コメディ・ライト小説(新)

Re: カオスヘッドな僕ら ( No.14 )
日時: 2020/09/25 15:21
名前: むう (ID: 9Yth0wr6)

 
 〈朔side〉

 というわけで、俺は再びプリシラと歩道で向かい合っている。
 時刻はとうに八時を過ぎていて、西側の空も闇に呑まれている。

 ママ、門限破ってゴメンね。
 でも、ママの性格だと、「ハァッ? 今日も貴方、私に『行ってらっさい』って言ったわよね? いつも言ってるでしょう、何なのよ『行ってらっさい』って。あのねぇ、大体あなたはいつもいつも」と、パパとの口論になってるだろうから、あまり心配はしないけど。


「ええと、それで、黒札の話だったよね」
「はい! 黒札はですね、天国で今大変人気のグッズなんです。人の持ち物や顔なんかに貼ると、ちょちょいのちょい(死語)で悪霊を引き寄せてくれますよぉ。良かったですね♪」


 ………今の説明で、良かったと思えるほどの要素がまるっきりないんだけど。
 え、ええ、ってことは、その黒札が俺のホッペについてる時点で死亡フラグじゃんッ。
 こ、これ、お風呂とかに入ればとれるもんなの?


「いいえ、取れませんよぉ。強力な魔術がかかってますからぁ。札狩じゃないと、取れません」
「つまり、防水加工してあるってこと?」
「はい! 防水加工も、防火加工もバッチリです! お陰様でなんと300年!!」


 テレビでやってるよね、そう言う宣伝のCM。
 今ご購入なさるとなんと、70%オフ、とかそういうの。
 それと同じ感じで、それも黒札を、そんなふうに持ち上げられてもなぁ……。


「それで、何でシアちゃんは、そこまで黒札にこだわるの?」
「? おかしなことを聞くんですね」


 だって、普通おかしいだろ。
 この黒札ってやつの資格者になってしまった俺を見て、普通、引くもんじゃないのだろうか?
 そもそも初めて会った時、「札狩どもをいっぱい食べれますね」って言わなかった?

 札狩って、この黒札…や白札とか言うやつを回収してくれる、サービス精神Maxのいい人だろ?
 キミは、そう言う人たちと敵対関係を結びたいわけ?


「さっくんさんは誤解してるかもしれませんけどぉ、悪魔って元々人に害を与える存在ですよねぇ」
「………えっと、まぁ、そう、だね」


 でも、こんなにキュートでチャーミングな悪魔がいるなら、わざわざ「悪魔」だなんて呼ばずに、違う名称をつければいいのに。


「名は体を表すって言いません? それなのに、最近の若者どもはそんなことも忘れて、『人はみな平等!』だとか、『人種越えて分かり合う』だとか、そういうくだらない言葉を吐くんですよ。でも、中には私のように、大昔の悪魔の形そのままに、生きたいって思う人も、いるんですぅ。もちろん、さっくんさんは黒札の資格者ですのでぇ、こっち側になりますよぉ」


 そう、クルクルとその場で回りながら(次第に目が回ったのか、こてんとその場で倒れた)、
 シアはお茶目にウインクをした。
 しかしこの子が言っている言葉はどういう意味なのか、自分で分かっているのだろうか。

 つまり彼女は、人に悪さをする悪魔こそが真の悪魔だという考えなのだ。
 なので、現在色んな人種(?)―死神とか天使とか(いるのか分かんないけど)と仲良くする、同じ種族のことを疎ましく感じているのだ。


 そして、彼女は俺を好ましく思っている。なぜなら、俺の頬に黒札が貼りついたから。
 普通黒札が人間に貼りつくことは滅多にないらしく、だからこそ俺は資格を得たらしい。

 でも。資格者でも、俺は、その意見には反対する。


 
「嫌だよ。俺はキミみたいにはならない」
「? 何を言ってるんですかぁ?」

「俺は、キミと協力はしないって言ったんだ。人はみな平等、その考えを主張する」

 
 その返答に、シアの表情からは笑みが消える。
 くりくりの双眸を、今は猫のように細くしている悪魔の少女は、腕を組んで斜めから此方を睨む。


「できるならやってみればいいですよぉ。でも貴方の元に、今まさに札狩の手が伸びてるんですよ。
ほら、私のiPadによると、『クコ』とか『紗明』だとか『百木周』だとかいう邪魔者が接近中っていう表示が――」


 刹那、俺は目を見開いていた。
 敵の接近にびっくりしたからではない。
 シアが、口にした人名。聞き間違いじゃなければ、彼女ははっきりと、「百木周」と……。


「チカが生きてるのっ!?」
「………一応幽霊ですからぁ、生きてるという考えは正解ではないですけどぉ。まぁ、黒札で少しは霊力UPしてますし、会いたいなら会えると思いますよぉ。最も、自分から好んで敵に会いに行くだなんて、考える方がおかしいですけどねぇ」

 敵じゃない。
 俺とチカは、敵なんかじゃない。
 家族だ。兄弟だ。大切な、かけがいのない宝物だ。

 死んでいるけど、幽霊だっていうなら。
 この、黒札っていうグッズのおかげで俺の霊力が霊力がUPしてるっていうなら。
 会いたい。会いに行きたい。


 最も、この黒札は『悪霊を引き寄せる札』だ。
 俺がチカに会いに行ったら、彼に危険が及ぶかもしれない。それでもっ。


 俺は黙って、肩にかけたスクールバッグからヘッドフォンとスマホを取り出す。
 前も言ったと思うけど、あくまで俺はガラケー派である。
 こういうものを持っているのは、PCやスマホの使い方が分からないとさすがにマズいからだ。


「ねぇシアちゃんー。俺やっぱシアちゃんの方に着く――――」
「ホ、本当ですかっ? やっぱりさっくんさん、話が分かってますねぇ」


 怖いくらいの猫なで声でシアに近づき、その細い肩を抱く。
 さっきまでの意見をころりと変えた俺がよほどうれしかったのか、シアはニッコリと笑う。
 

「でさぁ、友好の証に、俺の好きな曲聴かせてあげるよ―――」
「ふーん。なんですかぁ? 私、音楽拝聴が趣味でして」
「えーっとね。………デ・ス・メ・タ・ル♪」




 ドスの利いた低い声で俺はそう言い、彼女の頭にヘッドホンを装着する。
 そして、スマートフォンのお気に入りリストに入った曲を、



 再生▼

 
 ポチッッ



「さっくんさん、何をしてあvsewjljslばああhsofksps@spjsososmsoあああ!?!?!?」



 大音量で突如流れたデスメタルソングのイントロに、シアが軽々と1メートルは飛んだ。
 それに構わず、俺はスマホの音量を次第に上げながら、回れ右をしてダ―――シュッ!!



「さっくんさん許しませぼsehojspkensnsnあぎゃぁhdissisjneod,fmvosnsoギャァァァァァ!!!」



 その隙に、彼女の手を離れて地面に転がった、シアのiPadを掴んでカバンの中へ。
 そして、俺はひたすら逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて、後ろの絶叫も気にせずに。
 デスメタルアタック、われながらカッコいいな。
 

 まっててねチカ! 今助けに行くから!
 あ、でも………うちのママとパパの口論が心配だから……多分1日くらいは遅くなるかも……。