
さて、……この怪しいお尋ね者は俺が代わりに担当しよう。バディの初めての仕事だ。またピンチになったらユルミスにでも声をかければいいや。
俺は心の中で何度も頷き、亨介ににっこりとほほ笑む。
これはあくまでも表面的な態度で、本当は睨んでやりたかったがあまり刺激はしたくない。
「……ところでさ、そのホッペについてるやつ、何? 最近のアニメグッズ?」
「!」
恭介は両目を細めて言う。俺の肩が跳ねたこと、彼には分かっただろうか。
「流行りの最先端だよ。もしかして佐倉くん、知らないの?」
と鎌をかけているふりをするが、自分は何を言ってるんだろう? とセリフの選択を間違えたことに内心冷や汗タラタラ。
「? どういう意味」
「最近流行ってるんだよ。デーモンコロシアムってゲーム知らない?」
………俺も知らないです、ハイ。
チカが大好きで、普段全然ゲームとかしないのに、そのアプリだけインストールしてたからタイトルだけ知ってるだけで。いやむしろ、タイトルしか知らないや。
よって、自分の偏見と直感と想像だけで語る流れになってしまう。きちんと筋道をたてて話すことができない俺は、背中から腰に向かって流れる冷や汗の冷たさに体を震わせた。
「そのゲームでは、登場人物はみんな痛いシールつけてるの?」
「そ、そうなんだよねっ!」
ごめんなさい! ゲームの製作者さんごめんなさい!
恭介の悪意のない質問が、俺の繊細な心に穴を開けていく。知ったかぶりという必死の攻撃を、純真という攻撃で防御している。
「つまり君、もしかして『シール貼ったら俺もこのキャラになれる』的な思考回路なんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・ち、チガウヨッ!?」
彼の、毒舌—と言うのだろうか。
人の観察するような、試すような視線や言葉選びが、俺は少し、いやかなり苦手だ。
これからこの人を自分の家に連れて行くのか。持つかなぁ俺のメンタル。
どうか壊れないでくれよ。そして頼むから何も起きないでくれよ。
初対面の人を、いきなり敵扱いはしたくない。
でも、この世界はどうやら俺(かチカ)中心にめぐるましく変化しているようで、そういう願いは大抵、人を困らせて喜ぶ神様によって、あっさりと裏切られるのだった。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.36 )
- 日時: 2021/06/17 13:55
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Wb6EMeB7)
お久しぶりです。
………「札狩ライフ始めました」っていう章題なのに
まだ一度もガチで戦っていないカオ僕メンバー……。
こっから本気出します(むうが)
********
〈八雲side〉
キーンコーンカーンコーン
私こと、栗坂八雲は六時間目終了のチャイムと共に校門へと駆け足で向かう。
私が通っている中学校は、駅前にある公立中学。
部活にも入っていない私は、今日の夕方にやるアニメ『モンスター・モンスター』略して【モンモン】をリアタイするために、只今階段を三段跳びで降りている。
モンスター・モンスターは、『少年ジャンク』っていう少年漫画誌で絶賛連載中の漫画が原作。
学園もの×妖怪幽霊もので、オカルトマニアな自分は連載当初からずっと推している。
それがなんと、アニメ化するなんて!
「急がないとっ。うちのテレビちょっと電波悪いから録画とかも最近してないし……」
トントントントントン
………ジ様!
「あぁぁぁぁあ、急げ急げええぇぇぇぇぇ!」
………ルジ様!
トントントントントン
もうなんなの~!? さっきから後ろで聞こえる甲高い声。
いい加減ムッと来て振り向くと、宙にふわふわ浮いている彼と視線が合った。
「アルジ様! 話しかけてなのに無視って俺マジサッドで今絶賛cry(くらい)気持ちです」
「あーもうあんた今話しかけないで!」
宙に浮かんで、右左に揺れているのは、私の相棒(?)の死神・紗明だ。
朝は酷く大人しいが、夕方の夕暮れ放送が鳴った瞬間に今のようにウザくなる、めんどくさい二重人格持ち。
悪霊を退治する札狩という職業をしていて、 強いことは強いらしいのだが、言動が言動だけに「コイツ絶対雑魚じゃん」とみんなが思っとる。
「ホワイ!? てゆーか待ってくださいアルジ様! 俺はマジで真剣な話を……」
「あーあー、帰ってからにしてくれる? 今日私急いでるけん」
「だってゴキブリの弟からメールもらッとんねん! これ、見ないとかマジでありえへんわ。マジでわっち泣きよるわ。マジでわっち……アルジ様………」
マジマジうるっさい。あとなんで急に方言っぽくなんの。
私は広島出身だからときどき広島弁が出るけど、あんたのその関西弁はなに!?
てかあんた、大阪出身でも日本出身でもないじゃん!!
紗明のすすり泣く声が、階段を降りるBGMと化すのがつらい。
早く帰りたいのに、いつもこうして邪魔してくるので、帰りはよく遅くなる。
うちで、百木周ことおモチくんとあんちゃんが待っとるのに……。
はーっ。やっと一階についた。あとはこのまま、渡り廊下を抜けて校門を出るだけだ。
たったこれだけの過程が、とても大きい迷路を脱出した時のように疲れを与えるのはなぜ。
「それで? 用事ってなに? 聞いてやるけぇ言うてみ」
「アルジ様の方言ってめちゃくちゃ萌えますね! もうワンテイク行ってみます?」
「………………さっさと要件をいえ、このダボっっっっ!!!」
ふーふーっ
顔を真っ赤にして怒り狂う私に、流石にやりすぎたと感じたのか紗明の表情がしゅんと萎れる。
口をとがらせて、指先をもじもじさせて。
時々ちらちら顔色を窺ったりなんかもしてると、黙らなければ可愛いのにと思う。
「す、スミマセン………もうしません。もう……しませええぇぇぇん………」
「………なに? 要件」
目いっぱいに涙をためる紗明にうんざりと返すと、紗明は手の甲で涙を拭って、
「ゴキブリのっ……ぐすん……弟からメールが来てっぐすん……なんか、アヤシ—奴がゴキブリの友達で、居場所を知りらしいから、万一の為に後付けてくれって……」
「おモチくんの居場所ぉ? なんでそんなこと気になるんじゃ」
「俺に聞かれてもアイドンノウですよ! 俺言っとくけどIQマジ低いんで! 舐めんといてください」
低いのは分かるし舐める要素もないわ。
うーんでも、確かに怪しいことは怪しいし……。うーん……。
おモチくんの居場所が知りたいなら、そのままスマホとかで調べるほうが効率がいいと思う。
なんでわざわざ、朔くんに近づいたんだろう……。
朔くんは黒札の資格者。彼の周りにいる、無害な霊なんかも黒札の力で寄ってくる。
そして、有害な悪霊なんかも黒札につられて集まってくるから……。
相手は、もしかするとおモチくんじゃのうて、朔くんが狙いじゃないかいな?
札狩のなかには、黒札が狩られるのをよしとしない輩もいるようじゃけえ。
うーん。
モンスターモンスターのリアタイは、悔しいけど諦めよ。
後でまた見れるんだし、あんちゃんに頼んで録画してもらうことにしよう。
「よし紗明、行くよ」
「え、ど、どこですか!? ウェア!? ウェア・イズ・ドコ!?」
アンタいっぺん英語の文法から勉強した方がいいよ。
ウェア・イズ・ドコって……日本語訳したら「どこですどこ」になるし……。
Q:Where is doko?
A:知らんわ。
「その怪しいやつをつける。ほら、いつだったか見せてくれた透明化! それか飛行!出番!」
「………えー、でもあれ、クソ操作めんどいんすよ。マジだるいですって。やりたくね……」
「………さぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁきぃぃぃぃいい」
「ハイやります!! いますぐ!! すみませぇぇぇん!!」
いつもこう。主様(と勝手に決めつけられた)の私が彼の尻を叩いてやるのだ。
いやほんと、コイツ本当に強いのかなってなんども疑ったし、みんなそう思ってるでしょ。
……こいつ、本当の実力はかなりのもんよ。
まぁ見といて。絶対驚くけん。
「……コードは!? A? B?」
「B! 出力50%、目的地は朔くんの背後!」
「りょーかいです!! ……久しぶりっすねこれ。行きますっっ。ウィーキャンフラァァイ!」
紗明が私の体を姫だきする。姫だきってなんのことが分かんない人へ、お姫様だっこのこと。
その状態で、バサッッと言う羽ばたき音。
首の角度を変えて、音のした方を見やると、いつもは閉じている紗明の背中の羽が大きく開いていた。
……念のため言っとくけど、彼の羽っていうのは皆さまが想像したようなもんではなくて。
天使の羽……クコさんみたいな立派なもんではなく、言うならば……。
鴉の羽程度のちっちゃな奴が、たくさん集まってできた、飛ぶにはなんとも心配になるような、黒い羽だった。
「………マジで言ってる?」
「大丈夫っス、死神のパワー舐めんといてください。俺の術をいったん発動します、それをバァァンってバクハツさせて、その風力でグゥゥゥンと上に上がるわけっす。イーズィーっしょ?」
「完全能筋プレイやん」
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.37 )
- 日時: 2021/09/04 17:39
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Iawl57mY)
お久しぶりですっっっっっ。
もはや失踪しすぎて誰か分かんなくなっている今日この頃ですねっ。
二次創作(紙ほか)にてろくきせシリーズ書いてました、どうもむうですっっ。
歌うたうのとお絵かきが好きですっ。歌い手志望ですっ(聞いてないわ)
(そして更新全然してなくてスミマセン! あれから筆が進まなくてですね……)
今日ふと思ってここに来てみたらあらびっくり←
こんなw こんなカオス満載&ちゃんとした戦闘シーン今だに一ミリもない&キャラ濃すぎの
小説(と言えるのか?)が大会銅賞ってマジですか……!?
いやほんと、びっくりだわぁ………。
更新は亀並みに遅いですが、これからも応援よろしくまっ(何語)
※むうは元々テンションこんな感じです。
あ、あと一つお知らせなんですが、紙ほか版の「ろくきせ恋愛手帖」の件でお知らせを一つ。
ほんとーに申し訳ないんですけど、コラボ短編を削除して完結処理をして、ろくきせシリーズはこ
れにて締めようと思います。
会話文短編集閲覧数3000突破、続編閲覧数11000突破、すごい感謝してます。
最近は学校とか、持病のメンタルヘルスの件でなかなか更新はできないですが、時々ふわりと戻ってきたりイラストぶん投げに行くので(ゑ?)見かけたらまたよろしくお願いします!
追記:いやはやびっくりだよ))もうええわ
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.38 )
- 日時: 2021/09/16 22:08
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: DkL3srzs)
皆さんこんばんは。カオ僕の可憐なヒロイン(?)栗坂八雲です。
広島生まれ東京育ちのごくフツーな生活を送っていた私は、ある日道端に倒れている謎の男を見つけ。
このまま死なれたら困るわと家に呼び(!?)おにぎりを食べさせてあげたのが全ての始まりでした。
まさかその男が死神で、札狩っていうカッコいい仕事をしてる割に馬鹿で、どうしようもなくめんどい奴なんて考えてもなかった。
そしてそのまま時が過ぎ、現在私はなぜか。
空を飛んでいます。
それも、スマ〇ラみたいにバビュンッと光の速さで……というわけでもなく。
いうならばタンポポの綿毛が子孫を残すべく風に身を任せるような感じで、フワ~~ッと浮いている。
「………バァァンッってバクハツさせる言うてたやん……あれ嘘だったん?」
背中に生えたちっちゃな羽根を必死に動かして飛んでいる相棒の死神・紗明の表情を盗み見ると、彼は何とも言えないような苦い表情で目をそらした。
「なんか、いざやってみたら『あれ? できねえな? およ?』と思いまして……」
「……………………………馬鹿なの?」
「いや、そんな訳ないと思うっスけどねぇ」
十分バカなんだよ。だいたい、術の風力で自分の身体&主人の身体を持ち上げるなんて不可能だ。
まぁ、非常に亀スピードではあるが着実に目的地へ向かっている点だけ、ある意味助かったかもしれないけど。
眼下に広がる街を眺めながら、どこかにターゲットである朔くんの姿がないか確認。
だがしかし、ミニチュアのような細々とした風景で人を探すのはかなり難しい。
『人がゴミのようだ』で有名な某映画の悪役の気持ちが分かった気がする。
人間の三十倍目がいいという死神にサーチを任せ、私は決して乗り心地がいいとは言えない彼の背中の上で小さく伸びをする。
「天界の学校では、次席を取るくらい頭ベリー良かったんすけどね」
「嘘つけぇ!」
「嘘じゃないですもん! ホント―ですもんッッッ!!」
心の底からそれはないと思った。その気持ちの強さが叫びに変わり、否定された紗明はムッとして言い返す。
「クコの方がはるかに俺より劣ってましたね! だいたい俺とクコとユルミスだったら、クコ<俺<ユルミスの順で頭いいんすよ」
「あんた次席ってさっき言ったじゃん!!!」
一番じゃないやん!
そもそも年下のユルミスちゃんに負けてるじゃん。絶対嘘。認めない。絶対嘘だ。
と、ガヤガヤと言い争っていると、紗明がなにかを発見したようだ。
話を止め、ある一点をじっと凝視する。目を凝らしてみると、ファミマの駐車場にゴM……(ゴホンゴホン)男子二人の姿があった。朔くんと、噂の男の子のようだ。
「……どうします? 右ストレート決めて逃げます?」
「せんでいいから、とりあえず着地して」
「アイムワカッタ」
「あんたの英語どうなってんの?」
フワ~~。
着地の際も、スーパーヒーローみたいに高いとこから土ぼこりを立てて……というのではなく、あくまでフワリと、後遺症も着地の衝撃も全く気にしなくていい、超超安全な降り方でした。保険料もかかりません。
ストッッ。
背中から地面に降りた私は、急いで辺りを見回す。
入り口付近で、朔くんと例のおモチくんの友達(自称)・享介くんがコーラを飲んでいる。ときどきお互い談笑したりと、仲睦まじい様子である。
………勘違いだったのだろうか。
今の今まで亨介くんが、黒札を狙う敵だと思い込んでいたけど、本当におモチくんの友達なのかもしれない。ただ普通に家に行きたいから声をかけた、ただそれだけのことかもしれない。
ちょっぴり肩透かしを食らったような、何とも言えない虚無感を抱いた。
突き出した右手は何も掴むことなく空を切る。
「あ」
と、こちらに気づいた朔くんが視線を向ける。来てくれたのかと、連絡してよかったというような、ほっとした顔で。
そして、隣の亨介くんを窺う。さっきまで穏やかだった彼の口元は、きつく結ばれていた。目つきは鋭くなり、目の奥の光が消える。
明らかに数秒前とは異なるオーラに、私も、そして紗明も無意識に肩に力を込めた。
彼を直視できない。全身から放たれる圧に、心臓がおびえているんだ。
「あぁ……朔くんのお友達ですか? お世話になります」
礼儀正しく腰を折った亨介くんの言葉は、どこかざらついていた。言葉にできない恐怖があった。
大きく深呼吸をして、必死に私は冷静を装う。
今まで紗明につき合って退治してきた霊たちとは明らかに違う。現時点でのラスボスは、この子だと確信する。
「なんでそんな、幽霊でも見たような顔をしているのかな? ………ひょっとして」
僕が怖いのかな?
と、ぞっとするような低い声で囁く。
ヒュッと口から変な息がもれた。
いつもは殊勝な紗明でさえ。いつも明るい朔くんでさえ、その声を聞いた途端血の気がスッと引いた。
固まる一同を一瞥して、ポケットに手を突っ込み亨介くんが目の前にあるものをかざす。
良く知っているそれは、朔くんの頬にもついている、悪霊をおびき寄せる札、黒札だ。
「………………ごめんけど、君たちには邪魔されちゃ困るな」
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.39 )
- 日時: 2021/10/11 12:09
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: AzYdFFfX)
〈朔side〉
「ごめんけど、君たちには邪魔されちゃ困るな」
突如、気配が変わった亨介に、俺は警戒心を崩すことなく数歩下がって距離を取る。
彼が顔の前に掲げた物、それは、俺の頬にも貼られてある黒札だ。
悪霊を簡単におびき寄せてしまう、天界で流通しているグッズ。
非常に粘着力が強く、一度人の身体や物に貼りついたら、札狩という悪霊退治を行うものでなければとることは出来ない。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
俺は両手を広げて、亨介に叫ぶ。
いくら自分を狙いに来た刺客だったとしても、俺はこいつと戦いたくはない。
だって、目の前に居るのは人間だ。下手に手を出して、怪我をさせたくなかった。
「なんか理由があるんでしょ!? 理由があるから俺を狙ってる、そうだろ? どんな理由かは知らないけど……。悩みなら聞くし、こう見えてもけっこう相談とか受けるの得意なんだ、だから……」
しかし、そんな言葉に対して亨介は態度を変えることはなかった。
厳しい目つきのまま、俺を斜めから見やる。その視線の鋭さに、ゾッと背筋が凍った。
「理由……? 言うわけないじゃん。馬鹿なの? もしかして、一緒に仲良くできるとか思った?
安上がりもいいところだね」
「ッちょっと、それは言いすぎ……ッ!」
俺の横で話に耳を傾けていた八雲ちゃんが、眉間んにしわを寄せて怒鳴る。
なにも自分に言われたわけじゃないのに、自分のかわり怒ってくれる優しい性格の八雲ちゃん。
でも、そんな少女にも目の前の敵は容赦ない。
「言ったところで君らに何ができる? 君らは札狩で僕はヴィンテージだ。お互いに対立する立場なんだよ。いくら手を差し出されたって、仲間になんてなるものか」
ヴィンテージ……。前にクコちゃんに聞いたことがある。
札狩をよしとしないものの総称だ。
ヴィンテージの中には、彼みたいな人間もいるのか……? 自分の意志で、こんなことをしてるのか……!?
「あなたはそれでいいの? そんなことをして、それで幸せ?」
「うるさいな。幸せを連呼する暇があるなら、…………攻撃でも避けてみろッッッッ!!」
享介が腕を振りかぶる。黒札はヒュウッと風に舞い、黒い靄へと変化する。
その靄から、大きな黒い何かが………。
な、なんだあれは……。
大量の悪霊。映画とかでよく見る、貞子みたいなものよりもっと醜い。
まるで、ドラ〇エのスライムのような。どこが手足でどこが眼なのか、それすらも分からないような悪霊たちが、どうっとコンビニの駐車場を埋め尽くしていく。
「ウガァァァァァァァァァァッッ」
という奇声をあげて。
「馬鹿じゃないのかっ! 結界もなにも貼ってないとこでこんなことしたら、人間どもらみんな死んでしまうぞっっ」
「別にいい。人間なんて所詮、限られた歳月の中でしか生きられない無力な生き物だから」
だからって、こんなこと、許されるわけないだろ!
そう反論したかったけど……。
ガシッと俺の右足が悪霊スライムの中に埋もれてしまって、そのままステンと尻餅をついてしまう。
ドスンッッ
「う゛ッ!」
お尻が痛い。大分派手に打ち付けてしまった。
いや、痛みに悶絶しているバアイじゃない。今はまだ通りやコンビニ店内に人がいないからいいけど、そのうち店員さんや客が来てしまったら。多分きっと、このスライムの餌食にされてしまう!
「……八雲ちゃん、紗明! 早くしないと……!」
「わかってるっ! とりあえず、こっちの駐車場は私と紗明で何とかするっ! 朔くんは人が来ないか見張るのと、おモチくんに連絡して!」
「わかったっっ!」
八雲ちゃんの適切な指示を聞き、俺は慌てて駆けだす。
しかしスライムのせいで、なかなか足が動かない。
もどかしい気持ちを抑えながら、必死に足を動かす。
いつもは使えない(と言ったら失礼だけど)紗明も、今回ばかりはグダグダしてはいられない。
今までなぜ本気を出していなかったのかと思うくらい、迅速なスピードでスライムに拳を入れて行く。
「アルジ様、早く結界を貼りましょうっっ! 呪文教えたの忘れてないっすよね!? おいゴキブリ弟! なにボケっとしてんだ、さっさと行けぇ!」
この、鬱陶しいスライムめっっ。お前らなんか、ゲームのなかでは強さなんてザコなのに!
なんでこんなに強いんだよっ。俺の足がそんなに好きなのかっ。
ベタベタ触ってくんな、出るとこ出たら有罪だぞ!?
「あ゛ぁぁぁぁぁもうっっ。うっっざいんだよ! スターバスト!!!!!」
バァァァァァァァァァン!!
呪文を唱えると同時に、凄まじい威力の爆風が身体から解き放たれ、目を開けた時にはさっきまで俺の足にまとわりついていたスライムは灰へと化していた。
………マジか。強すぎるだろ、「スターバスト」。
ユルミスの体液を飲まされて、言われるがままに契約をしちゃったけれど……。
ありがとうユルミス!!!
目の前が一気に明るくなる。
進路をふさいでいた敵も、呪文一つであっという間にピチュンとはじけ飛ぶ。
走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れっ。
俺がみんなを助けるんだっ。俺がチカを守るんだっ。
こんな俺でも!黒札の資格者になった俺でも! やるときはやるんだっっっ!
「ズ・ポモ・ア・デレ・エネ・ワオ!!」
八雲ちゃんが呪文? 見たいなものを唱えると、白い光が発生し、幕のようにコンビニを包んだ。
恐らくこれが結界だろう。よかった、これで関係ない人たちが襲われるリスクは減る。
ズボンのポケットに手を突っ込んで、携帯を取り出す。
電話帳を急いで開き、「百木周」を開き……。
「ウガァァァァァァァァアァァ」
「だぁぁぁぁもう、電話くらいさせろよっっっ! おらっっ」
携帯を持っている右手の上に、スライムが乗っかってくる。
そんなに俺の手が好きなの? なんかいい匂いでもするのかな!? 可愛い奴め。
……なんて思うわけなく、遠慮なく俺は左ストレートをスライムにお見舞いする。
ボキッッッッッッ
凄い音がした。普通ポヨンとか、そういう可愛い音がするんじゃないっけ。
ボキッッって。なに、俺まさかスライムの大事な部分を破壊してしまったとか……?
おそるおそる自分の左手を見ると、小指があり得ない方向に曲がっていた。
じんじんと痛み出す。ちょっとでも力を加えると、激痛が走った。
「…………………マジかよぉおおおおぉ!?? 」
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.40 )
- 日時: 2021/09/28 19:55
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Wg4W7im6)
☆キャラクターFile 栗坂八雲☆
【栗坂八雲】
性別:女
身長:152㎝
種族:人間
誕生日:10月9日
誕生花:ホトトギス
花言葉:「永遠にあなたのもの」
血液型:O型
年齢:12歳(中1)
家族:兄(大学一年)、妹(小4)、父
座右の銘:振り向くな、後ろには夢がない。
趣味:映画鑑賞、アニメを観る、漫画を読む。
特技:紗明を手なずけること
好きな食べ物:プリン。カラメルがあるとさらによし。
嫌いな食べ物:しいたけ
きのこの山派? たけのこの里派?:たけのこ。チョコがいっぱいあるから好きらしい。
作者から
八雲ちゃんには感謝しても仕切れないところがある。
唯一の常識人。弱気な主人公のチカと、めんどくさい紗明を優しくサポートしてくれる頼もしい子。 好きだよ、八雲ちゃん。。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.41 )
- 日時: 2021/10/02 20:22
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Wg4W7im6)
〈クコside〉
「すごいで百木くん! ほらもうこのサイトに名前が載ってるやん!」
「……なに? 今忙しいんだけど……」
シュコー………。
ブロロロロロロロ………。
狭い室内に掃除機の音が響く。
八雲ちゃんたちが家を留守にしている間、うちと百木くんは八雲ちゃんの代わりに家事をしたり、町内をパトロールしたりして着々と仕事をこなしていた。
そんななか、ついに今日、札狩で高収入を収めた人の名前が記載されている天界のサイトに、〈Angel・Hunters(エンジェルハンターズ)〉に、百木周の名前が記載されたのだ。
興奮してアイパッドを突き出すも、掃除中だった百木くんは掃除機片手に渋い顔。
眉尻をさげて、触れたくないものに触れた時のようにシッシと右手を払う。
「どうせロクなもんじゃないだろ。クコのことなんだから。分かってるって」
「なんや! だいたいうちがいなきゃ、あんた今頃悪霊に食べられとんねんで! ちょっとはこの可憐な美少女に感謝しィやっ!」
最近の百木くんは言葉遣いがなっとらん。
外見こそこっちの方が年下に見られがちやけど、こちとら300年以上生きとる天使様やで。
まあ少々ポンコツなのは認めるけど、そんな簡単にあしらっていいような相手じゃないんや!
鼻息荒く憤慨すると、彼は謝るどころかしかめっ面になり、プイッと顔を背ける。
猛烈に腹が立ったうちは、慌てて彼の肩をつかまえると、その顔にぐいぐいとパッドを突きつけてやった。
「むぐぅ! もぉ何だよっ!」
「ちゃんと見てみい! 百木くんはこの一週間だけで20万も稼いでんのや! これは人間で言ったら登録者0人のYoutuberが一週間で登録者1万になったのと同じなんや。……多分」
「………マジ?」
「ほら、ここ! ここ!」
指で指し示した収入比較の表の一番下に、きちんと自分の名前が書いてある。その横には「20万」とも。
ようやく現実を認めたのか、百木くんの眼がキラキラと輝きだす。
(しょせん幽霊とはいえお子ちゃまやな)とうちは心の中で溜め息を一つ。
「ほんとに快挙。チカはすげーって思う! そしてそれはパイセンも同じことです!」
「まあなー。うちにかかればこんなもんよ。えへへへへ」
なぜか八雲家に居候している朔のパートナー、ユルミスの甲高い声が隣の部屋から聞こえて来た。
その後に、陽気なRPGのBGMも。
どうやらこの悪魔、所有者がいないのをいいことに勝手にゲームで遊んでいるらしい。
「ま、ここまでくれば、あの口うるさい室長もなんも言わんやろ。どう思うユルミス?」
「……その通りだと思います。ネートルお爺は昔っから、パイセンたちには甘いですもん」
「そんな、お孫大好き爺ちゃんみたいなことにはならないだろ……」
という百木くんのコメントをあっさりスルーし、盛り上がる会話。
うちが所属する天界管理局……いやゆる人間界で言うところの市役所のようなもんやな。
そこの室長…つまり一番のお偉いさんのネートル室長は、怒るとただでさえおシワが多いのに、血管まで手首に浮き上がらせて怒鳴ってくるから嫌なんだよな……。
「そういやユルミス。あんた、アカシックレコードの管理しとったやん。あんな精密機器ほったらかして、こんなところに居ってええん?」
アカシックレコードは、宇宙のあらゆる情報が記されている記憶媒体だ。
巨大な水晶の形をしていて、過去・現在・未来、すべての物事をこの水晶によって調べることが出来る。
とてもデリケートなものなので、普段は優秀な『守人』と呼ばれる管理者が管理している。ユルミスはその管理者の一人で、室長のお気に入りでもあるのに……。
「………減俸(げんぽう)ですよ、減俸。それと、勘当」
部屋に入ってきたユルミスが、きまり悪そうに頭をかく。
減俸というのは、お給料が減ること。勘当とは、部屋から追い出されること。
………なにをしたんや、一体。うちは、開いた口が塞がらない。
「室長の指示でパイセンの元へ向かう前に、ちょっと寄り道をし過ぎて、つくのが遅くなったのがバレたのと……あと、ヴィンテージの件で色々」
「………ヴィンテージ?」
ヴィンテージとは、札狩をよしとしないものの総称だ。
なんでも、昔は天界に住むものたちでチームを組んでいたようだけど、最近では人間と協力して活動しているっていう噂も聞く。
「ヴィンテージがアンタとどう関係が?」
「………ヴィンテージの幹部って、誰か知ってますか?」
斜めからうちを見上げる後輩は、どこか泣きそうな顔をしていたように思う。日の反射の具合で、はっきりとした表情はわからんかったけれど……どことなく疲れたように見えたんや。
「幹部? 確か………プリシラ・ローズベリやろ。ヴィンテージ以外にも、様々な事件をおこしてるって有名やん。そんな子が取り締まるんだから、ヴィンテージも大した奴はおらんのやろな」
発した言葉に対して意味はなかった。
類は友を呼ぶということわざのように、反札狩の集団が問題を犯しているというそれだけのことだと考えとった。別にユルミスを傷つけようとか、そんなそぶりはない。だけど。
「…………そ……………っかぁ」
ユルミスは笑った。泣きたい気持ちを噛み殺しながら笑ってるというような、そんな感じの痛々しい笑顔だった。
「そっかそっか」と彼女は明るく頷くけど……なんでそんな苦しそうなのか、馬鹿なうちはわからんかった。……考えようとしなかったんや。
早くに気づくべきやったんやと思う。そしたら多分、ヴィンテージのこともユルミスがなぜ勘当となったのかということも、短時間で解明できたのに。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.42 )
- 日時: 2021/10/04 21:58
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: evOUbtyP)
こんばんは、むうです。毎日投稿目指して頑張ってます。
ついでにお勉強も頑張ってる今日この頃です。
********
〈チカside〉
しばらく20万だの30万だのと浮かれていたけれど、数分も経てば舞い上がっていた気持ちもすっかり落ち着いてきた。いや、落ち着いた……というよりは、実感がわかないと言った方が正しいのかな。
それこそ、ユルミスの減俸の話の方が胸に残っていた。クコと紗明が口をそろえて『天才』と称する悪魔の少女。
聞いてみると、アカシックレコードの管理業に就職するには筆記試験に合格する必要があるらしい。その難しさは、最難関レベル。綿密な水晶を扱うが故、己の機動力や判断力も重要になってくる。
ユルミスは毎回学年首席だった、と紗明が言っていた。
運動も勉強も、全てが周りの人より良くできていた。いわば文武両道ってやつだ。クラスメートの中には、彼女に嫉妬して嫌がらせに走ったものもいたらしい。ユルミスが陰口を言われたりするたび、紗明が犯人を特定して抹殺したらしい。
「てことは今失業ってこと、だよね。……大丈夫なの? いつから?」
「………一カ月前から」
当人がなんてことない調子で、ソファに寝そべり呟くものだから、反応に迷う。
彼女にとっては、大したことないことなのかな。それか、無理に笑っているのかもしれない。僕や、先輩であるクコに迷惑をかけまいと。
「なんで黙ってたんや。言うてくれたら、うちだって管理局へ戻れたのに……」
「大丈夫ですよ! そのうちいいとこ見つけます。なんならパイセンと一緒に札狩したりとか」
「………まあ、別にえぇけど………」
天界にも学校や役所など、人々の居場所がある。人間と同じように働いて、お金をもらって、ためたお金で小さな贅沢をする。
天使だろうが悪魔だろうが、それぞれに色んな悩みがあって、それぞれに苦しみながら頑張って生きていることを知った。
無神経でマイペースで、S気質のクコ。毎日明るく振舞っているけど、多分彼女にも悩みは尽きないよね。
天界へ僕を連れて行くという大事な任務に失敗した。上司からは解雇するぞと口酸っぱく言われている。「姉ちゃんはうちのことを馬鹿とかアホとか言う」と前に聞いたことがある。
紗明だってそうだ。二重人格なんだから、自分が一番苦労しているだろう。どこまで自我を保てるのか分かんないけれど、周りに迷惑をかけているとはうすうす気づいているんじゃないか。
でも、そうしようもないんだ。そういう風にしか生きられないから。
それでもあの天使は、あの死神は僕たちに笑いかけてくれる。尽くしてくれる。休みの日は一緒の場所に集まって、他愛のない話をして、ときに口論をして、また仲直りして。
………僕は彼らの足手まといじゃないだろうか。
幽霊になって、札狩をするようになって。そりゃあ自分が死んだという事実は悲しかったけど、友達もできたし双子の弟とはまだちゃんと話ができる。
あのままクコと一緒に天国へ行っていたら。多分今の僕はここにはいない。八雲にだって会えてない。朔も暗い表情のままだったかもしれない。
(あれ………。僕、すごい得してるじゃん………)
こんなんでいいのか? これで本当に許されるのか?
なんでお金に目をくらませてるんだ。なんであんな偉そうな口をきいたんだ。自分が恵まれていることも知らずに。虚勢張って。余裕ぶって。
『きみ、百木くんか。百木くんは目に見えない。声もかけてもらえない。永遠にボッチや。ざまあ』
身体が透けているから、そのままコンビニでおにぎりを買ったりということはできない。
ちゃんとご飯が食べれているのは、八雲のお兄さんが毎食作って食べさせてくれるから。人目に付かず眠れているのは、八雲が僕を家に呼んでくれたから。
ボッチになる可能性だってあったんだ。それなのに。
それなのに自分は。思わず膝に顔をうずめる。胸の中に苦い何かが混じった。
「………………自分が嫌になる………」
『チカは優しいんだよ。俺は馬鹿だからさ。チカがいないとなんも出来ないじゃん。でもチカは一人でも大丈夫じゃん。だから凄いって思うよ』
ちがうよ朔。一人になるのは怖いよ。しかも死んだらその孤独は一生ついて回るんだ。
僕は優しくなんかない。偽善者ぶってる馬鹿野郎だよ。
虚ろな目で床を眺めていたものだから、急に鳴った携帯に思わず肩を震わせる。軽く三十センチは飛んだ。バクバクと高鳴る心臓。大きな地震でも経験したのかというくらいのオーバーリアクションだった。
プルルルルルルルルルッッ
「チカ、電話鳴ってる」
「う、うん」
慌てて着信画面を開くと、『百木朔』とある。
今は午後四時過ぎ。朔は午前からずっと学校に行っていたので、もうそろそろ帰る時刻だ。どうしたんだろう。コンビニで何か買ってほしいものはないかとかかな。
「もしもし朔? どう……」
『ブッ ザーザーザーザーザー』
砂嵐。滅多に聞かない不快な音が、耳の裏を撫でる。
携帯が壊れているのか……? 念のため、もう一度画面の向こうにいるだろう弟に呼びかける。
「も、もしもし? 大丈夫? どうしたの!?」
『チッ………チカ…………!』
良かった、応答してくれた……と普通ならここで胸をなでおろすところだろう。でも、その行動に出れる状況ではなかった。
悲痛な叫び。何かを必死で耐えているようだ。それに、ところどころ騒音が聴きとれる。その正体を知りたいのに、車のエンジン音のせいでかき消されてしまっている。
「今どこ!? ねえ、どうしたの!? どういう状況なの?』
『小指が折れた………ッ』
「………は??」
小指!? そんな……、一体何をしたら骨なんて折るんだ!? 交通事故? なんなんだ?
焦り、怯え、不安。色んな感情が頭の中でグルグルと渦を巻く。目の奥が心なしか熱い気がする。
『……ヴィンテージが来たんだ……俺の黒札を狙って……悪霊を沢山、おびきよせて攻撃してきた……! 万が一の場合に備えて八雲ちゃんと紗明を呼んでおいたんだけどッ……俺、弱いからさ………なにも、出来なくて……』
「謝らなくていいよ! 今行くから!! すぐに行くから!!!」
ヴィンテージ。札狩の敵。悪霊。小指骨折。
詳しいことは分からないが、一大事だということは確かなようだった。
クコとユルミスに電話の内容を説明するのも忘れて、僕は一目散に部屋から飛び出した。
もどかしさをこらえながら玄関の扉を開けて歩道に出る。
息を切らしながらただただ足と手を動かした。助けなきゃ、助けに行かなきゃ。
『………ごめんねチカ……。俺、ほんとーに弱虫でさ……う゛ッ』
「………違う。弱虫は僕だ」
いつも守られてばっかりだった。生前も。死んでからも、ずっと誰かの力に頼って生きていた。
どこかで勝手に相手を見下して、変なマウント取っている自分がいた。
許せない。誰だそいつ。いますぐ陰から引きずり出して、一発決めてやりたい。
自分がどうしようもなく愚か者だって気づいたら、とたんに泣きたくなった。死にたくなった。もう死ねないのに。実態もないのに、誰かによしよししてもらいたかった。
百木周。自分の不注意で車にはねられた、どうしようもなくバカな人間。
今までの経歴。悪魔と天使と死神に頼って生き、さらに弟に甘えて努力をしない愚か者。
……もしウィキペディアにプロフィールが記載されたら、きっとこんな文面なんだろう。
さすがにそれじゃ、カッコ悪すぎるだろ。
「だから、今行くよ、朔ッッッッッ!!!」
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.43 )
- 日時: 2021/10/10 18:17
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: AzYdFFfX)
〈クコside〉
「百木くんっ! 待ちィや百木くんっっっ!!」
光の速さで部屋から飛び出した百木くんを追いかけて、うちは家の扉を乱暴に開けた。
周囲を見回すと、数メートル先の歩道に彼の姿を見つける。
感情に任せて動くとろくな目に合わんってネートル室長が言うてた。
君がもし怪我なんかしたら責任はうちに帰ってくんのや、ただでさえ安くなった給料がこのままゼロになる可能性もあるってことやぞ、ちょっとはうちの気持ちにもN……(以下略)。
何度か声をかけてみたが、走るのに夢中なのか振り向いてもくれない。
もともと何かに熱中すると他の声が聞こえくなる性格で、おまけに無駄に頑固な子や。ちょっとやそっとの言葉なんか聞いてもらえん。
「おいこらっ! 待てって言うてるやろっっっ」
「あだだだだだだだだだ!????」
八雲ちゃんのお兄さんからもらったお下がりのTシャツを、百木くんはこのんで着とる。
蛍光色のピンクや黄色もぎょうさんあったけど、目立つのが嫌いなのか白か黒のもんしか身に着けないので、うちは心の中で『パンダの君』と呼び始めている。
そんな彼の服の裾を引っ張ろうとしたけど、勢い余って代わりに彼の左手首を思いっきり掴むことに。切るのを怠って、魔女のごとく伸びたうちの爪が、彼のか弱い肌に突き刺さる。
「痛っった!! な、なんだよっっ……? あ、痕になってる……」
「……ご、ごめん………。悪気はなかったから……許したってや」
怪我させたらいけんと思ったのに、自分から怪我させてどうするんや。うちのバカ、馬鹿!
暗くなった心を入れ替えようと、両頬を手でぺチンと叩く。
「用がないなら僕は行くよ。朔たちを助けに行かな……」
「待てって言うてるやろ―――――ッッ!!」
べチィィィィィィィィィィィィィィィィィッッッッッ
あっと気づいたときには、右手が目の前の相手の右頬へと軌道を描いていた。そのまま大きな音を立てて手のひらが直撃。
攻撃を食らった衝撃でよろよろと倒れる百木くん。片やフーフーと息を切らしながら彼を睨んでいるうち。上がった息を必死に整えるも、膨れ上がった気持ちは静まるそぶりを見せない。
「なにすんだよ!??」
「知ってるはずやろ百木くん! あんたは幽霊や! うちや紗明やユルミスとかの天界の住人や、八雲ちゃんみたいな霊感の強い子にしか見えんし触れんのや! その状態のまま戦線へ飛び込んだら……攻撃はすり抜けるかもしれんけど、怪我は保証できん!!」
うちの言葉を受けて、鋭かった彼の目つきがふっと弱まる。何か言おうと口を開きかけた百木くん。でもその口からはなにも出て来んかった。反論できなかったからやろか。うちの言うことが全部正しくて悔しかったからやろか。
うちはな、ずっと君に謝りたかったんや。天界管理局っていうところで働いておきながら、君を天国に連れていけんかったやろ。
百木くんが今こうしてここに居らんといけんのも、札狩をやっているのも、全てはうちが犯した失敗のせいなんや。『地上にいられるんは五分まで』ってルールを無視して長々と喋ってた馬鹿な天使のせいや。
あと……もう一つ。
謝らなきゃいけんことがあるんや。本当はもうちょっと後にでも言えばいいと思っとったけど……それはやめた。
いつも頑張ってるパートナーに、これ以上隠しごとをすんのはなんか違う気がしたんや。
さっきだってあんた、うちが止めなきゃそのまま走り続けとったやろ。感情で動くのが苦手っておこと、よう知っとる。だけどみんなを守りたいという意志のままに君は動いた。凄いと思うで。
「………百木くん。うち、百木くんにずっと伝えたかったことがあるんや。出会ってすぐ、『天界に居れるのは五分まで』って言うとったやろ、うち」
「……う、うん?」
「あのときうち、わざと百木くんを天国に行かせんかってん」
「…………………え?」
「……案内人は、死んだ人を天国に送り届ける職業。でも、連れていける人っていうのはある条件がいるんや。百木くんはその条件に当てはまらんかったから、わざと……連れて行かんかった」
話が呑み込めないでいるのか、百木くんが「え、え!?」と何度も叫ぶ。
彼の表情を見るのが怖くて、視線を地面に降ろす。ありんこが歩道の端を歩いていた。
「本当なの? その話。じゃあ僕に札狩を教えたのも、天国に行けないってわかってたからなの?」
「……未練がある人は連れていけん」
○○市○○庁で、人間の男子中学生一名が車にはねられ死亡した。すぐに向かってくれ。
室長にそう命令されて地上に降りたうちは、百木くんに会った。そして彼と話すうちに、あることに気づいてしまった。
彼には未練がある。もっと生きたい。まだ死にたくなかった。そういう気持ちがある人を送り届けてはいけない決まりになっている。なんの欲もない状態が一番望ましいのだ。
百木くんが天国へ行けないのを知っていたから札狩をすすめた。幽霊で札狩をやっているのは、だいたいが未練を晴らすために地上に残っている子だった。
うちはそのまま帰れたけれど、百木くんが心配だったから彼と一緒に残ることにした。この仕事を始めてから今まで、沢山の人間を担当してきたけれど、彼が一番話が合った。これまで担当してきた人間は年配の老人ばかりやったから、こんな若い子が死んだというのが納得いかんかった。
「……だから自分の未練がなにか分かるまで、未練が晴れるまで、札狩をしてのんびり過ごしたらええと思ったん。幸い八雲ちゃんっていう優しい知り合いも出来たんやし。……でもみんなが仲良うしてるときにこんなこと言うのは、雰囲気壊しそうで………」
ごめんな百木くん。馬鹿なパートナーでごめんな。
九人姉妹の末っ子に生まれて、姉ちゃんみんな頭いい企業に就職して。自分もそのレールに乗せられて案内人になったけど、正直忙しくてあんま楽しめなくて。
でも君の担当になってからめっちゃ楽しかってん。うちのせいで悲しませてんのに……めちゃくちゃ毎日面白くて充実してて……だから、だから………。
両目から生温いものが溢れて顎を伝っていく。お気に入りの赤縁眼鏡を取って、手の甲で乱暴に目元をぬぐう。あかん……しっかりせないけんのに………。
と。
「大丈夫だよ、クコ。もういいよ。ちゃんと、分かってるから」
頭の上に温かい感触が乗っかった。百木くんの手のひらだった。そのままうちの頭を数回撫でる。優しく、ゆっくりと彼の手がうちの髪を撫でる。
「………も、ももきくぅん………!」
「僕、クコがパートナーで良かったよ。……紗明やユルミスがパートナーだったら、絶対うまくいってないよ」
「紗明を手なずけれんのは八雲ちゃんしかおらんやろ。百木くんには無理や」
「だよね」
こらえきれずに吹き出した百木くんにつられて、しばらく笑い転げる。笑っているうちに、胸の中の汚い感情はすっかりなくなっていた。
決めたで。うちの目標。百木くんの未練を晴らすこと。そして百木くんの未練が晴れるまで、彼を守ることや。
姉ちゃんには馬鹿にされるわ、室長には呆れられるわ。後輩のユルミスには気を利かせるわ。どうしようもない天使やけど。大切な人を一人守るくらいはできるやろうし。
「さて、ほな行こうか。朔くん小指折れたんやって? 怪我した奴にきゃくのちぎゃいってやつを見せつけてやrrrrrrrrrんや!」
「………滑舌大丈夫か??」
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.44 )
- 日時: 2021/10/16 15:10
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Xkfg0An/)
閲覧数1200突破ありがとうございます♪
これからもカオ僕をよろしくお願いします!
********
〈亨介side〉
黒札で悪霊をよびよせ、攻撃を仕掛けた僕は、戦闘は霊に任せその場を立ち去った。
チームのリーダーであるプリシラことシアには接触だけするようにと命令されていたし、その任務を行うのは自分ではなく御影月菜だったんだけど……やっちゃったなぁ。
コンビニの方を振り返って、小さな溜め息を一つ。
百木周の弟は、どうやら悪霊にパンチを食らわそうとして小指の骨を折ったみたいだ。しばらくは痛みで動けないだろう。ただのスライムだと侮ってはいけない。シアから渡された黒札でよびよせた霊の強度は、鋼より硬いんだ。
死神やそのパートナーの子も、だいぶ苦戦しているみたい。
自分の力で戦わないのは卑怯だって、もしかして思ってるかな。痛いのが嫌なだけだよ。まともにやりあったら、運動オンチの僕はあっという間に倒れてしまうだろうからね。
「……とはいえ、やりすぎちゃったかもな」
誰に言うともなく呟く。
とりあえず、今の状況をパートナーである御影に報告しなくては。彼女は今どこにいるんだろう……? まだ学校か?
電話帳を開き、『御影月菜』の携帯へ発信する。
プルルルル……プルルルル……という呼び出し音が三回なった後、すぐに相手につながることが出来た。
「もしもし? 僕だけど」
『キョーちゃん? 珍しいじゃん、そっちからかけてくるの。何の用?』
カチャカチャと、なにかを操作している音が電話越しに流れてくる。どうやらパソコンでもいじっているようだ。と言うことはもう帰宅しているのか。
「実は………」
これまでのいきさつをかいつまんで説明すると、明るかった御影の声のトーンが次第に暗くなっていく。勝手な行動をした僕に苛立ち始めているのが分かる。顔は見えないけれど、画面の奥で眉をひそめた気がした。
『なんかいつものキョーちゃんらしくないね。感情的にならないタイプなのに。ま、シアには怒られるだろうけど』
「………はぁ……」
「御影は今何してるの? もう家なんでしょ?」
『ウチは動画編集してる。Youtubeにあげるやつ。今日の夕方にあげるから見てね』
御影月菜は、Youtubeとティックトックで美容動画をあげている。その登録者数は両方50万人を突破しているほどの人気。事務所にも入っているほどの、実力派中学生Youtuberだ。
ダイエット、メイク商品紹介などほとんどが女性向けの動画なので、視聴者は女性が多い。そんな動画を男の僕が視聴するのはおかしいし、そもそも興味がない。
「……見るわけないじゃない。男なんだから」
『ケチ。すこしはパートナーに貢献して、視聴回数伸ばしてよ』
理不尽なわがままを突きつけられるのも毎回のこと。イライラしながら電話を切り、もう一度後ろを振り返る。
………このままほっといて、死人でも出たらたまったもんじゃない。
そろそろ黒札を処理して立ち去ろうか。……でも札狩の連中にあっさり負けるのもなんだか釈然としない。
『なんでこんなことしてるの?』
百木朔がそう自分に問いかけて来たとき、内心ヒヤッとしたことを思い出す。
なぜだろう。心の中を読まれたような気がして、一瞬言葉に詰まったんだ。
本当のことを言えば、こういう理由でこんな考えで……というのを打ち明けて楽になりたかった。ヴィンテージに入るまでの経緯を説明して、同情してもらいたかった。
自分の中に変なプライドがあって、そいつが言葉を放つのを拒んでいる。話したところで、どうせ理解ってはくれないだろうという、そんな変なプライドが。
それゆえに、シアにも御影にも、自分の話は今までしてこなかったし、御影がなぜシアに協力しているのか僕は知らない。そういうもんだと思い込み、同じチームのメンバーとして表面上接している。それだけの関係。
数分間考え事をしていた僕は、ある大きな音に反射的に顔を上げた。
ウガァァァァァァァァァァァァッッ
遠くから悪霊の叫び声が聞こえ、声のした方に目をやる。
場所はあのコンビニの駐車場。死神が結界を張り、一般人が襲われるのを防いでいる。結界の中では死神とその主人の少女が、悪霊の集団と対峙していたのだが……。
死神が率先して敵を相手にしているのをいいことに、女の子を狙った一体の悪霊。鋭い爪を持つ、髪の長い女性の霊だった。
そいつは死神の隙をついて、女の子に飛び掛かったのだろう。霊の長い髪に体を縛られて、女の子が悲鳴をあげている。
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁっっ 助けてぇぇぇぇ!!』
『アルジ様!!!』
「…………流石にこれはまずい。早く対処しに行かないと!」
やりすぎたやりすぎたやりすぎたやりすぎた。失敗した失敗した失敗した失敗した!!
人を死なせてはいけないのにっ。僕の管理不行き届きだ。僕のせいであの子が死んだら………とりあえず早く片付けないと!!
慌ててコンビニへと走り出す。百木朔は怪我のせいで、女の子の元へ駆けつけれないようだ。死神も、他の悪霊に攻撃を防ぐのに精いっぱいだ。
敵だから見殺しにしていいわけではない。シアはすぐ、『邪魔な奴らはやっちゃいましょう』とかいうけど。そういうわけにもいかないんだ。
必死に足を動かす。身体が重い。すぐ近くに目的地があるのに、スピードがひどくゆっくりだ。今日は学校の六限に持久走があって、一時間散々走らされたから。あぁダメだ、間に合わない……!
悪霊の髪が女の子の腕や足にどんどん巻き付く。ギュウギュウに締め付けられて、ぐってりとしている。気絶してしまったのだろうか。どちらにせよやばい。やばいのに………!
『う゛……! 助けて、誰か……………!!』
絶体絶命のピンチ。見方全員、助けてくれそうな様子はなく、このまま力尽きてしまうのか。女の子がいくら叫んでも助けてくれる人はいない。
あぁ、私はこのまま死ぬんだ。とうとう諦めたのか、女の子が叫ぶのを止めた。
その時。
「八雲をぉぉぉぉぉぉぉぉぉお、離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!!」
ヒーローは、遅れて現れる。いつもヒロインがピンチになった時に、颯爽と現れて拳を振るう。
漫画でみんなが好きなシチュエーション。だから主人公はかっこいい。人々に勇気を与える存在に、誰もが目を輝かせる。
しかし、声の主は特殊能力が使えるわけでも、ガタイがいいわけでもないただの幽霊だった。
ただの、幽霊だと思っていた。
ズバァァァァァァァァァァァァン!!!!!
透けているはずのその腕が、長髪の悪霊その他もろもろを一瞬にして吹き飛ばすほどの右ストレートを放つまでは。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.45 )
- 日時: 2021/10/21 21:10
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Xkfg0An/)
〈チカside〉
ズバァァァァァァァァァァァァン!!!!!
右手を力いっぱい振り下ろすのと同時に発生した爆風が、八雲を攻撃していた悪霊だけではなく周囲の敵までをも数メートル先へ追いやったのは、自分でもうまく理解しがたい出来事だった。
十数年間ろくに運動もしてこなった人間だ。いきなりスーパーヒーローみたいなパンチを出せるわけがない。
火事場の馬鹿力というべきか、仲間がやられているのを放ってはおけなくて、自然と手が出てしまった。人を殴ったことも喧嘩をしたこともないのに。
悪霊がシュウッと、炎が燃えるような音を立てて消滅していくのをぼうっと眺める。やけにあっけない最期だ。
僕が倒したなんて夢のようだ。
もしかして今、実際に映画のスクリーンの中にいるんじゃないのかな、なんて馬鹿げたことを考えてみる。でも握った右手は今も痛くて、少し汗ばんでいる。夢ではないんだ。
あれは何だったんだ……?
幽霊の身体であんなことができるなんて教えてもらってない。それに、横にいるクコですらあんぐりと口を開けて固まってるんだもん……。
色んなことがいっぺんに起こったせいか、頭がくらくらしている。身体が興奮してなのか、じんわりと熱を持っているのが分かる。
「……おモチくん!」
と、解放されて楽になった八雲が後方から駆けて来た。腕や足に多少の擦り傷はついているけれど、命に別条はなさそうだ。
彼女もまた興奮状態にあるのか、いつもより上ずった声で八雲は言う。
「ありがとう、助けてくれて。終わったと思ってたの。死んじゃうんじゃないかって怖かった。でも、おモチくんが走ってくるところが見えて……かっこよかったよ。とっても」
真っ直ぐな言葉が、胸を突く。
そんな、ただ僕は八雲を怪我させたくなくて、それで。
誤解されるような言い方になってしまい、恥ずかしくなって、ゆるゆると下を向く僕を、八雲は笑って受け止めてくれた。
「おいクコ! あいつンことただのゴキブリと思ってたけど、意外とやるじゃんか。テメエなんかあいつに伝授したんだろ、どうせ。ったくそういう世話焼きなとこ、お前らしいぜ」
「いや、うちは何も……」
珍しく紗明がクコの肩に腕を回す。
いつもなら『やめい!』と叫び距離を取るクコは、腑に落ちない顔で首を傾げる。その様子に紗明は眉をひそめて、人差し指をクコの鼻先に突き付けた。
「はぁ!? じゃ、さっきのは何だってんだ? 俺が相手してた奴ら全員殺すほどの威力! あんな攻撃が出せた幽霊は前代未聞だぜ!?」
「知らんもんは知らん! だってうちはあの子のパートナーや。案内人をやってかれこれ三十年以上経っとる。うちがなんか知っとったら、すぐアンタやユルミスに言うはずやで」
ちらちらと僕を見やるクコの視線が、だんだんと険しくなっていることに気づき、僕はそうっと視線を逸らす。
そんな目で見ないでほしい。僕ですら現状が分かってないんだから。
「チカ……! 来てくれたんだね!」
外にいた朔がこっちへ歩いてくる。ただしその身体は左右にふらふらと揺れていた。
弟が小指を骨折したことを思い出した僕は、八雲と一緒に彼の元へ走る。
「朔! 怪我は!? っ指、めっちゃ腫れてるじゃんっ」
朔の小指には添え木として小枝がハンカチで縛られてあった。ハンカチの隙間から見える朔の細い指は、赤くぱんぱんに膨らんでいてとても痛々しい。
「へーきへーき。ほら、なんともな……い゛っ」
「無理しないで……。ごめんね、もっと早く気づいていれば……」
八雲がシュンと肩を落とす。
女の子が悲しい顔をすると、こっちまで悲しくなってしまう。朔も同じ気持ちだったのだろうか。顔の前で右手を振り、にっこりと笑って見せた。
「ううん。八雲ちゃんがいなかったらもっとひどかったよ。ねえチカ」
「うん、ありがとう八雲」
二人で頭を下げると、八雲もいくらか安心した顔になった。やっぱり彼女は笑った顔が似合う。
しばらく三人で雑談をしたりして、のほほんとした雰囲気が広がっていた。考えごとをしていたクコたちも悩むだけ時間の無駄と思ったのか、数分後にいつも通りの口喧嘩をし出す。
そんな空気の中、とある声が僕たちを我に帰らせた。
「………信じられない。あの数の悪霊を、いとも簡単に………。何かの間違いだ」
佐倉享介。ヴィンテージとして暗躍する、札狩たちの———敵。
享介は独り言のようにぶつぶつと呟いた後、ふっと顔を上げた。その双眸はもう険しくはなかった。ただただ、「なんで?」という疑問心で彼は僕に問う。
享介の中にはもう戦意はなかった。僕のあの攻撃で、くすぶっていた彼の戦意はあっという間に消えてしまったのだ。時の流れに乗って、ろうそくの煙が空気に霧散するように。
「なにをしたの?」
「………なにも、してない」
本当になにもしてない。狙ってやったとかそういうことでもない。
いや、『なにかを自分がやっていたとしても、自分でそれが何かわからない』と言った方が正しいのかな。
『あんたは幽霊や! うちや紗明やユルミスとかの天界の住人や、八雲ちゃんみたいな霊感の強い子にしか見えんし触れんのや! その状態のまま戦線へ飛び込んだら……攻撃はすり抜けるかもしれんけど、怪我は保証できん!!』
おかしい。
普通、僕のパンチは悪霊の身体をすり抜けるものだ。幽霊の身体が透明であるなら、攻撃だって当然。
自分の拳に視線を移す。手のひらには、道路が透けて移っている。
あのとき、攻撃が通ったってことはひょっとして、あの瞬間だけ僕の身体は実態を持ったってことなのだろうか。もっと簡単に説明すれば、漫画とかでよくある『実体化』みたいな。
そんなことがあり得るのだろうか。幽霊は、自分の意志で実体化出来たりするものなのか? それがたまたまクコは知らなくて、僕に伝えることができなかったってことなのか……?
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.46 )
- 日時: 2021/10/21 21:20
- 名前: りゅ (ID: B7nGYbP1)
素敵な文章力ですね!( *´艸`)
応援しているので執筆頑張って下さい!
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.47 )
- 日時: 2021/10/23 18:32
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Xkfg0An/)
>>46 りゅ様
わー、ありがとうございます!
文章力は日々研究しているところです。これからも頑張ります!
りゅ様の小説も時間のある時にじっくり読みますね。これからもカオ僕をよろしくお願いします!
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.48 )
- 日時: 2021/10/26 21:25
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Xkfg0An/)
〈八雲side〉
その出来事は夢のようだった。
一瞬の出来事だったけれど、鮮明に目に焼き付いている。瞳を閉じればあの時の映像が流れだす。
悪霊に手足をギュウギュウに縛られ、口も塞がれ、完全に身動きが取れなかった。
どれだけ叫んでも攻撃を止めてくれなくて、唯一の頼みの綱の紗明ですら足止めを食らっている。朔くんも外に出て行ったきり戻って来ない。
絶体絶命の状況に、自然と冷静になった。私の十二年の人生はここで幕を閉じるんだと考えたら、声を上げる気力もわかなくなった。
そっと目を閉じる。今この瞬間に据える息を沢山吸っておこうと、くちびるを開く。
視界がぼやける中、誰かの足音が不意に聞こえた。
「八雲ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
大声で名前を呼ばれて、反射的に顔を上げた。
諦めたはずなのに、私は声の主の姿を探そうとなんとか首を伸ばした。
数メートル先の歩道に、彼の姿を見つけた。
そのとたん、私の両目から大粒の涙がこぼれる。
百木周くんがいた。おモチくんと呼んでいる、百木周くんがいた。相変わらず、あんちゃんのお下がりのTシャツに身を包んでいる。
いつも穏やかな顔が、霧ッと引き締まっていた。こっちへ精一杯腕を振って駆けてくれている。
嬉しかった。陳腐な言葉でしか言い表せないけど、とても嬉しかった。
心臓がぐうって鳴って、押し込めていた色んな感情が、あと少しでバクハツしそうだった。
ありがとうって言いたかったんだけど、彼が放った一撃が敵を一掃しちゃったから、その気持ちは胸の中に隠れてしまった。
思わず目を見開く。
こんなに細いのに。なんで………?
おモチくんの意外な力の出現は誰も予想してなくて、ヴィンテージの佐倉くんやクコさんも、狐に包まれたような表情で立ち尽くしていた。
「………つまり、僕は自力で実体化したってこと……?」
当人のおモチくんが、誰に言うともなしに呟く。
実体化……?つまり周くんは、人に見える状態と見えない状態を、自分で無意識にオンオフできるようになったってことなのかな?
もしそうなら凄く便利な能力だと思うし、札狩にも応用が利く。攻撃も防御もできる幽霊はまさしくチートだ。雑魚級の霊なんて簡単に退治出来ちゃいそう。
でも……そんなすぐに強くなられると、対応に困っちゃうよ。
生まれつき霊感が強いから、紗明の姿も彼の姿も見えた。人に視えらんもんが自分に視えとる。特別な感じがして、勝手に浮かれていたときもあった。
実体化できるのだとしたら、霊感がある人しか見えないという現象もなくなるわけだよね。透明化を切れば、普通の人にだってまるで生きているかのように思わせられる。
じゃあ、私の立ち位置はどうなるのだろう。
幽霊だからって言う理由で家を貸してたけど、その必要もなくなるんだろうか。人の世話がいらなくなって、私との接点も消えてしまうのかな。
いやだな………。おモチくんの全てを知っとんのは、私だけのはずだもん……。
あれ、この考えまずいかもな。でも、実際そうだし……。ああもう………。
「アルジ様? どうしました? 腹でも痛いんすか? お腹ピーピーなんすか?」
しばらくグルグルと頭を働かせていた私の顔色はそうとう悪かったようだ。紗明が心配して肩に手を当ててくれたが、考えごとに夢中だった私はその声が全く届いていなかった。
「あっ……アルジ様? す、すんません俺、ふざけて言っただけで別にそんなつもりじゃ……」
怒ってスルーしているのだと勘違いした紗明が、顔の前でわたわたと両手を振る。
紗明は毎日毎日、私にとことん尽くしてくれる。たまにうざいけど気にかけてくれて、笑わせてくれて。
私も、おモチくんとそんな関係になりたいな………。
でもおモチくんは優しいから、誰にだって分け隔てなく接しているんだろうな。だから弟の朔くんにもあんなに慕われてる。普通だったら兄弟喧嘩したりするはずなのに、あの兄弟はそんなことが全然ないから。
「僕、もう帰る。なんかやられちゃったし、じゃあね」
急に佐倉くんがそう言って回れ右をする。
つい数分前まで戦意をみなぎらせていた佐倉くんだが、急展開に振り回されて戦意を失ったようだ。離れていく背中を見送りながら、取り残された私たちはお互いの顔を見つめあう。
おモチくんは思案気な表情で俯いていて。
クコさんは暗い気持ちを紛らわそうと鼻歌を歌っていて。
紗明はぼうっと夕焼け空を眺めていて。
朔くんは、そっと私の元へ近寄ってきて、耳打ちする。
お兄ちゃんとは反対に、感情に任せて動く朔くん。言いたいことははっきり言う性格の彼が、わざわざこんな行動をとったそのわけは。
「……………チカが離れていくみたいで寂しいの?」
「っ」
たったそれだけのセリフで、彼は私の心情を完璧で表現した。
何も言ってないのに。目の前に居る人間がエスパーなんじゃないかと、私はまじまじと朔くんを見つめる。
「……なんで、わかるの?」
「弟だから」
朔くんはにっこりとほほ笑んだ。
おひさまのように無邪気な笑顔をする子だということは、これまでの付き合いで把握している。
でも今の笑顔は純粋なものではなくて、どこかいびつな感じがした。
「離れていったら、多少は自由になれるかもしれないけど、やっぱり寂しいよね」
あぁ、芯が強いんだ。この子は心の芯が強いんだ。
兄の姿が見えているけれど、本当はもう死んでいて、黒札関連の出来事がなかったら二度と再会することはなかったと分かっているから。
朔くんは心のなかでは何回も何回も泣いているかもしれない。けど、神様がくれたこの奇跡の時間を精一杯身体で楽しんでいるんだ。「お兄ちゃんと話せること」ということが、朔くんにとって何よりの奇跡なんだ。
「みんな、なんか、……ごめんね。ヘンな空気作って」
「別に気にしてへんよ。実際百木くんがあそこで一発決めてくれんかったら、八雲ちゃんは死んどったで。そーゆー意味ではまさしくあんたは、八雲ちゃんのヒーローやん!」
おモチくんがそろそろと周りの面々の顔色を窺う。
なんと返そうかとみんなが迷うなか、一番最初に声をかけたのはやっぱりクコさんだった。
持ち前の明るさでみるみるうちに場の雰囲気を和ましていく。暗かった場がいっきに明るくなる。クコさんはやっぱりすごい。
「それにそれにぃ、あのシチュエーションだったら、八雲ちゃんも惚れていいと思うしぃ」
「へっ!?」「はっ!?」
おモチくんと私の声が重なる。
双方とも顔が真っ赤っかかだ。熟れた林檎みたいになった私たちを、なおもクコさんはからかいまくる。
「うちはお似合いやと思うで。なぁ紗明!」
「はぁ!? うちのアルジ様とこんなゴキブリがいちゃつくなんて見たくもねぇよ!」
はい、紗明は通常運転でした。
ちょっとでも弁解してくれると期待した私が馬鹿みたい。
「うわロリコンッッ。 そんなんだからあんたには人が寄って来ないんや。ざまあざまあ」
「お前みたいにピーチクピーチク鳥みたいにやかましい奴もだよ! チェケラッチョ」
いつものごとく、二人が口論を始める。なんでこの二人、こうも毎回そりが合わないのかなあ。
まあ、二人のおかげで沈みかけていた心が少しだけ上を向いたかもしれない。
この先何があるのか分からないけれど、私には沢山の仲間がいる。みんな癖が強くて大変だけど、その分裏で色々と抱え込んでいる人が多いことを最近知った。
だからきっと、この先も大丈夫だよね。
そういえば、ユルミスちゃんが解雇されたんだっけ。ユルミスちゃんも何かあるのだろうか。それと、ヴィンテージの佐倉くん。彼にもきっと、ヴィンテージに入ろうと思ったきっかけがあるはずだ。
いつか、知れたらいいな。誰だって色んなことがあるんだから。
だからどうか、今日の夜みんなが安心して眠れますように。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.49 )
- 日時: 2021/10/27 11:54
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Xkfg0An/)
カオ僕に出てくる単語が思いのほか多くなったので、一ページにまとめることにしました。
追記で、第3章の舞台である天界管理局の情報ものっけておきましたので、参考がてらご確認くださいませ。
これからカオ僕ももっと面白く、深みのある物語にしていきますので今後ともよろしくお願いします!
********
〈天界管理局の各機関について〉
天界管理局は、いわば日本で言う所の市役所のようなところです。
行政や司法、立憲など全ての機関がこの管理局に集まっています。(分かりやすく言えば、警察や裁判所、大学などがすべて入っているような感じ)。
管理局は地方にもいくつかあって(地方管理局と呼ばれています)、そこに勤務している職員は定期的に中央の天界管理局(作中で良く呼ばれる場所)へ連絡に行きます。
天界管理局には主にこんな課があり、めいめいにそれぞれの仕事を行っています。
全ての課の代表取締役(社長)は、室長であるネートル室長が担当しています。
いやぁ、ネートル室長……大変ですねぇ。
天使課
→主にキューピッド、死者を天国に届ける案内人、守護天使などが所属している。
クコはこの天使課の、案内部というところに入っているぞ!
札狩班
→主に悪霊退治にあたる天使や死神たちが所属しているぞ! 紗明はここ!
成績におうじて階級があがっていくエスカレート式となっている。
保安課の直属の部隊であり、保安課とはこまめに連絡をとっているぞ!
守人課
→主に、記憶媒体アカシックレコードと呼ばれる水晶の管理を担当するぞ!
巨大なクリスタルを持ち回りで見張るのが主な仕事。以前はユルミスが所属していた。
難関な採用試験に合格した人しか就任できないことで有名だ!
保安課
→いわば天界の警察。事件の調査や報告書の作成まですべて手掛ける。地方の保安課や札狩班・室長とも連携をとり、秩序を守るお仕事。天界管理局には1番隊から7番隊、7つのグループがあり、それぞれ担当地域をきめて警備にあたっている。
司法課
→天界の内閣。様々な法律を作り、政治を行っている。保安課とも何度も会議を行い、安全な社会を作るのが仕事だ!
難しい話に頭が痛くなってきたそこのあなた!大丈夫、カオ僕にはほとんど司法課は出てこない!
〈天界で使われる主な用語〉
黒札
→天界で売れているグッズだが、地上にも流通。
身に着けると悪霊をおびき寄せるため回収が日常化。
白札
→黒札とは逆に、良い霊を引き寄せる。こちらも札狩によって回収されている。
札狩
→天界用語。簡単に言えば、悪霊退治・または悪霊を退治する人を指す。
黒札などを回収することからこのように言われる。
ヴィンテージ(またはヴィンテージQ班)
→札狩たちの敵組織の名称。AからQ班まで、各班3~4人で活動している。
〈その他設定〉
色んな設定が開示され次第ここにのっけていきます!
●案内人であるキューピッドが天界に送り届けていい人間は、未練のない状態に限られている。
●ヴィンテージは現在人間の助手がいる。
●主人公である百木周は、無意識に実体化することができる。(条件は未だに不明〉
●幽霊は基本、霊感のある人にしか見えず、食事なども自力では行うことが出来ない。未練を持った幽霊は未練が何か分かるまでは、札狩という仕事で収入を得て暮らしている。
- Re: カオスヘッドな僕ら ( No.50 )
- 日時: 2021/10/27 18:48
- 名前: むう ◆W6/7X9lLow (ID: Xkfg0An/)
コンコンコン、と三回室長室の扉が軽くノックされた。
燭台の明かりで報告書を呼んでいたガイコツ……ああいや、ネートル室長はおもむろに体を起こし、入り口の方を見やる。
「どうぞ」
ギィィィィィィィッと、建付けの悪い木造の扉が蝶番の音をきしませて開く。
扉の隙間から顔をのぞかせた人物は、そのままスタスタと部屋の中に入ってきた。
外見9、10歳くらいの茶髪の男の子だった。童顔で、ぱっつりとした二重。頬はほんのり赤く染まっていて、幼いいでたちである。
白いシャツはシワ一つなく、サスペンダーで黒色のズボンと繋がっている。シャツの上から厚い生地のマント。左腕には、『保安課』と書かれた腕章をはめている。右手には書類の入ったファイルを手にしていた。
男の子はそのまま室長室をぐるりと一望する。
脇の古風な本棚や、その上に置かれた花瓶などに興味を示したようだった。アンティーク調の家具や部屋のつくりは、ネートル室長の趣味だった。
「ずいぶんとおしゃれなお部屋ですね。おまけに埃一つないとは。室長は自分の部屋は清掃員に任せず、自分で掃除をなさってるとお聞きしました。清潔感があって素敵ですね」
顎に手を当てて、感嘆の息を漏らす男の子。
見た目に反して流ちょうに喋り始めた男の子が何者なのか、ネートル室長は知らなかった。
新しく入ってきた新入りだろうか。それにしてはやたらと幼い気がするが……。
「失礼を承知で尋ねるが、君の名前は?」
「あ、はい。ルキアです。ルキア・レオンハルト。お初にお目にかかります」
ルキアは丁寧に腰を45度に曲げてお辞儀をする。
その柔らかな動作一つ一つが洗練されていて、室長は驚きを隠せない。
「先月までは、北区の地方管理局の保安課で補佐として勤務しておりましたが、このたび4番隊副隊長に昇格するに際し、こちらに転勤となりました。よろしくお願いします!」
地域管理局の、保安課………!?
保安課とは、天界で言うところの警察に当たる機関だ。1番隊~7番隊までの隊があり、それぞれの隊が指定された地域の警備を担当したり、札狩との連携を取ったり、報告書の作成を行う。
地方で働いていたにしても、この歳でそうそうなれる職業じゃない。
それに、4番隊副隊長だって!? 嘘じゃないかと、ネートル室長は何度も瞬きをする。
「ルキアといったか。就任おめでとう。ところでお前さん、歳はいくつなの」
「はい、今年で230になります」
「230ッッ!?? わ、若すぎるじゃろッッ」
クコの600歳が人間の14歳くらいにあたるならば、ルキアの230歳は人間の9歳くらいだ。
「ユルミスでさえ480なのに……年齢詐称……には見えないのぉ……」
「ふふ、褒めてもらって構いませんよ?」
室長の反応がいいことに、自分の凄さを鼻にかけるルキア。歳ゆえの少々生意気なところもまた、彼の年齢が真実だという証拠だ。
「それで、ここには何の用で?」
「先日行われた会議の報告書が完成したので、そちらと————」
ファイルから、端を目玉クリップで留めた書類を抜き取り室長に差し出したルキアが、思い出したようにある話題を持ちかけた。
「そういえば、この前解雇処分になった守り人のユルミス・ローズベリ……室長と長い縁なのだそうですね」
「………まあな」
ユルミスの話題に、ネートル室長の肩眉が下がる。目と目の間にくっきりとしたしわが刻まれたことから、この話題に対してあまり良い思いはしていないようだ。
あれ?でも先輩たちから聞いた話には、案内人のクコや札狩の紗明さんと並んで、室長と仲がいいとのことだったけれど……。
ルキアは腑に落ちないものを感じたが、顔には出さないことにして話を続ける。
「ヴィンテージ幹部のプリシラ・ローズベリと苗字が同じなのは、何か理由があるんでしょうか?」
「…………」
「もしそうなら、近々彼女を管理局に迎えて、保安課の方から直接話を聞きたいですね」
「…………」
室長は気難し気な表情を崩さない。
消えかかった燭台の炎用にマッチを擦りながら、じっとルキアの話に聞き入っている。
「だって、アカシックレコードを管理している悪魔が、プリシラと繋がっていたらまずいでしょ? ぼくは嫌ですよ。室長も知り合いが敵と繋がってたら……って考えたらどんな気持ちになりますか? だからユルミスを解雇したんですよね。そうでしょっ?」
ルキアが喋るごとに言葉が入っていく。保安課に所属している少年だ。ヴィンテージについても、誰よりも嫌悪感があるのだろう。
室長はなおも何も答えることはなかった。ただ、ゆっくりとルキアを見つめる。
無言ながら、彼がもうこの話を耳に入れたくないのがわかり、ルキアはコホンと咳払いをして背中を向ける。
「話過ぎましたね。ご気分を害したのなら謝ります。申し訳ありませんでした。失礼します」
再び扉が固く閉ざされる。室長は入り口を、じっと凝視していた。
少年が放った言葉、少年が口に出した人物の名前が、室長にないはずの胸に深く刺さっていた。